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ギャルゲ・ロワイアル2nd 本スレッド11

1 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/04(水) 21:02:57 ID:kCNASMPy
このスレはギャルゲ・ロワイアル2ndの本スレッドです
ギャルゲ・ロワイアル2ndを一言で表すのならば、ギャルゲーの人気キャラを用いてバトルロワイヤルをするというリレー小説企画です
基本的に作品の投下・感想共に、このスレで行って下さい

前スレ
ギャルゲ・ロワイアル2nd 本スレッド10
ttp://game14.2ch.net/test/read.cgi/gal/1211211050/l50

ギャルゲ・ロワイアルしたらばBBS(1st・2nd兼用)
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/8775/

ギャルゲ・ロワイアル2nd 議論・毒吐き専用スレpart2(上記したらば内)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/8775/1203171454
※議論はこちらでどうぞ

ギャルゲ・ロワイアル2nd避難所スレ(同上)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/8775/1205659483
※本スレが荒れている場合の感想・雑談はこちらでどうぞ。作品の投下だけは本スレで行って下さい

ギャルゲ・ロワイアル2nd予約専用スレ(同上)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/8775/1205656662/l50

ギャルゲ・ロワイアル2ndまとめwiki
ttp://www7.atwiki.jp/galgerowa2

ギャルゲ・ロワイアル2nd毒吐きスレ(パロロワ毒吐き別館BBS)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/8882/1203695602
※毒吐きスレ内での意見は、基本的に無視・スルーが鉄則。毒吐きでの話を他所へ持ち出さないように!

テンプレは>>2以降に



2 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/04(水) 21:03:51 ID:kCNASMPy
・参加者一覧
・参加者一覧
2/3【THE IDOLM@STER】
   ○高槻やよい/○菊地真/●如月千早
3/5【アカイイト】
   ○羽籐桂/○千羽烏月/●浅間サクヤ/●若杉葛/○ユメイ
5/5【あやかしびと −幻妖異聞録−】
   ○如月双七/○一乃谷刀子・一乃谷愁厳/○アントニーナ・アントーノヴナ・ニキーチナ/○九鬼耀鋼 /○加藤虎太郎
3/5【機神咆哮デモンベイン】
   ○大十字九郎/○アル・アジフ/●ウィンフィールド/○ドクター・ウェスト/●ティトゥス
0/4【CLANNAD】
   ●岡崎朋也/●古河渚/●藤林杏/●古河秋生
3/4【CROSS†CHANNEL 〜to all people〜】
   ○黒須太一/○支倉曜子/○山辺美希/●佐倉霧
2/2【極上生徒会】
   ○蘭堂りの/○神宮司奏
3/4【シンフォニック=レイン】
   ○クリス・ヴェルティン/○トルティニタ・フィーネ/○ファルシータ・フォーセット/●リセルシア・チェザリーニ


3 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/04(水) 21:04:40 ID:kCNASMPy
2/4【School Days L×H】
   ○伊藤誠/●桂言葉/○西園寺世界/●清浦刹那
1/2【Strawberry Panic!】
   ●蒼井渚砂/○源千華留
4/6【つよきす -Mighty Heart-】
   ●対馬レオ/○鉄乙女/○椰子なごみ/○鮫氷新一/●伊達スバル/○橘平蔵
1/3【To Heart2】
   ○柚原このみ/●小牧愛佳/●向坂雄二 
2/3【Phantom -PHANTOM OF INFERNO-】
   ●アイン/○ドライ/○吾妻玲二 
2/4【Fate/stay night[Realta Nua]】
   ○衛宮士郎/●間桐桜/○葛木宗一郎/●真アサシン 
4/4【舞-HiME 運命の系統樹】
   ○玖我なつき/○深優・グリーア/○杉浦碧/○藤乃静留
4/6【リトルバスターズ!】
   ○直枝理樹/●棗鈴/○来ヶ谷唯湖/○棗恭介/●宮沢謙吾/○井ノ原真人

【残り41/64名】



4 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/04(水) 21:05:04 ID:kCNASMPy
【基本ルール】
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
 「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
 「地図」 → 舞台である島の地図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
 「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
 「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。写真はなし。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
 「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。

5 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/04(水) 21:05:34 ID:kCNASMPy
【禁止エリアについて】
放送から2時間後、4時間後に1エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。

【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。

【舞台】
ttp://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0a/ed/c29ff62d77e5c1acf3d5bc1024fe13f6.png

【作中での時間表記】(0時スタート)
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24


6 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/04(水) 21:06:05 ID:kCNASMPy
【NGについて】
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述する。
・協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
・どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。

NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.イベントルールに違反してしまっている場合。
5.荒し目的の投稿。
6.時間の進み方が異常。
7.スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。


7 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/04(水) 21:06:35 ID:kCNASMPy
【首輪】
参加者には生存判定用のセンサーがついた『首輪』が付けられる。
この首輪には爆弾が内蔵されており、着用者が禁止された行動を取る、
または運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押すことで爆破される。
24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
放送時に発表される『禁止エリア』に入ってしまうと、爆発する。
無理に外そうとしたり、首輪を外そうとしたことが運営側にバレても(盗聴されても)爆発する。
なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
たとえ首輪を外しても会場からは脱出できない。

【デイパック】
魔法のデイパックであるため、支給品がもの凄く大きかったりしても質量を無視して無限に入れることができる。
そこらの石や町で集めた雑貨、形見なども同様に入れることができる。
ただし水・土など不定形のもの、建物や大木など常識はずれのもの、参加者は入らない。

【支給品】
参加作品か、もしくは現実のアイテムの中から選ばれた1〜3つのアイテム。
基本的に通常以上の力を持つものは能力制限がかかり、あまりに強力なアイテムは制限が難しいため出すべきではない。
また、自分の意思を持ち自立行動ができるものはただの参加者の水増しにしかならないので支給品にするのは禁止。


8 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/04(水) 21:07:35 ID:kCNASMPy
【能力制限】
ユメイの幽体問題→オハシラサマ状態で参戦、不思議パワーで受肉+霊体化禁止
ユメイの回復能力→効果減
舞-HiME勢のエレメントとチャイルド→チャイルド×エレメント○
NYP→非殺傷兵器で物理的破壊力も弱い
     ただし、超人、一般人問わず一定のダメージを食らう
     NYPパワーを持ってるキャラはその場のノリで決める
リセとクリスの魔力→楽器の魔力消費を微小にする、感情に左右されるのはあくまで威力だけ
ティトゥスの武器召喚→禁止あるいは魔力消費増
士郎の投影→魔力消費増
アルの武器召喚→ニトクリスの鏡とアトラック・ナチャ以外の武器は無し。
            または使用不可。バルザイの偃月刀、イタクァ&クトゥグア、ロイガー&ツァールは支給品扱い
            またはアル自身、ページを欠落させて参戦
            または本人とは別に魔導書アル・アジフを支給品に。本の所持者によってアルの状態が変わる
武器召喚全般→高威力なら制限&初期支給品マイナス1&初期支給品に武器なし
ハサンの妄想心音→使用は不可、または消費大、連発不可。または射程を短くする
ハサンの気配遮断→効果減
虎太郎先生の石化能力→相手を石にできるのは掴んでいる間だけ

その他、ロワの進行に著しく悪影響を及ぼす能力は制限されている可能性があります


9 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/04(水) 21:08:05 ID:kCNASMPy
【予約について】
書き手は事前に書きたいキャラを予約し、その予約期間中そのキャラを使った話を投下する義務がある。
予約無しの投下は不可。
予約期間は3日間(72時間)で、その期間を過ぎても投下がなかった場合、その予約は無効となり予約キャラはフリーの状態になる。
但し3作以上採用された書き手は、2日間の延長を申請出来る。
また、5作以上採用された書き手は、予約時に予め5日間と申請することが出来る。
この場合、申請すれば更に1日の延長が可能となる。(予め5日間と申請した場合のみ。3日+2日+1日というのは不可)
期限を過ぎた後に同じ書き手が同じキャラを予約することはできない。(期限が六日、九日と延びてしまう為)
予約の際は個人識別、騙り防止のためにトリップをつけて、 したらばで宣言すること。
投下の際には予約スレで投下宣言すること。


10 :THE GAMEM@STER(前編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:16:25 ID:Nrq+NcdU
 
  その出会いは――突然だった。


「あー、そこでこっちを見ている君! そう君だよ、君! まあ、こっちへ来なさい」
「……なにか?」
「ほう、なんといい面構えだ。ピーンと来た! 君のような人材を求めていたんだ!」
「……?」


  アイドル候補生たちをトップアイドルに導く――プロデューサー。
  ある日あなたは、黒ずくめの社長から怪しげな勧誘を受ける。
  そして始まる、11人のアイドル候補生の女の子たちとの触れ合い――。


「プロデューサーさん! ドームですよ、ドーム!」
「あれはドームではない。横浜アリーナだ」

  「目指すは頂点。サポート、お願いしますねっ」
  「尽力しよう。ただし、妥協は許さん」

     「あらあらー? 会場はどこかしらぁ?」
     「私が先導する。おまえは黙って着いてくればいい」


  ――運命の出会いと夢への起点。
    物語は、そう、ここから始まる――


11 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:16:37 ID:mjP5po/j



12 :THE GAMEM@STER(前編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:17:00 ID:Nrq+NcdU
「ねぇハニー、赤ちゃんはどこから来るの?」
「私の専門は現代社会と倫理であって保健体育ではない」

   「こんなダメダメな私は……穴掘って埋まってますー!」
   「スコップで都会のアスファルトを掘ることは不可能だ」

      「ね→兄(C)! 一緒にゲ→ムしてあそぼ→」
      「暗号か?」


  ――ちぐはぐな関係は、でこぼこなイベントを経て。
    道を阻む葛藤と戸惑いが、女の子たちの夢を叩いていく――


「アイドルなんかに興味はない……私は、歌さえ歌えれば!」
「……言いたいことは、それだけか?」

   「ちょっとぉ……元気、出しなさいよぉ」
   「……うむ。すまんな」

      「ボク……どうしたら女の子っぽくなりますかねぇ?」
      「それがおまえの長所だ。悲観するべき点ではない」


  ――新たな翼が二つ、大いなる空へと羽ばたいてゆく。
    その先にあるのは……夢の終着駅。二人で育んだ、栄光の頂――


13 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:17:21 ID:amQrlZ0+


14 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:17:21 ID:mjP5po/j



15 :THE GAMEM@STER(前編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:17:34 ID:Nrq+NcdU
「――やっと、ここまで来れたんですね。
 それもこれも、プロデューサーがあたしの手を引いてくれたから……」


  ――頂に辿り着いた二人は、そっと羽を休める。
    この休息が終わって、二人が次に向かう場所は、そう――


「手を引いてもらったのは、私のほうだ。おまえが、私の心を埋めてくれた」


  ――きっと、別の場所。
    でも、永久の別れじゃない――


「うっう〜! それじゃあ葛木プロデューサー! いつものやつ!」
「……ああ」
「ハイ、タ〜ッチ……いぇい!」


  ――きらめく舞台で、また会える。


            ゲーム:THE IDOLM@STER
            ジャンル:葛木Pによるアイドル育成シミュレーション
            プレイ人数:1人用
            発売日:20XX年X月XX日(通常版/限定版)
            販売価格:限定版20,790円(税込)
                 通常版7,140円(税込)
                 プラチナコレクション2,940円(税込)
            レイティング:CERO:C(15歳以上対象)

16 :THE GAMEM@STER(前編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:18:01 ID:Nrq+NcdU
 

 ◇ ◇ ◇


「……っていう電波を受信したんだけどよ。どうよ?」
「どうよと言われても困る」
「うっうー、そんなことより、もうあとちょっとで十二時ですよ?」
「一応、名簿と、地図と、あとペンは用意できたけど……」
「……また、誰か呼ばれるんだよな」

 窓を覗けば、白い、僅かに廃れた雰囲気の漂う病院が見える。
 立地条件としてはそう悪くない閑静な住宅に、四人の男女と一体のパペット人形が介していた。

 瀟洒なスーツを痩身に纏い、着崩すことのない男が、葛木宗一郎。
 着古したトレーナーに、髪をツーテールに結った少女が、高槻やよい。
 やよいの手に嵌り、彼女の声を間借りしているパペット人形が、プッチャン。
 傷跡の見え隠れする柔肌を、タンクトップで覆ったボーイッシュな少女が、菊地真。
 これといって特徴のない、普通という言葉が見事に合致する少年が、伊藤誠。

 四者と一体はテーブルに名前や図が記された紙、筆記用具を並べ、来るべき時を待っていた。

「五……四……三……二……」

 手元の時計を見やりつつ、誠が正午までの時刻をカウントする。
 やよいや真は刻々と迫る時に生唾を飲み込み、宗一郎とプッチャンはただ黙って待つ。
 情報を記入する準備を終え、一同は危難を迎え撃つ。
 十二時ピッタリに始まる、死者の発表――第二回放送を。

17 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:18:22 ID:mjP5po/j



18 :THE GAMEM@STER(前編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:18:28 ID:Nrq+NcdU
「一……ゼロ」
『――さて、放送の時間だ』

 時計の長針が十二の数字を通過し、誠のカウントダウンが終わると同時に、声が轟いた。
 第一回放送で聞いた、遠雷のような重みを含んだ声ではない。
 もっと若く、飄々とした、少年の声だった。
 それがどこから発せられているのか、家の中にいても遮音されることなく響いてくる。

『早速死者の発表といこう――――如月千早』

 そして、通告は突然だった。
 放送開始から僅か数秒。前置きは一切なく、いきなり死者の名が告げられた。
 如月千早。先頭で呼ばれた知人の名に、やよいと真は思わず声を漏らす。
 あまりにも唐突だったためかすぐには理解できず、ポカンとした顔で続く発表を聞き流した。

『桂言葉、清浦刹那』

 何人かの知らぬ名前を挟んだ後、誠の知人の名が二つ、呼ばれた。
 誠もやよいや真と同様、すぐに反応することはできない。
 ペンを軽く握り、名簿と向き合いながら、放送を聞き続ける。

19 :THE GAMEM@STER(前編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:19:10 ID:Nrq+NcdU
『アイン、真アサシン、棗鈴』

 次々と、数少ない顔見知りの名や又聞きした名が呼ばれていく。
 放送の主が「以上、十四名」と告げたところで、一同は死者の発表が終了したのだと判断した。
 続けて、禁止エリアの発表に移る。
 十四時よりD-5。十六時よりB-2。漏らすことなくチェック。
 放送で語られるであろう最小限の情報を知らせ、声の主は放送終了を宣言する。

 四方山話も戯言も、一切絡んでこなかった。
 死者と禁止エリアのみを告げる、淡々とした放送。
 時間にして一分かかったか、かからなかったか。
 前回とは、様々な意味で正反対の内容だった。

「……」

 疾風のように過ぎ去っていた天の声は、耳にした者たちに呆然を齎す。
 到来は一瞬、与える傷は致命的と、まるで辻斬りのような放送だった。

 死んでほしくなかった人々の名が予想外の手法で告げられ、聞いた者たちはやはり呆然とする。
 やよいも、真も、誠も、宗一郎も、プッチャンも。
 誰もがしばしの間、口を閉ざした。


 ◇ ◇ ◇



20 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:19:12 ID:mjP5po/j



21 :THE GAMEM@STER(前編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:19:58 ID:Nrq+NcdU
 君は『ゲーム』というものを知っているかな?
 遊戯、と言葉を変えてもいい。
 目的は暇潰しだったり、快楽だったり、愉悦だったり様々さ。
 世界には実に多くの『ゲーム』が存在していてね……全てを遊び尽くせる者などいないほどさ。
 たとえば、そう……

 新米プロデューサーとして、素敵なアイドルを育てるゲーム。
 古の伝承が起となり、少女たちの血で物語が紡がれるゲーム。
 追跡者たちの影に怯えながら、掴んだ平穏を死守するゲーム。
 荒唐無稽な大都市で、悪の組織と戦いを繰り広げるゲーム。
 桜の花びらが舞う季節、とある学校の寂れた演劇部を再建するゲーム。
 歪みを抱えた者たちが集い、出口を模索していくゲーム。
 教育実習生として、極上な学園生活を満喫するゲーム。
 雨が振り続ける街を舞台に、音楽学校の卒業を目指すゲーム。
 乱れ、爛れた人間関係を、血と命で制裁していくゲーム。
 男子禁制の学び舎で、いちご狩りを楽しむゲーム。
 多くの仲間たちに囲まれ、感情の裏表を見極めていくゲーム。
 子らが躍進を遂げる春、長年の関係に転機を齎すゲーム。
 亡霊の名を冠さす殺し屋として、第二の人生を歩むゲーム。
 過去から続く闘争の渦に巻き込まれ、誰かの味方となるゲーム。
 呪われた伝説と乙女の一大事に、一族の末裔として挑むゲーム。
 やり直しを求めた過程を楽しみ、延々と繰り返すだけのゲーム。

 ……これは、ほんの一部にすぎない。
 ただ、どんなゲームにも共通点は存在する。
 それはね、誰かがどこかで『楽しんでる』ってことさ。

 さてさて、この『ゲーム』を楽しんでいるのは、いったい誰なのかな……?


 ◇ ◇ ◇


22 :THE GAMEM@STER(前編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:20:20 ID:Nrq+NcdU
 
 無限に続く歩行者天国を越えた先、瓦礫の街の一角に、彼らの目的地は聳えていた。
 灰色の街並みに列を置くには不似合いな、白く真新しい外観。
 屋根の先端に十字架をあしらった聖堂と、鐘が取り付けれた時計台は、教会という名の神域を表している。
 キリストの花嫁、真理の柱、聖霊の神殿など数多くの呼称を持つその建物は、訪れる者を拒まない。
 善人悪人、罪人問わず受け入れ、神託を与えるのが教会本来の役割と言えた。

 大仰な門を潜り中に入ると、まず太陽光に照らされた大きなステンドグラスが視線を奪う。
 天を仰げば色鮮やかな天井絵に意識をもぎ取られ、訪問者は知らず知らずの内に足を止めてしまう。
 正門から見て正面奥の壁面には、ステンドグラスの他にも巨大な十字架と机が確認できる。
 床には教会堂奥への道をなぞるように赤絨毯が敷かれ、途中には幾つかの席となる長机が設けられている。
 右奥の壁にはパイプオルガンの姿も見受けられ、設備も雰囲気も申し分ない、立派な教会という印象を受けた。

 こんなところで結婚式ができたらさぞ素敵だろうな……といった少女ならではの感想は、零れない。
 少女の持つ感動のメカニズムなど理解もしていないであろう宗一郎、誠はもちろんとして、二人のうら若きアイドルからも特に言葉はない。
 教会中に漂う神聖な空気に圧倒されたのかといえば、そうではなかった。

(……あんな放送があった後だ。しゃあねーさ)

 声には出さず、心中で同行者四名の様子を分析するのは、パペット人形のプッチャンだった。
 病院近辺の民家で放送を聞き終えた後、まずやよいが泣いた。
 友達であり、仕事仲間であり、ライバルでもあった如月千早の名が、放送で呼ばれてしまったためだ。
 真との再会を果たし、あとは千早と合流するだけでトリオ復活、と意気込んだところでの落失。
 十三歳の少女には受け入れられるものでもなく、しかし否定できるほど子供でもなかった。
 故の悲しみがやよいから元気の成分を削ぎ落とし、崖底へと叩き落した。
 プッチャンも懸命にフォローを重ねたが、やよいを再起させるには至らなかった。
 各々、やよいの友達である真ですら、此度の放送で思慮を奪われていた最中。
 やよいに救いの手を差し伸べるのは、非常に困難だった。

23 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:20:46 ID:mjP5po/j



24 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:20:56 ID:amQrlZ0+


25 :THE GAMEM@STER(前編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:21:50 ID:Nrq+NcdU
 ややあって動いたのは、ゲーム開始当初からやよいと行動を共にしていた最年長者、葛木宗一郎である。
 やよいの倍ほどは歳を重ねてきた彼は、面子の中では誰よりも気配りの精神を持ち合わせていた。
 ただし、宗一郎は人並みの感情を失った人間である。
 やよいの悲しみに共感することはできないし、上手い慰めの言葉も浮かばない。
 だからこそ彼は彼なりに、状況を打開するための最善策として、計画の進行を提案した。
 かねてから目星をつけていた、教会の調査である。

 思うところはあったが、このままやよいの下を離れるのも居た堪れず、菊地真と伊藤誠の両名もこれに同調。
 理樹より託された星はまだ渡していない。宗一郎も二人を見極めている最中なのか、話を切り出そうともしなかった。
 重苦しい雰囲気のまま、四人と一体は教会へと向かい、今に至る。

(こんな辛気くさい雰囲気じゃあ、しあわせなんてどっかに飛んでっちまうぜ)

 教会堂内部へと足を運んだ四名の顔は、鉄面皮を常備する宗一郎以外、優れない。
 口数も少なく、笑みなど欠片もなく、先の将来が不安になるのはあたりまえなほど、お通夜なムードが漂っていた。
 なんとかしようと思うプッチャンだったが、こういうときに限って妙案が浮かばない。
 彼の所有者である蘭堂りのを始めとした極上生徒会はこういった空気とは無縁の団体だったためか、プッチャン自身、対策を捻り出すだけの経験が不足していた。
 一時的でもいい、なにか話の種になるようなものはないかと思案する内、プッチャンがふと言葉を漏らす。

「しあわせの青い鳥でも飛んでこないかねぇ……」
「『蒼い鳥』……千早さん、よく歌ってました。あたしも歌ったりしたけど、やっぱり千早さんには全然敵わなくて……」

 半ば独り言のつもりで零した声が、思わぬところでやよいに拾われ、しかも火に油を注ぐ結果となる。
 墓穴を掘っちまったか、とプッチャンが自らの失策を苦々しく思うと、やよいに対して真が言葉を返す。

26 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:21:54 ID:MSFg7pRL
 

27 :THE GAMEM@STER(前編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:23:07 ID:Nrq+NcdU
「『蒼い鳥』……か。ねぇ、やよい。やよいと千早と、その、ボクと……ボクたちのユニットってさ、ここに来る前はどんな活動してたの?」
「えと、新しい曲が決まって……オーディションに備えて、みんなでレッスンしてました。千早さんがセンターで……その新曲が、『蒼い鳥』だったんです」

 やよいと真の会話から察するに、プッチャンが零したしあわせの青い鳥という単語は、『蒼い鳥』という彼女らの持ち歌を連想させてしまったらしい。
 幼い少女の面ばかりが強調され時々忘れてしまいそうになるが、やよいも真も立派なアイドルなのだ。
 ならば……と、プッチャンの頭上に発光する豆電球のイメージが浮かぶ。

「よし、やよいに真。その『蒼い鳥』っての、今ここで歌えっ!」
「ふぇ?」
「ふぇ、じゃねー! いいから、今すぐ歌え! 二人で!」
「ううー、急にそんなこと言われてもぉ」
「そうだよ。それに、今はそんなことをしている場合じゃないでしょ?」
「バーロー。こんなときだからこそ、余計に気分転換が必要なんだよ」

 強引に話を持っていこうとするプッチャンに、やよいと真は困惑する。
 消沈気味のみんなを元気づけたいという意図には気づきつつも、二人とも促されるままにはなれないでいた。
 宗一郎は教会堂の端から端を練り歩き、プッチャンたちには不干渉。
 誠はここに来るまでの道のりで歩き疲れたのか、一人席につき目線を合わせようともしない。
 プッチャン自身、今はぶっきら棒すぎる相棒にも、ナイーブな少年にも、構ってやれる余裕はなかった。
 まずは、やよいを立ち直らせる。彼女が元気を取り戻せば、周囲の空気もきっとよくなるはずだ。
 やよいに蘭堂りののようなムードメーカーとしての資質を期待し、プッチャンは二人のアイドルに歌を強要する。

「うん。じゃあ一曲だけ……『蒼い鳥』なら、ボクも歌詞くらいは覚えてるし」
「ほら、やよい。真とデュエットだ。この俺様にアイドルとしての高槻やよいを見せてみな」
「う〜ん……わかりました。それじゃあ、少しだけ」

28 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:23:52 ID:mjP5po/j



29 :THE GAMEM@STER(前編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:24:14 ID:Nrq+NcdU
 やよいは渋々といった面持ちで、教会堂の中央に移動、真と並び立つ。
 天井は高く、騒音は一切混在しない。
 美声を発揮するには十分な、ある意味では最高とも言えるステージ。
 二人の顔は依然として浮かないが、これを歌い終えればきっと、とプッチャンは淡い願いを抱く。

 やよいが息を吸い、真が吐き、両者が視線を合わせる。
 見知った仲間は、もしかしたら赤の他人かもしれない。
 だとしても、意思疎通は図れるのだと――やよいは気づけるだろうか。

「 ――泣くことなら、たやすいけれど―― 」

 先陣を切り、やよいがいつもよりも細く、声を通す。
 多少舌足らずな印象を残す濁った声が、やよいの歌唱スタイルなのだと皆に認知させる。

「 ――悲しみには、流されない―― 」

 やよいの、同じ事務所の仲間の、聞き慣れた声に、真は安堵する。
 ワンフレーズでの切り替え。真がやよいに続く。

「 ――恋したこと、この別れさえ―― 」
「 ――選んだのは、自分だから―― 」

 静謐な教会堂を埋める歌声が、滞在者の心に平穏を齎す。
 宗一郎と誠も二人の幼き歌い手に目をやり、耳を傾けた。

30 :THE GAMEM@STER(前編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:24:36 ID:Nrq+NcdU
「 ――群れを離れた鳥のように―― 」
「 ――明日の行き先など知らない―― 」

 プッチャンは、『蒼い鳥』に込められた歌詞の意味など知らない。
 ただ素の感想として、とてもいい歌だと、心から思った。

「 ――だけど傷ついて、血を流したって―― 」

 歌を歌う二人の少女は、どこまでも自然体だった。
 表情は愁いでいるが、染めた色は単なる悲痛ではない。

「 ――いつも心のまま―― 」
「 ――ただ羽ばたくよ―― 」

 やよいと真の顔に、着々と元気が戻りつつある。
 プッチャンは確信じみた安堵を得て、憂いすら置き去りにしようとしたところで、

「「 ――蒼い鳥―― 」」
「……やめろよ」

 サビに突入して間もなく、やよいと真の合唱はふとした声で打ち切られた。
 割って入ったきた否定的な一言に、やよいの顔は急降下。再び沈み込む。
 アイドル二人のステージに掣肘を加えたのは、観客だった。
 重苦しく、瞳に厳格な火を灯した誠が、睨みつけるようにやよいたちを見る。

31 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:24:41 ID:mjP5po/j



32 :THE GAMEM@STER(前編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:25:02 ID:Nrq+NcdU
「こんな場所で歌うなんて、どういうつもりだよ……誰かに聞かれて、襲い込まれたりしたらどうするんだ?」

 年下の女の子二人に、容赦なく刺々しい物言いを浴びせる。
 至極真っ当な意見でもあったが、誠の表情はそれ以上に、深刻な影を纏っていた。

「どうして、そんな気楽でいられるんだよ。
 こうしてる間にも、いっぱい人が死んでるってのに……。
 遊びのつもりでやってるんなら、せめて大人しくしてろよ!」
「遊びなんかじゃありませんっ!」

 理路整然とした意見で武装する誠に、やよいは間髪入れず反論する。
 小柄な体に似つかわしくない怒鳴り声を上げ、衆目を唖然とさせる。
 その目尻には、我慢できなかったのであろう、キラリと輝く雫が浮かんでいた。

「千早さん、あたしに言ってました。歌が歌えなくなるくらいなら、死んでもいいって……」

 やよいは言っていた。
 真さんと、千早さんと、三人でまたステージに立ちたいと。
 三人の絆がどれだけ固いものだったのかは、プッチャンにもわからない。
 だがそれでも、少女の涙の意味がわからぬほど鈍感な男でいるつもりはなかった。

「新曲も、すっごく気に入ってて……だから、だからあたし、千早さんの分まで、せめて!」

 やよいの主張は、誠の表情から徐々に怒気を削いでいく。
 少女から発せられる異様な迫力にのまれ、誠は顔を俯かせるが、口は黙らなかった。

33 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:25:28 ID:mjP5po/j



34 :THE GAMEM@STER(前編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:26:11 ID:Nrq+NcdU
「……その人もさ、ひょっとしたら、やよいちゃんを知らないかもしれないんだろ?」
「っ……!」

 その一言が、やよいに対して痛恨の一撃となった。
 イフ。並行世界。多元宇宙理論。
 私が知っているあの人は、私を知らないかもしれないという、不安。
 SFや御伽話の範疇にあったその仮説は、真との再会で確定的なものとなってしまった。
 第一回放送で呼ばれた如月千早が――実はやよいの知っている千早ではなく、まったくの赤の他人だとしたら。
 ……考えるだけで滅入り、落ち込んでしまう。
 それ以上反論を返せなくなった少女の様子を窺えば、心は手に取るようにわかった。

「……ごめん、ちょっと言いすぎた」
「い、いえ。あたしも悪かったですし……」
「ちょっと……外で頭冷やしてくるよ」

 危うく無言の硬直状態に陥ろうかというところで、誠は逃げるように教会の外へ。
 枯れ木のような素朴な背中に声をかける者は誰もおらず、木製扉の開かれる音が無機質に響くだけだった。

「おい、やよい……」
「……」

 項垂れるやよいの表情は、右手の位置からでは窺えない。
 仮に位置が良かったとしても、覗きこもうとはしなかった。
 今の少女を慰めるのに、今の自分は適した言葉を持っていない。
 つき合いの短さ、人形という身の上、様々な点から見て、プッチャンでは役不足だった。

35 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:26:23 ID:mjP5po/j



36 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:27:07 ID:mjP5po/j



37 :THE GAMEM@STER(前編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:27:24 ID:Nrq+NcdU
「……ボク、あっちの部屋を調べてくるよ」

 隣で誠との口論を傍観していた真も、やよいに声をかけることなく離れていってしまう。
 向かった先は、正面玄関から見て右奥に位置する扉。
 そこには、『懺悔室』と書かれたプレートが下げられていた。

 取り残されたやよいは、涙を目尻に溜めるだけで精一杯だった。
 プッチャンも、やよいの心情を思えば思うほど、迂闊に慰めることができないでいる。

 神の加護があって然るべきはずのこの場所で、人間は弱さを露呈する。
 感情に支配され、溺れ、行動に支障をきたし、破滅へとひた進む。
 導き手不在の場で、由々しき自体を見過ごせずとも、打破には至らず。

 誰もが迷える子羊として、
 神託を欲する哀れ子として、
 縋り、惑い、迷走から脱げ出せない。

 ただ、一人の男だけは現実を、そして未来を見据えていた。


 ◇ ◇ ◇



38 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:27:48 ID:amQrlZ0+


39 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:28:00 ID:mjP5po/j



40 :THE GAMEM@STER(前編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:28:28 ID:Nrq+NcdU
 燦々とした日光が、茹だるような日差しにすら思えて、鬱陶しい。
 肌着をぴったりと貼り付ける汗は、単純に暑さの影響か否か。
 伊藤誠は出てきたばかりの教会堂を背に、青ざめた顔で呟いた。

「俺……最低だ」

 押し寄せてくる吐き気は、おそらく自分自身の言動に対してなのだろう。
 誠は理解した上で、後悔する。
 どうしてあんな、やよいが傷つくとわかり切ったことを、口走ってしまったのか。

 誠は本来、年下の女の子には紳士的な一面を見せる好青年であった。
 桂言葉の妹の心にはよく慕われていたし、世間からの評も良好。
 誠自身、面倒見のいいお兄さんを自負していたはずだった。

 だがそれも、日常を住まいとした上での論だ。
 常在戦場の世界で、心休まることのない時間を生きれば、人間性など薄れる。
 誠を例に言えば――志半ばで想い人を亡くし、精神的余裕を失った。
 そんな人間が、他人に気を配ることなどできようはずもない。
 誠は聖人でも聖母でもなく、ただの個を主体とする人間なのだった。

(そうだ……言葉が、死んだ)

 つい先ほどの放送で呼ばれた十四名の中に、桂言葉の名はあった。
 桂言葉……誠の恋人だった、改めて恋人だと認識し直した、尊ぶべき女性の名だ。
 彼の行動理念は今、言葉の存在によって縛り付けられている。
 言葉を探し、言葉と会って、言葉と話し合う……誠は義務感にも似た目的として、桂言葉の存在を自身の中心に据えた。

41 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:29:02 ID:mjP5po/j



42 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:29:15 ID:amQrlZ0+


43 :THE GAMEM@STER(前編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:29:43 ID:Nrq+NcdU
 が、その言葉が……死んでしまった。
 探すことも、会うことも、話し合うことも、全ての道が断たれてしまった。
 言葉事故死の詳細、並行世界の秘密、再会を果たせば判明する謎が、引き出しに仕舞われる。
 これから先、なにを指針とすればいいのか……考えて、
 しかし、それ以上に誠の頭を悩ませるものが、

(言葉が、死んだっていうのに……俺は)

 言葉が死んだという事実――を受け止めて、涙の一つも流すことのできなかった自分、であった。

(本当に死んだ……んだよな。放送で呼ばれたやつらは、みんな)

 今さらの再確認を、聞いてくれる者はいない。
 ダウンタウン特有のジメジメとした霧のような空気が、誠の汗腺を刺激する。
 寒気と怖気が身震いを引き起こし、それでもやはり、涙ほどの感慨はやってこない。

 桂言葉は既に死んだ人間であるかもしれない、というのがまず一つ。
 放送で呼ばれた桂言葉は、誠の知る桂言葉ではないのかもしれない、というのが一つ。
 仮に死んだとしても、あの神父の男なら甦らせる術を持っているのではないか、というのが一つ。

 諦観と、仮定と、保険。
 三重の条件が重なり、誠は言葉の死を受け止めてはいるものの、真っ当な喪失感までは得られずにいた。

(言葉……結局、おまえは本当に言葉だったのか? 清浦は? 世界は?
 俺は……本当に、伊藤誠なの、かな。なんか……わかんなくなってきた)

44 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:30:02 ID:mjP5po/j



45 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:31:44 ID:mjP5po/j



46 :THE GAMEM@STER(前編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:32:19 ID:Nrq+NcdU
 空から浴びせられる熱気が、街から放たれる湿気が、思考回路を麻痺させる。

 そして、唐突に思いつく。
 誠は強力な剣を一振り、持っているではないか。

「……誠さん? あの、大丈夫……?」

 エクスカリバー。
 これで参加者を皆殺しにして、優勝して、その上で言葉をまた生き返らせてもらえばどうか。
 手始めに、この教会にいる三人から。

「誠さん? 誠、さ――あ、がァ、う……ああああぁぁあぁ」

 まさか誠がこんな手に躍り出るとは思っていなかったのだろう。
 警戒心が欠如していた真は、教会堂の中から出てくるなり惨死。
 誠の手に握られた赤い刃が、凶器の証として煌いた。

「これは、何事だ?」
「ま、真さん!? そんな……いや、イヤァァ!」
「真!? チッ……おい誠! こりゃあいったい」

 騒ぎを聞きつけて出てきた二人も、躊躇なく斬り殺す。
 真の死体に驚き動転しているところを、不意打ちの一閃。
 不意打ちならば、葛木宗一郎とて太刀打ちはできず、脆くも崩れ去る。
 あとに残るのはやよいだけとなり、恐怖で竦んだ彼女は、逃げ出すこともできない。
 首を刎ねるのは簡単。ただの人形にすぎないプッチャンは、やよいの死とともに沈黙する。

47 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:32:56 ID:mjP5po/j



48 :THE GAMEM@STER(前編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:33:12 ID:Nrq+NcdU
 あっという間。
 あっという間に、伊藤誠のノルマが3に跳ね上がった。

「はは……なんだ、簡単じゃないか」

 星が三つ堕ち、誠は躍進を遂げる。
 あまりのあっけなさに、少年の願望は野望へと移り変わる。

 そうだ、殺してしまおう。それが一番の近道だ。
 このモヤモヤとした気持ちにケリをつけるためにも。
 言葉の真意を問い質し、過去の爛れた女性関係に決着するためにも。
 部外者を全員殺して、言葉を生き返らせて、それから話を進めればいい。

 当然の帰結に陥った誠は、三つの死体から物資を回収し次なる狩場へ。
 さあ、これからきっと楽しくなるぞ。
 と、どこか高揚した気持ちを抱え、剥き出しの状態のまま剣を携えて。

 搾取する側へ、奪い絞り取る側へ、悲劇を与える側へ。
 略奪者として、提供者として。
 ゲーム参加者として。

 誠は、誠実な道を外れた。


 ◇ ◇ ◇



49 :THE GAMEM@STER(前編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:33:39 ID:Nrq+NcdU
「…………んあ!?」

 間抜けな声が漏れる。
 鼻を突くほどの異臭に刺激され、誠の意識は現実へと帰還した。

「なっ……んだ、いま、の……?」

 ふらつく体は、いつの間にか膝立ちの状態で地面を眺めていた。
 教会門前の石畳の上に、大量の嘔吐物が撒かれている。
 口元から垂れる涎以外の臭い液体を見るに、それが誠の胃から零れたものだと解釈するのは難しくなかった。

(今の、いったいなんだったんだ?)

 数秒間、意識を失っていた。
 いつの間にか、吐いていた。

(……幻覚? うっ……眩暈、が)

 意識が朦朧とした原因はなんなのか。精神的疲労が蓄積されたためか。考えるのも億劫だった。
 事実として、誠はこの短い間に悪夢を見た。
 体はその悪夢に耐え切れず、吐き気を催した。
 気分は未だ優れない。起きながらに寝ているような、不思議な感覚が誠の身を縛る。

(まさか……いや、そんな……まさか、ね)

 思考すらままならない誠は、漠然とした予感に蝕まれ、眼前に聳え立つ教会を見上げた。
 見た目にも神聖な建造物が、今は視界に捉えるだけで不安になってくる。
 なにかよくないものが巣食っているような、第六感にも似た警鐘が誠の頭をガンガンと打ち鳴らす。

50 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:33:52 ID:mjP5po/j



51 :THE GAMEM@STER(前編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:34:00 ID:Nrq+NcdU
(気をしっかり持て、伊藤誠……! 言葉はもういないんだ。死んだんだ。そう、割り切れよ!)

 悪夢の中にあった偽りの自分。
 全参加者を殺害して想い人を甦らせるなど、馬鹿がやることだ。
 誠は道を違えない。言葉が死んでしまったというなら、新たな道を模索する。
 言葉に固執してはいけない。固執は破滅を呼ぶ。懸命に言い聞かせて、誠は新たな道を見つけた。

「……世界」

 呟いた名称は、誠が立つステージを意味したものではない。
 西園寺世界。誠が――かつて――愛した女性。
 彼女は、この会場にいる西園寺世界は、誠を知っているのだろうか。

 知っているのだとしたら、誠をどう想っているのだろうか。
 慕っているのか、嫌っているのか。
 憎んでいるのか、愛しているのか。
 知りたい。知りたい。知らなくてはいけない気がする。

 言葉を失い、情緒不安定になりつつあるこの身を落ち着かせるには――会うしかない。

(ごめん、真。今の俺……最低だ。みんなと一緒には、いられない)

 このまま真たちと行動を共にしたとしても、関係は悪化し、迷惑をかけるばかりだ。
 どこかで頭を冷やして、再起しなければいけない。
 そのためにも、西園寺世界の証明が必要だった。
 たった一人残された、誠の知人。
 かつての恋人は、誠をどう想っているのか。

52 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:34:47 ID:mjP5po/j



53 :THE GAMEM@STER(前編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:35:02 ID:Nrq+NcdU
 知りたい――世界の存在を。
 いられない――真たちとは。
 離れたい――この、嫌な空気のする建物から。

 ふらふらとした病人の足取りで、誠はひっそりと教会の十字架に背を向けた。
 言葉の死、後悔と背徳の枷を背負い込み、それでも自分の足で脱出経路を探す少年は、正常だった。

 神が嘲笑う。

 逃げていく、脆弱な少年の背を。

 だが、馬鹿にはしない。

 おもしろくなりそうだ、と。

 ただそれだけ、虚空の隙間に感想を漏らした。



54 :THE GAMEM@STER(前編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:35:28 ID:Nrq+NcdU
【B-2 教会付近/1日目 日中】

【伊藤誠@School days L×H】
【装備】:エクスカリバー@Fate/stay night[Realta Nua]、防刃チョッキ
【所持品】:支給品一式(水なし)、支給品一式、手榴弾2つ、このみのリボン、
      天狗秘伝の塗り薬(残り90%)@あやかしびと −幻妖異聞録−
【状態】:肉体疲労(小)、精神疲労(大)
【思考・行動】
基本方針:殺し合いには乗らない
0:知りたい、知らなくちゃいけない……。
1:教会から離れる。一旦真たちと距離を置く。世界と会って真相を確かめる。
2:自分の知り合い(西園寺世界)やファルとその知り合い(クリス、トルタ)を探す。
3:このみに何が起きたかわからないけど、助けたい。
4:信頼出来る仲間を集める。
5:主催者達を倒す方法や、この島から脱出する方法を探る。
6:巨漢の男、アイン、ツヴァイ、ドライ、フカヒレに気をつける。
7:言葉以外の女性に如何わしい事はしない?
【備考】
※誠の参戦時期はエピローグ「無邪気な夕日」の後です。
※言葉と世界は、主催者が蘇生させたのではと思っています。
※誠も真も、襲ってきた相手が大柄な男性(真人)であることしか覚えていません。
※フカヒレからツヴァイの危険性、渚を殺害したことのみ聞きました。
※平行世界や死者蘇生の可能性について知りました。

 ◇ ◇ ◇



55 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:35:37 ID:mjP5po/j



56 :THE GAMEM@STER(後編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:37:41 ID:Nrq+NcdU
 葛木宗一郎は、無感情な人間である。
 怒り、憎しみ、憐れみ、喜び、悲しみ、そういった一端の感情が欠落している。
 反面、宗一郎は勤勉な教師としての一面も持つ。
 無感情の人間がどうして社会に適応できるのか、考えてみると疑問だ。
 宗一郎の場合、社会に適応するために不足している能力を補っているのは、経験だった。

 人の感情には、パターン性がある。
 たとえ他者の感情に共感することができなくとも、その様子を観察することで、他者がどのような心境にあるか推察することは可能だ。

 高槻やよいという人間は、観察対象としては実に明瞭な性格をしていた。
 悲しい時には泣き、落ち込み、項垂れる。
 楽しいときには笑い、騒ぎ、はしゃぐ。
 子供らしいストレートな感情表現は、宗一郎から見ても理解しやすい。

 彼女が知人の死に悲しみ、それを今の今まで必死に我慢していたというところまでは、わかる。
 伊藤誠の言葉を受けてさらに態度を弱々しくしたところから、状態が悪化したということも、わかる。
 菊地真が彼女の下を離れ、呆然と立ち尽くしている状況を鑑みれば、もはや決定的だった。

(…………)

 事務的な業務だけをこなしてきた教師は、生徒とのコミュニケーションを苦手とする。
 悩む生徒の相談に乗ってやれることなどできないし、冗談も言い交わせられない。
 特に、高校生に分類される児童の心は繊細かつ複雑だ。
 いかな観察眼や経験則を持ったとしても、万能にはなり得ない。

 だからこそ、
 衛宮士郎や間桐桜に比べても、精神年齢の幼いやよいは接しやすかった。

57 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:38:53 ID:mjP5po/j



58 :THE GAMEM@STER(後編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:39:46 ID:Nrq+NcdU
 相手の考えがわかる。相手の心情がわかる。
 どう対処すればいいのかという解答も、パッと頭に浮かんできた。

(不思議な感覚だな。私が、人の気持ちがわかるなど)

 自嘲気味に思うが、それは感慨と呼べるほどのものではなかった。
 教会堂の中央で立ち尽くすやよいに、宗一郎は一歩、臆することなく歩み寄っていく。

「高槻」

 学校で生徒を呼び止めるような、厳格な声。
 やよいは死角から浴びせられた声にビクッと体を震わせ、子犬のような目で宗一郎の長身を覗き込む。

 両者の視線が交差し、プッチャンが第三者の立場として二人の様子を見やる。
 やよいを見下ろす宗一郎の瞳は、常時と変わらない。冷静沈着な、凍てつく視線。
 異様な眼差しを受けるやよいは、それを怖いとは思わず、真っ向から目線を合わせていく。

 沈黙は僅か、されど続く言葉はなかなか出ず、
 宗一郎は無言のまま、右の掌を翳した。

「え……?」

 やよいの頭の上あたりに置かれた掌が、ぶれることなく静止する。
 プロデューサーのものよりは大きく、お父さんのものよりは小さい、冷たそうな掌。
 やよいもプッチャンも、キョトンとした顔で宗一郎の動向を窺っている。
 行動の真意が読み取れていないのだと推察し、宗一郎はかなり遅れて、言葉を添えた。

「……こうすれば、調子が出るのだろう?」
「…………あ」

59 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:40:06 ID:/2xKrEEm


60 :THE GAMEM@STER(後編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:40:15 ID:Nrq+NcdU
 やよいの心が、ハッとするのがわかる。
 驚きの表情と、目尻に溜めた涙が決壊する様子を見て。
 感動しているのだろうか、という仮説に至る。
 ……感動するだけの余地がないか、と即座に否定するが。


 ――『葛木先生。私と、手をポーンって、合わせてくれますか? それやると調子出るんです』


 やよいなりのテンション調整方法、と宗一郎は解釈していた。
 本人の弁だ。効果はあるだろうと期待して、自ら掌を差し出した。
 必要なこととはいえ、積極的に他者とコミュニケーションを取ろうとしている。
 なにかがおかしいような気がして、しかし懸念は残らない。

 強いて言うならば、涙目になっていくやよいの顔が、徐々にアイドルとしての体を保てなくなってきているのが、心配に思えたくらいだろうか。

「う、うう〜……葛木せんせ〜い!」
「相棒……おまえってやつはぁぁっ!」

 ハイタッチが来ると予想していた宗一郎だったが、やよいは感極まったのか、掌を無視して抱きついてきた。
 そのまま、宗一郎の胸の中でわんわんと泣きじゃくる。どういうわけか、プッチャンまで。
 さすがに、どうするべきか即決できなかった。

「ぐすっ……ご、ごべんなさい……。あだし、なんだかずっごく、うれじぐってぇ」
「ナイスだ相棒。今のはパーフェクトコミュだぜ!」
「……とにかく、泣き止んでくれると非常に助かるのだが」

 宗一郎は、やよいが感動を覚えたという事実を理解できない――今は、まだ。
 やよいに振り撒いた動作、言葉、態度が、なにを意味するのか……全てを理解することなど、彼には不可能なのかもしれない。
 だが宗一郎は、いつの間にか、この無垢な少女を同行者として認め、歩調を合わせるようになっていた。

61 :THE GAMEM@STER(後編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:40:38 ID:Nrq+NcdU
「うん、うん……うん、うん、うん! ハイ、タ〜ッチ!」
「む」

 引っ込めかけた掌へ、やよいが不意打ち気味のハイタッチを交わす。
 パンッ、という小気味よい音が、静謐な教会堂に深々と響いた。

「へへっ……俺ぁ、なんだか嬉しくなってきちまったぜ!」
「うっう〜! あたしもやる気出てきましたー!」
「そうか。では早速だが、見せたいものがある」

 やよいの心情変化に気を配っていた宗一郎だが、彼が目を向けていたのはそればかりではない。
 当初の目的である教会の調査にも、ちゃんと労力は注いでいた。
 さすがに、神父だからという理由で言峰綺礼が教会に滞在しているようなことはなかったが、収獲は皆無ではない。

「ななななんと! 隠し階段ですか!?」

 宗一郎は、やよいを教会堂の奥に置かれた机の裏側へと案内する。
 正門からは死角の位置に、地下へと通ずる階段の入り口が隠されていたのだ。
 やよいと真が合唱している間、教会堂内を隅々まで練り歩いていた宗一郎は、この階段を発見し目星をつけた。
 これより先に――さらなるなにかが隠されている、と。

「降りるぞ」
「は、はいっ」
「わくわくするぜぇ……」

 神域の奥へ、宗一郎とやよいとプッチャンが今、踏み込む。


 ◇ ◇ ◇



62 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:40:44 ID:mjP5po/j



63 :THE GAMEM@STER(後編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:41:23 ID:Nrq+NcdU
 扉を潜った先は、黒い、どこまでも深い黒に覆われた、異次元のような一室だった。
 広さは畳三畳分ほど。装飾の類は一切なく、黒の壁に覆われた空間には、一脚の椅子のみが置かれている。
 協会などめったに訪れるものではなく、ましてや懺悔室に入るなど、普通に生活していてはなかなかない。
 真も例外ではなく、初めて足を踏み込む領域に、緊張を覚えていた。

(えっと……ここに座る、のかな?)

 古びた木製の椅子に腰掛けると、ギシっ、という音が鳴った。
 座った位置から見てちょうど向かいの壁に、長方形の小窓が空いていた。
 懺悔の声だけが、中に届く仕組みになっているのだろう。
 無人の教会に聞き手などいるはずがないとは思いつつも、ついつい発散したくなってしまう。

(ボクは……)

 真には、告白したいことがあった。
 神に愚痴を聞いてもらい、許しを請いたいという願望が、確かにあった。
 迷える子羊として、真は救いを求めるように、声を紡ぐ。

「あの……誰もいないとは思いますけど、聞いてください」

 孤独な暗室で、少女は一人口を開く。
 傍聴者のいないその席で、返ってくる声はないと思い込んでいた。
 が、

「どうぞ」
「あ、ありがと……え?」

64 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:41:44 ID:mjP5po/j



65 :THE GAMEM@STER(後編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:42:29 ID:Nrq+NcdU
 声は返ってきた。
 正面の壁に空いた小窓から、柔和な女性の声が、確かに響いた。
 途端、中にやよいや宗一郎以外の誰かがいると確信し、真の背筋に警戒の震えが走る。

「ああ、そう構えることはないよ。ボクはただの聞き手に過ぎない……君が警戒するところの『参加者』ではないはずさ」
「うっ、嘘だ!」

 椅子から立ち上がり、逃げるため扉へと手を伸ばそうとする真。
 小窓から届く声はどこまでも不穏で、得体が知れない。

「いいや、嘘じゃないさ。ボクは教会を訪れた者の懺悔を聞くために、ここにいる。
 そうだね、舞台装置の一環と受け取ってもらって構わない。
 君に直接的危害を加えることはないから、安心して語っておくれよ」
「舞台、装置……?」
「港に船があるように、遊園地に遊具があるように、発電所に発電機が置かれているように、
 教会に懺悔を聞く者が置かれていても、なんら不思議ではない。そう思わないかい?」
「そう……なの、かな?」
「ああ、そうさ。下手なことで悩むべきじゃない。それよりも、君は別に抱えている悩みごとがあるんだろう?」

 促されるように、真は再び席に着く。
 小窓の向こうから発せられる声には、不思議な説得力があった。
 感じる人間味も薄く、本当に他の参加者による声ではないのだと、納得できてしまう。
 ひょっとしたら、この声は機械によって作り出された合成音声かなにかなのかもしれない。

 真は考え、懊悩の種を再度開花させる。
 正体不明の声を気にするよりも今は、胸に蟠っている靄を解消したい。
 欲望に支配されるがまま、真は謎の声を話し相手として、言葉を続けた。

66 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:42:30 ID:mjP5po/j



67 :THE GAMEM@STER(後編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:42:58 ID:Nrq+NcdU
「じゃあ……聞いてください」
「ああ、聞こうじゃないか」

 真の搾り出すような声に、小窓の住人が相槌を打つ。

「ボク……泣けなかったんです」
「泣けなかった……というのは、どういうことかな?」

 語る真の表情は、終始下を向いていた。
 自分の愚かな側面を自覚し、他者に吐露する。
 容易に語れる内容でもなく、しかし留めておくには苦しみを伴う。
 真は勇気を振り絞り、告げた。

「さっきの放送で、如月千早っていう知り合いの子が呼ばれて……その、死んじゃったんだと思います。
 わかってる、わかってるはずなのに……千早が死んだんだって思っても、ボクは泣けなかったんです。
 たぶん……ここで死んだ千早は、やよいみたいに、ボクの知ってる本当の千早じゃないから。
 そう思うと、全然悲しくなくって……やよいは、あんなに悲しんでるのに。なんか、悪い気がして」
「ふむふむ」

 やよいと再会して発覚した、並行世界の可能性。
 やよいが真と千早を同じユニットの仲間として見ていたように、
 真がやよいと千早を同じユニットの仲間として見ていなかったように、
 千早は、真とやよいをどういう風に見ていたのか――気がかりで仕方がなかった。

68 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:43:15 ID:mjP5po/j



69 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:44:07 ID:mjP5po/j



70 :THE GAMEM@STER(後編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:44:15 ID:Nrq+NcdU
 解明不可能となった謎は、要因の欠片として少女の心の隅に巣食う。
 この世界の真にとって、やよい千早も親しい友人ではあるが、パートナーの萩原雪歩ほど大切な人ではない。
 なのに、真が雪歩に抱いているような感情を、やよいは真と千早に抱いている。
 気持ちの擦れ違いは綻びを生み、闇を呼ぶだろう。

 並び立つ世界の枠を切り取り、作為的に貼り直した、主催側のトリック。
 繊細な少女のハートを淀んだ空気で満たすには十分な、神の悪戯にも思えた。

「やよいが慕ってくれてるボクは、『この』ボクじゃない……。
 別の世界の、ボクの知らない菊地真なんだ。なのにボクは、やよいの側にいる。
 やよいの知ってるボクでも千早でもなく、やよいを知らないボクなんかが。
 ……ははっ、自分でもなに言ってるのか、よくわかんないや……。
 変な悩みですよね。っていうか、らしくない。ボク、王子様になるって決めたばかりなのに」

 こんな様では、小牧愛佳に申し訳が立たない。
 ファンの女の子たちが真をそう見ていたように、せめてこのステージに立つ間は、女性を守る王子様としていよう。
 誠と共に切り抜けてきた危難の末、真が見つけた道。それが、予期せぬ不安によって蝕まれようとしている。
 安定を求めようにも、もう誠は頼れない。宗一郎も、プッチャンも、皆悩みを抱えている。
 こんな状態では、やよいと向き合えるはずなどなかった。

「――なら、一旦距離を置いてみてはどうかな?」

 しょげる真へと、謎の聞き手は救済の言葉を投げ落とした。
 真の彷徨うような視線が、小窓の奥底を見据える。
 映ったのは、延々と続く闇。
 影や形は掴めず、真は姿なき聞き手に縋った。

71 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:44:34 ID:/2xKrEEm


72 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:45:00 ID:mjP5po/j



73 :THE GAMEM@STER(後編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:46:02 ID:Nrq+NcdU
「距離を、置く……?」
「君はそのやよいという少女に、後ろめたさを感じているわけだ。
 なら、双方のためにもここは距離を置くべきじゃないかな。
 治療法を時間に委ねるのさ。人間関係を修復するのに、時間経過ほど優れた万能薬はないよ」

 声質は穏やかで整然。一分の不安要素もなく、不思議な説得力だけが込められていた。

「菊地真と高槻やよいが目指す終着点は同じなんだろう? なら、別離は永遠にはならない。
 いつか再会する時のために、気持ちに整理をつけるべきさ。
 おっと、ただの聞き手にすぎないボクが、出すぎた真似をしてしまったかな?」
「い、いえ! そんなことはないです」

 距離を置く、時間経過に人間関係の修繕を託す、確かに効果的な解決策であるように思えた。
 用意された正解はこれしかない、とさえ思えてしまうほど。
 小窓の中から託される声には、そんな魔力にも似た奇妙な安心感があった。

 しかし、不安も残る。
 やよいや宗一郎と別れたとして、今の真にどこまでやれるだろうか。
 誠は、真について来てくれるのだろうか。それとも、やよいたちと共に行くのか。
 やよいとは一緒にいられない、という強い念とは別に、一人でいるのは怖いという怯えもあった。

「――なら、君に切符を譲ろうじゃないか」

 真の内心を覗き込むように、声はまた、救いを投げ落とす。

74 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:46:10 ID:mjP5po/j



75 :THE GAMEM@STER(後編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:46:59 ID:Nrq+NcdU
「切符?」
「菊地真が新しいステージに登るための切符さ。ほら、左の壁を見てごらん?」

 促されるがまま、真は首を左方にやった。
 黒い壁面に、長方形の線が走っている。入った当初はなかったものだ。
 枠線の左端に配置された丸……目を凝らさなければ発見できないほど黒いドアノブも、今までまったく気づかなかった。

「その扉を潜れば、ここではないどこかに辿り着く。そこが君の新たなステージだ。
 不安かい? フフフ……だろうね。いや、しかしそこは安心するべきさ。
 ボクは君にとっての警戒対象じゃない。敵にも厄介者にもなりえない者さ。
 故に――危険は皆無。
 新しいステージに登った先で、君がなにを手にするかは――ボクは知らないけどね」

 天啓の声は、真に意識を齎す。
 許しを請う迷い子を救済せんと、小さな慈悲を与える。
 真はただ欲した。
 怪しいとは思いつつも、やはりなぜか、疑心を抱くまでには至らなかった。
 この『声』は――いったいなんなのか。

「――ボク、は」

 ただ、誘われるがままに。
 真は椅子から離れ、ドアノブに手をかけ、そして新たな扉を開く。
 高槻やよいが立つ舞台とは別の、菊地真のステージを探し求めて――



76 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:47:04 ID:mjP5po/j



77 :THE GAMEM@STER(後編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:47:26 ID:Nrq+NcdU
【懺悔室の扉の向こう(現在位置不明)/1日目 日中】

【菊地真@THE IDOLM@STER】
【装備】:電磁バリア@リトルバスターズ!
【所持品】:支給品一式(水なし)、金羊の皮(アルゴンコイン)@Fate/stay night[Realta Nua]、
      レミントンM700(7.62mm NATO弾:4/4+1)、予備弾10発(7.62mm NATO弾)
【状態】:背中付近に軽度の火傷(皮膚移植の必要無し)、傷治療中、肉体疲労(小)、精神疲労(中)
【思考・行動】
基本:誠と共に行動する。
0:新しい、ステージへ――
1:やよいと一旦距離を置く。
2:誠さんの行動方針を支える。
3:やよいや、他の女性を守る王子様になる。
4:巨漢の男に気をつける。
5:誠さん、本当に自重できるのかな?
6:誠さんは駄目な人だけど、それでも……
【備考】
※天狗秘伝の塗り薬によって休息に外傷を治療しました。大体の軽い傷は治療されました。
※誠への依存心が薄れ、どういう人間か理解しました。
※愛佳の死を見つめなおし、乗り越えました。
※元の世界では雪歩とユニットを組んでいました。一瞬このみに雪歩の面影を見ました。
※また、平行世界の可能性で若干動揺しています。
※誠も真も、襲ってきた相手が大柄な男性(真人)であることしか覚えていません。
※フカヒレからツヴァイの危険性、渚を殺害したことのみ聞きました。
※平行世界や死者蘇生の可能性について知りました。
※懺悔室の扉を越えて、会場内のどこかにワープします。到着地は後続の方にお任せします。


 ◇ ◇ ◇



78 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:47:56 ID:mjP5po/j



79 :THE GAMEM@STER(後編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:48:17 ID:Nrq+NcdU
 教会堂の奥に設置された小さな階段を、二人の男女と一体のパペット人形が降りていく。
 やよいの小柄な体はともかく、宗一郎の長身では屈みながらでないと進めないほどの悪路。
 そもそも、隠すように設置されたこの階段に、いったいどのような意味があるというのか。

(うっうー、なんだかドキドキしますぅ)

 やよいは好奇心が大半を占める心持で、謎の隠しダンジョンへと潜行していく。
 先頭を行くランタンの灯りがぼうっと動きを止め、同時に宗一郎の進行も停止。
 おそるおそるといった足取りで段差が終わったことを確認し、やよいも足を止めた。

「……え?」
「…………」

 下り階段の終着点。
 そこは、ランタンの灯りを必要としないほどに明るい。
 証明があるわけでもなく、日光に照らされているわけでもない。
 不可思議な光が蔓延する、箱型の一室だった。
 その中央に、

「そんな……これって……」

 一本の十字架が聳え立っており――

「……どう見るよ、相棒」

 ――男が一人、イエス・キリストのように縛り付けられていた。


80 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:48:42 ID:mjP5po/j



81 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:49:36 ID:mjP5po/j



82 :THE GAMEM@STER(後編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:49:57 ID:Nrq+NcdU
「死んで……るんでしょうか?」
「……見た感じはな。やよい、なんなら俺が目ぇ塞いでてやろうか?」
「うう〜……大丈夫、です」

 プッチャンの気配りに感謝しつつ、それでもやよいは、現実から目を背けようとはしなかった。
 いつまでも項垂れていては仕方がない。
 こういった場面に遭遇したとしても、動じない心を身につける必要があった。

 磔の男は、当然だがやよいの見知らぬ人物だ。
 パッと見てわかる特徴は、金髪、上半身裸、筋肉質、といったくらい。
 露出している肌に外傷はなく、顔も眠っているように穏やかだった。
 ただし、顔色は真っ青。生気は微塵も感じられない。
 年齢は二十代前半あたりか。間違いなく若者に分類される容姿だった。

「……死後数日は経過しているようだ」
「おい、そんなはずねぇだろ……だって、おまえ」
「うっうー、なにか問題でもあるんですか?」

 十字架に張り付けられていた男を調べた末に、宗一郎が割り出した死亡時刻。
 その報告を耳にして、プッチャンが難しい声で唸る。
 体温や皮膚の状態を見ての判断だろうが、やよいにはなにが問題点なのかよくわかっていなかった。

「やよい、あの金髪のニーチャン、誰だかわかるか?」
「え、あ、わかりません。見たことない人です」
「だよなぁ……じゃあよ、このふざけたゲームが始まってから、どれくらい時間が経ったかわかるか?」
「えっと、今がお昼頃だから……半日くらいですよね?」
「ああ。まだ一日も経ってねぇ。ならよ、この死後数日は経過してるニーチャンは、いったい誰だ?」

83 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:50:11 ID:mjP5po/j



84 :THE GAMEM@STER(後編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:50:58 ID:Nrq+NcdU
 プッチャンの問いかけで、やよいはようやく彼の言わんとすることを理解した。
 ゲームがスタートしてから、約十三時間が経過。
 即ち、ゲーム参加者の会場滞在時間は、一日には満たない。
 しかし宗一郎の目測では、この十字架の遺体は死後二十四時間以上が経過しているという。
 これらの情報から導き出される答えは、非常に不可解なものだった。

「この人……あたしたちと同じ、参加者の人じゃない?」

 宗一郎の目測が真実であると仮定するならば、この男は名簿に載っているゲーム参加者には該当しない。
 だが、ならばなぜ――参加者以外の人間の遺体が、このような場所に放置されているというのか。

「不可解ではある。なんらかの意味があるやもしれんし、ないかもしれん」
「大方、この教会が信仰してる神様ってとこじゃねぇか? やよいはどう思う?」
「うっう〜……」

 プッチャンに意見を求められ、やよいは頭を抱えながら考え込んだ。
 ――思い出されるのは開会式。あの壮絶な混乱の場で、主催者たる神崎黎人は確かに言った。
 会場は、とある『無人』の島だ――と。
 ここに至るまでの道中、街中を駆け回る野良猫程度なら見かけたが、選ばれた参加者以外に人は目撃していない。
 神崎の言うとおり、この島は無人で間違いないはずだ。しかし、目の前には男。
 いや、そもそも死人は人としてカウントするべきなのかどうなのか。
 神崎は、生きてる人はいないが死んでいる人はいる、というつもりで言ったのかもしれない。
 いやいや、だいたいどうして死人をこんな場所に置いておくのか。不可解にもほどがある。

「ううう〜……頭こんがらがってきまし〜〜〜〜〜〜〜きゅう」
「なんてこった、やよいがオーバーヒート寸前だ。おい相棒、なにもねぇならさっさと上に戻ろうぜ」
「そうだな」

85 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:51:40 ID:mjP5po/j



86 :THE GAMEM@STER(後編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:51:57 ID:Nrq+NcdU
 地下の一室には、十字架に張り付けられた男の遺体以外、なにも存在しない。
 さらなる隠し通路がある可能性もあったが、あまり長居したくはない空間である。
 やよいたちは元来た階段を上り、再び教会堂へと出る。

 出る――はずだった。

「あ、あれ? え、ここ、どこですか!?」

 狭い階段を上り詰めた先には、ステンドグラスに照らされた神聖な講堂が広がっているはずである。
 地下へと通じる階段は、当然のごとく一本道。分岐路などない。
 だからこそ、やよいと宗一郎とプッチャンは、階段を上った先にある光景を見て、混乱した。

 石敷きの白い床は、古びた木板に変わっている。
 所狭しと置かれていた席は、大量の本が敷き詰められた本棚に変わっている。
 太陽光を受けていたステンドグラスは、ドーム球場ほどはありそうな高い天井に変わっている。

 自分たちがいるこの場所は、明らかに教会ではない。
 やよいが、宗一郎が、プッチャンが、そう認識して、周囲に目配りを続ける。

「なにがどうなってんだ……教会はどこいっちまったんだよ?」
「全然違う場所、ですよね……図書館かな?」

 やよいの記憶するところによれば、地図に記載された施設の中に、図書館などというものは存在していなかった。
 たとえやよいの記憶違いだったとしても、教会が図書館に一変するなど物理的にありえない。
 やよいとプッチャンは不可思議すぎる状況にあたふたし、宗一郎はただ一人、モノリスのように聳え立つ本棚を睨みつけていた。
 おもむろに手を伸ばし、本棚から一冊の本を取り出す。パラパラとページを捲り、裏表紙まで確認し、すぐにそれを戻した。

87 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:52:31 ID:mjP5po/j



88 :THE GAMEM@STER(後編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:53:10 ID:Nrq+NcdU
「どうやら、ここは図書館ではなく古書店のようだ」
「古本屋さん、ですか?」
「どうしてそんなことがわかるんだよ」
「本に値札がついている」

 宗一郎の冷静な分析に、やよいとプッチャンは、はー、と息を漏らす。
 図書館と古書店の違いなど、さして重要な部分でもなく。
 問題は、ここが地図でいうところのどのあたりのエリアなのか。
 一本道を引き返してきただけなのに、どうして教会が古書店に変わってしまったのか。
 答えの検討などまるでつかない難問に、一同が閉口しかけたときだった。

『――おやおや、意外と早い来客だね』

 到来したのは、声、である。
 機械を通したものではない。放送の手法に似た、どこからともなく聞こえてくる、不思議な肉声だ。
 それが広い古書店内に反響し、聞く者たちの注意を惹き付ける。
 やよいたちは反射的に天井を見上げるが、そこには何者の姿もない。
 右方左方、前方後方と視線を巡らせても、自分たち以外の存在は確認できなかった。

『挨拶が遅れたね。いらっしゃい。ボクはこの本屋の店主をしている者さ』

 声から感じ取れるイメージは、女性。飄々としていて、つかみどころがない。
 もちろん誰の耳にも聞き覚えなどなく、三者は顔を窺い合わせながら、店主なる声を静聴する。

89 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:53:17 ID:mjP5po/j



90 :THE GAMEM@STER(後編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:53:56 ID:Nrq+NcdU
『フフ、聞きたいことが山ほどある……といった様子だね。
 まぁ、到着して早々、ここを本屋と見抜いた点は評価したいし……そうだ。
 一人一問。ボクが君たちの疑問に答えてあげよう。遠慮なく質問してくれて構わないよ。
 ボクは一通りの答えは持っているからね。ああ、嘘も混ぜないからどうか安心して尋ねてほしい』

「――では、さっそく私から尋ねよう」

 店主の提案に動じることなく、宗一郎が一歩先に踏み込む。
 天井を見据え、中空を漂う声に質問を投げかけた。

「おまえはいったい何者だ? 店主以外の解答で頼む」
『――黙秘させてもらうよ』
「それでは話と違うが?」
『黙秘権がないとまでは言っていないさ。そもそもその質問に関しては、店主という答えを既に出している。
 言い方を変えれば、店長やら支配人とも言い表せるが、君はそんなくだらない解答がお望みかい?』
「……質問を変えよう」

 どうやらこの店主とやらは、一筋縄ではいかない性格をしているらしい。
 宗一郎は戦法を変え、確実な利となる答えを求めることにした。

「この古書店は、会場内のどのあたりに位置している?」
『禁止エリアの心配かい? 君たちがいた場所の隣のエリアは、あと数時間で危険区域に指定されるからね。
 うん、聡明な判断だ。答えを述べると、この本屋は会場内のどこにも位置していない。まったく別の空間にあるのさ』
「……島の外、ということか?」
『そういう解釈で構わないよ。一応出口は設けてあるけど、あの教会には繋がっていないから注意するんだね。さて、次の質問はどちらかな?』

91 :THE GAMEM@STER(後編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:54:25 ID:Nrq+NcdU
 店主の問いかけに、やよいの右手――に装着されたプッチャンの右手が、勇ましく上がる。

「どちら、ってことは……当然、俺にも権利はあるんだよな?」
『ああ、もちろんさ。君は参加者ではないが、登場人物の一人には違いないからね』
「話がわかるじゃねぇか。なら質問するぜ。おまえの目的はなんだ?」

 プッチャンの双眸がギラリと光り、虚空を牽制する。
 効果の程は定かではないが、やや間を置いて、解答は返ってきた。

『……いろいろと解釈のし甲斐がある質問だけど、そうだね……なら、君たちに声をかけた目的からお答えしよう』
「店主が客に声をかけるのは当然、ってオチはなしだぜ〜?」
『フフッ、そんな意地悪なことは言わないさ。答えは、そう――楽しそうだったから』

 素っ頓狂な解答に、プッチャンは顔を顰める。
 そんなプッチャンの心情を読み取ってか否か、店主は構わず続ける。

『――ゲームというものは、楽しむ者がいて、初めてゲームと呼べると、そう思うんだ。
 それはゲームに参加している当事者だったり、ゲームを傍観している観客だったり、もしくはそう、
 ゲーム全体の掌握権を持つ、ゲームマスターだったり――ね』

 店主の解答は、どこかプッチャンが求めた内容とはずれている。
 自分語りのような声が続き、一同は態度を変えずにそれを聞き続けた。

『君たちは条件を満たし、ボクの店に来店した。拒むこともできたがね。
 ここでボクが君たちに声をかけるのも、一興かと思ったまでさ。
 そのほうが、きっと誰にとっても楽しいはずだよ。ねぇ――フフフ』
「……意味深だねぇ」

 不明瞭な解答を終え、プッチャンの質問が終了する。
 そして最後に残された解答権は、やよいに委ねられた。

92 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:54:25 ID:mjP5po/j



93 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:55:11 ID:mjP5po/j



94 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:55:57 ID:mjP5po/j



95 :THE GAMEM@STER(後編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:56:07 ID:Nrq+NcdU
『さあ、お嬢さん。最後は君だ。なにか尋ねたいことはあるかな?』
「あ、ハイ。えぇと……」

 敵とも味方とも判別つかぬ相手に、やよいは畏まって言葉を選ぶ。
 やがて、元気な挙手とともに、やよいの質問が天に向かって投げられる。

「ひょっとして、あなたが黒幕さんですか?」

 場の空気が固まる。
 天からの即答はなく、宗一郎とプッチャンの瞳がやよいに向く。
 空気の変化が読み取れていないやよいは、え、うぇ、と二人の顔を目配りする。
 しばしの間を置いて、声は返ってきた。

『……おもしろいことを言うね。逆に訊いてもいいかな? どうして、そんな風に思ったんだい?』
「えと、なんだか店主さん……あの二人の男の人より、ずっと偉そうな感じがしたから」

 天から託される不思議な声は、姿形のイメージを容易としない。
 それ故に、開幕の際に神父と学生という姿を露見している主催者二人よりも、この正体不明の店主のほうが、上等な存在感を持っているような気がしたのだ。
 抽象的表現を用いるならば、神父や学生という人間よりもずっと――神様っぽい。
 やよいはそんな漠然とした感想から、弾かれるように先ほどの質問を生み出した。
 これを受けて店主は、

『体は子供。頭脳も子供。されどだからこそ――というわけか。いやいや、これだから人間というのは。
 残念ながら、これについても黙秘とさせてもらうよ。他に質問はないかい?』
「え〜、ダメですか? えと、えと、それじゃあ……え〜と……」
『すぐに答えが出てこないようなら、君が今、一番気にしている疑問に答えてあげよう。
 教会に取り残された、伊藤誠と菊地真について。あの二人は既に、各々の意思で教会を離れている。
 行き着く先まではボクも知らないが、再会したいと思うなら、時を待つことだね。
 そのほうがそれぞれのためになる。退店後、君たちがどこに出るかも――おっと、そろそろおしまいにしようか』

96 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:56:42 ID:mjP5po/j



97 :THE GAMEM@STER(後編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:57:06 ID:Nrq+NcdU
 店主の声は徐々に遠くなり、虚無へと消えていく。

『ああ、そうだ。この店にある本を各人一冊、サービスさせてもらうよ。
 これでも、ボクは君たちのことがが気に入ったんだ。来店者は君たちがはじめてだしね。
 次に会うときは――いや、やめておこうかな。最後に、一つアドバイスも付け加えておこう。
 これはどこまでいってもゲームであり、君たちは参加者だ。だから、精一杯楽しむことをオススメするよ――』

 声が完全に消失し、だだっ広い古書店は無音に包まれる。
 やよいは天を仰ぎ、宗一郎とプッチャンは天井を睨み付けたまま、しばらくの時間が流れた。


 ◇ ◇ ◇


「……結局、さっきの声はなんだったんだろうなぁ」
「主催側と繋がりのある人物には違いあるまい。目的は不明瞭だったがな」
「うっうー。でも、あんまり悪い人には思えませんでしたー」
「……やよい。おまえ将来、悪徳商法に騙されたりするぞ」
「えー、大丈夫ですよ。あたし、これでもお財布の紐は固いんですから」
「奴の正体はともかく、言動に嘘があったとは思えん。となれば、さしあたっての問題は」

 店主との問答が終わり、他に客もいない古書店の中で、やよいと宗一郎、プッチャンは話し合う。

「……こっからどうやって出るか、か?」
「うう〜、出入り口を探すだけでも疲れちゃいそう」

98 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:57:26 ID:mjP5po/j



99 :THE GAMEM@STER(後編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:57:58 ID:Nrq+NcdU
 古書店の内部は、大都市の図書館と見間違うほど広い。
 本棚の高さは見上げるほどもあり、脚立でも用いらなければ、とても最上段の本には手を伸ばせなかった。
 そのような本棚が、数えるのも億劫なほど並び立っている。
 やよいの言うとおり、本棚の壁に囲まれた迷路の中で出入り口を見つけ出すのは、骨が折れそうだった。

「さっきの階段もいつの間にか消えてるしなあ……いっそ、ここで篭城しちまうってのはどうよ?」
「蘭堂りのや神宮寺奏を探すのではなかったのか?」
「それに、真さんや直枝さんたちも心配です」
「ジョークだよジョーク。ま、焦っても仕方がねぇだろ。のんびり探そうぜ」

 広大な敷地を前に、プッチャンは気楽な構えを取る。
 考えることは山ほどあるが、考えるために立ち止まるばかりでは、先には進めない。
 すっかり明るさを取り戻したやよいの手の中で、プッチャンは陽気に音頭を取る。

「……それにあの女店主、ご丁寧にサービスしてくれるって言ってたぜ。
 ひょっとしたら、なんかスゲーお宝が眠ってるとも限らねぇ。
 そう……たとえば、金銀財宝ザックザクだったりなぁ!」
「ざ、ザックザクですか!?」
「おうよ! 大金持ち間違いなしだ!」
「うっう〜! そんなにあったら、もやし祭りができちゃいますよ!?」
「もやし祭りなんて騒ぎじゃねー! もやし大感謝祭の幕開けだー!」
「よくわかんないけど、なんだかものすごいことになっちゃいそうですっ!」
「探せやよい! 出口のついでにお宝も探し当てちまうんだ!」
「うっうー! 体は子供、頭脳も子供、アイドル探偵高槻やよいの出番ですね!?」

100 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:58:16 ID:mjP5po/j



101 :THE GAMEM@STER(後編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:58:18 ID:Nrq+NcdU
 プッチャンを嵌めた右手を掲げつつ、やよいが古書店内を駆け回る。
 傍からしてみれば、元気の有り余っている少女腹話術士が、歳相応にはしゃいでいるだけにも見えた。
 やよいに見守るような視線を投げかける宗一郎は、安堵の気持ちを抱きながら、一人静かに思案に暮れる。
 しかし、今は。

(……会場の外。本来、私たちの身分では足を踏み入れられぬ場所か)

 言峰綺礼となんらかの接点があると睨んで訪れた教会。
 そこから、思わぬ場所に辿り着いてしまった。
 これを僥倖と見るべきか否か、判断材料はこの書庫の中にある。

(たしかに、なにかありそうではある。調査の必要があるか)

 軽く嘆息し、宗一郎は膨大な書物の山に向き直った。



102 :THE GAMEM@STER(後編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 00:58:56 ID:Nrq+NcdU
【とある古書店(現在位置不明)/1日目 日中】

『先生と生徒とマスコット』
方針:古書店内を探索。

【葛木宗一郎@Fate/stay night[Realta Nua]】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式 、ルールブレイカー@Fate/stay night[Realta Nua]、
      弾丸全種セット(100発入り)、木彫りのヒトデ8/64
【状態】:健康、右肩に切り傷
【思考・行動】
基本:帰る。
0:調査の必要があるか。
1:古書店内を探索。出口及び有益そうなものを探す。
2:直枝理樹の作戦に乗る。
3:高槻やよいを守る。
4:蘭堂りのを探す。
5:衛宮士郎に関しては保留。可能なら保護。
6:菊地真と伊藤誠の再捜索。
7:教会地下に置かれていた遺体、古書店の店主について考える。
【備考】
※自身の体が思うように動かない事には気付きました。
※博物館に展示されていた情報を記憶しました。
※直枝理樹の知り合いについて情報を得ました。
※黒須太一、ティトゥス(外見的特徴のみ)を危険視。
※黒須太一、藤乃静留が直枝理樹を女と勘違いしている、という情報を得ました。
※ツヴァイ、ドライ、アイン、フカヒレ、巨漢の男を警戒。
※教会の地下を発見。とある古書店に訪れました。

103 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:59:04 ID:mjP5po/j



104 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 00:59:57 ID:mjP5po/j



105 :THE GAMEM@STER(後編) ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 01:00:04 ID:Nrq+NcdU
【高槻やよい@THE IDOLM@STER】
【装備】:プッチャン(右手)
【所持品】:木彫りのヒトデ2/64
【状態】:健康
【思考・行動】
0:体は子供、頭脳も子供、アイドル探偵高槻やよいの出番ですね!?
1:古書店内を探索。出口及び有益そうなものを探す。
2:葛木先生と一緒に行動。
3:真と誠を探して合流する。
【備考】
※博物館に展示されていた情報をうろ覚えながら覚えています。
※直枝理樹の知り合いについて情報を得ました。
※死者蘇生と平行世界について知りました。
※教会の地下を発見。とある古書店に訪れました。

106 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:00:35 ID:mjP5po/j



107 : ◆LxH6hCs9JU :2008/06/05(木) 01:00:45 ID:Nrq+NcdU
投下終了しましたー。
支援ありがとうございます。

108 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:36:53 ID:83iHmgw1
投下乙です
懺悔室……デモベの古本屋
なんという豊富なアイデア
氏の作品は本当に幅が広いなあ
そして一般人らしく揺れる誠や真の心、葛木Pとやよいとプッチャンの絡みが、凄く良かったです
それぞれ何処に行くか分からないし、続きも気になる所

109 : ◆lcMqFBPaWA :2008/06/05(木) 01:39:54 ID:Mk4/F5mX
『絶望と救い、そして憎悪』


時計の針は、進む。
望む、望まないに関わらず進み続ける。
人類が、…いや世界そのものが存在している限り揺るぐことの無い事実。
故に、『その』時は必ず訪れる事となる。
望む、望まないに関わらず、だ。
ただ、強いて言うなら、『その』時を望んでいる人間など、恐らく一人も居ないという事だろう。

…彼には、覚悟があった。
強さがあった。
知性が、理性があった。
だが、彼には足りていない物があった。
それは、何であろう?
言葉にすると、やはり、覚悟ということになるのだろうか…?

最も、彼だけを責める事は出来ない。
少なくとも、数時間前の彼ならば、恐らくは異なった筈だ。
同じ様に打ちひしがれ、叩きのめされて、消沈したとしても、己を律する事は出来ていた…筈だ。

だが、今の彼は、
ひと時とは言え安らぎと安堵を得てしまった彼には、同じように己を律する事は出来なかった。

棗、鈴


110 : ◆lcMqFBPaWA :2008/06/05(木) 01:40:46 ID:Mk4/F5mX
文字に記せばたったの二文字。
言の葉に乗せればたった五句の短い単語。
されどこの時において、語句の長さなどは意味を持たない。
重要なのは、その言葉の持つ『意味』であろうか。

その単語は沈黙を呼び、悲哀を誘う。
齎されるのは絶望であり、訪れるのは無力感であろうか。
いずれの感情にせよ、確か事が一つある。
その単語が読み上げられる事を望んでいたものなど、一人として存在していなかった。

それだけは、純然たる事実であった。



世界が、凍る。
僅かに動けば、粉々に砕けてしまいかねない程に。
G-6エリアのカジノ。
殺し会いというこの場においてはあまり相応しくない建物の内部には二人の人間がいた。
それほど、その空間を満たしている空気は、張り詰めていた。
その場に居るのは二人の人間。
棗恭介とトルティニタ・フィーネ。
多くの偽りと矛盾とを自覚しながらも抱え続ける二人。
今、その二人には動きは無い。
あるのは沈黙。
それだけであった。

111 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:41:15 ID:83iHmgw1
 

112 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:41:37 ID:83iHmgw1
 

113 : ◆lcMqFBPaWA :2008/06/05(木) 01:41:39 ID:Mk4/F5mX
双方の心に満たされるのは悔恨、嘆き、無力、憤りと様々ではあったが、それでも、
それ故に、その場の空気は動く事は無い。
心のあまりの重さに、動けない。
動くことなど、出来はしない。

……そうして、数刻の沈黙の後、漸くその場所に時が刻まれ始めることになる。

人の身には、悲しみでさえ永遠ではないのだから。





「…ちく、しょう」
絞りだす、ように、声が出た。
意味なんて無い。

鈴が、死んだ。
信じたくなんて、無い。
誰が信じてなんかやるものか。
ああ、そうだ、俺は信じない。

114 : ◆lcMqFBPaWA :2008/06/05(木) 01:42:17 ID:Mk4/F5mX
  
あの生意気で

兄を敬わないで

やんちゃで

少し人見知りして

猫に好かれてて

可愛くて

……大切な、妹、が、

…………死んだ?

そんな事、信じられる筈が無い。
鈴はまだ生きている。
兄が信じてやらずに、誰が信じるっていうんだ。
ああ、そうだ。
鈴は死んでなんかいない。
俺の、
俺たちの大切な仲間が、
俺たちの思いの全てを背負った二人の片割れが、
死ぬはずが無い。
そう、

115 : ◆lcMqFBPaWA :2008/06/05(木) 01:42:47 ID:Mk4/F5mX
…………そう、思えたのなら、どんなに楽なんだろうな。

そう、…どんなに否定しても、頭は理解している。
鈴は、
俺の『妹』は、
俺たちの大切な『仲間』は、…死んだんだ。

疑いようの無い事実。
疑いたいのに、疑えない事実。
認めたくないのに、認めなければいけない事柄。
俺たちの全ては……ここに半ば潰えた。

認めるしか、無い、現実。

ああ、そうだ、認めよう。

だが、認めたから何だっていうんだ?

事実は事実だ。

だからって、納得なんて出来る筈が無い。

何でだ?

何で鈴は死んだ?

116 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:43:00 ID:83iHmgw1
 

117 : ◆lcMqFBPaWA :2008/06/05(木) 01:43:15 ID:Mk4/F5mX

死ななければ、ならなかったんだ?

……ココロが、全身が悲鳴を上げている。
 
悲哀に、身体がバラバラになりそうになる。

指先がチリチリする。

口の中はカラカラだ。

目の奥が熱いんだ。

何もかもを捨てて、叫び出したくなる。


………………けれど、それが何になる?

地面を空き毟って何とかなるなら爪が剥がれるまで掻き毟ろう。
慟哭の声を上げて事実が変わるのなら、声が枯れて血が代わりに流れても嘆き続けよう。
涙を流せば鈴が生き返るのであれば、体中の水分が流れ出て、この身が枯れ果てても泣き続けよう。
そう、ここで俺が嘆いても、何の意味も無い。
何にも、起きてなんかくれやしない。
既に定まった運命を、覆す事は出来ないのだから。

118 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:43:24 ID:amQrlZ0+


119 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:43:52 ID:83iHmgw1
 

120 : ◆lcMqFBPaWA :2008/06/05(木) 01:44:06 ID:Mk4/F5mX
だから、俺がするべきはそんな事なんかじゃない。
まだ、理樹が居るんだ。
元々、二人が帰れないという可能性も考慮してはいたんだ。
もしもの時に、しなければならない決断を、する必要が無くなった。
だから、もう考えるな。
今俺がするべきなのは、鈴の死を嘆いて無為に過ごすことじゃあない。
……さしあたっては、放送だ。
放送とは、情報だ。
死者の人数の増減、性別や能力、少しでもヒントになるかもしれない。
禁止エリアの位置や、主催者達会話の内に、見え隠れする心情が見えてくるかもしれない。
だから、全てが克明に思い出せるうちに、少しでも多くの情報を記憶し、記録し、情報を集めなければならない。
ああ、そうだ、俺には泣いている暇なんて無い、無いんだ。

だから…

「放して、…くれ」

俺の顔を覆う、柔らかな感触に、声を掛ける。
暖かくて、それだけでココロが安らぐ、安らいでしまう。
小さなその身体でもって、懸命に俺を抱きしめる少女、トルタへと。

「……ダメ」

返されるのは、拒絶。
その声は、僅かにかすれている。
腕で頭を抱えられているので見えないけど、多分その大きな瞳には一杯に涙が溜まっているのかもしれない。


121 : ◆lcMqFBPaWA :2008/06/05(木) 01:44:40 ID:Mk4/F5mX
「……ダメだよ、恭介」

何故、君が嘆く?
君の探し人は、無事だっただろ。
だから、さあ、考察を始めよう、何も、気にする必要なんて無いんだ。

「……ダメ。
 ……何がダメなのか、上手く言えない、けど、兎に角…ダメ」

声の震えは、少しずつ大きなものになっている
少しずつ、かすれて、涙声になっていく。
時たま、喉からしゃくりあげる音が響いてくる。

「悲しい時は…ちゃんと悲しまないと……。
 泣きたい時は……ちゃんと泣かないと…ダメだよ……」

泣きたい時?
泣いているのは君じゃないか。
俺には泣く理由は、泣いている暇は無いよ。

「離して……くれ」

ああ、だから離してくれ。
俺は悲しいけど、それでも泣くわけには行かないんだ。
だから離してくれ、でないと、

「……大丈夫…………だから…」

今にも、泣き出してしまいそうになるから。
トルタの胸の温かさに、甘えていたくなってしまう。
幼い子供みたいに、泣きじゃくってしまいそうになる。

122 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:45:03 ID:83iHmgw1
 

123 : ◆lcMqFBPaWA :2008/06/05(木) 01:45:18 ID:Mk4/F5mX
「………………」

答えは、なかった。
ただ、俺の頭に廻されている腕の力が強くなっただけ。
トルタの柔らかい胸の感触が頭に伝わり、心臓の鼓動が聞こえてくる。

「………………」

何も、言えなかった。
言おうと言う気力が、湧き上がらない。
ただ、今はこの暖かさが、安らぎが、心地良かった。


「…………なあ、トルタ…」

しばらく、……二分は経っていないと思う…後、
ようやく、声が出た。

「…うん」

答えるトルタの声は、何処までも優しい。
まるで歌うかのような音色に満ちている。

「鈴は……もう、居ないんだよな」

「……うん」

搾り出すように言った俺の言葉に、トルタの声にもまた悲しい響きが混じる。
いや、あるいはそれは元々混じっていたのかもしれない。


124 : ◆lcMqFBPaWA :2008/06/05(木) 01:46:04 ID:Mk4/F5mX
「もう……何処、にも……居ない、ん、だょ、なぁ……」

「…………うん」

声が、霞む。
自分が、抑えられなくなる。

「もう……あぇないんだょ……なあ……」

「…………ぅん……うん!」

トルタの声も、また霞みだす。
でも、それももう考えられない。

「…………ぅ……ぉ……」

「……………………っ!」


「う、わあああああああああああああああああああああああ!!!」


叫んだ。
身も世もなく叫んだ。
女の子の胸の中で泣くなんて情けないというか
そもそも人前で泣くなんてこと事態が非常に恥ずかしいなんて事も考えずに兎に角泣いた。
何も、考えたくは無かった。
ただ、今は泣いていたかった。

そして、トルタの胸の温もりが、暖かかった。

125 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:46:18 ID:amQrlZ0+


126 : ◆lcMqFBPaWA :2008/06/05(木) 01:46:33 ID:Mk4/F5mX



「あああああああああああああああああああああああ!!!」

泣いている。
あの恭介が。
出会った時からしっかりしていて頼りがいがあって強かったあの恭介が。
……でも、これは必要な事なんだと思う。
悲しいなら、泣くべきだ。
その為に、人は泣けるのだから。
あんなに痛々しい恭介は、見たくなかった。
放って、おけなかった。
…だから、抱きしめた。
何をすればいいのか解らなかったけど、他に思いつかなかったから。
痛んだ足で恭介の側に移動するの事も、苦にはならなかった。
どうして、だろう?
悲しかったのかもしれないし、頼って欲しかったのかもしれない。
痛々しかったのかもしれないし、苦しかったのかもしれない。
兎に角、見ていられなかった。

……そうして、恭介に触れて、彼の体の震えを感じた。
それだけで、彼がどんなに苦しんでいるのかが、理解出来た。
…ううん、理解は出来ない。
ただ、私が思うより遥かに苦しんでいた事だけは判った。
……涙が、零れそうになった。
恭介の、強さが、悲しさが、とても辛かった。
苦しくても、泣けない人が悲しかった。
悲しさを捻じ曲げてしまった人を、知っていたから。


127 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:46:46 ID:83iHmgw1
 

128 : ◆lcMqFBPaWA :2008/06/05(木) 01:47:01 ID:Mk4/F5mX
「……大丈夫…………だから…」

思いだすと、僅かに赤面しそうなる。
思わずとは言え、恭介を抱きしめた事が。
…まあ、今も抱きしめ続けているのだけど…
ごく普通に、男の子に抱きついた事が、今になって僅かに恥ずかしくなってくる。
……そして、恭介がその事を受け入れてくれた事が…余計に頭を熱くさせてた…。
あの時、世界が止まったように思った。

五分?

十分?

或いはもっと長い時間?

ううん、時間なんてどうでもいい。
とにかく長い時間、ずっと、恭介の事を抱きしめていた。


……その後の恭介は、思い出したく無い。
思い出すと、また涙が零れてしまいそうだから。
あの時、私も思わず泣いてしまった。
恭介の姿が、声が、余りに悲しかったから。

129 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:47:26 ID:P1TDZyx8
携帯からも支援

130 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:47:33 ID:83iHmgw1
 

131 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:48:03 ID:amQrlZ0+


132 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:48:06 ID:/2xKrEEm


133 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:49:42 ID:83iHmgw1
 

134 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 01:51:35 ID:Mk4/F5mX
……未だに、恭介は泣き続けている。
でも、泣けたのなら大丈夫。
悲しいって、ちゃんと感じているのだから。
だから、恭介は多分大丈夫。

うん、でも、

…………私、怖いよぅ。

私自身が、怖い。

何だろう、何故か、私ホッとしてる。

今、恭介は凄く、悲しんでいる。

とっても、苦しんでる。

うん、

でも、

私の事を、必要としてくれている。

それが、凄く、嬉しい。

135 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 01:52:29 ID:Mk4/F5mX
そう、

『恭介の妹が死んだことの悲しさ』よりも、

『クリスが無事だった事の嬉しさ』よりも、

今、恭介が、『私に』涙を、弱さを見せてくれている事が、必要とされている事が、とっても、嬉しい。

……怖いよ、

人が死んでいるのに、それは恭介の妹だっていうのに、

私、悲しくない。

悲しさなんかよりも、

嬉しさで、心が満たされかかってる。

クリスが生きていてくれている事じゃあなくて、

今、恭介が誰よりも私の事を頼ってくれている事が、

凄く、

…凄く、

……嬉しい。

私の胸の中で、泣いている事が、涙を見せてくれている事が、凄く嬉しい。


136 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:52:35 ID:83iHmgw1
 

137 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 01:52:55 ID:Mk4/F5mX
おかしいよ?

でも

……『  』な人に、必要とされていることが、

私を頼ってくれている事が…すごく、嬉しい。

……おかしいよ、

私が流した涙は恭介の為、恭介の姿が悲しかったから。

そう、その筈なのに。

ココロは、こんなにも満たされているなんて

まるで、歓喜の涙を流しているように思えてしまう私が、凄く、



…………怖い



138 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:53:16 ID:amQrlZ0+


139 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 01:53:23 ID:Mk4/F5mX


流すだけ流して、何とか流すものはなくなった。
勿論、まだ幾らだって腹の中に溜まっているものはある。
だが、それでもあふれ出すほどでは無い。
自分の中に、溜め込んでおける、
俺が自分を制する事が出来るだけの量だ。

考えれば、また溢れてしまいそうになる。
だから、違う事を考えよう。

「もう…大丈夫だ、トルタ」
「……うん」

少し、涙の残る声で、トルタが答えた。
そうして、俺から離れようとして、「あっ」と少しふら付いた。
反射的にトルタの事を掴んで、そこで、彼女の足の傷が目に入る。
そう、本来トルタは歩くのにも多少の困難を要する状態なのだ。
そんな状態の彼女に、あんな事をさせてしまうなんて、少し、気恥ずかしくなる。

「…………」
僅かに覗く生足を見て赤面している事に、別の恥ずかしさを覚えて、顔を上げて、
胸の辺りの濡れた跡を見て、再び気恥ずかしさを覚えてしまう。
(…ああ、格好悪いな、俺)
よりによって、年下(推測)な女の子の胸の中で泣いてしまうとは。
なんというか、赤面してしまいそうだ。
皆に知られたら、からかいのネタにされてしまう。
皆……という単語が再び胸に鈍痛を呼び起こすが…今度は泣かない。
二回も泣いてしまったとあれば、リトルバスターズのリーダーの座も危うくなる。


140 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:53:55 ID:/2xKrEEm


141 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:53:55 ID:amQrlZ0+


142 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:54:01 ID:83iHmgw1
 

143 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 01:54:17 ID:Mk4/F5mX
(よしっ! ならとりあえずこれからは筋肉バスターズと名を改めてだ!)
(えっ〜〜その名前はあんまり〜お菓子バスターズで)
(ぜったいにいやだ)
(……話が纏まりませんね、宮沢さんがおやりになれば……)
(いや…掛け持ちの上に部長は断る)
(やりたくない人にやらせなきゃいーじゃん! てなわけで私)
(私がやってもいいがな……その場合は……ふふふ、おっと鼻血が…)
(わふっ!? あ、あの井ノ原さんでもいいと思いますっ!)
(恭介が居ないと纏まる気がしないなぁ……)
(とりあえず元凶のグッピーは私が始末しておきますのでご安心を)

(……何かリーダーの座は大丈夫な気がするな…)
何処かから電波が混じった気がしたけど気のせいだろう。
もう戻らない、余りに平和なやりとりが懐かしいけど…
でもまあとにかくそんなに何回も男が涙を見せるべきじゃあ無い。

そうして、さらに顔を上に上げて、

……やけに、近い、所に、トルタの、顔が、あった。

ああ、そういえば、俺今トルタのわき腹と肩を掴んで立たせているのだっけ。
幼い雰囲気を残す可愛い顔が、今は僅かに朱にそまっている。
顔に浮かんでいるのは、僅かな驚きと、戸惑いだろうか。
瞳には何処か潤みを滲ませて、俺の顔が映しだされている。
……その事が、何故かやけに嬉しかった…


144 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:55:01 ID:amQrlZ0+


145 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 01:55:10 ID:Mk4/F5mX
と、ここまで考えて、今の自分達の体制に気が付く。
……やけに、近い。
のだが、何故かその距離があまり近いようには感じられないような気もしたが……
それでも、離れようとして、

突如響く、“ガチャッ”という音。

「は! わわわわわわわわわわわわわわわわわま、間違えました御免なさーーい!!」
「落ち着け! 別に汝は間違えてはおらん!」
「……まあ、気持ちはすっごーく良く判る」
「あう! ああああアルちゃんも双七君も見ちゃダメだってば!!
 す、すいませんお邪魔しましたー! ご、ごゆっくりー」
「ええい落ち着かんか汝! 単に男は肉欲獣だというだけであろうが!」
「……すいませんその言い方だと俺も含まれるので勘弁してください」


すっかり存在を忘れていた双七と、見知らぬ少女が二人、そこには居た。




146 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:55:21 ID:83iHmgw1
 

147 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:56:21 ID:/2xKrEEm


148 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 01:56:27 ID:Mk4/F5mX
「……葛ちゃん…まで…」
「…………桂……」

放送によって告げられる事実。
浅間サクヤの死に続き、またも告げられる残酷な運命。
それは、羽藤桂の心を打ちのめす。
経見塚で出会った親しきものたちのうち、既に二人、この島で命を落とした事になる。

「…………ぅ…」
元より涙もろい桂は、悲しみの涙を流す。
だが、アルはそれを止めようとはしなかった。
短い付き合いではあるが、桂の心の強さは知っていたから。
泣くべき時は泣いて、でもその後には笑うことができると、理解し始めていたが故。

……ただし、それは傷が消えた事を意味するわけでは無い。
傷は残り続ける、そうして、時たま火傷のようにその身を苛む。
故に、

「忘れるでないぞ……」
「……ぇ?」
「その、若杉葛が死んだのは、汝のせいではない。
 汝が、悔い続ける事ではない」
「…………!」
「じゃが、それでも後悔することは止められぬ。
 だから、忘れるな。 己と共にあった者達のことを、忘れるな。
 そのもの達との、思いを心に刻め、そうして、歩き続けるのだ…」


149 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 01:57:14 ID:Mk4/F5mX
アル・アジフは、世界最強の魔道書は、そのように生きてきた。
己が力の未熟故に死なせてしまったマスター達の事を、覚えている。
彼らの思いが無駄ではなかったことを、知っている。
だからこそ、彼女は今ここにあるのだから。 

「…………ぅん」
涙を拭きもせず、桂はうなずく。
無論、すぐにそのような強さが身につく筈も無い。
だが、
だが、それでも、
羽藤桂には、前に進むだけの足はある。


「……尾花ちゃん…探さないと…」
「……そうじゃな」
あの賢い幼狐ならば、おそらくは葛の死すらも理解できているはずだ。
今どこで何をしているのかは分からないが、それでも探さなくてはならない。
探して、何をするのか?
それは、桂自身にも分からない。
ただ、あって、まずは傷つけたことを謝って…そうして一緒に泣こう。
そんなことを、桂は考えていた。
前向きとも、後ろ向きとも取れる考えではあるが、それでも桂自身の思考は前に向かっていた。
そう、おそらくはもう大丈夫。
少なくとも、自らの命を絶つような事は、もう、あるまい。


……その確信は、数分後、いささか元気のよすぎる形で適う事になる。


150 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:57:32 ID:83iHmgw1
 

151 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 01:57:49 ID:Mk4/F5mX
雑居ビルを出て、数分後。
アルと桂は、とりあえず先ほど葛と分かれた地点へ、もう一度戻って見ることにした。
ほかに手がかりも無い事ではあるし、犯人は現場に戻るというヤツである。

「……でも本当に良いの? 鈴ちゃんの友達って人の所に行かなくて」
「汝は…なぜ今まで生贄にされてないのかが不思議なくらいじゃな。
 あんな怪しさ抜群な相手のところになど行けるか」
「う……でも、鈴ちゃんがあそこで死んだっていうなら、お墓くらい」
「待ち伏せされるのが堰の山じゃな」

歩きながら、放送の前に交わした電話について話し合う二人。
直前まで会話していた棗鈴がいきなり電話を切り、そしてその後に電話にでた人間が言うには、鈴は死んだという。
その時に出た男の言葉は、いまいちどうも信用できないと、アルは言う。

そうして、話ながら歩く桂たちの耳に届いたのは、あたりに響くカッポカッポという謎の音
その不思議な音の方向に思わず目を向けたアルと桂が見たものとは!


…来週に続く。(続きません)


152 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:58:42 ID:/2xKrEEm


153 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:59:12 ID:83iHmgw1
 

154 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 01:59:19 ID:Mk4/F5mX
……馬に乗った少年の姿であった。
おもわず、硬直する二人。
そして、なぜか硬直している馬上の少年。
まず、桂からすれば馬を直にみるなど初めてである。
思わず、興奮するのも無理はないだろう。
一方のアルは、馬など何度もみているが、さすがにこの近代に馬にまたがって移動する人間などお目にかかった事は無い。
そうして、やはり硬直したまま…正確に言えば、桂の姿を捉えた時から、微動だにしない双七。

「は、は、白馬に乗った王子様だよ!! ど、どうしようアルちゃん!?
 わ、私にはサクヤさんっていう貞淑を誓った人がー!」
「落ち着かんか汝! あれはどう見ても王子などという顔では無い!
 良いところ姫にかしずく小間使いと言ったところだ!」
「お、お、お姫様!?
 この島の何処かにお姫様がいて私はその人に見初められた未亡人なの!?」
「だから落ち着けというに! たとえじゃたとえ!
 というか気が早すぎるぞ汝は! ついでにそちの頭の中には真っ当な男女関係は存在せんのか!?」
「そ、そんな事ないよー、て、ていうか、だ、男女関係ってアルちゃんにはまだ早すぎるよー!」
「何度も言っているが汝より年上だ! 外見年齢だけが全てと思うでない!」

姦しい、という表現が似合うほどよくしゃべる二人。
基本的に精神年齢が近いせいか、止める相手がいないとどうにも止まらない。
そして、
「……あ、あのー……俺、喋ってもいいでしょうか?」
哀れな男の意見など、当然のごとく流された。


155 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 01:59:35 ID:amQrlZ0+


156 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 01:59:47 ID:Mk4/F5mX
「うー……で、でも長く生きててサクヤさんはあんなにバイーンなのにアルちゃんは…」
「それ以上言ったら汝の血を一滴残らず吸うぞ」
「ひゃう!? あ、あああの何でもないよ!」
「ふむ、だがそろそろ昼食時ではあることだしここは一度」
「あ、あの私今貧血気味だからレバーとかお肉…よりはお魚の方が良いけど…」
「うむ、決まらぬのなら決定という事にするかの」
「ひゃ、ひゃう!? あ、アルちゃん、それだと私お腹減ったままだよ!?」
「良いではないか良いではないか、減るものでも無いであろう」
「へ、減るよ! 思いっきり減るよ! ゲージで見れるよ!」
「別にゲージがゼロになっても汝は平気であろう。 だから遠慮なく……」
「んっ! やっ! ちょやめ!」

いきなり目前で開始されたパヤパヤに、思わず見入ってしまう双七。
彼を責めるなかれ、男性としての本能がそうさせるのだ。
この誘惑に耐え切れる男などそう多くは……この島には結構多いかもしれないが……居ない。

「……………………」

「そして何をジロジロ見ておるかそこのたわけは!」
「ゲフッ! 俺!?」
アルの手から放たれた不可視の衝撃が双七のあごにヒットする。
その一撃は容易く双七の意識を削り取り、安らかな世界へと導く。
そうして、落ちていく瞬間、
(ゴッド……俺何か悪いことしましたか……?)
思わず、神に問いかけていた。

“ヒンッ”と、スターブライトが肯定するように一声嘶いた。



157 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:00:18 ID:/2xKrEEm


158 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:00:23 ID:Mk4/F5mX



そうして、紆余曲折の末に双七はアルと桂をつれて戻ってきて、先ほどの場面に戻るというわけだ。
あそこまで無防備な危険人物もいまい、とか動物に好かれる人は悪くないなどの理由もあったが、
やはり最も重要なのは、双七が九鬼耀鋼の知り合いであった事だろう。

「……笑いたいなら、笑え。
 ……というか、笑ってくれ…」

だが、誰も笑わなかった。
気まずいシーンを見られたトルタと恭介は顔を赤らめながら沈黙を守っており、
双七が目を覚ましたときから、桂は何やらフラフラしており、アルは何やらツヤツヤしている。
あの短い時間に何があったのか。
そもそも気絶しているにしては時間が短すぎるあたり、間の記憶を脳が消去したのかもしれないが、真相は闇のなか(※省略)である。





159 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:00:51 ID:/2xKrEEm


160 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:01:04 ID:Mk4/F5mX
「鈴ちゃんの、お兄さん?」
桂は声を上げた。
恭介とトルタが、桂の事を千羽烏月経由で聞いていたために、自己紹介はわりとスムーズに行った。
烏月は、殺し合いに乗ってはいるものの(このことは桂には秘密)、それ故に信用における人物である。
そうして、桂自身はお人よしなうえにのんびり屋な為、わりと簡単にお互いの協力は決まった。
そして情報交換となり、桂は驚きの声を上げることになる。
少し前に喋った少女の知り合いと、こんなに早く遭遇できるとは思っていなかったのである。

「…鈴を、知っているの…か?」
無意識の内に、桂に近寄る恭介。
そのあまりの勢いに、桂は怯み、トルタは何故だか頬を膨らませるが、恭介は構わない。
せめて、鈴の過ごした軌跡をしっておきたかったというのがある。
「し、知っているって程知っている訳じゃあないけど…少し電話でお話しただけ…」
その勢いに負け、桂は答える。

…彼女は気付かない、自身が取り返しの付かない方向に話を進めようとしている事を。

「……電話?」
「あ、うん、この携帯で…鈴ちゃんが私の携帯を持っていたみたいで…」
恭介の問いに、ポケットにしまってあった携帯を取り出す桂。
先ほどそれなりに話をしたが、未だに電池は三個、電波は多少悪いらしく二本であるが、ちゃんと機能している。
それを見て、多少の落胆を覚える恭介。
結局、鈴の元気な姿を見た訳では無いのだ。
だが、それでも…
「最後に喋った時、鈴は…元気だったか?」
元気であったのなら、最後まで鈴で在り続けていてくれたのなら、
そう、思い、問いかける。

……問いかけて、しまう。


161 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:01:04 ID:83iHmgw1
 

162 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:01:45 ID:83iHmgw1
 

163 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:01:51 ID:Mk4/F5mX
「え…その……あの……」
突然、それまで淀みなく話していた桂が言いよどむ。
その表情には、何かを隠すような雰囲気。
「……?」
考える。
今までの桂の行動から、淀みなく嘘が付ける人間ではない。
故に、言いよどんでいるのは、何か不都合な…桂にとってではない…出来事があるという事だ。
この場合、その話を聞いて最も不都合なのは…間違いなく恭介だ。
では、何か?
恐らく、最後に苦しんでいたと言うような内容ではない。
積極的に殺し合いに乗っていたというような物でも無い。
それならば、恐らく彼女の口調はもっと重いものでなければ成らない筈だ。
……では、何が?
「まさか……」
鈴が死んだというなら…鈴の持ち物はどうなった?
ティトゥスが死んで、彼の持ち物は今恭介達の手にある。
ならば……
「鈴を殺した相手を……知っているのか!?」

詰め寄る。
思わず服に掴みかかってしまうが、今の恭介には気にならない。
鈴の死という事自体は、何とか受け入れた。
だが、それとコレとは話が別だ。
鈴を殺した相手は、誰なのか?
ソレを、桂は知っているのか?


164 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:02:03 ID:amQrlZ0+


165 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:02:21 ID:Mk4/F5mX
僅かに目を潤ませる桂に構わず、更に問いかけようとした恭介だが、
「お、落ち着けって棗!」
双七に、引き剥がされる。
元より鍛え抜かれた彼ではあるが、それでもその時の力は尋常ではなかった。
いとも容易く、恭介を桂から引き剥がしたのだから。
恭介の離れた桂の腕にアルがしがみつき、
恭介の袖をトルタの手が掴む。
そうして、ようやく……

「……ごめんな」

彼は、表面上の冷静さを取り戻す。
僅かにざわめいていた場に落ち着きが戻り…

「よい、わらわが言おう」
アル・アジフが、桂を庇うように言った。






166 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:02:50 ID:KeywboOp


167 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:03:08 ID:Mk4/F5mX
(おかしい…よな?)
何故、出会ったばかりで何の縁も無い相手の事が、こんなに…気になるのだろう?
一人、双七は悩み続けていた。

放送が終わり、カジノの中に入ろうとした双七が目にしたのは、思いっきり硬質な雰囲気の部屋であった。
思わず、入る事も忘れて、再びのんびりしていた彼であったが、少ししてスターブライトの嘶き。
彼女の反応に訝しげになりながらもまたがり、
そうして、町を歩いていた二人に出会い、双七は、息を呑んだ。

最初に出会った時、アルと桂のやり取りにも無論目を奪われたが、それ以上に双七は桂から目が離せなかった。
彼女の全身から漂ってくる匂い? 香り?
濃い血の混じった香りが、たまらなく、魅力的に感じて仕方が無い。
服に、肌にこびり付いている血が、凄く、勿体無い、美味しそう、舐めとりた……

(な、何を考えてるんだ…俺!?)

混乱する思考の故に、双七は彼女達のやり取りに対して、大きな反応を返せなかったのだ。
(まあ双七ではどの道無理だった気もするが)
そうして気を失い、目覚めて、九鬼の知り合いであるという彼女達の言葉を信じ、カジノへと戻って来たのだ。
決して、桂と離れるのがイヤだったわけではない、と双七は心に言い聞かせていたが……。

そうして、話し合いの最中でも、双七は事あるごとに桂の事が気になっていた。
彼女の一挙手一投足から、目が話せない。
恭介が詰め寄った時、思わず本気の力を出してしまった。


(何だろう?
 あの子を、モノにしたい?
 ……いや、何か違うだろそれ、でもなんというかそのいや何だ兎に角…)


168 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:03:59 ID:83iHmgw1
 

169 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:04:04 ID:Mk4/F5mX
何と言うか、渇く?
餓える?
いや、何だろう、兎に角、あの子が…
とても、芳醇で、滋養に満ちた、真っ赤な果汁を滴らせる果実であるかのような…
その、滴る果汁で存分に喉を潤したい。
その、芳醇な蜜を腹いっぱいに味わいたい。
その、チのように真っ赤な液体に酔いつぶれてしまいたい。

「…………!」

ゴツンと、自分の頭を一度殴る。
痛かった。
手加減しないで殴ったから無っ茶苦茶痛かった。
思わず蹲ってしまいそうになるくらい。
見れば、目の前の四人とも、変な人を見る目で双七の事を見ている。

「…………」
何か、えらく理不尽な目にあっている気もするが…まあ変態と思われるよりは変な人の方が……すいません、どっちもイヤですハイ。






170 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:04:20 ID:/2xKrEEm


171 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:05:01 ID:amQrlZ0+


172 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:05:33 ID:Mk4/F5mX
放送で、呼ばれた名は14人。
その中で、俺が殺したのは四人。
言葉と鈴という二人の少女に、秋生とかいう男が一人。
そして、名も知らぬ少女が一人。
…特に、思うべきところは無い。
先ほどの電話越しの会話も、特に意味があるものではない。

その一方で、気になるのは真アサシンという名前。
連想されるのは……あの時遭遇した、信じがたい能力を持った暗殺者。
無論、別人の可能性もある、というか高い。
だから、安堵はしない。 強敵は未だ健在と心に刻む。
だが……仮に、あの怪人が死んだと仮定した場合、殺した相手がいる、という事になる。

そして、もう一つ


173 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:05:59 ID:Mk4/F5mX
(……アイン)
…死んだ。
あのアインが死んだ。
まあ、そもそも生きていた事自体が不思議ではあったんだが…死んだ。 一瞬あの女の言っていた蘇生という単語が頭を過ぎるが…直に打ち消す。
「……」
思い出すのは、決して楽しい記憶なんかじゃ無い。
苦痛とか恐怖とか絶望に満ちたものが殆どだ。
だが、
だが、それでも、
彼女との記憶は、俺の中で多くの比重を秘めているのは事実だ。
そして、付け加えるなら、俺の記憶の中で輝くものがあるとすれば、それはキャロと居た時間か、彼女と居た時間にのみ存在している。
「…………」
神に祈る資格など無い。
そもそも神など信じてもいない。
だから、何の意味も無い行為、唯の自己満足に過ぎない。
……だが、それでも。
「……Amen」
どうか、彼女がその血と苦痛に塗れた生の終わりに、安らぎを得られた事を。

…無意味な黙祷は終わり、思考は現実に戻る。
アインが死んだというならば、やはり殺した相手がいるという事になる。
能力的に俺と同等かそれ以上な相手が死んでいる以上、俺自身いつ屍に変わるとも解らない訳だ。
…だが、簡単に死んでやるつもりは無い。
少なくとも、キャルに会うまでは死ぬわけにはいかないのだから。

目的を確認する傍らで、もう一つ思考する。
あの二人がどのように死んだのかは不明。
武器、状況、相手、人数、怪我、何一つ不明。
ならば、最大限に悪い状況を考えておくべきだろう。

174 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:06:08 ID:/2xKrEEm


175 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:06:48 ID:Mk4/F5mX
まず、今の俺の武装で白兵戦を挑んだとして、あの二人を殺せるか?
アイン…同じ装備での戦闘として、成功率は半々といったところ。
真アサシン…銃があっても分は悪い。 良いとこ三割程度の確立か。
つまり、あの二人が仮に白兵戦で敗北していた場合、俺がその相手に勝てる確率は、四分の一程度かそれに満たない。

ならば、遠距離からの狙撃を挑んだ場合。
アイン…彼女の装備によるが、今持っているM16の有効射程では、彼女に気付かれる可能性は八割…何しろ、俺に戦闘を教えたのは彼女なのだから。
真アサシン…あの男の戦闘スタイルから鑑みるに、狙撃前に気付かれる可能性は三割以下。但し、狙撃成功率は半々と見るべきだろう。 加えて、単独の場合は追撃、捕捉される恐れがある。
成功率はそれほど高くないが、それでも此方から一方的に攻撃出来る以上、俺が生還できる可能性は八割を越す。

故に戦闘は避け、人通りの多い町の近くに陣取り、狙撃するのが正解ではあるのだが…
(…キャル)
そういう訳にも行かないわけだ。
俺にはそもそもキャルを守るという大前提が存在する。
その為には、ある程度の積極性を持って、他人を捜索しなければならない。
今までは山中にいた時間が多かったが、これからは町の方にも出てみるべきなのかもしれない。
だが、同時に街中となるとトラップの可能性も否定できない。
山中であれば効率が悪すぎて使用できないトラップも、街中、それも場所を選べば十分な確立で人を殺傷するだろう。
…そして同時に、俺はトラップの類を仕掛ける事は出来ない。
彼女が引っかかる可能性があるからだ。
元より、分のよい殺し会いでは無いが……今更そんな事はどうでもいい。

と、そこまで考えた所で、
“ピロピロピロピロ〜♪”
電話が、鳴った。
「………………」
マナーモードにしておかなかった事に後悔しつつ、町に入る前に気付けたことは僥倖であるとも考え、電話をとる。
相手は、先ほど話した女か、と考えた所で、

「あんたが、ファントムか?」

聞いた事の無い男の声がした。

176 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:07:23 ID:Mk4/F5mX

 
“トゥルルルルルルル”

“トゥルルルルルルル”

“トゥルルルルルルル”

コール音が、長い。
恐らく、人生で最も長いと感じる電話の待ち時間だろう。
見ると、他の皆も多少不安な表情をしている。
最も、今現在はトルタから筆談でさまざまな情報を伝えている最中なので、此方をそこまでは気にしていないが。

羽藤桂と、アル・アジフ。
桂にお人好しだ何だと言っているが、アル自身も大したお人好しだと思う。
細かい素性は聞いてないが、桂の表情だと何かを隠してはいるようである。
やたらと老獪な雰囲気が漂うが、同時に子供っぽい、わりとバランスの悪い思考の持ち主のようだ。
何でも二人揃うと魔術とかいいう力が使えるらしいが…
一応双七が言うには事実らしい。

その双七も、彼女達と出あっていらいどこか不自然な気がする。
一目ぼれでもしたのだろうか?
俺としてはもう少し胸の……ゲフンゲフン……

とにかく、彼女達が言うには、これから出るファントムという男は、本人曰く鈴の仲間らしい。
もっとも、仲間になって時間が浅いので、鈴には余り信用されていなかったと本人は言っているが…
彼が言うには、共に行動していた、桂言葉という少女と共に、トラップに殺されたそうだ。
何しろトラップがどれだけあるかも判らない以上、鈴達の死体を放置せざるを得なかったとも話している。

177 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:07:23 ID:KeywboOp


178 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:08:14 ID:Mk4/F5mX
もっとも、男の話には、矛盾が多い。
まず、ファントムなんていう名前の参加者は存在しない。
次に、いくら鈴が他人に懐かないといっても、何の言及も無いというのはおかしい。
そして、あまりにもタイミングが良すぎる。

以上の事実から考えると、彼が鈴達の殺害犯である可能性は高い。
無論、事実という可能性もあるが……

そして、電話は繋がった。





「…誰だ、お前は?」

男の声に、僅かに眉をひそめるツヴァイ。
ホンの数分前に出たときは、女の声であったし、彼女が言うには男の仲間は居ないという。
彼女らから得られた情報は、それほど有益ではない。
念の為に聞いたキャルの情報にも、心辺りは無いらしい。
強いていうなら、最初の時に見た怪物は何か得体の知れない力の持ち主であるということだけか。


179 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:08:17 ID:83iHmgw1
 

180 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:09:14 ID:Mk4/F5mX
「羽藤桂と、アル・アジフの仲間だ」
「彼女達がいうには男の仲間は現在居ないらしいが?」
「ホンの数分前に、知り合った」

おめでたい連中だなと思う。
出会って数分で、仲良くなれるとは。
念の為にと羽藤桂の声を聞かせてもらったが、どうやら本当に仲間のようだ。

「それで、何の用だ?」
「……聞きたい、事がある」
「先に、名前くらいは名乗ったらどうだ?」
「そっちも偽名だろ、ファントムなんて名前は名簿には無い」

まあ、それもそうか。

「ふむ、まあいいか。……それで聞きたい事とは?」
「ああ、まず“設計図”を知らないか?」
「……“設計図”だと?」

何だそれは?
そもそも何の設計図だ?

「いや、知らないならいいんだ」
「……そうか」
「じゃあ、その、ベルカの事なんだが…」
「……ベルカ?」

再び、意味が分からない。

181 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:09:46 ID:KeywboOp


182 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:10:02 ID:Mk4/F5mX
「何だ?それは?」
「……本当に、知らないのか? ……ストレルカの事は?」
「……知らん」
「……そうか」

何だって言うんだ一体?

「アンタが、鈴を殺したんだな」
「……は?」

いきなり何だ?
確かにその通りだが、それでもいきなり何だ?
……暗号?

「鈴と言葉が一緒にいて、その名前を口にしないはずが無い!
 あの親友同士の二人がいつも元気付ける為に言っていた犬の名前が、出ない筈は無い!」

……まずったか。
別に本名を言っている訳ではないし、人殺しである事をいまさら責められる所以もないが、
先ほどの会話でキャルの事を説明している以上、敵対されるのは不都合ではある。

「…ああ、そういえばそんな事を聞いたような気もするが…犬がどうたらと」
「えっ? そ、そうなのか?」
「ん、…ああ」

……何だか、割とあっさり何とかなった、という思考は、

183 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:10:22 ID:amQrlZ0+


184 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:10:25 ID:KeywboOp


185 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:10:50 ID:Mk4/F5mX
「じゃあ、やっぱりお前だな。
 元々の知り合いではないし、猫好きな鈴が、好んで犬の名前を出すものか」

次の瞬間、驚愕と共に断ち切られる。
少なくとも、コイツは油断してよい相手ではない。 
そう、理解した。

「…………」

切るか。
一瞬、そのように考える。
これ以上話を続ければ、不都合がある可能性はある。
……だが、

「……ああ、そうだ、俺が殺した」

ここで、退く訳には行かない。
ここで切れば、男はキャルの事を狙うだろう。
少なくとも、どんな相手が敵なのかだけでも、知っておかなければ。

「それで、何が聞きたい?
 断末魔の表情か? 苦悶の声か? 
 何だったら下着の色から胸の発育、経験の有無だって答えてやるぞ?」

知り合い、というならこの手の侮蔑には、耐え切れないはずだ。
別に全てを話してもらう必要は無い。
僅かにでも感情を乱せれば、そこからヒントが漏れてくるかもしれない。


186 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:11:37 ID:KeywboOp


187 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:12:10 ID:Mk4/F5mX
「ちなみに死因は腹部の損傷。
 最後の言葉は、長かったので全部は省略。
 今頃はカラスがその眼球をついばみ、腹の傷から腸を引きずりだしている頃か」

故に、続ける。
さて、どんな反応を見せる?

「……くくくくく」

ん?

「ははははははっ! そうかそんな風に死んだのかアイツは」

何だって言うんだ一体?

「礼は言わないが…まあ感謝くらいはするさ。
 俺は鈴とは同級生だが仲がそれほど良くなくてな
 別にその事をどうこう言うつもりは無い」
「…………」
「ただ、知りたかったんだ、つまり、アンタは殺し合いに積極的に乗っていて、恐らく目的はキャルという少女の生還、そんなところか」
「…………」
「おっと、切らないでくれよ」

心中を察せられたようで、思わず舌打ちする。
どういうつもりだ?

「……取引しないか」
「…………何?」
「だから、取引だ。
 実は、俺たちも似たような集まりなんだよ。
 おっと、言い忘れた、俺の名前は井ノ原真人だ」

188 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:12:51 ID:KeywboOp


189 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:13:02 ID:83iHmgw1
 

190 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:13:40 ID:Mk4/F5mX
……成る程
言いたい事は大体理解した。
「だが、保護は出来ない。
 お前たちの話を…優勝狙いという部分は隠して、その理樹とクリスという相手に伝えて、見逃すのが限度だ」
「ああ、わかったそれで良い。
 俺たちは、そのキャルという少女を保護する。
 そのために……あんたの名前を教えてくれないか?」
「それは意味が無い。
 彼女は俺の本名など知らない。
 ファントムとだけ言えば理解出来る筈だ」
「…………そうか」

ああ、そうか。

「……直枝、理樹……か…」
「……何だ?」
「……いや、理樹、って名前なら、そいつは男…だよな?」
とりあえず、僅かにでも情報を渡しておこう。
特徴自体はありふれているが、それでも見覚えがある……のだが
だがなあ……
「…………女装している可能性も無いとは言えない……」
「…………」
「…………」



191 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:14:05 ID:amQrlZ0+


192 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:14:14 ID:Mk4/F5mX
「黒い髪で女顔、身長は…くらいか」
「ああ」
どうやら、一つ前の会話はなかった事にされたようだ。
あんまり気にしたくは無いのだろう。
「知っているぞ」
「………本当か?」
「ただし、無事かまでは知らんがな」
「……どういう事だ?」
「本当にそいつ本人かまでは不明だが…そいつには同行者が居た。
 凄腕の暗殺者だったが、今の放送で呼ばれた」
「……!」
“呼ばれた人間が本当にそいつかは解らない”
その重要な一文をあえて省かれた情報に、恭介は心を揺さぶられる。
凄腕の暗殺者。
具体的にどのような相手なのかは不明だが、かなりの強さを持っているだろう存在。
それが理樹の同行者で、死んだというのなら、それはすなわち理樹本人の身に何かしらの危険が存在したという事になる。
「……信じるのか? 証拠はないぞ」
「信じるさ…」
「そうか……」
「ああ……」
「…………なら、俺も信じよう、キャルを探してくれている以上、その二人には手を出さない」

「取引は成立……だな」
「ああ、それじゃあ、な」

そうして、電話は終了した。




193 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:14:32 ID:KeywboOp


194 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:15:06 ID:Mk4/F5mX
「恭介……」
「ああ、大丈夫だ……」
電話は終わり、カジノは平穏を取り戻す。
疲労した恭介にトルタが駆け寄り、手を握る。
トルタにより筆談は、概ね終了していた。

全てでは無いが、トルタたちの持つ情報。
そして、アル達自身の事を除く情報が、交換される。
携帯電話が二台になった事で、これからは劇的に情報が集めやすくなるだろう。
もっとも、桂達の持っていたほうは、電池が二個に減ってしまったが……
今後は、仮の本拠地をこのカジノに置き、情報を探って行くことになるだろう。

だが、その内容も、トルタの耳を素通りしていく。
(……恭介)
彼の行動は、完璧だったはずだ。
その後の会話で、設計図の事はたわいも無い情報として消え、少なくとも積極的に利用はされない。
偽名を名乗った事も演技。 それ故にあの取引は相手を縛るだけのものと双七達は思っている。
ああ、だが、

完璧であるなら、彼はどれだけの自制心を持って電話に望んだのであろうか?

恭介が、その内に秘めた憎しみは、いかなるものであったのだろうか?

トルタには、判らない。
だから、彼女は嘆く。
恭介に苦しんで欲しくないから。
彼の事を、守りたいと願うから。




195 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:15:17 ID:KeywboOp


196 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:15:33 ID:/2xKrEEm


197 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:15:59 ID:Mk4/F5mX
(あやつ…?)

何かが、おかしい。
その身の内に憎悪を秘めているのは間違い無い。
むしろ、そうで無いほうが不自然なのだから。
だが、それにしても。

(感情が、見えなさ過ぎる)

如月双七は、どう見ても善良な人間だ。
どこか、大十字九郎と同じ匂いすらする(ロリコン的な意味にあらず)

トルティニタ・フィーネも、善良な人間だ。
何かしらの感情を秘めてはいるが、危険な感覚では無い。
心に秘めているのは、恐らく棗恭介への恋心だろうか?

だが、棗恭介は、中身が見えなさ過ぎる。
己を殺すのが、上手い。
少なくとも、出会ってすぐのアルに看過できるものでは無い。
表にでている態度と、何処か異なるものを内に秘めている。
その内には少なくともファントムへの憎悪を宿しているのは確かなのだが…それすら表に見えない。

だが、
彼は、ティトゥスを殺したという。
人を殺すということは、即ち変わる事だ。
いかなる人間であれ、人を殺すという事は、それまでの自分との別れを強いられる行為だ。
望む、望まないに関わらず、人を殺せば人は変わる。
強くなるか弱くなるかは人によっても変わるし、見る人間の価値観にもよるだろうが。

変化しないという事は…すなわち人として何処か『壊れている』という事になる。
無論、内に秘めているだけで、外に出さないだけなのかもしれないが…

198 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:16:21 ID:amQrlZ0+


199 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:17:12 ID:Mk4/F5mX



(殺して、やる)

殺す。
その、キャルという少女を殺す。
無論、直には殺さない。
キャルから、ファントムに関する情報を得てからだ
だから、直には殺さない。
でも、殺す。
ファントムの、目の前で殺してやる。
鈴を、殺した事を地獄で後悔させてやる。
恐らく、俺はこの後この場に留まる事は出来ない。
何かしていなければ、耐え切れなくなるから。

…あの時、本当は耳を塞ぎたかった。
聞いていたくなんてなかった。
想像したくなくても、頭は正確に再現していた。
鈴の、死に様を、表情を、その死体が、あんな男に玩ばれた事を。
その亡骸が、鳥の餌にされるところまで…
憎悪のあまり、携帯電話を握り潰してしまいそうだった。

だけど、耐えた。
復讐の為に。
そして、これからも耐え続ける。
そして、最後の瞬間まで隠し通して見せる。


200 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:17:30 ID:/2xKrEEm


201 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:17:37 ID:Mk4/F5mX
無力な少女を人質にとる?
それがどうした。
何だって、してやるよ。

鈴を殺した。

孤独と絶望の内に死んだ鈴と…同じ目にあわせてやる。

その為に、どんな事だってしてやる。



ああ…でも、

トルタ…

仮初のパートナー

彼女の手の温もりが、俺の心を暖める/弱くする

彼女の心遣いが、酷く嬉しい/邪魔だ

……トルタの暖かさが、凄く……だ/……だ

ああ、だからトルタ……俺の事を……




202 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:17:45 ID:83iHmgw1
 

203 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:18:30 ID:amQrlZ0+


204 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:19:24 ID:Mk4/F5mX
【G-6/カジノのセキュリティコントロールルーム/1日目 日中】

【チーム:BOY DOESN'T CRY MEETS LIAR GIRL&天然契約&その他】
共通方針
1:カジノを拠点として近郊の施設を探索。
2:他の対主催のメンバーと接触。
3:そこから情報を得る。
4:自分に危害が出ないように、相手のプロファイリングを元に他の対主催の悪評、もしくは真実を伝える。
5:十分な情報を得たらそのメンバーと別れる。もし理樹、クリスがいるメンバーなら合流。その後隠れながら邪魔な対主催メンバーを排除。
6:もし中々合流できない場合、もっとも安全だと思われるチームに合流。(戦力の面で、信頼関係も含め)
7:序盤は積極的には人を殺さない。基本同士討ちを狙う。情報最優先。終盤は対主催の中心になりなるべくマーダー排除。のち疲労した対主催から狙う。
8:最悪クリス、理樹、鈴がどちらかが死亡した場合は片方のサポートに徹する。両方死亡した場合は互いに優勝を狙う。二人になった場合一騎打ち。
9:ただし、完璧に脱出ができる状況になったらそのまま対主催に変更。
10:また、主催の動向や信憑性次第でも対主催に変更。
11:カジノ近郊を行動範囲にしていることを信頼できる人間に託し、理樹、鈴、クリスに伝えてもらう。
12:脱出や首輪、主催者の目的についても真剣に考察する。
13:信頼できる対主催を見つけた場合、カジノに集め、絶対の信頼関係を築く。
14:携帯電話を利用し、不認知の参加者と接触。その際はカジノを拠点にしている事は告げない。
15:双七を斥候及び護衛として上手く利用。思惑を悟られないようにする。
16:双七と恭介が3時間ごとに交代しつつ、周辺地域探索を行なう。なお、上記の2〜5は恭介の探索時のみ実行。
17:カジノの景品の確保。特にUSBメモリを狙う。
18:羽藤桂を見付けたら保護。但し残り人数が二桁を切った場合や、止むを得ない理由がある場合はその限りで無い。


205 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:20:22 ID:Mk4/F5mX
【棗恭介@リトルバスターズ!】
【装備】SIG SAUER P226(15/15)@現実、トンプソンコンテンダー(弾数1/1)
【所持品】:支給品一式×2、SIG SAUER P226の予備弾3@現実、コンテンダーの弾44発、デジタルカメラ@リトルバスターズ!、アサシンの腕、首輪(ティトゥス)、カジノの見取り図、ゲーム用のメダル(500枚)
【状態】:ツヴァイへの強い憎しみ、脇腹に深い切り傷(処置済み)、胸部に軽い打撲、肉体的疲労(大)
【思考・行動】
基本方針:共通方針の通りに行動し理樹、鈴を優勝させる。トルタの生存に力を尽くす。ただし慎重に慎重を期す。
0:絶対に、殺す……。
1:しばらく休息、カジノのセキュリティを利用して周辺を警戒。景品の確保。
2:3時頃から双七と偵察を交替、他の参加者と交流する。近郊の施設を探索する。
3:筆談などを用いて殺し合いや首輪についてトルタと考察する。
4:トルタの過去に興味。
5:『トルタの好意に気付いている』フリをし、親密にしても怪しまれないようにする。
6:トルタを見捨てない。
7:『首輪の設計図』をとりあえず集める。その為にデジタルカメラやUSBメモリを閲覧できる機器を探す。



206 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:21:00 ID:amQrlZ0+


207 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:21:05 ID:/2xKrEEm


208 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:21:17 ID:Mk4/F5mX
【備考】
※トルタを信頼し、共感を抱いてます。
※トルタとの間に符丁をいくつか作りました。
 『時間』と『動詞』の組み合わせで意思疎通を行います。
 (『分』:名簿の番号の人間、『待つ』:怪しい など。
 『秒』や『時間』、その他の動詞の意味については詳細不明です)
※トルタとはぐれた場合の合言葉は『トルタの知り合い全員の名前』です。
※参戦時期は鈴ルートの謙吾との野球対決後、リフレイン以前です。
 故に、リトルバスターズメンバー、特に謙吾に申し訳なさを感じています。
※羽藤桂、浅間サクヤ、神宮寺奏、プッチャンの細かい特徴を認識しています。
※黒幕がいると思ってます。
※参加者によっては連れてこられた世界や時代が違うと思ってます。
※双七と情報交換しました。
※首輪のカメラの存在について知りました。
※監視は『上空』『重要施設』『首輪』の3つから、カメラ及び盗聴器によって行なわれていると考えました。
※この殺し合いは、『神々のゲーム』であり、自分達はその駒であると考えました。
 ゲームの終了は、『優勝』『優勝以外の何か』を満たした時だと推測しています。
 ただしゲーム終了後の駒の扱いについては疑念を持っています。
 ある程度の信憑性を得るまで、これを誰かに話すつもりは今のところありません。
※デジタルカメラに収められた画像データのうちの一つは、『首輪の設計図−A』です。
 外見から分かる範囲での首輪の解説が記されていますが、内部構造については一切言及はありません。
 また、デジタルカメラで閲覧した場合画像が縮小され、文字の殆どが潰れて見えます。拡大はできません。
 記されたデータの信憑性は不明です。
 他に首輪の設計図があるかどうかは不明です。


209 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:22:46 ID:/2xKrEEm


210 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 02:24:03 ID:Mk4/F5mX
と、残りは仮投下に

211 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:30:56 ID:83iHmgw1
投下乙です
レズり出すアル桂、桂ちゃんの誘い受けに屈しかける双七君
トルタが恭介を慰めるシーンや、ツヴァイとの電話
見所たっぷりの良作でした
特に、恭介の葛藤と決意が凄まじく良い
今後このグループがどう展開していくかも、気になるなあ

212 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:47:29 ID:P1aOBZdK
投下乙
恭介とツヴァイのどちらも凄く良かった。
恭介の描写はとても痛々しく思えたし、ヒールに徹してると思ったツヴァイもラストで、
その本来の人間性の一片をさりげなく見せててやられた。



213 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:49:25 ID:BG5nOT0G
>>LXH氏
投下乙です
逃げやがったww誠一人置いてみんな逃げたよw誠も逃げてー
それにしても誠はかっこよくなったり誠氏ねになったり大変だw
そして葛木Pたちは魔導書ゲット!?この人たちも順調に装備が凶悪になっていきますね

>>S71氏
こちらも投下乙
恭介ーキャル、いやドライにはきっと勝てない、逃げてー
恭介と玲二のやりとりがかっこ良すぎる
それと所々ギャグが面白かったのもGOODです
あと仮投下分ですが真人がまひとになってました
死に際の鈴が言い間違えたか?と思いましたがそんなことありませんでしたよ?

214 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 02:57:27 ID:zSKPRMlD
投下乙です
話が色々動いて面白かった

トル恭はなんかどちらも黒いものを抱えてしまったな
二人の関係がどう変化するのか楽しみだ
そしてアル桂+α、ここでも微妙に空気だぞ双七くんww
贄の血が気になって仕方がないみたいだが、手を出そうとしてもアルが許さないだろうな〜
それにしても人外が増えてきたこの頃、彼らにとって最上級のご馳走である桂ちゃんには頑張れと言わざるをえないww

215 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 04:35:33 ID:/2xKrEEm
両者投下乙です。

>>LxH6hCs9JU氏
同作品出場であっても、来た平行世界がズレてると出自が違うっていうのがネタとして生きていていいですね。
それにしても先生は頼り甲斐のある大人だな!
もう一人の空気作品の先生も最近持ち直してきてるけど、やっぱりギャンブルやらない元暗殺者の方が頼りになります。
それにしてもなんという誠氏ね状態……

>>lcMqFBPaWA氏
妹の死ですらフラグになってしまう、恐ろしいトル恭!
フラグの上でのトルの心情描写とかとても良いです。
それにしても恭介とツヴァイの腹の読み合いは、なんて小畑絵が似合いそうなんだ!
主役(?)を除く脇もよかった。アル桂のぱやぱやとか。
双七君も男の子……じゃなくて妖の末裔w
この先何が起こるか楽しみなフラグですね。
状態表の桂ちゃんの指針のあまりの少なさに吹きました。
のんびりしすぎだよ! 古河パンでもかじってろw
ところで天然契約の2人には首輪のカメラ情報は渡ってないのでしょうか?

216 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 07:35:01 ID:mjP5po/j
投下お疲れ様です!
トル恭二人の丁寧な心理描写とその危うさが非常によかったです。
ここで恭介が泣いたことが後々どう繋がってくるのかにすごく期待。
トルタもトルタで葛藤が非常に彼女らしかったです。
そんな二人を差し置いて双七くんと天然コンビの和やかなことw
ツヴァイと恭介の駆け引きもとても巧みで引き込まれました。
そして、最後のツヴァイがそれまでの非常さを上回る人間臭さを出していて……

……あと、細かい点なのですけど恭介は一話前でトルタが同年齢であることに言及してました。
スターブライトも双七くんは置いていこうとしていたと思います。



217 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 10:55:53 ID:ydssH3xb
お二人とも投下乙です

>LxH氏
葛木Pのかっこよさは異常、彼もロワ内で成長の余地がある人ですよね
再度ばらけることになったアイマス勢の行く末はいかに。誠は氏ねばいいと思うよ

>S71氏
ドライのときも思ったけど氏はファントム扱うのうまいなー、ツヴァイの最後のとことかツボでした
大所帯になったカジノ組も果たしてどう動いていくか楽しみ

218 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/05(木) 21:31:20 ID:jGN3kF3g
投下乙です 

>Lx氏 
葛木Pが成長しとる…。やすいが癒し系でよいなあ
他の参加者が精神タフすぎて忘れがちだが、
人死んだら、まこまこみたいな反応が普通だと思うよ、うん

>S7氏 
今度は復讐か。恭介は本当に美味しいキャラだ
トーニャ、いつの間にリトルバスターズにw
ツヴァイの人間臭さと抜け目のなさも良し

>Uc氏
クリス95%っすか、というか髪撫でてますよ、おいw
姉御や会長の葛藤もなかなか良いです
で、館長とフラグが立つとはナナメ上杉w

それからCM氏修整乙
多数のキャラを扱っていながら、
それぞれのキャラが生き生きしてて良いです
ミキミキついに葛藤し始めたか…

219 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 23:02:01 ID:D1MqhNvD
皆様感想ありがとうございました。

>>215氏の首輪関連に関する状態表の修正と、
>>216氏のトルタが同年齢であることについての修正版をしたらばに投下しておきます。

なお、>>216氏のスターブライトに関しては、することがなくて待っていたらスターブライトが啼いたので乗ったということで。

220 : ◆S71MbhUMlM :2008/06/05(木) 23:03:46 ID:D1MqhNvD
と、失礼しました、トルタの同年齢にかんする言及は、短いのでwiki収録時ということで。

221 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/06(金) 09:51:01 ID:0l3JeYQ+
>>S71氏
遅くなったけど投下乙!
最後のツヴァイにやられました
ロワといえば死体は放置、野ざらしは当たり前
…酷いときは爆葬や消滅、食料なんてのも有る中で埋めてくれたのは素直に嬉しい
彼女たちは安らかに眠っていて欲しいけど今後が心配だなぁ(ワールド的な意味で)

222 : ◆AZWNjKqIBQ :2008/06/06(金) 22:44:35 ID:NrX6yi8X
GR2、早くも150話突破! ――ということで、1枚記念絵を投下させていただきます。

ttp://blogimg.goo.ne.jp/user_image/63/fa/077e423021bdad140acb31e414fde45f.jpg

223 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 00:38:52 ID:QXpk8Bkt
>>222
おお、記念絵乙であります!
ハサン先生……これはグッときますね

224 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 00:52:48 ID:DH/BLQOn
◇ ◇ ◇



こうして七日の後、洪水が地に起った。
それはノアの六百歳の二月十七日であって、その日に大いなる淵の源は、ことごとく破れ、天の窓が開けて、
雨は四十日四十夜、地に降り注いだ。



                      創世記第七章 10 11 12節




225 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 00:53:12 ID:jcYfbi4b


226 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 00:53:44 ID:DH/BLQOn
◇ ◇ ◇



――――クリス。そちらは今も、雨が降っていますか?


彼女の手紙はいつもそんな書き出しで始まる。
内容は実にありきたりで、だからこそ彼女を近くに感じることが出来た。
今、僕達の見ている方向は違っているかもしれない。
……だけど。
それでも同じ道を歩いていくことはできる。
姿は見えなくてもずっと一緒にいてくれているような、そんな気さえ起きていた。

歌は下手で、だけども料理や洗濯、掃除の得意な穏やかな女の子。
いつも僕達の後ろを歩いていて……、それが放っておけなくていつも僕は彼女に駆け寄ってしまう。

……それが、僕の大切な彼女。
アリエッタだ。

今はそんな彼女も自分のやりたいことを見つけて頑張っている。
僕達の地元でも評判のパン屋さんで一生懸命技術を吸収していて、今はもう殆どの工程を自分一人でできるようになったらしい。
新人さんの教育も忙しいそうで、すごく立派になったのだろう。
多分、それでも歌は相変わらず下手なんだろうけど。


一週間に一度交わす手紙が一杯になった時に、また、彼女とずっといられるいう約束の下。
僕は3年間の間ずっと、彼女を想い続けていた。



227 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 00:53:51 ID:Q3EEcEQh
 

228 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 00:54:27 ID:Q3EEcEQh


229 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 00:54:51 ID:Q3EEcEQh


230 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 00:54:55 ID:DH/BLQOn
彼女には何もなくて……、だからこそ、僕が側にいてあげなくちゃいけないと思った。
ずっと一緒にいた双子のうち、僕が彼女を選んだのはそれだけの理由だった。

……大好きだった。
いや、今も好きであり続けている。

けれど彼女は、穏やかな表情を変えずに今も――――、



『生き続けて』いる。



◇ ◇ ◇



主はノアに言われた、「あなたと家族とはみな箱舟にはいりなさい。あなたがこの時代の人々の中で、わたしの前に正しい人であるとわたしは認めたからである。
あなたはすべての清い獣の中から雄と雌とを七つずつ取り、清くない獣の中から雄と雌とを二つずつ取り、
また空の鳥の中から雄と雌とを七つずつ取って、その種類が全地のおもてに生き残るようにしなさい。
七日の後、わたしは四十日四十夜、地に雨を降らせて、わたしの造ったすべての生き物を、地のおもてからぬぐい去ります」。
ノアはすべて主が命じられたようにした。



                      創世記第七章 1 2 3 4 5節




231 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 00:55:46 ID:DH/BLQOn
◇ ◇ ◇



それに……。
どっかの誰かさんがほんっとうにあぶれた時に、一人くらい候補がいた方がいいでしょ?


思った通りの言葉が耳に届く。
あまりにも近すぎる距離。
だからこそ、離れなければいけないと思った。

……勿論、嫌いだからじゃない。
本当に大切で、だからこそ自分にとっての一番を間違えてしまうことが怖かった。
彼女は、強い。
だから……弱いアルの側に僕はいなくてはならない。
誰か一人しか側にいることを許されないなら、それが当然だ、なんてその時の僕は考えたからだ。
彼女の想いに気づいていない訳じゃない。
それでも強い彼女ならきっと分かってくれる、そう信じていたからこそ僕は彼女を選ばなかった。

そして。
紆余曲折を経て、彼女は今も僕の隣を歩いていた。
距離を離すというそれだけのために、僕はまたも彼女を選ぶことをやめた。
一緒に天井を見上げた――――トルティニタを。

……僕は、トルタが大好きだった。

でも、強いなんて思い込みだけで僕は彼女を選ばなかった。
……彼女はそれでも僕を色々助けてくれている。
天秤が傾くのに充分すぎる距離は心地良くて、苦しい。


232 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 00:55:54 ID:jcYfbi4b


233 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 00:56:39 ID:DH/BLQOn
きっと、誰もが彼女と僕が組むのは当然だと考えているのだろう。
そうなれればどれだけ良かったろうか。

結局、僕がパートナーに選ぼうとしたのは――――、


◇ ◇ ◇



人が地のおもてにふえ始めて、娘たちが彼らに生れた時、
神の子たちは人の娘たちの美しいのを見て、自分の好む者を妻にめとった。
そこで主は言われた、「わたしの霊はながく人の中にとどまらない。彼は肉にすぎないのだ。しかし、彼の年は百二十年であろう」。
そのころ、またその後にも、地にネピリムがいた。これは神の子たちが人の娘たちのところにはいって、娘たちに産ませたものである。彼らは昔の勇士であり、有名な人々であった。
主は人の悪が地にはびこり、すべてその心に思いはかることが、いつも悪い事ばかりであるのを見られた。
主は地の上に人を造ったのを悔いて、心を痛め、
わたしが創造した人を地のおもてからぬぐい去ろう。人も獣も、這うものも、空の鳥までも。わたしは、これらを造ったことを悔いる」と言われた。



                      創世記第六章 1 2 3 4 5 6 7節




234 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 00:56:55 ID:Q3EEcEQh


235 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 00:57:30 ID:DH/BLQOn
◇ ◇ ◇



私……、歌っても、良いんですか?


ほんの数日前の事だった。
……ようやく彼女はアンサンブルに頷いてくれた。
壁越しでない、互いの呼吸を図った上での楽器と声の融合。
楽しかった。
彼女も本当に楽しそうに歌っていた。

……後々トルタと出会ってすぐ逃げ出してしまったくらいだし、人付き合いは苦手なのかもしれない。
それでも、リセの歌声は本当に素晴らしかった。
だから彼女の歌声を皆にもっと知ってもらいたいと思う。
そうすればきっと、彼女も自信を持てるだろうから。
……やりたい事を見つけたアルのように。

だから、不意に思いついたのは彼女を卒業演奏のパートナーに誘うという選択肢。
勿論すぐにじゃない、段階というものがあるのはさすがの僕でも分かっている。
……いずれにせよ、僕らしくない行動力だとも自覚していた。

なのにそう思えたのは、きっと彼女がアルに似ていたからだろう。
放っておけなかった。
小動物みたいに弱々しくて、だけど確かに歌という望みを抱えた彼女の事を。


236 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 00:58:05 ID:Q3EEcEQh


237 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 00:58:31 ID:DH/BLQOn
彼女が何を抱えているか、僕は知らない。
今度開講する特別講義に何か思うところがあるみたいだけど、それすら僕には分からない。

……だけど、彼女と関わっていこうと決めた。
卒業演奏云々は抜きでも、それが正しいことだと思ったから。



◇ ◇ ◇



その同じ日に、ノアと、ノアの子セム、ハム、ヤペテと、ノアの妻と、その子らの三人の妻とは共に箱舟にはいった。
またすべての種類の獣も、すべての種類の家畜も、地のすべての種類の這うものも、すべての種類の鳥も、すべての翼あるものも、皆はいった。
すなわち命の息のあるすべての肉なるものが、二つずつノアのもとにきて、箱舟にはいった。
そのはいったものは、すべて肉なるものの雄と雌とであって、神が彼に命じられたようにはいった。そこで主は彼のうしろの戸を閉ざされた。



                      創世記第七章 13 14 15 16節




238 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 00:58:58 ID:jcYfbi4b


239 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 00:59:05 ID:Yv5z2cWV
 

240 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 00:59:21 ID:DH/BLQOn
◇ ◇ ◇



……クリス少年、君の雨はいつ止むのかな?


繰り返される1フレーズ。
惹かれるままに足を踏み入れた先には、まるで型破りで――――、それでも確かにお姫様と呼ぶべき人との出会いがあった。

アルとも、トルタとも、リセとも違う。
彼女、……ユイコは本当に今まで会った事のないタイプの人だ。
何事をも積極的に楽しもうとしていて、何が起ころうと飄々と受け流す頼もしさもある。

大聖堂ではオルガンを。
彼女の故郷の服を着せられたり、戦いの最中に僕を守って怪我をさせてしまったり。

キョウ達とはアンサンブルを。
誰かに送るレクイエム。
それに彼女が歌を乗せてくれて、キョウもそれに続いてくれて。
死を悼むと共に、希望を胸に抱いて眠りにつくことが出来た。
……起きた時に彼女の膝を借りていたのは恥ずかしかったけど。

無理矢理温泉に入れられて。
……色々からかわれた気もするけど、彼女はすごく暖かかった。
いや、あの感触がどうとかそういう話ではないのだけど。
そのはず……、そのはずだ。うん。


彼女は何事にも自分の楽しみを見出そうとする。
……要するに。
――――僕を引っ張っていく人は初めてだったのだ。

241 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:00:15 ID:DH/BLQOn
後ろから僕についてくるアルやリセとは違う。
共に歩くトルタとも違う。

……そんな彼女と一緒にいるだけで、僕の中の何かが変わっていった気さえした。

これまで僕は、何かを見失っていた。
大切な何かが唐突に消えうせてしまったかのように。
見据える先が不透明どころか、どちらに進めばいいのかさえ分からなかった。
卒業演奏を控えてもそれは変わらなくて、いずれ来たる卒業の後にプロを目指すかどうかさえ判然としない毎日。

……音を、楽しむ。
結局の所僕がフォルテールを弾くのはそれに尽きた。

だけどそれだけではプロをやっていくのは難しいことを知らされて、僕は足を止め続けていた。
雨の中、ただ僕はその冷たさに身を任せていた。

……その手を取ってくれたのがユイコだったのかもしれない。

だから――――、僕は彼女の諦めが許せなかった。

自分が人形だなどと、感情を持っていないだなどと。
そんな事は、ない。そのはずだ。
何かを楽しめるその想いが嘘であるはずがない。
ほんの時折見せるその照れも、確かに彼女は生きてそこにいることを告げている。
いずれ死ぬはずの人間という彼女の言質とは関係なしに、一人の『人間』としてユイコは確かに在るのだ。


242 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 01:00:18 ID:Yv5z2cWV
 

243 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:01:06 ID:DH/BLQOn
……だから、そんな強くて脆い彼女に僕は教えてあげたい。
手を引いてくれた彼女に対して、僕のできる事はそれくらいだ。
ユイコも心を持っているんだと、大切なものを見つけられるかもしれないと。
そう、強く強く思う。


――――せめて、彼女が『最期』にそれを掴めた事を僕は祈る。
それが僕なりの贖罪なのだから。



え。

最、期?



悲 鳴 が 、 僕 の 破 れ た は ず の 鼓 膜 に リ フ レ イ ン し 続 け て い た




244 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:01:55 ID:DH/BLQOn
◇ ◇ ◇



洪水は四十日のあいだ地上にあった。水が増して箱舟を浮べたので、箱舟は地から高く上がった。
また水がみなぎり、地に増したので、箱舟は水のおもてに漂った。
水はまた、ますます地にみなぎり、天の下の高い山々は皆おおわれた。
水はその上、さらに十五キュビトみなぎって、山々は全くおおわれた。
地の上に動くすべて肉なるものは、鳥も家畜も獣も、地に群がるすべての這うものも、すべての人もみな滅びた。
すなわち鼻に命の息のあるすべてのもの、陸にいたすべてのものは死んだ。
地のおもてにいたすべての生き物は、人も家畜も、這うものも、空の鳥もみな地からぬぐい去られて、ただノアと、彼と共に箱舟にいたものだけが残った。
水は百五十日のあいだ地上にみなぎった。



                      創世記第七章 17 18 19 20 21 22 23 24節




245 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 01:02:21 ID:Yv5z2cWV
 

246 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:02:58 ID:DH/BLQOn
◇ ◇ ◇



絶え間なく続くどしゃ降りの雨の中、僕はひとり歩き続けている。

後についてくる人も、共に歩く人も、僕の手を引く人もいない。
雨霧に霞んで数歩先も見えない道を、かろうじて水の流れと分かる方に沿って歩いている。

彼女がいるべき川の上流を目指しているつもりだった。
だけど、バケツをひっくり返したような豪雨のせいなのか、正しい方向に進んでいる自信がない。
すぐ近場にある流水が海なのか川なのかも判然としない。

そうしてあてどもなく彷徨う僕の体力は確実に失われていっている。
打ちつける雨が痛い。
水を吸った服が重い。
顔に当たる大気が生温い。

体は休憩を求めているはずだ。
なのに何故歩いているのだろう。
……あるいは、何故休みたくないのだろう。


決まっている。
立ち止まってしまったら、また歩き出す自信がないからだ。




247 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 01:03:00 ID:Q3EEcEQh


248 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:03:47 ID:DH/BLQOn
◇ ◇ ◇



夢を見た。
大切な人たちの夢を。

懐かしくて、愛おしくて、どうしようもなく心が張り裂けそうになった。

……どうして、このタイミングで思い出してしまったんだろう。
ユイコと一緒にいたなら、そんな事を想い返す暇もなかったろうに。
彼女の引く手に合わせてついていくだけで僕は精一杯なんだから。

その彼女も今はもういない。

ああ、だからこそなんだろうか。
……僕が彼女達に向き合う必要があるのは。

それがユイコを護れなかった、僕の罪深さの象徴だから。


今まで僕は、一体何をしようとしていたんだろうか。



249 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:04:37 ID:DH/BLQOn
◇ ◇ ◇


ぬちゃりと踏み込んだ先の泥が靴にこびりつき、気持ち悪い感触が足の裏から伝わってくる。
目には飛び跳ねた雫が絶え間なく降りかかり、何をしてもしなくても僕の視界を閉ざす。
纏わりつく熱気と湿気はいまだかつて感じたことがないくらいだ。
なのに、体は妙に冷え込んできている。
気温そのものはピオーヴァの夏よりも熱いくらいなのに吐く息は白い。
服の吸い込める水の量はとうに限界を超えていて、僕の後ろには裾から滴り落ちた水が一筋の糸となって延々と続いている。

ここは何処なのだろうか。

僕は何処に行こうとしているのだろうか。

答えはあるはずもなく、荒れる水面の波の音の側を、いつまでも僕はひとりで歩き続けている。

……誰かと話したかった。
ずっと側にいた音の妖精もここにはいない。
ただ、僕だけがいる世界。



……それにしても、信じられない蒸し暑さだと思う。
僕の故郷の北部でも、ピオーヴァのある南部でも、僕が育ったあの国では考えられない。
まるで話に聞く南の島国のようだ。


250 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 01:05:01 ID:jcYfbi4b


251 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 01:05:02 ID:Yv5z2cWV
 

252 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:05:34 ID:DH/BLQOn
そこに僕は違和感を覚える。
確か島の西側はピオーヴァにそっくりで、季候もほとんど同じだった。
なのに、多分島の東側であろうここでは、ピオーヴァでは有り得ない暑さが自己主張をしている。
こんなおかしな季候条件の島なんて、現実に存在するんだろうか?

……尤も、一年中雨の降り続けるピオーヴァだって異常なことには変わりない。
あの町は確か、火山活動の影響で雨の街と呼ばれるようになったはずだ。
この島の気候のおかしさにも何か原因となっているものがあるかもしれない。


……そんなどうでもいい事を考えて、苦笑する。
気を紛らわそうとしただけで、結局目の前の事に僕は向き合おうとしていない。


――――ああ、そうだ。
僕は……、向き合わなくてはいけなかったんだ。
少なくとも、取り返しがつかなくなる前に。


ユイコと楽しく笑いあえていた、あの時に。



253 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 01:06:40 ID:Q3EEcEQh


254 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:07:21 ID:DH/BLQOn
◇ ◇ ◇



ノアは子らと、妻と、子らの妻たちと共に洪水を避けて箱舟にはいった。
また清い獣と、清くない獣と、鳥と、地に這うすべてのものとの、
雄と雌とが、二つずつノアのもとにきて、神がノアに命じられたように箱舟にはいった。



                      創世記第七章 6 7 8 9節



◇ ◇ ◇


選ぶ。
何て嫌な言葉だろうか。
つまりは、それは選ばれなかった人たちを切り捨てるということなのだから。

傍らにいることを許されるのはただ一人。
僕はそんなどうしようもない事実に対して目を背けていた。

僕にはアリエッタがいるのに、確かにユイコに惹かれていたのだから。

そのことに対して言い訳をするつもりはない。
彼女のペースに流されたのは事実だけど、実際僕はそれを楽しんでいた。
ただ、僕が誰に対しても不誠実だと、最低の人間だという自覚を持たざるを得ないだけだ。

255 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:08:11 ID:DH/BLQOn
どうしても放っておけなくて、その結果がこの通り。
僕は彼女を守ることが出来ず、……きっと、死なせてしまった。

リセの事を思い出す。
……あの雨の町でずっと彼女に関わっていこうとした結果を突きつけられたような気もした。

……そう、僕にとっての一番はアリエッタ。そのはずだ。
だからこそ――――、自分は人形だといった時のユイコの表情に向き合う覚悟が足りなかったのかもしれない。

その選択をしてしまったら、大切な誰かを傷つけてしまうことが分かっていたから。

……もしもあの時、彼女との関係が違ったものならば。
彼女の結末があんな形にはならなかったのかもしれない。

それがより親密なものであるか、全くの無関係であるかは別としても。



そう、こんな風に。
――――僕は、僕自身のどうしようもなさの原因を、覚悟なんて目に見えないものに転嫁しようとしている。


256 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 01:08:40 ID:Yv5z2cWV
 

257 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 01:08:56 ID:Q3EEcEQh


258 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:09:01 ID:DH/BLQOn
僕は嫌でしょうがない。
……ユイコと一緒にいたかったという想いを、彼女と関わってきたその事実を誤魔化そうとする自分自身が、本当に。


覚悟があれば、ユイコともっと一緒にいても良かったのか?
結局の所、覚悟なんて言葉一つで僕はアリエッタの事を裏切ろうとしている。

ああ、本当にどうしようもない。
僕は無力で、彼女の命も心も救うことが出来なかった。
純然たる事実がそこにあるだけで、出来ることなど何一つない。


■■■■■の時と同じで、理不尽な出来事に僕はただ流され続けるだけだ。



259 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:09:56 ID:DH/BLQOn
◇ ◇ ◇


無数の雨の音は、一つの重合した音となって止むことはない。
顔にべとりと張り付く髪の毛を払うこともせずに歩き続ければ、いつしか僕は見知らぬ景色の前へと辿り着いていた。

太陽の元では白く見えるだろう砂浜は灰色に染まっていて、青いはずの海はより黒みがかった灰色に。
荒れきったその場所は、高い波が打ち付けている。
……砂浜が吸い込むのか、水溜りは一つとして見えないのが印象的だった。

……海水浴用の、ビーチなんだろうか。

辺りを見回してみれば幾つかの店が見えている。
……雨の冷たさに震える体に何かいいものはないか、なんて思って、そのうちの一つへ向かう。

目の端に移った奇妙な建物を僅かに意識に置いて、僕の歩みは止まらなかった。

雨は冷たいのに空気は蒸し暑いなんて、奇妙なこともあったものだと思いながら。
思おうとし続けながら。



260 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 01:10:12 ID:Yv5z2cWV
 

261 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 01:10:17 ID:jcYfbi4b


262 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:10:39 ID:DH/BLQOn
◇ ◇ ◇


僕は、無力だ。

……ほんの少しの行き違いから、キョウを助けられなかった。
ただ見ていることしか出来ないというのは、……手を下したのも同じことだ。

シズルを引き戻すことも出来なかった。
きっと誰もが哀しむと分かっているのに、説得は届かなかった。

……リセの死に目にも会えなかった。
彼女に報いるために、僕には何が出来るだろう。

リセのためと言いながら、僕はアンサンブルをした。
……そういう『誰かの為』、――――リセの為という言い訳で、僕は大切な人を裏切る口実を作っているんじゃないのか。
そんな、自己欺瞞に満ち満ちた人間を彼女が頼ろうとしてくれた事は、ナゴミを通じて聞いた。

……僕に、彼女を悼む資格はあるんだろうか。

……確かに僕は、リセの事が気になっていた。
だけど、それはアルへの自分の感情を否定するものではないはずだ。
結局の所――――、僕は、遠いところにいるアルを傷つけることを恐れて、無力さを理由に何にも向かい合おうとしていない情けない人間なんだろう。

どうしようもない。
本当に本当に、救いようがない。

誰かを傷つけない為に自分を誤魔化して――――、
結局、誰一人救えないならそこに残るのは傷ついた人たちだけだ。



263 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:11:46 ID:DH/BLQOn
――――だから君は無力じゃない。私にここまで有意義な時間を作ってくれたのだから。


……ねえ、ユイコ。
そんな事を言ってくれた君は、もういない。
僕の手の届かない所に逝ってしまったけど。

……それでもこんな僕に、またその言葉をかけることができるかな。

僕は君を死なせてしまった。
最後の瞬間、きっと哀しませてしまった。
……君一人なら、生き延びられたのかもしれないのに。
君は、君を死なせた僕でさえも無力でないと言ってくれるんだろうか。
それでも楽しめたからいいではないかと笑って。



そうして、僕は無力という言葉を逃げ道にし続ける。


……気付いている。
君に惹かれていたという事実を、アルへの裏切りを。
無力という言葉でユイコを助けられなかったと誤魔化す欺瞞に自己嫌悪が止まらない。


……結局誰かを傷つけることしかできない僕。


無力で欺瞞に満ちたクリス=ヴェルティンに生きる価値はあるのだろうか。



264 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 01:12:03 ID:Yv5z2cWV
 

265 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:12:48 ID:DH/BLQOn
◇ ◇ ◇



しかし、ノアは主の前に恵みを得た。
ノアの系図は次のとおりである。ノアはその時代の人々の中で正しく、かつ全き人であった。ノアは神とともに歩んだ。
ノアはセム、ハム、ヤペテの三人の子を生んだ。



                      創世記第六章 8 9 10節




266 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 01:13:36 ID:Q3EEcEQh


267 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:13:47 ID:DH/BLQOn
◇ ◇ ◇


海沿いの道路に面したバールが、そこにあった。

からんというベルの音を聞きながら、後ろ手に扉を閉める。
――――途端に雨の音は小さくなった。

静寂の中、僕が店の奥に進むたびに全身から水が滴って軌跡を作る。
勿論気にする人は誰もいない。
出迎える相手もいなければ話す相手もいない。

……何か、暖かいものを。
カプチーノを作るくらいなら僕でも出来るので、それを作ろうと狭い厨房に立つ。

……材料棚と思しき所を見て、目に付いたのは一つの小瓶だった。

インスタントのチョコラータ・カルダの粉末。

……チョコレートを溶かしただけの代物だ。
飲むというより食べるといった方が正しいくらいの濃さの代物で、胸焼けしてもおかしくない。
牛乳で割って、上に浮かべた生クリームを溶かしながら口にする。
チョコレートならパンに塗って食べたりするけど、普段ならカップ一杯はさすがに飲む気が起きないはずだった。


だけど――――、気付けば僕はいつの間にか、それを手にバールの一席に座っていた。




268 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 01:14:31 ID:Yv5z2cWV
 

269 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:14:44 ID:DH/BLQOn
◇ ◇ ◇


……トルタ。
トルティニタ・フィーネ。

彼女の好きな飲み物を手にしたことで、僕はトルタの事を否応なく思い出す。

ここに来る直前の僕が一番親しい人間は誰か、と聞かれたら、多分僕は彼女の名前を挙げたことだろう。
……それこそ、アルよりも近かったから。

掌に乗るような小さな同居人も親しいといえば親しかったけど、普通の人には見えない彼女はまた別だ。

……だから、僕はいくら無力でも、死ぬ訳にはいかない。
そうなった時、きっと彼女は哀しむだろう。
リセもユイコもいなくなってしまったけど。
……アルとトルタは、まだ生きている。
彼女達を悲しませたくはない、絶対に。

……たとえ、僕自身が生きている間に無力さに苛まれようと。


――――そして。
彼女は今、何をしているのだろうか。
放送で呼ばれなかったことだし、生きている可能性は高いんだろう。
それはとても喜ばしいことではある。
……だけど、無事である保証はない。
生きているだけで、瀕死の怪我を負ったかもしれないのだから。


270 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:15:39 ID:DH/BLQOn
……トルタは強い。
僕は少なくともそう信じている。
だけど、それは精神だけの話だ。
どう足掻いてもトルタは歌が上手いだけの女の子以上の何者でもない。
リセのように殺されてしまっても、……おかしくはないのだ。
むしろ、その可能性のほうが……ずっと高い。

……また、トルタと会えるのだろうか。
彼女は今、一人なんだろうか。
……彼女を守ってくれる誰かと一緒にいるのだろうか。


……その可能性に思い当たって、僕の心に言いようのないざわめきが立つ。

トルタが僕以外の誰かの隣にいることを。
誰かがトルタの隣にいることを。

……僕は、許容できるのか?

ずっと一緒だった彼女が、見知らぬ誰かの隣で笑っている光景。
今まで思い浮かべたこともないそれは確かに今、僕の脳裏に描かれつつある。


271 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 01:16:13 ID:Yv5z2cWV
 

272 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:16:39 ID:DH/BLQOn
……愕然とする。
おかしくはない。むしろ、その方が自然ではあるはずなのに。
僕がトルタを選ばなかった以上、彼女もまた僕ではない誰かの側にいるのが当たり前ではあるはずなのに、だ。


……どれだけ。
僕はどれだけ、みっともないんだろう。


……その光景が妄想でありますように、という囁きが、脳の中で響き続けている。
僕の彼女はアリエッタである以上、トルタが僕とは別の所で幸せを掴んだのなら祝福すべきだというのにだ。


◇ ◇ ◇


――――走る。

作ったばかりのチョコラータに一度も口を付けず、再度僕は雨の中に踊る。
バールの入り口に足を取られて転びかけるも、そんな事など気にせずに。

訳の分からない衝動に突き動かされて、とにかく何かをしたかった。
この感情を何かの形で僕の中から追い出したかった。

だから僕はさっき見かけた建造物へと向かう。
……実に都合のいい事に、その為に作られたかのような物だったから。

……嗚呼、僕は本当に最低だ。

アルを裏切り、トルタを傷つけ、リセに付け込み、ユイコに甘える。
無力なまま生きている限り誰かを傷つけて、死ねば死んだで関わった人たち全員に悲しみをもたらす。


273 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 01:17:33 ID:Yv5z2cWV
 

274 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:17:38 ID:DH/BLQOn
……こんな人間は、最初からいなかった方がいいのかもしれない。


雨は激しさを増してなお止む気配はない。
それでいい。
少なくとも、僕は雨に打たれるべき人間だから。


霞に煙る砂浜を駆ける。

ぐにゃりとした足元の柔らかさが気持ち悪い。
所々に落ちている貝殻の割れる感触が鬱陶しい。
生臭い潮風が煩わしい。

……どれだけ、そんな場所を進んだろうか。


『それ』は、そこにあった。


水を吸って重い服と、安定しない足場の為か息が上がる。
……黒い大理石のような柱に手をついて、しばらく息を整える。
雨は足下しか当たらない。


275 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 01:17:51 ID:Q3EEcEQh


276 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:18:38 ID:DH/BLQOn
……柱の上には、屋根がついているからだ。
壁があるべきところは吹き抜けになっていて、反対側が見える。

……見渡してみれば、その建物の床は円形になっていた。
僕の知識で言うならば、おそらく……屋外ステージというのが一番近いのだろう。
ビーチで行なわれるような何かのイベントに使うのだろうか。
丁度、中心で催し物をやるには適切な大きさと形だと思う。


……息が落ち着いてきたことを確認して、柱に刻まれた文字を読んでみればこうあった。


『方舟』、と。


何故、この黒い大理石のステージにそんな名前がついているかは分からない。
……ただ、僕はここを使わせてもらおうと思う。
フォルテールを奏でるために。



277 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 01:18:43 ID:Q3EEcEQh


278 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:19:29 ID:DH/BLQOn
◇ ◇ ◇



時に世は神の前に乱れて、暴虐が地に満ちた。
神が地を見られると、それは乱れていた。すべての人が地の上でその道を乱したからである。
そこで神はノアに言われた、「わたしは、すべての人を絶やそうと決心した。彼らは地を暴虐で満たしたから、わたしは彼らを地とともに滅ぼそう。
あなたは、いとすぎの木で箱舟を造り、箱舟の中にへやを設け、アスファルトでそのうちそとを塗りなさい。
その造り方は次のとおりである。すなわち箱舟の長さは三百キュビト、幅は五十キュビト、高さは三十キュビトとし、
箱舟に屋根を造り、上へ一キュビトにそれを仕上げ、また箱舟の戸口をその横に設けて、一階と二階と三階のある箱舟を造りなさい。



                      創世記第六章 11 12 13 14 15 16節




279 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 01:19:53 ID:jcYfbi4b


280 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:20:20 ID:DH/BLQOn
◇ ◇ ◇


方舟という奇妙な舞台の上。
僕は、一人でフォルテールの準備をしている。
誰に聞かせるわけでもない。

フォーニの為でもない。
アルの為でもない。
トルタの為でもない。
……リセの為でもない。

……ユイコの為、なんだろうか。

彼女との永遠の別れに捧げる為の、たった一人の演奏会。
……もう、彼女とアンサンブルをする事は出来ない。
その喪失感が悲しみを麻痺させているからこそ、今はただ演奏をしようとするのかもしれない。

……準備はすぐに終わる。
自前のでなくリセのフォルテールとはいえ、これでも僕はフォルテール科の学生だ。
前置きにさほど時間は必要ない。

設置したフォルテールで何を奏でようか。
……一瞬、それを考える。

一番最初に奏でようとしたのは、出会った時の曲、L'uccello blu――――蒼い鳥。
……だけど、暗譜が出来るほどに練習した訳ではなかった為、無理だろう。
あの楽譜は今も壊れた聖堂の中にあるままなのだろうか。


281 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:21:10 ID:DH/BLQOn
次に浮かんだのは――――、アンサンブルの時の曲、リセエンヌ。
……あの曲はリセの為の曲で、だからこそユイコに捧げるべき曲ではない。

トルタの卒業発表曲や、フォーニといつも練習していたアルの曲も同じ理由で弾くつもりはなかった。


だったら、何がいいだろう。

そこに至って僕は、彼女の為だけの曲を弾きたい。
……そう、思った。
例え即興であっても、彼女から受け取った全てを詰め込んだ曲。
それを、今この場で形にして紡ぎだす。

――――心色綺想曲。

そんなタイトルが浮かんでくる。

曲のイメージを、彼女から得る。
その為に彼女の記憶を思い出していく。
追悼には相応しくないかもしれないけど、……それでも彼女に哀しい曲は似合わないとそう信じて、頭の中に全体の流れを構築する。

あらゆる物を楽しもうとするユイコは未知の塊で、僕は流されるままに彼女に乗せられ続けていた。
……楽しいと、そう思った。

感情のない人形だと僕に告げたユイコ。
……そんな事は絶対にない。
だから、僕は彼女に感情があることを知ってもらいたかった。

――――私はね、既に死んでいる人間なのだよ。
そう告げられた時の衝撃も今は受け入れられている。
……彼女が長くない命だなんて、それは悲しすぎるから。
だからこそ、ユイコが自分の命の存在を肯定してくれて嬉しかった。

282 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 01:22:03 ID:Yv5z2cWV
 

283 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:22:40 ID:DH/BLQOn
……その彼女も、今はもういない。
喪失感ばかりが大きくて、僕は未だに涙を流すことができていない。
……哀しいはずなのに、どうしてだろう。

まるで僕は――――泣く事を忘れてしまったかのようだ。

それとも僕は単に、まともではないのだろうか。
……彼女が逝ってしまったのは、僕が足手纏いになったからかもしれないのに。
結局僕は、無力でしか――――、



――――私が心配しているのはだね、クリス君……君が内罰的になって、その道を誤ってしまうことだよ――――


いつかのユイコの台詞が、僕の塗り固められた思考の奥のエゴを打ち砕いた。

……そう、全ては欺瞞だ。
僕は、ユイコの死を口実にまたも事実から目を背けようとしていた。

……トルタの事を思い浮かべた時の、その動揺。
それを覆い隠す為にユイコを引き合いに出して、無力だという言い訳で僕はまたも逃避しようとしている。

……厳しいなあ、ユイコ。
僕は自分がどうしようもなさ過ぎて、……もう、何を見据えればいいのかも分からないよ。


ただ……、これだけは本当なんだ。
僕は君を大切に感じていて、確かに惹かれていた。
……君の為の曲を作りたい。その構想も出来ている。

284 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:23:30 ID:DH/BLQOn
……だけど、その資格は僕にないかもしれない。
僕には一番に考えるべき人がいて、彼女を傷つけたくないあまりに不誠実なままで君と向かい合おうとしていた。
君に手を届かせることができなくなった今、それは単に君を侮辱することにもなりかねないのに。


だから。
……だから僕には、君の為に作ろうとした曲を奏でる事はできない。
君の事を想って、祈ることすら叶わない。
本当に本当に、ユイコに曲を贈りたいのに。


……トルタやリセ、アルの曲を君に贈るわけにはいかない。
故郷の町で覚えた曲も、アルとトルタの記憶が染み込み過ぎて奏でられない。
ピオーヴァで習った曲は義務感で身につけたものが多くて――――、葬送曲には相応しくない。

だとしたら、君には何を捧げればいい?
僕は何を奏でればいい?

分からない。
……分からない。

手元にあるフォルテールが、弾きだせない。


……いつしか僕は、フォルテールの鍵盤に触れることすら出来なくなっていた。


285 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 01:23:42 ID:Yv5z2cWV
 

286 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:24:28 ID:DH/BLQOn
音を楽しむ。
……それだけの為にこの楽器に親しんできて、やらされるのでもない限りどんな時でもそれは変わらないと思っていたのに。


フォルテールが、弾けなかった。
どう奏でていたのかすら、思い出せなかった。


……僕は、とうとうフォルテールさえ失ってしまった。

もう、すべき事もしたい事も全ては雨霧の向こう側だ。
……君が生きていたなら、僕を何処へ導いてくれたんだろう。

少なくとも――――、僕一人ではもう、ここから立ち上がる事はできそうになかった。

手を引いてくれるのでもいい。背中を押してくれるのでもいい。
方向だけでも誰かに示してほしかった。
……だけど、手を引いてくれるユイコはもういない。


――――半ば裏切りのような事をしておいて、僕に許されることではないと分かっている。
……だけど、それでも。


今、僕は――――、
アルにとても会いたかった。


287 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:25:17 ID:DH/BLQOn
直接会わなくてもいい、手紙の文面で構わない。
……彼女の言葉で、踏み出すべき場所を伝えて欲しかった。
それがどれだけ残酷な甘えなのか、分かっている上でなお。


雨は降る。
振り続ける。

全てを埋め尽くすように、僕の動く場所を奪うように。


方舟の外側は、もう出歩こうにも出歩けないくらいに雨で白く染まっていた。




288 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:26:08 ID:DH/BLQOn
◇ ◇ ◇



わたしは地の上に洪水を送って、命の息のある肉なるものを、みな天の下から滅ぼし去る。地にあるものは、みな死に絶えるであろう。
ただし、わたしはあなたと契約を結ぼう。あなたは子らと、妻と、子らの妻たちと共に箱舟にはいりなさい。
またすべての生き物、すべての肉なるものの中から、それぞれ二つずつを箱舟に入れて、あなたと共にその命を保たせなさい。それらは雄と雌とでなければならない。
すなわち、鳥はその種類にしたがい獣はその種類にしたがい、また地のすべての這うものも、その種類にしたがって、それぞれ二つずつ、あなたのところに入れて、命を保たせなさい。
また、すべての食物となるものをとって、あなたのところにたくわえ、あなたとこれらのものとの食物としなさい」。
ノアはすべて神の命じられたようにした。



                      創世記第六章 17 18 19 20 21 22節




289 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 01:26:41 ID:Yv5z2cWV
 

290 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:27:02 ID:DH/BLQOn
◇ ◇ ◇


方舟とは決して救済のための道具ではない。
あくまでもその場をしのぎ、生き延びる為のものだ。

……はたして、未だ雨は降ってすらいない。
クリス=ヴェルティンの見る雨は、方舟には何ら影響を及ぼしてはいない。
ギルガメシュ叙事詩にも謳われる大洪水の発端は、いつ何時来たるのだろうか。
それ以前に、そんなものが来るのか、どうか。
その時が訪れるのならば――――、方舟の名を関した舞台は如何なる装置で以って劇を演出するのか。

それを知ることなど叶わず、迷い羊は鳴き続ける。


――――Chris.


神の子、主の御名よりたったの一文字だけが足りないカレは、何をこれから為していくのだろう。
その名前は決して誰かに救いを与えられなどはしない、欠落した存在であることの証左か。
はたまた、"t"に能う何かを得ることで救い主となり得る彼の器を示すのか。


霞の先、雲の果てを見通す事は今は出来ず、ただただそこから雫が注がれるのみ。


雨が降る。

いつまでもどこまでも、降り続けている。




291 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:27:53 ID:DH/BLQOn
【H-8/リゾートビーチ・屋外ステージ? “方舟”上/一日目/午後】

【クリス・ヴェルティン@シンフォニック=レイン】
【装備】:和服、防弾チョッキ、アルのページ断片(ニトクリスの鏡)@機神咆哮デモンベイン
【所持品】:支給品一式、ピオーヴァ音楽学院の制服(ワイシャツ以外)@シンフォニック=レイン、 フォルテール(リセ)
      ロイガー&ツァール@機神咆哮デモンベイン 刀子の巫女服@あやかしびと −幻妖異聞録−
【状態】:Piovaゲージ:100%
【思考・行動】
 基本:無気力。能動的に行動しない。後ろ向き思考絶賛悪循環中。
 0:無力な僕が生きている意味はあるんだろうか。
 1:僕が死んだら哀しむ人がいるかもしれないから、死ぬわけにもいかない。
 2:生きていても死んでいても迷惑をかける僕は、存在しない方が良かったのかもしれない。
 3:ふらふらとたくさんの女の人に好意を抱いたりして、僕は不誠実で最低な人間だ。
 4:フォルテールも弾けなくなってしまって、こんな僕に目をかけてくれたコーデル先生に申し訳が立たない。
 5:……アルやトルタに会いたいけど、申し訳なくて顔を合わせられない。
 6:あの部屋に帰れるのだろうか。
 7:トルタ、ファルさんは無事なんだろうか。
 8:ユイコの曲を書きたいけど、僕にそんな資格はないのかもしれない。
 9:もうここから動きたくない。
 10:もう、誰とも会うべきではない……?
 11:手紙でもいいので、アルの言葉が聞きたい。


292 :羊の方舟 ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:28:42 ID:DH/BLQOn
【備考】
 ※雨など降っていません
 ※Piovaゲージ=鬱ゲージと読み替えてください
 ※増えるとクリスの体感する雨がひどくなります
 ※西洋風の街をピオーヴァに酷似していると思ってます
 ※巫女服が女性用の服だと気付いていません
 ※巫女服の腹部分に穴が開いています
 ※千羽烏月、岡崎朋也、椰子なごみの外見的特長のみを認識しています
 ※リセの死を乗り越えました。
 ※記憶半覚醒。
 ※静留と情報交換済み。
 ※唯湖が死んだと思ってます。
 ※島の気候の異常に関して、何らかの原因があると考えました。
 ※リセルート、12/12後からの参戦です。

※H-8のリゾートビーチには、屋外ステージの様な建造物“方舟”が設置されています。詳細は不明です。





293 : ◆wYjszMXgAo :2008/06/07(土) 01:30:14 ID:DH/BLQOn
投下終了です。
タイトルの元ネタは工画堂スタジオのPCゲーム、『羊の方舟』より。
また、旧約聖書は聖書協会の著作権フリーである1955版より引用させていただきました。


294 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 02:19:15 ID:M9B9KfCy
投下乙です。
聖書ときたか、これは力作かつ良作だなー。
クリスは落ち込み気味…というか落ち込みだすと手がつけられない凹みっぷりだな。

頑張れ! 姐御と再会出来るその日まで!

295 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 02:36:26 ID:geMLhv9i
投下GJ
クリス……なんと良い鬱っぷりw個人的にこういうの大好きだw
心理描写が丁寧で良いですね
早く姉御か誰でもいいからクリスをひっぱってやれ!

296 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 02:43:59 ID:QXpk8Bkt
投下乙です
一転して鬱鬱としたクリス、こういう雰囲気好きですw
このまま泥沼化するのかまたさらに反転するのか楽しみ

297 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 02:55:29 ID:tkUPBr5a
前回持ち上げられすぎたからなあ。
今回落とされすぎるのも納得w
上げて落として……ロワらしい展開で好みです。次はこのままいくのか、何か転機があるのか…
ドS心が疼くww
こっちも鬱になりましたGJ

298 :生成り姫 ◆DiyZPZG5M6 :2008/06/07(土) 04:08:41 ID:DRCu146e
 烏月が最初に彼女――柚原このみを見たのはあの始まりの場所だった。
 無残にも首から上を吹き飛ばされた少年の亡骸の傍らで泣きじゃくる彼女。
 このみの悲劇はそれに留まらない。神父は無慈悲にもこのみの首輪を作動させた。
 誰も止められない、止めようもない。
 彼らに歯向かえば自分達もまた少年と同じように頭を砕かれてしまう。
 誰も電子音を響かせるこのみを助けようとする人間は現れなかった。
 ただ一人……向坂環を除いては。
 環は目の前で幼なじみを殺されたのにも関わらず、神父に対して一片たりとも物怖じせず取引をした。
 このみの首輪の電子音が止まると同時に鳴り響く環の首輪。
 彼女の美貌が砕かれ、顔を失った胴体が床に崩れ落ちる。
 それが烏月が見たこのみの最後の姿だった。

 ゲームという名の殺戮遊戯が始まってはや12時間。
 すでに二十人以上の人間の尊き命が失われた。 
 烏月が最初に出会った、いや襲った少年――向坂雄二はすでに死んでいた。
 たった半日で幼なじみ全てを失ったこのみの絶望は図り知れない。
 理不尽な世界に対する憎しみが魂と魄を変容させる。
 烏月が再び出会ったこのみは鬼に変貌していたのだ。


「…………」
 小休止を取る烏月とこのみとフカヒレ。
 烏月は無言でこのみを見つめる。
 愛くるしい姿にも関わらずその内から発せられる禍々しい気。
 彼女が人で無くなったことの証拠である。
「? このみの顔に何かついてるのかな」
 烏月の視線に気がついたこのみは彼女を見つめ返す。
 烏月は左眼を細め右眼を大きく見開いた左右非対称な表情で、このみを凝視していた。
 ぞわりと身体の内がざわめく。
 烏月の右眼はほのかに青白く光っていた。
 まるで自分の中を見透かされているのような眼の輝きだった。


299 :生成り姫 ◆DiyZPZG5M6 :2008/06/07(土) 04:10:06 ID:DRCu146e
「やはり君はまだ完全に鬼に成ってはいないようだね」
「鬼……おとぎ話に出てくる鬼。わたしがなった鬼って一体何なんですか?」
 烏月とこのみのやりとりをひどくつまらなそうな表情で眺めるフカヒレ。
 自分はお呼びでないことが腹立たしいが口を挟まず黙っていた。
 下手なこと言ってこのみの怒りに触れることはしたくない。ひたすら卑屈な姿勢だった。

「鬼と一口に言ってもいろんな鬼がある。例えば河童、頭に皿を乗せたあれだ。
元々は水神が零落した姿とも言われている。河童のような魑魅魍魎……いわゆる妖怪も鬼と呼べるし、
まつろわぬ化外の民も鬼と呼ぶ」

 一旦話を切る烏月、その表情が微妙に翳る。浅間サクヤのことを思い出したからだ。
 烏月とサクヤは知己の関係ではあるが、その仲は微妙な関係である。
 それは烏月が属する千羽党とサクヤの出自には浅からぬ因縁があった。
 サクヤは人とは種族を異にする観月の民、ゆうに数千年を生きる長命種の出自。
 だが烏月が生まれるずっと昔に時の鬼切り頭に率いられた千羽党によって、
 サクヤ一人を除いて観月の民は全て滅ぼされてしまったのである。
 千羽党の一員として烏月はサクヤに負い目を持っており、それが彼女達の関係に水を差していた。
 そして唯一の生き残りであったサクヤの死で観月の民は完全に終焉を迎えてしまったのである。

「そして人間が絶望・憎悪・妄執などあらゆる負の感情によって鬼に転じた生成りと呼ばれる鬼だ」
「生成り……」

300 :生成り姫 ◆DiyZPZG5M6 :2008/06/07(土) 04:11:19 ID:DRCu146e
「今のあなたは生成りと呼ばれる状態なんだ。人であって人でない、鬼であって鬼ではない。
まだ鬼としては不完全な状態だからまだ間に合う。だけど……あの娘は」
 烏月達を襲った蛆虫の少女、あの少女はもはや正気を失い鬼に呑まれてしまっていた。
 あそこまで身も心も悪鬼に成り果ててしまった彼女を救う術はもはや無い。
 だが烏月はあの少女について不可解な物を感じ取っていた。
 鬼とはまた別種の異形の力、受けた銃弾も傷口に蛆が集まり傷を癒す、
 確かに鬼は多少の傷も自力で治癒する力を持っている。だが彼女の力は鬼とは違った異質の物。
 身体に沸いた蛆が傷を治す。
 鬼切り役として幾多の鬼・妖を切ってきた烏月にとっても初めて相手する、異形の鬼だった。

「烏月さん……まさかあの人を助けるつもりじゃないですよね?
駄目だよ、あの人はこのみが絶対に殺さないといけないんだよ。あの人のせいでこのみは……ッ!」
 このみの憎しみの炉に炎が再び灯される。
 自分を騙したファルも憎いが蛆虫の少女はもっと憎い、人の名前まで騙る下衆を生かしておくものか。
 内なる悪鬼が鎌首をもたげ彼女を殺して八つ裂きにして喰らえと囁く。

「あの人はもう手遅れだよ……彼女は完全に鬼と成ってしまった。
ああなったからには私は鬼切り部千羽党鬼切り役、千羽烏月として人に仇なす鬼を斬る」

 その魂の一欠けらも鬼に喰われてしまった彼女はもう助からない。
 彼女は際限なく人を喰らう鬼と成ってしまったのだろう。
 もはや捨て置く存在ではない、千羽党鬼切り役として人に仇なす鬼を斬る。
 それが千羽烏月の使命なのだから。


 ◆ ◆ ◆


 休憩を終えた三人はあてもなく森を彷徨う。
 時刻は正午を過ぎて数刻が過ぎたころだろうか?
 太陽は中天にあり、ほどよく暖かげな光で深緑の森を照らしていた。

301 :生成り姫 ◆DiyZPZG5M6 :2008/06/07(土) 04:13:09 ID:DRCu146e
「道……迷っちゃったね……」
「逃げるのが精一杯だったからじょうがないよ」
「烏月さんでもわからないんだ……フカヒレさんは――聞くだけムダだよね」
「――っ!」
 まずい……これはまずい状況だ。フカヒレに不安の暗雲が立ち込める。
 このみのフカヒレに対する興味が薄れてしまっている。
 彼女は自分よりもずっと烏月のほうに信頼を置いていた。
(くそっ……このままじゃ俺は用済みにされてしまう……何とかしないと)
 役立たずをいつまでも置いておけるほどこのみは寛容では無い。
 いずれ自分は用済みとして始末されてしまうかもしれない。
(でも烏月がいるんだ……あいつの前ではそうそうヘンな気は起こさないだろ……へへっ。
鬼切り役とか言って邪気眼丸出しの女という事を除けば、烏月は比較的まともな人間だ。
このみが俺を殺そうとしたら絶対止めに入るだろ、常識的に考えて……
大丈夫、あいつがいるかぎり俺の安全は万全だ。ツいてるぜ……ふひひっ)
 相変わらず浅はかな根拠で最悪の出来事を想定することから逃避するフカヒレだった。

「フカヒレ君? さっきから何一人でぶつぶつ言ってるのかな」
「申し訳ございませんこのみ様! このみ様の気分を害させるようなことをして!」
 少しでもこのみの気分を害させないようにとフカヒレは徹頭徹尾卑屈な態度を見せていた。


 ◆ ◆ ◆


「……血の臭いがする。たぶん誰かが死んでるみたい」
 森を歩いていたこのみの足が止まりそう呟いた。
「私にはよくわからないけど本当かい?」
「このみ様のおっしゃる通りならきっと間違いないですっ!」
 悪鬼に侵食されつつあるこのみは常人離れした身体能力と五感を持ち合わせている。
 通常の人間では感じ取れない臭いも今のこのみは嗅ぎ取ることが出来ていた。

302 :生成り姫 ◆DiyZPZG5M6 :2008/06/07(土) 04:14:28 ID:DRCu146e
「こっちだよ!」
 このみはその先を指差して駆け出した。
 続いて烏月も走り出す。
「ちょっ……待ってこのみ様!」
 幼い頃から姉に追われて逃げ回っていたせいで脚力にはそれなり自信があったフカヒレだが、
 このみの足は彼を遥かに凌駕するスピードで見失わないように走るのが精一杯だった。
 一方、烏月はさすが鬼切り役と言った所だろうか卓越した身体能力で、
 全くと言っていいほど息を切らさずこのみについて行っていた。

「これは……」
 フカヒレよりも先に現場に辿り着いた烏月は絶句した。
 そこは凄惨を極まった場所。鬼切りとしてある程度この手の惨状は耐性があったのだが、
 あまりにも惨たらしい場に声を失った。

 その場所には男女の死体が放置されていた。
 男の方は腹部と胸部から血を流して死んでいた。
 だが女の方は一言で言って『女の死体だった物の残骸』だった。
 まるで獣に食いちぎられたように散乱した頭部と四肢。
 生前は美少女だっただろう転がった頭部は、その片側の頬をごっそりとこそぎ取られ、白骨が露出していた。
「獣の歯型じゃない……間違いなく人の歯型だ……」
 そして何よりもその死体の猟奇度を体現していたのは胴体部分だった。
 まるで内側から食い破られたかのように腹部は大きく裂かれており、
 事もあろうに内臓が、胃も心臓も腸も肝臓も肺も腎臓も膀胱も膵臓も脾臓も……そして子宮も、全ての内臓が失われていた。

 ふと烏月はこのみの方に向く。このみは死体を妖しく光る瞳でじっと見つめ……

 ―――舌なめずりをしていた。

「このみさん!」
「えっ……あっ……えへへ〜このみちょっとぼ〜っとしていたでありますっ」
 びしっと敬礼のポーズを取るこのみ。
「……あの人の臭いがする。あの腐ったようなにおい。このみ達と出会う前にここにあの人はいた」

303 :生成り姫 ◆DiyZPZG5M6 :2008/06/07(土) 04:17:49 ID:DRCu146e
「やはり……」
 蛆虫の少女はやはり人を喰らっていた。
 少女の死体に残る歯型は人間の物、食人の禁忌を犯し鬼へと堕ちた証拠だった。
 一度人を喰らってしまえばそれが最後、どんな肉を口にしても満たされない。
 麻薬の切れた中毒者のように次の獲物を追い求める悪鬼羅刹の誕生だ。
「…………」
 烏月は再びこのみを向く、この様子だとこのみはまだ人を喰らってはいない。
 まだ元の人間に戻せる可能性は十分にある。
 だがこのみは先ほど無意識にだが死体を見て舌なめずりをしていた。
 いつ食人の衝動に駆られるかは時間の問題だった。


「はぁっ……はぁ……おまえら……速すぎなんだよ……くそっ……」
 二人からかなり遅れてやってくるフカヒレ。完全に息が上がってバテていた。
 息を落ち着かせたフカヒレは死体にまだ気がつかないのか周囲の様子をきょろきょろと見回していた。
(あれ……この景色……どこかで見たような……)
 見覚えのある景色。
 そう確かこの場所は――
 視線を下に移す地面に横たわる男の死体。
 赤みが掛かった茶髪、そして固まった血で染まったエプロン。
 自分が見捨てたために命を落としたかつての同行者――古河秋生の死体だった。

「秋生のオッサン……じゃねえか……」
 思わず声を出していた。
 その声を烏月が見逃すことがあるはずも無く、フカヒレに質問した。
「フカヒレさん、この男の人を知ってるのかい?」
 当然の質問だ。烏月はフカヒレについての情報をあまり知らない。本名すら知らないのだ。
 知っていることはこのみからフカヒレと呼ばれているのと、
 彼がとても小心者で卑屈な人間であることぐらいだ。
「それは――」
 秋生を見捨てて逃げ出したことを烏月が知ったらどんな顔をするだろうか?
 口ごもるフカヒレだったが……

304 :生成り姫 ◆DiyZPZG5M6 :2008/06/07(土) 04:19:19 ID:DRCu146e
「言えないよねフカヒレ君? だからこのみが代わりに言ってあげるよ。烏月さん、
この男の人が秋生って人ならフカヒレさんはこの人を見捨てて逃げ出したどうしようもない卑怯者なんだよ」
「……そうなのかい?」
 烏月の冷たい目線がフカヒレを射抜く。
 フカヒレは何も返事を返せなかった。
「じゃあ……こっちの人は誰か知ってるのかな?」
 フカヒレはこのみの言葉の意味が解らなかった。
 ここにあるのは秋生一人じゃないのか? と。
 フカヒレは無意識の内に凄惨な状態のもう一人を意識の外に追いやっていたのだ。

「この人だよフカヒレさん」
 そう言ってこのみはやや小ぶりの西瓜のような物体をフカヒレに差し出した。
「え――? ひっひぃぃぃぃぃぃ!!!」
 フカヒレはそれの正体を見て情けない声を上げて地面に尻餅を付く。
 なぜならこのみが差し出した物は西瓜であるはずがなく。
 無残に喰い千切られた。自分が殺した古河渚の頭部だった。

「うぐっ……うぇ…おぇぇぇ……」
 渚の死体の惨状を認識して地面に吐瀉物をぶちまける。
(なんで……なんでだよぉぉぉぉ……)
 こんな所に渚の死体があるなんて有り得ない。
 だって渚は自分が別の場所で――

「なんで俺が殺した古河渚がここでバラバラになってるんだよぉぉぉぉぉ!!!!」


 ◆ ◆ ◆


「そっか……フカヒレさんはこの人を殺した上に、お父さんまで見殺しにしたんだね」
「フカヒレさん……君は……」

305 :生成り姫 ◆DiyZPZG5M6 :2008/06/07(土) 04:20:37 ID:DRCu146e
 蔑みとも哀れみともとれる視線で烏月はフカヒレを見下ろしている。
「やめろよぉ……そんな目で俺を見るなよぉぉぉぉ」
 このみに事実を告げた時におしおきと称して受けた暴力とは別種の痛みがフカヒレを刺し貫く。

「し、仕方……仕方なかったんだよ! だってこいつは俺を騙そうとしてたと思ってたんだ!
こいつは古河渚を騙ったニセモノだって! 知らなかったんだよぉぉナギサという名前の人間が二人いた事なんて!
お、俺は悪くねえっ! な、名前が悪いんだっ。渚なんて名前だから俺に間違われたんだ!
せ、正当防衛だ! 確かにあの時俺はこいつに殺されるかもと思ったんだ! そう! 正当防衛なんだよ!
だから俺は無罪なんだよっ! へ、へへへ……」

 半ば薄ら笑いを浮かべ必死に自己弁護に勤しむフカヒレの姿。
 烏月は彼に対して軽蔑の感情は抱かなかった。
 ただひたすら彼が哀れだと思った。
 自分は鬼切りとして多数の修羅場を潜り抜けている。常に死と隣り合わせにいる世界の住人。
 だけど彼は違う、こんな事が起きなければ普通のごく一般的な学生生活を送っていた人間なのだ。
 そんな人間がこんな世界に放り込まれまともな倫理観を保てるのは難しい。
 それでも自分を見失わずに行動できる人間は少なくない、だが彼はあまりにも心が弱すぎた。

「なんだよお……その目は……まるで可哀相なものを見るような目で見るなよぉぉぉぉぉぉ!!
俺は普通だ! オッサンの時だって勝てるわけの無い奴に挑んで死ぬなんてバカバカしいだろ。
だってオッサン、俺達を襲った奴を必死に説得しようとしてたんだ! ンなもんやってられねーよ!
逃げないオッサンが悪い! 俺は悪くない! 誰だって自分の身が可愛いんだっ!
自分の命が一番大切だろ!? 誰かのために自分の命を投げ出すなんてバカにも程があるに決まってる!」

 一瞬、空気が凍りついた。
 烏月はその感覚に冷や汗を流す。
 フカヒレはそれに気がつかずひたすら自己弁護を繰り返す。
 フカヒレはまだ気づいていない。彼がこのみに対する最大級の地雷を踏んでしまった事を。

「ねえ……フカヒレさん……このみが何で生きているか知ってるかな?」

「へっ?」

306 :生成り姫 ◆DiyZPZG5M6 :2008/06/07(土) 04:22:10 ID:DRCu146e
「本当ならあの時、首輪が爆発して死んじゃったはわたしなんだよ。フカヒレさんも見てたよね?」
「ひっ……」
 このみの右手がゆっくりとフカヒレの首に伸ばされる。
 人間離れした怪力がフカヒレの首を締め上げる。
「ぐっ……あがっ……」
「誰かのために犠牲になる事ってそんなに馬鹿なことなのかな?」
 首を掴んだ腕がゆっくりと持ちあがる。
 それにつられてフカヒレの身体も持ち上がり、
 今やフカヒレの身体は首に掴まれたこのみの右腕一本で宙に浮いている状態だった。
「か……ぐげ……ぐるじ……」
 腕一本で宙に吊るされ呼吸もままならない。
 このみは肉食動物のような縦に割れた瞳でフカヒレを睨みつけていた。

「このみのために犠牲となったタマお姉ちゃんはそんなに馬鹿だったの? 答えてよ」

 さらに殺気を膨らませるこのみ。
 殺気と共に周囲の気温が二、三度下がったような感覚をフカヒレはようやく覚える。
 フカヒレの脳裏に昔プレイしたゲームが浮かび上がる。
 確か鬼の血を引く四姉妹がヒロインの登場するゲーム。
 その中に鬼の力を開放したヒロインの描写に『周囲の気温が下がったような気がした』とあった。
 まさか自分がリアルでこの感覚を味わうとは思いもよらなかったのである。

「フカヒレさんにあの時のタマお姉ちゃんの気持ちなんか分かるわけないよね。君みたいな卑怯者に」

 ぎちぎちと指が深く食い込んでいく。
 彼女の力をもってすればフカヒレ程度の人間の首を折る事など造作もないだろう。
 割り箸を折るよりも簡単に彼の頚椎は砕かれてしまうだろう。

「やめるんだこのみさん! これ以上したら彼が死んでしまう!」
 見るに見かねた烏月がこのみを静止させる。
 烏月の声でこのみから急速に殺意が消え失せる。
 否、もはやこのみにとってフカヒレは殺す価値も無い人間だった。

307 :生成り姫 ◆DiyZPZG5M6 :2008/06/07(土) 04:23:22 ID:DRCu146e
「うげっ……ごほっ……ぐっぁ……」
 ようやくこのみの手から解放されたフカヒレは大きく咳込みする。
 その様子を冷ややかな目線で見下しこのみは言った。

「ぱんぱかぱーん! 現時刻をもってフカヒレさんには戦力外通告を言い渡すでありますよ〜」

「あ――!?」
「このみにとってフカヒレさんはもう用済みですよー。どこへでも行っちゃってください」
 それはフカヒレにとって死刑宣告に等しい物だった。
 このみに頭を下げていれば命だけは何とかなる、なのに今見捨てられたら……
「こ、このみ様! 今の発言取り消しますから! お願いします! 何とかご慈悲を!」
「だーめ! フカヒレさんみたいな卑怯者は要りません! このみに殺されないだけありがいのですよー」
「そ、そんなこのみ様! 烏月! いや烏月さん! 烏月様! あなたからも何とか言ってあげて下さい!」
 プライドをかなぐり捨ててまで慈悲を乞う彼の哀れな姿に烏月は何も言えなかった。
「だってフカヒレさんは戦力にすらならないもん。このみは鬼、烏月さんは鬼切り役。じゃあフカヒレさんは?」
「そ、それは……」
「それ以前に自分が不利となった真っ先に逃げる卑怯な人と一緒に行けないのですよ〜」
「もうそんな事はしませんから! あの女がまた襲ってきたら自分は真っ先にこのみ様の盾となる所存であります! 
このシャーク鮫氷! やればできる漢として地元では名を馳せていました! だから平に平に!」

 頭を擦り付けて土下座するフカヒレにこのみは無慈悲な一言を言い放つ。

「やればできる? どうせやらないくせに、やろうともしないで言い訳して逃げてるくせに。
やれるんだったら最初からしてよ。どうせ最初からやる気なんてこれっぽっちもないくせに」
「ああ――――」
 フカヒレはがっくりとうなだれる。
 彼の安っぽく矮小なプライドの象徴だった言葉は完膚無きまでに打ち砕かれた。

「行こう烏月さん」

308 :生成り姫 ◆DiyZPZG5M6 :2008/06/07(土) 04:24:43 ID:DRCu146e
「あ、ああ……」
 困惑する烏月、だけどこのみの言葉は完全に的を射ているものだった。
 この男は確実に足手まといになる。
 足手まといなら足手まといでどこかに隠れていれば良いのだが、
 彼は変なところでプライドが高いのか、間違いなく戦闘にしゃしゃり出て味方の足を引っ張るタイプなのだ。
「無能な味方はどんな強敵よりも厄介だって、誰かが言ってたのであります!」
「ああああああああ……お願いします俺を見捨てないで……このみ様、烏月様……」
 フカヒレを置いていこうとする二人、フカヒレはこのみの足にすがり付いて許しを乞う。
「だったら他の頼りになる人に泣きついてお願いすればいいいよ、僕を助けて僕を守ってって
でも君みたいな卑怯者は誰も相手してくれないと思うよ。フカヒレさんは誰からも見捨てられて寂しく死ぬの」
「嫌だ……嫌だ……死にたくない……俺を助けて下さいお願いします……このみ様……」

「うるさいなあ……さっさとこのみの前から消えてくれないかな。あんまりしつこいと本当に殺しちゃうよ?」
 このみの目が見開かれフカヒレへの殺意が増大する。
 それがフカヒレの限界だった。
 ただの一般人ですらも感じ取れる殺気。本気で殺される。

「うっ……うあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁっ!!!!」
 フカヒレは逃げた。デイパックを抱えて脇目もふらず逃げ出す。
 殺される殺される殺される。
 何も考えずにただこのみの前から逃げ出した。


「……ほら、やっぱり逃げた」
 ぽつりと漏らしたこのみの言葉はどこか寂しさを含んでいた。


 ◆ ◆ ◆


 烏月は逃げ出したフカヒレを追う事はしなかった。
 このみの言った事はまさしく彼の本質を見抜いた物だったから。

309 :生成り姫 ◆DiyZPZG5M6 :2008/06/07(土) 04:26:23 ID:DRCu146e
 だけど蔑みはしない、あれがありふれた日常を送る者の当然の反応なのだから。
 自分とは住む世界が違う住人なのだから。
「追わないんだね、烏月さん」
「追ったところでどうにもならないよ……」
「不公平だよ……このみはこんな姿になってしまってもまだ頑張ろうとしてるのに……どうしてフカヒレさんは……」
「彼はあまりにも心が弱すぎた。いや、あれが普通の反応なんだ……」

 このみはフカヒレに対して少しだけ希望を持っていた。
 あまりにもしつこいフカヒレを本気で殺そうと殺意を向けた時、
 逃げ出さないような気概を見せてくれれば一緒に行動するつもりだった。
 だが結果は見ての通り、このみの殺気に当てられたフカヒレは一目散に逃げてしまった。
 結局フカヒレはフカヒレだった。
「心配なのかい、彼が」
「別に……きっとああいう人はゴキブリのようにしぶとく生き残るよ」

 二人だけとなった森にざあっと吹き抜ける。
 充満した血臭と死臭が風に吹かれて雲散霧消していった。
「この人達のお墓を作ってあげたいな……」
 このまま野ざらしにされるのはあまりに不憫だった。せめてもの供養をしてあげたい。
「気持ちはわかるけど生憎私達は穴を掘る道具をもっていないよ、できる限り余計な体力の消耗は抑えたほうがいい」
「そうだね……ごめんね、もっと落ち着いたらお墓作ってあげるからそれまで少し待っててね」
 このみは散乱した渚の遺体を秋生の遺体の側にきれいに並べてあげた。
 ぱっと見は寄り添うように眠る二体の遺体に見えるだろう。
 それが今のこのみに出来るせめてもの供養だった。
「行こうよ烏月さん」
 このみと烏月は二人に軽く黙祷を捧げこの場を後にした。


 森の中を歩く二人。このみは何やら考え事をしながら歩いている。
 古河秋生と古河渚の死体についてだ。
 フカヒレは渚を殺した。それは前に本人から聞いたので知っていた。
 だがフカヒレは渚の死体が移動していたことに驚愕していた。

310 :生成り姫 ◆DiyZPZG5M6 :2008/06/07(土) 04:28:21 ID:DRCu146e
 答えは単純。彼が渚を殺したと思った時にはまだ彼女には息があった。
 動かなくなった渚を見て死んだと思っていたフカヒレはその場を立ち去る。
 まだ辛うじて息のあった渚は最後の力を振り絞って歩いたのだろう。
 そして、父親の死体の側で力尽き息を引き取った。
 最期に父親の傍らで天に召されて彼女は幸せだったのだろうか? だけど――その後に……
 あの蛆虫の少女が現れたのだ。あの独特の匂いは彼女に物に間違いない。
 だけど解せない、なぜ彼女は渚だけを喰らったのか?
 側にはもう一体屍が放置されていたのだ。なのに秋生の死体には全く手がつけられていなかった。
 単純に腹が膨れて満足して食べなかったのか、それとも別の理由が――?

(ん……この匂いは……?)
 ふと発達した嗅覚が常人では嗅ぎ取ることのできない匂い再びを捉える。
 さっきの死体の血の匂い? いやそれしてはひどく不思議な匂い。
 まるで熟れ切った果物をいくつもミキサーで混ぜたような甘ったるい匂い。
 ショートケーキに塗りたくられた生クリームみたいな匂い。
 世界中のありとあらゆるお菓子よりもおいしそうな甘い匂いが幽かに漂ってくる。
「烏月さん……また血の匂いがするよ。なんだろう……血の匂いのはずなのに……すごく甘い匂いが」
「このみさん? どうしたんだ」
 このみはマタタビの匂いを嗅いだ猫のようにふらふらとした足取りで匂いの元に歩いていった。

(甘い匂いに混じってあの人の匂いもする……)
 仄かに香る蛆虫の少女の匂いと甘い血の匂いがする中心点にこのみ達はやって来た。
 あたりは何も変哲のない森、特に異常はないように見える。
 このみは注意深く周囲の様子を探る。
「烏月さんは何か解らない? 良い匂いに混じってあの人の匂いもするよ」
「私は特に何も匂わないが……」
「ん……? あれは……」
 このみは木の根元に転がる小さな瓶があることを確認した。
 ちょうどそこがあの少女と甘い匂いの発生源であるようだ。
 このみはその瓶を拾い上げる。
 栄養ドリンク剤の瓶に見えるそれは封が開けられすでに中身は空っぽだ。
 瓶の口部分にわずかに付着する茶褐色に固まった物体から強烈な匂いが立ち込めていた。

311 :生成り姫 ◆DiyZPZG5M6 :2008/06/07(土) 04:30:14 ID:DRCu146e
「あ……何これ……?」
 ひどく芳しい匂い。
 このみはとろんとした目で瓶の口に舌を伸ばしそれを舐め取る。
「ん……」
 鉄臭い血の味、なのにどんなものよりも美味しい味。
 こんな味は初めてだった。
「このみさん……何を……?」
 一心不乱に瓶を舐めまわすこのみの様子は明らかにおかしい。
「あ……烏月さん……この瓶、中身は多分血なのにすごくおいしいの」
 差し出された瓶に貼り付けられたラベルを見て烏月は驚愕する。

(馬鹿な――なんでこんな所に贄の血が!?)
 もしや桂が? 違うまだ桂は生きている。だったらなぜここにあれが存在する?
 可能性は一つ、予め贄の血が支給品として渡された事。それ以外に考えられなかった。
 そしてもう一つ、このみはここにもあの人の匂いがすると言った。
 あの人はもちろん蛆虫の少女において他ならない。
 だとすると……この瓶の中の贄の血を飲んだのは彼女なのだろうか……

 そう考えると辻褄が合う。彼女の動きそのものは素人の物、だけど異常なまでに身体能力が強化されている。
 彼女は元はこのみと同じくただの女子高生だ。
 成り立ての鬼があそこまでの力を発揮することが出来るだろうか? いや出来ないはず。
 しかも鬼に成ったばかりの人間がよりにもよって贄の血を摂取したのだ。
 鬼にとって極上の食料である贄の血の味を覚えた彼女は人を襲い続けるだろう。
 だけどただの人間の味では決して満足できない、必ずや贄の血を持つ桂を襲うだろう。
 もし桂が彼女に襲われることになったら――
 そして桂の血を全て飲み干してしまったらあの鬼は――
(桂さん――!)

「足りないよ……こんだけじゃ足りないよ……」
 このみの声に烏月は急速に現実に引き戻される。
 このみは虚ろな目でぶつぶつ独り言を唱えていた。
「もっと……食べたい……赤い血が肉が……烏月さん……さっきの所にいけば」

312 :生成り姫 ◆DiyZPZG5M6 :2008/06/07(土) 04:32:15 ID:DRCu146e
「このみさん!」
 瓶にこびり付いた血だけでもすでにこのみは人の血と肉を欲していた。
 鬼に成りたての人間にとって贄の血は強力な麻薬に等しい存在。
 このままでは完全に人を喰らう鬼に成ってしまう。
「なんで、あの血を舐めたら急に、人を、食べ――死体だから別にいいよね?」
「それだけは絶対に駄目だ! 食べたら最後このみさんは二度と人間に戻れなくなる!
今のうちに私に鬼切りを使わせるんだ! そうすれば人間に――」
「ダメぇ! だめだよ烏月さん、このみまだ何にも目的を果たしてない!
このみがここで人間に戻ってしまったらタマお姉ちゃんとの約束が守れなくなる!」

 『頑張って生きてね』
 向坂環がこのみと交わした約束。
 それが今のこのみを織り成す大本の存在。
 なぜこのみは鬼に成りながらも危うい所で人の心を保ち続けていられるのだろうか?
 おそらく環の言葉が言霊となってこのみを支配しているから、
 環の想いが死してなおこのみを人の領域に踏み止まらせているのだ。

(くっ……どうすればいい?)
 このままこのみが吸血・食人衝動を抑え続けるのは不可能だ。
 ならどうすればいい?
(やはり……ああするしかないか)
 このみの衝動を一時的にも引き伸ばす方法が一つだけあった。
 だがそれは所詮一時しのぎ、時間がたてば再び衝動が沸いてくるだろう。
 今ここで鬼切りを使ってしまうほうがよほど安全だ。
 だが烏月は彼女の思いを尊重してあげたかった。
 大切な人を全て奪われてしまって絶望し、鬼に囚われてしまっても、
 その本質は純粋でひたむきに生きる一人の心優しい少女。
 どこか似ているのだ。烏月の大切な人、羽藤桂に――――
「このみさん、私の血を飲むんだ。それでいくらかは落ち着くはず」
「烏月さんの血を……?」
 烏月は地獄蝶々を抜き、切っ先を自らの指の押し当て軽く引く。
「……ッ」

313 :生成り姫 ◆DiyZPZG5M6 :2008/06/07(土) 04:34:04 ID:DRCu146e
 軽い痛みと共に指先に赤い筋が走り血液がじんわりと滲み出す。
「烏月さん何を……!?」
「指を切ってしまった。黴菌が入ったら破傷風になってしまう。このみさんが舐めて消毒してくれいか?」
「で、でも……勢いで烏月さんを……」
「大丈夫、このみさんを信じてる」

 烏月は指をこのみの口の前に持ってくる。
 ぽたりと血の雫が地面に落ちた。
 このみはゆっくりと舌を伸ばして地面に落ちようとする血の雫を受け止める。
「ん……っ」
 そのまま口内に指を滑り込ませ傷口を優しく舐める。
 赤い鉄の香りが口の中一杯に広がっていく。
 
 ちゅぱ……ちゅぱ……
 乳飲み子のようにこのみは烏月の指を吸い続ける。
 恍惚の表情でひたすら傷口を舐める。
 血は形のある肉体の一部でありながら最も形の無い魂に近い存在。
 血液はとは魂の通貨、意志の銀板。 
 ゆえに肉よりも命の本質に近いもの、いうなれば肉は不純物の多い原油であって、血は精製されたガソリンのような物。
 このみは今、烏月の命の一部を飲んでいるのだ。
 やがて満足したのか、このみはゆっくりと指を口から放した。
「ぷは……っ」
 指と舌の間に伸びた唾液が橋を作り地面に消える。
「どう……少しでも落ち着いたかい?」
「うん……だいぶ楽になったかな」
「でもこれは所詮一時しのぎに過ぎないんだ。いずれまた吸血衝動が現れる。
もし、あなたが完全に鬼と成った時は……私は鬼切り役としてこのみさん、あなたを――殺す」

314 :生成り姫 ◆DiyZPZG5M6 :2008/06/07(土) 04:35:35 ID:DRCu146e
 
 烏月の青白く輝く右眼がこのみを凝視する。
 形を持たない鬼を見抜く見鬼の瞳、鬼切りとして必須の能力。
 その瞳はこのみの鬼を真っ直ぐ見据えていた。
 
 その身に鬼の心と人の心を宿した少女と、魔を打ち払う鬼切りの少女。
 彼女達に数奇な縁が結ばれる。
 運命の歯車がゆっくりと廻りだした。



【C-3 森・南部/一日目 午後】



【千羽烏月@アカイイト】
【装備】:地獄蝶々@つよきす -Mighty Heart-
【所持品】:支給品一式、我 埋葬にあたわず@機神咆哮デモンベイン
【状態】:身体の節々に打撲跡、背中に重度の打撲、脇腹に軽傷、右足に浅い切り傷(応急処置済み)
【思考・行動】
 基本方針:羽藤桂に会う。守り通す。
 1:桂を守り共に脱出する、不可能な場合桂を優勝させる。
 2:このみと行動を共にする。
 3:トルタ、恭介に対する態度保留。
 4:クリス、トルタ、恭介、鈴、理樹は襲わないようにする。
 5:なつきを探す。
 6:このみの鬼を斬ってやりたい。
 7:このみが完全に鬼になれば殺す。
 8:ウェストからの伝言を大十字九郎に伝える。




315 :生成り姫 ◆DiyZPZG5M6 :2008/06/07(土) 04:38:26 ID:PFnGpkPN
【備考】
 ※自分の身体能力が弱まっている事に気付いています。
 ※烏月の登場時期は、烏月ルートのTrue end以降です。
 ※クリス・ヴェルティン、棗鈴、直枝理樹の細かい特徴を認識しています。
 ※岡崎朋也、桂言葉、椰子なごみの外見的特長のみを認識しています。
 ※恭介・トルタが殺し合いに乗っている事を知りません。
 ※ドクター・ウェストと情報を交換しました。
 ※蛆虫の少女(世界)を警戒しています。



【柚原このみ@To Heart2】
【装備】:包丁、イタクァ(3/6)@機神咆哮デモンベイン、防弾チョッキ@現実
【所持品】:支給品一式、銃弾(イタクァ用)×12、銃の取り扱い説明書、鎮痛剤(白い粉が瓶に入っている)
【状態】:悪鬼侵食率25%、リボン喪失、右のおさげ部分が不ぞろいに切り裂かれている、倫理崩壊
【思考・行動】
基本行動方針:何を犠牲にしても生き残り、貴明と環の仇を討つ。
 0:柚原このみのまま、絶対に生き残り、主催者に復讐を遂げる。
 1:ファルと世界に"復讐"をする。
 2:気に障った人間は排除する。攻撃してくる相手は殺す。
 3:烏月と共に行動し、羽藤桂を捜索。その後に人間に戻してもらう。
 4:最悪、一日目終了時の教会でファルを殺す。


【備考】
※制服は土埃と血で汚れています。
※世界が使う“清浦刹那”という名前を偽名だと知りました。
※ファルの解毒剤の嘘を看破しました。見つけ出して殺害するつもりです。
※第一回放送内容は、向坂雄二の名前が呼ばれたこと以外ほとんど覚えていません。
※悪鬼に侵食されつつあります。侵食されればされるほど、身体能力と五感が高くなっていきます。
※制限有りの再生能力があります。大怪我であるほど治療に時間を必要とします。
 また、大怪我の治療をしたり、精神を揺さぶられると悪鬼侵食率が低下する時があります。

316 :生成り姫 ◆DiyZPZG5M6 :2008/06/07(土) 04:39:39 ID:PFnGpkPN
※フカヒレのここまでの経緯と知り合いや出会った人物について把握済み。
※烏月と行動を共にすることにより、精神状態はやや安定に向かっています。


 ◆ ◆ ◆


「ハァッ……ハァ……なんで俺ばっかり畜生……畜生ぉ……」
 このみの下から情けなく逃げ出したフカヒレは膝をついて息を落ち着かせる。
 周りを見ると森を抜け出して街に出ていたようだ。
 西洋建築物が並ぶ綺麗な街並み、だけどフカヒレにとってそんな事はどうでもよかった。
「何でみんな俺ばっかり攻めるんだぁぁ……俺は悪くねぇ……」
 そうだ誰もが自分の身が可愛いに決まっている。
 誰かの為に命を投げ出すなんてカッコつけてるだけだ。
 その行為をする自分に酔っているだけなんだ。
 このみの言う『タマお姉ちゃん』だって死ぬ事が怖かったに違いない。
「内心チビりそうになってたに決まってる……バカだぜ自己犠牲に酔った末に首を爆破されるなんてな、へへ」
 このみが聞いたら一万回は殺されそうな台詞をひとりごちる。
「くそっ糞ッくそぉ……誰か俺を助けろよ……畜生……」
 彼の内には自省という考えは存在してなかった。
 自分の行為は当然のことであって文句言われる筋合いなって一片もない。
 このまま野たれ死ぬなんて真っ平ごめんだ。
 すぐに誰か頼りになりそうな人間と合流するのだ。
「へへ……良い事考えた。お、俺をコケにしてくれたあいつらにし、仕返ししてやるぜ」

 合流した人間にこのみと烏月の悪評をバラまいてやる。あいつらは殺人鬼だって。
 これで奴らも終わり、包囲網の出来上がりだ。

「お、俺って天才じゃね? ふひひ、や、やっぱ俺ってやればできる子だぜ、
お、俺は、あ、あいつらに勝てないけど、たた、戦わずして勝てる方法じゃんこれ? ふ、ふひひ」

317 :生成り姫 ◆DiyZPZG5M6 :2008/06/07(土) 04:40:44 ID:PFnGpkPN
 
 決して自分の非を認めず自分勝手な未来予想図を描く。
 この後に及んでこんな稚拙な発想しかできないのがフカヒレがフカヒレたる所以だった。



【E-3 中世西洋風の街/一日目 日中】


【鮫氷新一@つよきす -Mighty Heart-】
【装備】:ビームライフル(残量70%)@リトルバスターズ!
【所持品】:シアン化カリウム入りカプセル
【状態】:このみへの恐怖心、疲労(極めて大)、全身打撲、顔面に怪我、鼻骨折、奥歯一本折れ、
     口内出血、右手小指捻挫、肩に炎症、内蔵にダメージ(大)、眼鏡なし
【思考】
基本方針:死にたくない。
 0:誰か俺を助けろよぉ……
 1:頼りになる人間を見つけ守ってもらう、そしてこのみと烏月の悪評を広める
 2:知り合いを探す。
 3:蛆虫の少女(世界)、ツヴァイ、ドライ、菊地真、伊藤誠を警戒
 4:強力な武器が欲しい。


【備考】
※特殊能力「おっぱいスカウター」に制限が掛けられています?
 しかし、フカヒレが根性を出せば見えないものなどありません。
※自分が殺した相手が古河渚である可能性に行き着きましたが、気づかない不利をしています。
※混乱していたので渚砂の外見を良く覚えていません。
※カプセル(シアン化カリウム入りカプセル)はフカヒレのポケットの中に入っています。
※誠から娼館での戦闘についてのみ聞きました。
※ICレコーダーの内容から、真を殺人鬼だと認識しています。

318 : ◆DiyZPZG5M6 :2008/06/07(土) 04:42:56 ID:PFnGpkPN
投下終了です
矛盾等があれば指摘よろしくお願いします
なおタイトルの元ネタは夢枕獏の小説「陰陽師・生成り姫」よりです

319 : ◆DiyZPZG5M6 :2008/06/07(土) 04:56:18 ID:PFnGpkPN
すみませんフカヒレの時間帯の日中は誤りです
正しくは午後です。wiki収録の際訂正お願いします

320 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 12:06:20 ID:M9B9KfCy
投下乙です。
むぅ、フカヒレ哀れ…まあ自業自得なんだが、頼りになる人が仲間になった以上ある意味当然だわなぁ。
しかしこのみは凄まじい貫禄があるな、思わず様をつけたくなるくらいに…

しかし桂ちゃんの誘い受けスキルばかり目立っていたが、実は烏月さんも結構高い百合スキル持ちなのだろうかwww

321 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 18:20:06 ID:aGtVrFSx
投下乙です!
寝こけていて支援でけずに済みません!
スゲー! 素晴らしくも何というウズコノですよ!
文章の端正さとか伝奇蘊蓄とか原作アカイイトを思わせます!
悪鬼化したこのみがここまで可愛く健気に思える日がくるとは思わなかったですw
それに比べてフカヒレはもうどうしようもねーなwww
そういう誠実さではほんと誠氏ねなら逃げなかっただろうと思うとフカヒレ最低だw
念願かなってこのみから逃げ出せたわけですが、この先どうなることやら・・・
対主催をひっかきまわしてくれそうで楽しみです
烏月さんのキレイな元マーダーらしいクールなところもいいですね
かなり良かったです

>>320
烏月さんは桂ちゃんを一目惚れさせて百合世界へ引きずりこんだ恐ろしい子だぜ!

322 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 18:28:21 ID:QXpk8Bkt
投下乙です
キャラがすごくいいなあ、すごくらしく動いてる
特にフカヒレのある意味での人間らしさは今のここでは貴重だし、たまりませんw
やたらと仲の良い対主催をどう混乱させてくれるかも楽しみです

323 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/07(土) 23:59:02 ID:pyEPZLZg
投下乙
フレヒレの駄目っぷりが光るなあ
まあ、これが一般人の反応とは思うんだが
そして、このみ烏月ペアの絡みがよい味出してる

324 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/08(日) 01:59:21 ID:3RJ0UZ1g
>>321
む、それもそうかw
つまり烏月さんこそ真の魔性か。
このみ逃げー…なくていいな、もっとやれ!

325 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/08(日) 10:10:01 ID:Q8PtVpnk
投下乙です
凄い……作品だと思います
これだけ、各キャラを"らしく"動かす事が出来るのは氏ならでは
薀蓄含むアカイイト時空にフカヒレのダメっぷり
悪鬼になってオリキャラ化は免れないはずなのに、この話のこのみは確かにこのみです!
烏月さんのキャラ背景、フラグもグッと濃くなって……言うこと無しですね。GJ!

326 : ◆UcWYhusQhw :2008/06/09(月) 22:31:08 ID:MFTMUxwo
「それにしても酷い荒れようね……」

礼拝を終えたファルは大聖堂の状況を確認していた。
本来荘厳であるはずの大聖堂。
だが今はその姿は見る影もなく荒廃している。
おそらくなにかが起きたのだろうとファルは思い溜め息をつく。

「何が起きたのかしら……怖いわね」

ファルはその荒れている状況を見て恐怖を感じた。
ファルは一回だけ身震いをし周囲を見渡す。
そこでファルが見つけたもの。

「……楽譜?……蒼い鳥か……」

それは彼女の恋人の支給品である蒼い鳥の楽譜だった。
ファルはそれに興味を示し散乱する楽譜を拾い集める。
頭の隅に残っている歌というキーワード。
もしかしたら記憶に関係するものかもという淡い期待を持って。

(蒼い鳥……私の幸せは近くにあるのかしら……パパ……ママ……)

歌詞を眺めファルが思う事は顔も分からない愛しいパパ、ママの事。
もし蒼い鳥がいるのなら私にパパとママと会わせてと祈りながら。
だけどファルは知らない。
元々彼女にパパとママなんて存在しない事を。
ただありえない幻想を彼女は信じ続ける。

「――蒼い鳥 自由と孤独 二つの翼で〜♪」

そして気がついたら彼女は歌っていた。

327 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:31:32 ID:/gpFXJzU


328 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:32:23 ID:RMFx7mEL


329 :ハジマリとオワリへのプレリュード:2008/06/09(月) 22:33:29 ID:MFTMUxwo
殆ど無意識のうちに。
彼女の心の底に根付いている歌がそうさせたのだろうか。

「あの天空へ 私は舞う 遙かな夢へと〜♪」

それは誰にも分からないけど。
でも確かに彼女は歌っていた。
彼女の歌声が荒れ果てた聖なる場所に響き続ける。

「この翼もがれては 生きてゆけない私だから――」

記憶を失った彼女を支えてる翼。
歌と愛しい人達。
しかし彼女が愛する両親は元より存在するわけもなく。
また恋人も彼女が愛する恋人ではない。
もしその事実に彼女が気付いたらどうなるのだろうか?
それはまだ誰も知る由がなかった。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「……礼拝だけで済ますつもりが歌ってしまったわね……」


330 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:33:41 ID:kF1yeZaV



331 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:34:26 ID:kF1yeZaV



332 :ハジマリとオワリへのプレリュード:2008/06/09(月) 22:34:40 ID:MFTMUxwo
ふう、と彼女は溜め息をつく。
気が付いたらこの『蒼い鳥』を歌っていた。
それほどまでに自分は歌がすきだったのだろうかと彼女は思う。
くすっと笑みを零す。
ファルはそのことが嬉しかった。
自分が冷徹な人間だと思っていたがこのような一面があると思ったからだ。
その笑顔はとても綺麗で可憐だった。

「……? あれは?」

ふと、ファルの目に留まったもの。
それは床にひっそりと設置されている扉。
ファルはそれに神秘的なものを感じ扉の方に近づく。

「……何かしら?……え?……きゃあ!?」

彼女が調べようと扉を開ける。
その瞬間光に包まれた。
ファルはなすすべなく光に巻き込まれた。

そして荒廃した大聖堂には本来あるべき姿に戻る。
それはただ静かに。
例えそれが荒されていようとも。
神が宿る荘厳な場所には違いなかった。





333 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:34:41 ID:/gpFXJzU


334 :ハジマリとオワリへのプレリュード:2008/06/09(月) 22:35:13 ID:MFTMUxwo
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「おい……嘘だろ……鈴……ふざけんな……糞……」
「……藤林さん」
「……そんな……サクヤさん」
「てけり・り……」

前回の放送と比べると一瞬と称するに等しい放送が終わった。
その放送は傍から見るとわきあいあいしてた真人たちを凍りつかせるのに充分だった。

真人はぎりぎりトーニャの制裁を耐え切り放送を聴き鈴の名前を聴いた瞬間うな垂れた。
トーニャの制裁を受けたときとは違った疲れた姿を見せている。
何か憑き物が落ちたような様子でひっそりとしていた。

「井ノ原さん……」

トーニャはグッピーといわず苗字で彼を呼ぶ。
真人から鈴の事は聞いていた。
どれだけ大切にしていたかを。
それ故に真人の落ち込みが何となく解っていた。
だが真人は首を振り目を細め

「……筋トレ行って来るぜ」
「……解りました」

そういって部屋から出ていった。
その背中は何処か寂しそうで。

335 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:35:27 ID:kF1yeZaV



336 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:35:27 ID:6mnRT9vf


337 :ハジマリとオワリへのプレリュード:2008/06/09(月) 22:36:20 ID:MFTMUxwo
あえてそういって出て行ったのは強がりか。
それとも哀しさを見せないためか。
それはトーニャはよく分からないけど。
でも真人が一人でいたいのは理解が出来た。
だから見送った。

時間が哀しみを癒してくれるならそれでいいかとも思いつつ。




真人が去ってから結構時間が経つ頃

(……結局遺品になってしまいましたね)
「てけり・り……」

杏が渡した智天使薬。
それをトーニャは見つめる。
結局もう一度会う約束は叶わなかった。
杏がどうやって死んだかは知るわけがない。
たった一度会っただけ。
それでも冥福を祈らずに入られなかった。
ダンセイニがふにふにとトーニャを触る、触手で。
本来だったらうっとしい以外の何物でもないが今回はそれが何処か心を休めた。

(……このまま感傷に浸ってる場合じゃないですね)

トーニャはそれでスパッと思考を入れ替える。
考えるのは禁止エリアの事。
その一つはトーニャがいる隣のエリアになった。
恐らく考えられる事は


338 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:36:30 ID:6mnRT9vf


339 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:36:39 ID:kF1yeZaV



340 :ハジマリとオワリへのプレリュード:2008/06/09(月) 22:36:59 ID:MFTMUxwo
(私たちを含め近くに人が集まりすぎた……もしくは行動範囲を狭め意図的に人を接触する機会を増やすって事か……だとしたらチャンス)

人が近くにいるということ、もしくは接触させる可能性を上げるという事。
だとしたらチャンスでもある。
殺し合いにのってない人物と接触するチャンス。
だが殺し合いに乗っている人物の可能性も高い。
それを含めてもトーニャが出した結論は

(いい加減ここから離れる時でしょう。施設による人物も多いと思いますが殺し合いに乗ってる人間も来るでしょうし……こことは違う施設に寄るのも手でしょうね)

寺から離れる事を決断した。
そう決断したトーニャは行動を起こそうと奏に話しかけようとする。
しかしトーニャは奏が沈んでるのを見た。
恐らくは彼女が呼んだサクヤの事だろう。
トーニャ自身はあった事が無いが聞いた事ことから判断するとそれなりの強さだったのだろう。
そのサクヤが死んだという事はやはり強者が多いとも言える事。
トーニャは気を引き締め奏に話しかける。
彼女を落ち着かせるためだ。

「奏さん、大丈夫ですか?」
「……はい、大丈夫です。ここで出会った人が呼ばれて少し動転しました」

奏は首を盾に振って大丈夫ですとアピールする。
きっと殺し合いとは程遠い世界で生きていたのだろうか。
彼女の優雅な立ち振る舞いを見るとそう思ったりもした。

「これが殺し合いなんですね……」
「そうですね……ですから止める為動きましょう」
「はい、頑張りましょう……りの、どうか無事で」

奏がそういって顔を決意にみちた顔になる。
トーニャはもう、大丈夫だろうと結論付けて今後の方針を話そうとする。

341 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:37:45 ID:kF1yeZaV



342 :ハジマリとオワリへのプレリュード:2008/06/09(月) 22:37:48 ID:MFTMUxwo
その時だった。


「大変だ! 俺のあまりの筋肉の鍛えぶりに俺の筋肉から子供が出来た! 名付けて筋肉ベイビーだ!」


ズテッとトーニャがこける。
真人が元気になったのはいいがいきなりこれかと。
トーニャは怒りが増すのを感じわなわなと震え振り向き

「……心配したというのにこれですか? ええ! このグッピー! 筋肉も脳に来ましたか! いや遅いぐらいですね! 
 元々脳筋ですもんね! 流石全身筋肉! 『体は筋肉で出来ている、血潮は上腕二頭筋で、心は大胸筋』といつかいいそうですね! 
元々人は体は筋肉できてますがこの際関係無い! いいですかだからあな……って!? えええええええええ!?」

トーニャが指を指して瞬間トーニャの動きが止まった。
そして驚愕。
何故なら真人がお姫様抱っこをした先に女の子がいたのだから。

「……ふぇ?」

ただ指を指された白い髪を持つ少女――ファルシータ――はただ訳が解らず首を傾げただけだった。







343 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:37:59 ID:/gpFXJzU


344 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:38:28 ID:6mnRT9vf


345 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:38:32 ID:kF1yeZaV



346 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:39:18 ID:kF1yeZaV



347 :ハジマリとオワリへのプレリュード:2008/06/09(月) 22:39:22 ID:MFTMUxwo
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「つまりは記憶を失ってる……そういいたいんですか」
「ええ……そうよ」

トーニャ達はまずファルと情報交換をした。
そこでファルはやっとこの殺し合いについて理解することが出来た。
ファルが思ったよりもすんなりと飲み込めることが出来た。
ファル自身が驚くぐらいに。
前から知っていたかのように。
無論真人の筋肉から生まれた訳でもなく奏と同じ方法で呼ばれたことが解った。
何故か飛ばされた先がむさ苦しいの腕の中というある意味イジメ的な行為だったが。

「……しかし本当ですか? 記憶を失ってるって」
「本当よ! だって名前すらわかんないし……私どうしたら……」

しかしトーニャは記憶喪失に関して懐疑的だった。
こんな状況で記憶を失うのだろうかと。
頭を打ったというのは傷を見れば解る。
しかし、だ。
普通男が襲った女を生かすだろうか。
こんな状況だ、まず生かしたら襲った人間の悪評を伝えるにちがいない。
殺したと勘違いしたのかもしれないがまず確かめるはず。

それ故にトーニャは信じられずそして何よりこの可能性があったからだ。


348 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:39:48 ID:6mnRT9vf


349 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:40:10 ID:kF1yeZaV



350 :ハジマリとオワリへのプレリュード:2008/06/09(月) 22:40:18 ID:MFTMUxwo
「記憶喪失を装って私たちに近づきたいだけじゃないでしょうか?」
「違うわ! そんな事ない!」

それは記憶喪失を装って殺し合いに乗ってない人間に近づく可能性だ。
そうすればなんの危険性もなしに近づけるだろう。
そして潜り込んだ隙に人を殺したりするに違いない。
そういう危険性もあるとトーニャは判断したからだ。

「おいおい、もういいじゃねえか」
「そうですよ、トーニャさん怯えてますよ? 彼女」
「わかりましたわ……とりあえずは信用しましょう」
「……よかった」

真人や奏のひき止めにトーニャは渋々引き下がる。
ファルは信用されたのに安心したのか一息ついた。
だが、トーニャはあくまで渋々引き下がっただけだ。
信用はしてない。
彼女が何故そこまで信用してないかというとそれは

(……何故そこまで冷静なんですか? 己のアイデンテティーというものを失ってどうしてそこまで冷静にいられるのです。普通はもっと怯えてもいいはずなのに)

ファルが冷静すぎる事。
本来記憶というものは人が自己を認識できるたった一つのもの。
それを失ったらどうだろうか?
しかもこんな殺し合いの場所で。
トーニャは自身がなった場合どうだろうと考えた。
少なくともここまで冷静になれないはずだ。
そうと思えるぐらい異常な冷静さだ。


351 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:40:55 ID:kF1yeZaV



352 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:41:13 ID:i/BWA35g


353 :ハジマリとオワリへのプレリュード:2008/06/09(月) 22:41:19 ID:MFTMUxwo
「見てくれ! この筋肉どう思う?」
「……暑苦しいわ」
「ノオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
「ま、真人さんしっかり」
「奏はどうおもう?」
「……いや、あんまり……」
「ノオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
「てけり・り」
「お前だけは味方だよな!」
「……てけり・り」
「ノオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

(駄目だ……こりゃ……)

トーニャは自分達の連れがお人好し過ぎることに溜め息をついた。
この二人なら騙される、そんな確信めいたものがあった。

「……疲れたわね」
「あ、お風呂がありますよ、入りますか?」
「いいかしら? お借りするわね奏さん」

ファルが奏にお風呂を勧める。
ファルがその好意に甘えてお風呂に向かう。
その光景を眺めてたトーニャが思いつく。

(ちょっと……確認して見ましょうか)

トーニャがある行動を思いつく。
ファルが大丈夫かどうかを確かめる為。


354 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:41:34 ID:/gpFXJzU


355 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:41:54 ID:6mnRT9vf


356 :ハジマリとオワリへのプレリュード:2008/06/09(月) 22:42:38 ID:MFTMUxwo
それが事件を起こすことも知らずに。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「ふう……さっぱりしたわね」

ファルは風呂から上がり皆のいる場所に向かう。
男がいたが安心は出来そうな人達だった。
利用という言葉が浮かんだが暫くともに行動しようと思った。

(……殺し合いね……何故かしら? どうしてこんなにも私はあっさりと受け止める事ができたの?)

本来なら巻き込まれて恐怖に怯える事もしただろう。
なのにあっさりと受け止めた。
それが当然の如く。
そう思いつつも真人たちがいる部屋に向かう。
だがそこに待ってたのは厳しい顔をするトーニャ。
ファルはその表情に怯えつつもトーニャと対面した。

「……聞きたい事があります」
「……な、何?」

トーニャがファルを睨む。

357 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:42:38 ID:kF1yeZaV



358 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:43:07 ID:6mnRT9vf


359 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:43:33 ID:kF1yeZaV



360 :ハジマリとオワリへのプレリュード:2008/06/09(月) 22:43:46 ID:MFTMUxwo
ファルは何か自分がやらかしてしまったのかと少しだけ焦った。
そしてトーニャが出したのに息がつまる気がした。
そうそれは

「……失礼ですが鞄の中身を見させてもらいました。イマイチ信頼できなかったので……それでこれは何処で?」
「……そ、それは知らないわ……最初からもっていたのよ」

鈍く光るわっかのようなもの。
そうそれはファルが手に入れた朋也の首輪。
ファルは自分が奪ったという事を言うわけにはいかなかった。
例え死者の首でも切り取って手に入れたといえば疑われるに違いないから。
だが最初から持っていたという言葉が悪かった。

「最初から?……という事は殺し合いに乗っていた可能性もあるんですね」
「なんでそう決め付けるのよ!」
「決め付けてる訳じゃありませんよ。ただ記憶がない以上殺し合いに乗ってないことも証明できないでしょう?」
「……それは」

トーニャはこの首輪を見た時点で信頼する気が無くなった。
もし彼女がいう記憶喪失後に手に入れたのならそれも怪しい。
もし他者の首を掻き切って手に入れたのならやはりその冷静さが可笑しいのだ。
記憶が失った状態で人の首を切る、正気の沙汰じゃない。
拾ったという可能性もあるがだったらそういえばいい。
そして本当に記憶失った場合。
人を殺して手に入れた、死体から手に入れた、拾った、その3パターンが考えられる。
後ろ2つはシロだが最初はクロである可能性が非常に高い。
まああくまで記憶失っていた場合だ。
失ってない可能性の方が高いといえるのに
どちらにしろもうトーニャにはファルを信用する気がなかった。
最初尋ねた時目が泳いでいた。
そして今言いよどんでいる。

361 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:43:47 ID:/gpFXJzU


362 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:44:21 ID:kF1yeZaV



363 :ハジマリとオワリへのプレリュード:2008/06/09(月) 22:44:33 ID:MFTMUxwo
それが証拠だという如く。

「私は貴方が信用できません。残念ですが行動もともにしたくないです」
「そんな……決め付けで!」

ファルは少しだけ焦っていた。
首輪を取ったのは事実である。
だが殺し合いに乗ってる訳ではない。
彼女にとっては、ともに行動してほしい人がほしいだけなのだから。

「あくまで可能性の話です。じゃあ何故貴方はそんなに冷静なのですか? 逆に不気味ですよ」
「……っ」

ファルは自分でも理解できない冷静さを指摘された。
思えば沢山思い当たる節がある。
それ故に反論すら出来なかった。
それが決定打になりトーニャは無慈悲に宣告する。

「決まりですね。では……」
「……もういいじゃねえか、トーニャ」

宣告は告げられなかった。
そう、止めたのは筋肉ほとばしる男、真人。
トーニャと行動し続けた彼がトーニャを止めた。

「……何故ですか?」
「可能性ばっかで責めんじゃねえよ。殺し合いに乗ってない可能性だってあるんだろ」
「……それは」
「彼女あんなに怯えてるじゃねえか……無邪気な目をしてるし俺は彼女を信じるぜ」


364 :ハジマリとオワリへのプレリュード:2008/06/09(月) 22:45:10 ID:MFTMUxwo
それが真人の出した決断だった。
確かにトーニャの言い分にも一理ある。
だがそれはあくまで可能性の話。
のってない可能性だって充分あるのだ。
そして真人が助けられなかった少女、このみ。
それにファルが被ったのかもしれない。
今度こそ信じようとさせたのかも知れなかった。

「……甘いですね、井ノ原さん」
「……ああ」

トーニャは軽く真人に失望しつつだが真人らしいとも思えた。
だけどそれでもトーニャにはファルを信用する気にはならなかった。
だからこそ彼女は決断する。

「少し廻りを探索してきます……それまでに井ノ原さんが変わらないのなら……私は切り捨てます」
「……わかった」

真人との決別の道を。
簡単な話。
真人は甘く人を信じることを選んだ。
トーニャは冷静に人を信じなかった。
ただそれだけの事。
それが道を分かつ事になるとしても。
彼らはその決断を鈍らせなかった。

「それでは……とりあえず、またきます。変わらないと思いますが」

そういってトーニャは部屋から出て行った。
少し寂しそうに。


365 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:45:35 ID:kF1yeZaV



366 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:45:43 ID:i/BWA35g


367 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:46:17 ID:/gpFXJzU


368 :ハジマリとオワリへのプレリュード:2008/06/09(月) 22:46:35 ID:MFTMUxwo
「トーニャさん!」

その流れを見ているだけだった奏が部屋を出て行ったトーニャを追う。
その奏をトーニャは一瞥し

「奏さん、貴方はどうします?」
「……え?」
「彼女を信じますか? それとも信じない?」
「……それは」
「貴方自身で決めてください」

そういってトーニャは去っていく。
廊下に残された奏一人。

(私は……)

彼女が選ぶ道は?

【C-5 寺の居住区廊下/一日目/日中】


【アントニーナ・アントーノヴナ・二キーチナ@あやかしびと −幻妖異聞録−】
【装備】:ゲイボルク(異臭付き)@Fate/stay night[Realta Nua]
【所持品】:支給品一式、不明支給品0〜2、スペツナズナイフの刃
      智天使薬(濃)@あやかしびと−幻妖異聞録−、レトルト食品×6、予備の水
【状態】:健康。
【思考・行動】
基本方針:打倒主催
0:たまご風味のグッピーや奏と行動?
1:とりあえず寺周辺を探索。
2:その後、真人を切り捨てるかどうかを決断。ファルは信用する気にはなれない。

369 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:46:37 ID:kF1yeZaV



370 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:47:02 ID:6mnRT9vf


371 :ハジマリとオワリへのプレリュード:2008/06/09(月) 22:47:20 ID:MFTMUxwo
3:神沢学園の知り合いを探す。強い人優先。
4:主催者への反抗のための仲間を集める。
5:地図に記された各施設を廻り、仮説を検証する。
6:ティトゥス、クリス、ドライ、このみを警戒。アイン、ツヴァイも念のため警戒。
7:状況しだいでは真人も切り捨てる。
【備考】
※制限によりトーニャの能力『キキーモラ』は10m程度までしか伸ばせません。先端の金属錘は鉛製です。
※真人を襲った相手についてはまったく知りません。
※八咫烏のような大妖怪が神父達の裏に居ると睨んでいます。ドクターウェストと情報交換をしたことで確信を深めました。
※杏、ドクターウエストと情報交換をしました。
※奏と情報交換をしました。
【トーニャの仮説】
地図に明記された各施設は、なにかしらの意味を持っている。
禁止エリアには何か隠されてかもしれない。




【神宮司奏@極上生徒会】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式。スラッグ弾30、ダーク@Fate/stay night[Realta Nua]、レトルト食品×6、予備の水
      SPAS12ゲージ(6/6)@あやかしびと −幻妖異聞録−、不明支給品×1(確認済み)
【状態】:健康。爪にひび割れ
【思考・行動】
0:ファルを信用するかしないか決める。
1:自分にしか出来ない事をしてみる。
2:蘭堂りのを探す。
3:できれば、九郎たちと合流したい。
4:藤野静留を探す。
5:大十字九郎に恩を返す。
【備考】

372 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:47:31 ID:kF1yeZaV



373 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:47:49 ID:6mnRT9vf


374 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:47:59 ID:i/BWA35g


375 :ハジマリとオワリへのプレリュード:2008/06/09(月) 22:48:15 ID:MFTMUxwo
※加藤虎太郎とエレン(外見のみ)を殺し合いに乗ったと判断。
※浅間サクヤ・大十字九郎と情報を交換しました。
※ウィンフィールドの身体的特徴を把握しました。
※主催陣営は何かしらの「組織」。裏に誰かがいるのではと考えています。
※禁止エリアには何か隠されてかもと考えてます。
※トーニャ・真人と情報交換しました。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「あの、真人さん信じてくれて有難うございます」
「いいって事よ。筋肉が信じろといったからな」
「は、はあ。あ、そうだ!」
「ん?」
「お礼にラザニアを作ってみます……私もお腹が減りましたし」
「そうか、ありがとよ」

そうファルは無邪気に笑い台所の方に歩いていく。
それを真人は笑顔で見送った。

(『今度』ばっかりは後悔したくねえんだ……『今度』ばかりは)


376 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:48:16 ID:kF1yeZaV



377 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:48:32 ID:6mnRT9vf


378 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:48:41 ID:Alu/njEp



379 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:49:02 ID:kF1yeZaV



380 :ハジマリとオワリへのプレリュード:2008/06/09(月) 22:49:12 ID:MFTMUxwo
真人が思い浮かぶのは『前回』の事。
真人が『前回』体験した悪夢。

(俺のミスであの少女を殺しちまった。信じなかったばっかりに)

真人が『前回』救えなかった少女。
儚げで、でも何処か明るかった少女。

(そして俺も死んじまって……気がつけばもう一度殺し合いをしろってか)

死んだはずなのにもう一度巻き込まれてしまった。
だけど。
だからこそ。
もう一度救える命があるのなら救いたい。
そう真人は思った。
このみの時だってそうだった。
あの時もう少し踏ん張っていればと思う。
もう後悔はしない。
だからこそ疑われた少女を信じることにした。

(ちょっと馬鹿をやりつつ見守ったが……そろそろか)

だからこそ真人は日常を演じてきた。
トーニャと一緒に。
できる限りの間。
しかし今。


381 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:49:46 ID:kF1yeZaV



382 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:49:49 ID:Alu/njEp



383 :ハジマリとオワリへのプレリュード:2008/06/09(月) 22:50:03 ID:MFTMUxwo
(動きはじめっか。「今回」の殺し合い)

真人は動く。
新たな決意の元に。

【C-5 寺の居住区畳の間/一日目/日中】



【井ノ原真人@リトルバスターズ!】
【装備】:僧衣、木魚、マッチョスーツ型防弾チョッキ@現実【INダンセイニ@機神咆哮デモンベイン】
【所持品】:餡かけ炒飯(レトルトパック)×3、制服(破れかけ)
【状態】:、胸に刺し傷、左脇腹に蹴りによる打撲、胸に締め上げた痕、全身にぬめり
【思考・行動】
基本方針:リトルバスターズメンバーの捜索、及びロワからの脱出
0:ボス狸や奏と行動。筋肉担当?
1:ファルを信じる。できればトーニャも一緒に行動したい。
2:理樹や鈴らリトルバスターズのメンバーや来ヶ谷を探す。
3:主催への反抗のために仲間を集める。
4:ティトゥス、クリス、ドライを警戒。
5:柚原このみが救いを求めたなら、必ず助ける。
【備考】
※防弾チョッキはマッチョスーツ型です。首から腕まで、上半身は余すところなくカバーします。
※現在、マッチョスーツ型防弾チョッキを、中にいるダンセイニごと抱えています。
※真と誠の特徴を覚えていません。見れば、筋肉でわかるかもしれません。
※真人のディパックの中はダンセイニが入っていたため湿っています。
※杏、ドクターウェストと情報交換をしました。
※奏と情報交換をしました。
※大十字九郎は好敵手になりえる筋肉の持ち主だと勝手に思い込んでいます。




384 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:50:11 ID:6mnRT9vf


385 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:50:27 ID:kF1yeZaV



386 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:50:45 ID:Alu/njEp



387 :ハジマリとオワリへのプレリュード:2008/06/09(月) 22:50:47 ID:MFTMUxwo
【ダンセイニの説明】
アル・アジフのペット兼ベッド。柔軟に変形できる、ショゴスという種族。
言葉は「てけり・り」しか口にしないが毎回声が違う。
持ち主から、極端に離れることはないようです。
どうやら杏のことを気に入ったようです。



【ファルシータ・フォーセット@シンフォニック=レイン】
【装備:包丁(少々刃毀れしています、返り血は拭き取ってあります)、デッキブラシ、イリヤの服とコート@Fate/stay night[Realta Nua]】
【所持品:リュックサック、救急箱、その他色々な日用品、ピオーヴァ音楽学院の制服(スカートがさけている)@シンフォニック=レイン
 首輪(岡崎朋也に嵌められていたもの)】
【状態:重度の記憶喪失(僅かだが記憶が戻り始めている)、頭に包帯、体力疲労(中)、精神的疲労(中)、後頭部出血(処置済み)、空腹】
【思考・行動】
 基本:他者を利用してでも絶対に生き延びる。自分の記憶を取り戻したい パパとママと恋人を探したい
 0:他者を利用してでも、自身の生存を最優先する。
 1:真人と行動。トーニャには不信感。奏は未定
 2:首輪を外せる人間を探す。
 3:男性との接触は避けたいが、必要とあれば我慢する
 4:パパやママ、恋人を探し出す



【備考】
※ファルの登場時期は、ファルエンド後からです。
※頭を強く打った衝撃で目が覚める前の記憶を失ってますが、徐々に思い出しつつあります。
※当然バトルロワイアルに参加していること自体忘れてます。
※教会に倒れていたこととスカートが裂けてたことから、記憶を失う前は男性に乱暴されてたと思ってます。





388 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:51:12 ID:6mnRT9vf


389 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:51:12 ID:i/BWA35g


390 :ハジマリとオワリへのプレリュード:2008/06/09(月) 22:51:44 ID:MFTMUxwo
投下終了しました。
支援有難うございます。
誤字矛盾があったら指摘お願いします。


タイトルは「ハジマリとオワリへのプレリュード」です。

391 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:52:02 ID:Alu/njEp



392 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:53:12 ID:Alu/njEp



393 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:54:46 ID:i/BWA35g
投下乙!
なんだか、どの人も胸の中に何かを隠し持って……途端に不穏ですね。
しかも、まさかの……このぐにょりとしたシチュ、どう動くか続きが非常に楽しみです。
――GJでした。

394 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:55:22 ID:6mnRT9vf
投下乙です。
俺は歴史的ターニングポイントに立ち会ったのかっ!?
真人ーーーっ!?
むっ、無限転生者!?
ちょwww何シリアスになってるの!?
クールでクレバーなトーニャさんはとてもらしい行動だけど、ついに筋肉コンビ解散か……っ!?

スゲー。めちゃくちゃ続きが気になります。
面白かったです!

395 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:55:23 ID:aZgqbmiX
投下乙。
おお、真人……まさか、まさかのリピーターとは。
いい具合の疑心暗鬼とチーム崩壊の兆し、これもまたバトルロワイヤル。
良い仕事でした。

396 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:56:58 ID:Alu/njEp
あれ?変だな。真人がかっこよく見えてきた。って、まさかリピーター!?

397 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:57:06 ID:kF1yeZaV
投下お疲れ様でした!
まさかのリピーター、そしていい疑心暗鬼と真人のらしさ、かっこよさ。
色々と密度の高い話で面白かったです。


398 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 22:58:11 ID:RMFx7mEL
投下乙です
無限の筋肉製、筋肉ベイビー等の笑いアリ
自然な流れでの疑心暗鬼
そして、真人リピーター化
色々な要素が上手く揃った、見事な良作でした

399 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 23:06:28 ID:T4y8TIzH
投下乙です。

なん…だと…?
よりにもよって一番ありえなさそうなキャラがリピーター!?
しかし筋肉組が別れると何処で和めば良くなるのか…

ファル様は…何だろう…さすがとか言いたくなる…

400 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 23:07:30 ID:T4y8TIzH
週刊ギャルゲロワ2nd第12号(6/9)
先週の主な出来事

          , -―- 、 _ __
          / ,,_∠ -` `"´ 二ヽ
         / , -v'´  /.  /   l ヽ \rv、
        ,rァ-‐r-‐==ア /  l  l  l  ヽ-'-、
      ./イ  〈- rニ'´-rH、 ,l-l‐!-、 l i ヘl  l
    /    \__>'´ ̄lW! リ VV リ l从l | | l |  |
   /    _, -┘li l! | ,r==  ==xリl / lノ i |    ぱんぱかぱーん! 現時刻をもって
  ./     /∧ | N{トl    _'___    イ/l/|  | |   フカヒレさんには戦力外通告を言い渡すでありますよ〜
 /     /  l l|   l ヽ、 ヽ ノ  / / ! .八!
 ヽ    イ\ ヽハ   ヽl `r 、 ,ィ´ レiノ  |jノ
   \     ヾー-r┬i‐-、__}  " {__
     \    `、 ト l !::::::〈´ _ `〉` ヽ、
      \    i! l ',:::::::l〃 ̄V::::::::::::ノヽ
         ` ー 、 i!∧ヽ:::ヽ  /::::::::/, イ l
           ヾ/  >、=∨==ニイj ⊥|
            ,{-‐ '´ , -{ }- ̄ヽ  }´ :!
            ヽ   /l| |ハ   \j  |
            /ヾ__{/| | { }   i ノ  !


401 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 23:08:13 ID:T4y8TIzH
・150話突破! 記念に投下された絵を眺めて、先生に敬礼しつつ感慨に浸りましょうか。

・10人…何という密集地帯。 しかしこの付近の男勢は何かカッコイイなあ。
・対してフカフィレ…ここまでくると哀れだな…。 まあ烏月と比べられちゃあどうしようも無いが…
・トル恭は妹の死も結局恋愛の方向に行くのか…とは言え多少暗雲? そしてツヴァイも漸く格が出てきたな。
・クリス強っ! しかし落差が激しいなこの子。 そして気付いたら4股w 誠級の逸材かw?
・その誠ですがテクに恐れをなしたニャル様の手で死地へ…いや本来は感動の再会の筈なのですがね。
・筋肉組に解散の危機!? 待ってくれマッスル☆トーニャよ! 君たちが別れたら誰に癒されれば良いのだ!?  ……そしてリピーターー!?

・しかし言うまでも無い誠に、実は凄かったクリスに、その二人を遥かに上回りそうな桂ちゃんといい…その内修羅場が来そうだ…。

先週(6/3〜6/9)までの投下数:7作+記念絵1作
死者:0名
現時点での鬼他:羽藤桂(鬼)、鉄乙女、柚原このみ(少し綺麗な悪鬼)、西園寺世界(クリーチャー)
現時点(6/9)での予約:4件(◆I9I氏、◆gu氏、◆Lx氏、◆bD氏)

402 :誠と世界、そして侵食 ◆bD004imcx. :2008/06/09(月) 23:44:42 ID:Alu/njEp
歩いていた。どこへ向かっているかは知らない。
世界を探すためだと自分で決めたけど、あてなんてない。
ただ、真達から離れたいってのもあったかもしれない。
あのまま一緒にいたら、俺自身がどうしていたか分からないから。最悪な状況になっていたかもしれないから。
歩いて、歩いて、歩き続けて、そうしていればいつかは世界に会えるかもしれない。

もし会えたらどうしようか。俺の考えを世界に伝えて…でも、言ったらどうなるだろ。
自分が1回死んだなんて、信じてくれるだろうか。
もしかしたら馬鹿にされるかもな。「アンタ、何言ってるの?バカじゃない?」なんて言われたりとか…。
けど、やっぱりあいつに、世界に会いたい。
知りたい。俺に対しての気持ちを。
そして俺が正しいのかどうかを確かめるためにも。


「誠〜♪やっと見つけた〜♪」
「世界!?」

いきなり聞こえた世界の声。聞き間違えるはずがない。
あれは世界の声だ!世界…無事だったんだな!

俺は声のした方を振り向き、そして。

誠にとって、世界はごく普通の女子学生。殺し合いどころか、喧嘩さえろくにできない普通の女の子。
たとえ精神が破綻していようが、鬼と化していようが、それを知らない誠にとってはそれが常識の範疇の世界だった。

故に。声のした方を向いた時、世界の姿を見て誠の体が固まったのはあまり責められた行為ではなかったのかもしれない。

403 :誠と世界、そして侵食 ◆bD004imcx. :2008/06/09(月) 23:45:20 ID:Alu/njEp
「せ…かい…?」
「どうしたの?誠?」
そこにいた世界は、誠にとってのいつもの世界とは違っていた。
脇腹を損傷し、そこに蛆が沸いていた。というより、世界の身体のあちこちに白い蛆が蠢いている。
表情も誠の知っているそれではなく、何かが壊れているようにしか見えない。
「世界、お前何があったんだ?」
誠は金縛りにでもあったように動かない。世界は誠の視線を追い、自分の体を見る。
そして何かが分かったかのように相槌をうつ。
「ホント、誠と会うまでいろいろあったんだよ。結構辛かったんだからね。それより…会いたかったよ、誠」
常人なら歩けないはずなのに、事切れてもおかしくないはずなのに、世界は歩く。誠に近づいていく。
歩くたびに蛆が蠢き落ちるが、進む速さは変わらない。むしろ通常よりわずかに速い。

「待て!世界!」
世界に気圧されつつ、誠は近づく彼女を制する。
世界は訳が分からないといった様子だが、それでも誠に従った。
「どうしたの?誠」
「世界、ここに連れて来られる前の事を話してくれないか?」
「…何で急にそんな事を?」
「訳は後で話す。とりあえず、元の世界で俺達がどうしていたのかを知りたいんだ」
誠がそこまで話すと、世界は顔を赤く染め、少女らしい恥じらいを見せながら誠を見つめた。
「もう〜。誠ってば、今更なんだから〜」
そして、元の世界で起こった事を話した。
言葉と自分にできた子どもの事。
そしてクリスマスにそれを誠に打ち明けた事。
世界は嬉しげに話すが、話を聞くたびに誠の顔が険しくなっていく。
世界も夢中になって話してはいたが、誠の様子に気づき、話すのを止める。
「誠、どうしたの?」


404 :誠と世界、そして侵食 ◆bD004imcx. :2008/06/09(月) 23:45:54 ID:Alu/njEp
「世界、落ち着いて聞いてほしいんだ。俺は、二人とはそこまで関係が進んでないし、子どもを作ったって言われてもないんだ」
「え?それって、どういう…」
世界は混乱しているな。しょうがないか。誰だって、自分のいた世界であった事を否定されたらこんな風になるよな。
「俺のいた世界じゃさ、世界も、そして言葉も、俺の目の前で死んだんだよ」
俺は話した。自分のいた世界の事を。
世界が言葉をいじめ、誠が言葉と付き合い、そして最後に言葉と世界が…。
「でも、世界はこうして目の前にいる。最初は世界と言葉が生き返ったと思ったんだけど、そうじゃない…世界のいた世界と俺のいた世界が違うんだ」
…全部話した。どう言われるかな。バカにされるかな。それとも、頭がおかしいって笑われるかな。
俺はどう反応されるか分からないまま世界の返事を待つ。俺にとって、それは短いようで長かった。
数分のはずなのに、もうどれくらい経ったか分からなくなった。
しばらくしたあと、世界が口を開いた。

「いた世界が違う?別にそんなのどうだっていいよ。」
「え…?だって、もしかしたら俺は世界の知ってる誠じゃないかもしれないんだぞ?それでもどうだっていいってのか?」
「いた世界が違ったって、誠は誠でしょ?それに、たとえ世界が違っても、私が誠を好きなのは変わらない。絶対にね」
「世界…はは…ははははは…」
見てみろよ、俺。あの世界を。いた世界が違っても、世界はそんなの全然気にしてないじゃないか。
元の世界が違う?それがどうしたんだ!
もし違う平行世界から来たんだとしても、俺は俺、世界は世界じゃないか。
なんでそんな簡単な事に気づかなかったんだよ…。


405 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 23:45:59 ID:/gpFXJzU
 

406 :誠と世界、そして侵食 ◆bD004imcx. :2008/06/09(月) 23:46:31 ID:Alu/njEp
それから、俺と世界はそれぞれの平行世界の事で話していた。世界は俺の知ってる世界の言葉に対する仕打ちに怒り、
「なんでそんな事するかな〜!?」
と喚いていた。聞くと、世界のいた世界では、言葉とはうまくやっていたらしい。

……俺、少し自重しろよ。なんで二人も相手にするんだよ。

自分の事を棚に上げ、世界の知っている誠に呆れる誠。そんな誠を見て、世界はクスクスと笑う。

話している内容は、常識とかけ離れている点を除けば普通の(?)少年少女の会話。
だが、誠の方はともかく世界は体中に蛆が沸き、雰囲気からしてもどこか壊れている。
他人が見たら異常としか思えない、そんな光景。
単に非常識な事が続いて感覚が麻痺しているだけなのかもしれないが、
今の誠にとっては今の世界が誠の知っている世界。
姿形なんて関係ない。彼女らしい彼女が見られただけで、世界と話しているだけで、誠は満足していた。
だが…今の状況が至福すぎて、誠は気づかなかった。世界の口数がだんだん減っていくのを。


407 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 23:46:42 ID:/gpFXJzU
 

408 :誠と世界、そして侵食 ◆bD004imcx. :2008/06/09(月) 23:47:06 ID:Alu/njEp
……誠とこんな風に話すのって、ホント久しぶりだな。もうずっとこうしていたいな〜。

…そうね。好きな人と話してるんだし、こうしてるのも悪くないわね。

……うん。もうこんな殺し合いなんて関係ない。ずっと誠とこうしていたい。

…でも、それじゃぁ…お腹の中の子どもはどうするの?

……え?やだなぁ。ちゃんと産むわよ。誠と一緒にね。誠も一児の父親になれるんだし、きっと喜ぶわよ。

…でも、子どもを産むのにはちゃんと栄養を取らなきゃ。

……分かってるわよ、うるさいなぁ。だから人間を食べてるんじゃない。栄養も豊富だし、これ以上の食材はないわよ。
何で今まで気づかなかったのかな。まだまだいっぱい食べなきゃね。

…そうね、まだ沢山食べなきゃ。周りにいっぱいいるし、もちろん目の前にも新鮮なのもいるしね。

……うん、そうだね…え?目の前?それって…誠の事?

…今までは死んでる人間ばかりだったからね。たまには新鮮なのも食べないと。若いし、食べ頃よ?

……は?あんた馬鹿?何で誠を食べなきゃいけないのよ。
誠は、私が愛した唯一の人間なのよ?食べる訳ないじゃない。少しは頭使いなさいよ。

…頭を使うのは世界よ。言ったじゃない。この誠は平行世界から来た、私の知らない誠だって。だから…



409 :誠と世界、そして侵食 ◆bD004imcx. :2008/06/09(月) 23:47:51 ID:Alu/njEp
この誠を食べても、元の世界に帰ったら世界の知ってる誠がいるじゃない。



……で、でも、男よ?筋肉だってついてるし、きっと硬いわよ?ねえ?

…あら、噛み応えがありそうじゃない。それに、魚でも引き締まった方がうまいじゃない?

……や、もうやめて!そんなの聞きたくない!
私は誠を食べたくない!食べたくないの!第一、あなた誰よ!?慣れ慣れしく話しかけないで!

…あら?私の事はあなたが一番知ってるじゃない?

……え?それって、どういう…

…私はあなたの中の、鬼の私。私は西園寺世界。私は世界自身よ。つまり、

…誠を食べたいと思ったのはあなた。分かった?

……私が…誠を?嘘、嘘よ嘘よ嘘よ!だって…誠は…私が愛した唯一の…

…何度も同じ事を言わないでよ。ここにいる誠は、世界の知っている誠じゃない。
世界の知っている誠は、元の世界にいるじゃない。だから、安心して食べていいのよ?我慢はよくないわよ?

……う…誠…逃げて…お願い…もう鬼が…止められない…

誠と再会して、かろうじて取り戻しかけた人間としての世界。
だか、世界の人間としての意識は、やがて深く沈んでいく。そして鬼が再び侵食する。


410 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 23:47:52 ID:/gpFXJzU
 

411 :誠と世界、そして侵食 ◆bD004imcx. :2008/06/09(月) 23:48:39 ID:Alu/njEp
「けど、世界の知ってる誠は、なんだかんだでうまくやったんだな。羨ましいよ」
「……」
「世界、もし元の世界に帰る事ができたら、誠の事を…どうしたんだ世界?」
「誠、一つ聞きたい事があるの。」
言いながら、世界は誠の手を取る。
だが、世界の鬼を知らない誠は、それをなんとも思わない。むしろ、何かを期待していたりする。
もし彼女の鬼を知っていたら振り払って逃げたかもしれないが、期待するあたりは彼の血のせいかもしれない。
「誠は、私とは違う世界から来たって言ってたよね?私の世界には、誠とは別の誠がいるんだよね?」
「ああ。仮説だけどな。世界と出会う前にも平行世界から来た人達がいたんだけど、その人達も互いにそれぞれの世界で同じ人と違う事をしてたみたいなんだ。だから、その仮説は正しいと思う」
「うん、それを聞いて安心したわ。これで誠を…」
世界は誠の手を指を自分の口まで持っていき、そして。

「いただきます♪」

ブチッ。


俺は、最初何が起きたのか分からなかった。いや、分かりたくなかっただけなのかもしれない。
何かが千切れる音がした。それは理解できた。
次に腕を見た。相変わらず、手首を世界に握られたままだ。握る力が強いのか、少し痛い。
けど、指先から来る痛みに比べれば、そんなものはどうでもいい方だった。
骨、血管、肉、皮。それらが中途半端な位置で途中から無くなり、その断面が露出している。
何故中途半端な位置で無くなっているのか。その答えを、俺は否定したかった。

けど現実は否定できなかった。

「う…あぁぁあぁぁっ!?」
腕を押さえ、俺は悲鳴を上げた。

412 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 23:49:13 ID:/gpFXJzU
 

413 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 23:49:24 ID:6mnRT9vf


414 :誠と世界、そして侵食 ◆bD004imcx. :2008/06/09(月) 23:49:33 ID:Alu/njEp

世界は、音を立てて口の中の肉を噛んでいた。
まるで好物を食べているかのように幸せそうな顔で顎を動かし、時々口から垂れる血をもったいなさげに舌で舐め取る。

誠は指の激痛に顔を引きつらせながら、そんな世界を見る。
そして改めて分かった。世界が、もう自分の知っている世界ではない事に。
「世界…なんで…」
「誠の話を聞いたからかな。今ここにいる誠を食べても、私の世界の誠は消えない。だから食べるの」
食われる。今更ながら理解し、世界から逃げようとする。
世界の手を外し、手首をから離そうとする。だが、鬼と化した世界には、その抵抗すら無に等しい。
「うん。骨も細くないし、肉も噛み応えある。流石誠ね。味見もすんだし、もういいかな。あ〜ん…」
「せ、世界!やめろ!うあぁぁぁぁぁっ!?」
腕を噛まれ、絶叫する誠。
組織が食い千切られ、肉や骨が外気に晒される。
噛み、食い千切り、柔らかくなるまで噛み砕き、飲み込む。
その動作が繰り返されるたびに、誠は声を上げ、身体からは血が流れる。
「腕も美味しいけど、やっぱり内臓の方が美味しいかな。誠、ちょっと横になってね」
言うと同時に、世界は誠を押し倒し、馬乗りになる。
防刃チョッキを外し、無理矢理服を破り、素肌を露出させる。
誠は世界の言葉から、自分が何をされるのか分かっていた。だが、痛みとこれまでの疲れからそれらしい反抗すらできずにいた。
世界の歯が脇腹に食い込む。
顔を離すと、肉の一部が糸を引いて誠から離れる。
食べる行為を繰り返し、誠の身体はだんだん血で染まっていく。

「やっと内蔵が見えてきた。どれも美味しそうね〜。何から食べようかな…」

415 :誠と世界、そして侵食 ◆bD004imcx. :2008/06/09(月) 23:50:19 ID:Alu/njEp

(世界…)

誠の臓器を見て、まるで好物を見るような目をする世界。
そんな世界を、誠は意識を朦朧としながら見ていた。

(…もうほとんど力が入らない。これが、死ぬってやつかな)

臓器を持ち上げ、その重さを、感触を確かめる世界。

(俺のいた世界じゃ、二人とも俺が殺したようなもんだし…これもその罰か何かかな)

噛んでは千切り、噛み砕いて飲み込む。臓器を口に持っていってはそれを繰り返す。

(世界の知ってる誠…世界を泣かせたら…怒るからな…俺が言える立場じゃないか)

時々喉が詰まりそうになるが、臓器を絞ると出てくる血を飲めば喉が潤う。

(真達…大丈夫かな…元はと言えば俺が変な事言ったのが原因だし…心配だな…)

心臓はほとんど動かなくなっていた。
世界は鼓動の無くならないうちに誠の身体からもぎ取り、食した。

(…世界と…言葉と…また一緒に…過ごしたかったな…)

誠の意識は闇に消えた。

416 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 23:50:35 ID:/gpFXJzU
 

417 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 23:50:56 ID:6mnRT9vf


418 :誠と世界、そして侵食 ◆bD004imcx. :2008/06/09(月) 23:51:13 ID:Alu/njEp

誠の目に光はない。
臓器はほとんどが食い散らかされ、身体はもう原型を留めていない。
片腕はあちこちから骨が見え、指も途中までしか生えていない。

世界は、誠のディパックの中身を自分のに移し、移動の準備をしていた。
もうこの誠の身体には用はない。
それにまだまだ栄養が足りない。もっと人と食べないと、元気な子どもが生まれない。
目指すはこの島の中心。中心なら人も集まるかもしれない。運がよければ、また人が食べられる。
世界はもうそこにはいなかった。いるのは、世界の姿をした鬼。

準備を終え、鬼はその場を立ち去った。

419 :誠と世界、そして侵食 ◆bD004imcx. :2008/06/09(月) 23:51:49 ID:Alu/njEp
【B-2 路上(東部)/1日目 日中】



【西園寺世界@School Days】
【装備】:89式小銃(30/30)、防刃チョッキ
【所持品】:支給品一式×4、BLOCK DEMOLITION M5A1 COMPOSITION C4(残り約0.60kg)@現実、
      時限信管@現実×2、妖蛆の秘密、ゲーム用メダル 400枚@ギャルゲロワ2ndオリジナル、
      エクスカリバーMk2マルチショット・ライオットガン(0/5)@現実、37mmスタンダード弾x10発、
      きんぴかパーカー@Fate/stay night[Realta Nua]、スペツナズナイフの柄、ICレコーダー、
      贄の血入りの小瓶×1、天狗秘伝の塗り薬(残り90%)@あやかしびと -幻妖異聞録-
      手榴弾2つ、このみのリボン、エクスカリバー@Fate/stay night[Realta Nua]
【状態】:妊娠中(流産の可能性アリ)、精神錯乱、思考回路破綻(自分は正常だと思い込んでいます)、
     脇腹損傷(蛆虫治療)、悪鬼侵食率60%
【思考・行動】
基本:桂言葉から赤ちゃんを取り戻す。元の場所に帰還して子供を産む。島にいる全員を自分と同じ目に遭わせる。
0:美味しいものいっぱい食べなきゃ。
1:参加者と会うために中心地へ向かう
2:新鮮な内臓をもっと食べたい
3:言葉が追ってくるなら『桂言葉の中を確かめる』、そして『桂言葉の中身を取り戻す』
4:このみ、黒髪の女(烏月)、茶髪の男(フカヒレ)を見つけたら今度こそ喰い殺す



420 :誠と世界、そして侵食 ◆bD004imcx. :2008/06/09(月) 23:52:42 ID:Alu/njEp
【備考】
 ※誠とは今までにあった事ではなく、元の世界の事しか話してません。平行世界の事は信じましたが放送の内容は信じてないままです。
 ※侵食に伴い、五感が鋭くなっています。
 ※ゲーム用メダルには【HiMEの痣】と同じ刻印が刻まれています。カジノの景品とHiMEの能力に何らかの関係がある可能性があります。
 B-2中心部に回収出来なかったゲーム用メダル@現実が100枚落ちています。
 ※妖蛆の秘密は改造されており、殺した相手の霊を本に閉じ込める力があります。そして、これを蓄えるほど怨霊呪弾の威力が増します。
 そのほかのルールは他の書き手にお任せします。





【エクスカリバーMk2 マルチショット・ライオットガン@現実】
全長780mm。総重量4,235g。
イギリスのワロップ・インダストリー開発のリボルビング・グレネード・ランチャー。
特大サイズのリボルバーのような、シリンダー型の大型弾倉を備えている。
撃発・発射はダブルアクション式だが、かなりトリガープルが重いので、指を二本かけて引けるようにトリガーの形が工夫されている。

421 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 23:52:57 ID:6mnRT9vf


422 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 23:53:10 ID:/gpFXJzU
 

423 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 23:54:05 ID:6mnRT9vf


424 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/09(月) 23:55:08 ID:6mnRT9vf


425 :誠と世界、そして侵食 ◆bD004imcx. :2008/06/10(火) 00:08:33 ID:wzOoSi/p

【伊藤誠@School Days L×H 死亡】

426 :誠と世界、そして侵食 ◆bD004imcx. :2008/06/10(火) 00:17:13 ID:wzOoSi/p
投下終了しました(書き込み遅れてすみません)。支援有難うございました。
誤字や矛盾、違和感等ありましたら指摘お願いします。

タイトルは「誠と世界、そして侵食」です。

427 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 00:21:29 ID:X+l8N2U7
投下乙です
とうとうこの時がきたかあ、まああっさり逝けたのが救いだなw
誠が食うんじゃなくて逆に食われるか、報いなのかなw
ここでは一応頑張っていたし、とりあえずお疲れ誠
それとw世界の武器庫っぷりが半端ないぞwww

428 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 00:29:10 ID:xkBUvf7l
投下乙!
あー…… 喰われましたね、やっぱり。
色々と言われる誠ですが、何気に男前。
男と女の交合。……ごちそうさまでした、と言えばよいのかな?w GJでした。

429 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 00:37:26 ID:dkW7dvfh



430 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 00:40:10 ID:Aathlfeo
投下乙です!
なんという誠氏んだ・・・!
誠はキレイな誠として死にましたね
ナイア様も一安心・・・じゃなくて
これで最後のキレイに戻るチャンスを失ったワールドの今後のマーダーっぷりが楽しみになりました
武器もゲットしてリミッター解除といった感じがロワの加速を期待させます

>>400
週間ロワ乙であります!
なんか久々にマトモなAAを見たような気がw

431 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 00:52:47 ID:dgB3wl5j
トウカ乙です!

>◆UcWYhusQhw
トーニャ指摘に返す言葉もない弱り気味のファル様がなんかカワイイw
肝となる井ノ原真人リピーター疑惑は……あれ、これなんて槍の人?
まさか筋肉トークがポーズだったなどとー! 本性がシリアスだったなどとー!w
次回に期待せざるを得ない。真人の語り口も、いろいろと解釈ができそうですよね……ふふふw
あと奏会長もっとがんばれー!w

>週間ギャルゲロワ
二週連続このみ様フィーバーwwwww

>◆bD004imcx.氏
なに、誠が死ぬ? HAHA、まさかそんな直球すぎる展開が……キターw
死の間際の心理描写が(誠というキャラ的な意味でw)非常にキレイ。
時間軸の食い違いも妙。最後の最後だけは誠氏ねという言葉を飲み込むぜ。

432 :無法のウエストE区 ◆LxH6hCs9JU :2008/06/10(火) 01:02:19 ID:dgB3wl5j
「どぅわーっはっはっはっは! ドォクタァァ――――ッ! ウェェェストッッ!!」

 住宅街の閑静な空気を吹き飛ばすように、高らかに笑う男があった。
 大柄な体躯に白衣を纏い、頭髪の色は白混じりの緑という奇異な外見。
 秘密結社ブラックロッジ≠ノ与する天才科学者、魔術師さえもその眉を潜める異端の科学の徒、ドクター・ウェストその人である。
 感極まると自分の名を叫ぶ奇怪な癖は自意識過剰の表れだが、事実、彼はその自負に足る超越的知性と、それ以上の熱情的狂気を兼ね揃えているのだった。

「鬱蒼としていた山を降り、摩天楼とは言わないまでも人智が作り出した母なる都へと!
 わたくし、ドクター・ウェストが帰ってまいりました。母さん、我輩の留守中どうでしたか?
 などと帰郷した若者のように足を運べばそこには誰も居らず。やん、我輩ちょっぴりセンチ。
 しかし悪の科学者とは暗躍して然るもの。出迎えナッシングとは逆に好都合ッ!
 我輩の保有戦力を持って、暢気でいる一般ピーポー共を恐怖のどん底に叩き落としてやるのである!
 カァァァモン、エルザッ! そしてお出でませ、ブラックロッジ戦闘員のみなっすわぁぁぁん!!
 ……などとコールしてはみたものの、今の我輩は孤独なロンリーウルフ。我輩かなりセンチ。
 乙女座のセンチメンタリズムは執念深いと聞くであるが、はてさてクエスチョン。我輩の星座は?」

 解答者はいない。わかりきった上での出題は、風に吹かれて空へと散っていく。
 思えば、このゲームに参加し始めてから延々、遭難者のように山中を彷徨っていたドクター・ウェストである。
 指針を見失い、同行者が去り、一人暮らしの大学生のように手持ち無沙汰になった若い男が、山の中でいつまでも燻っているのもおかしな話。
 とりあえず下山し、地図によるところの『中世西洋風の街』に進出したウェストは、

「さて、これからどうしよう……である!」

 実はまだ、なにも考えていなかった。


 ◇ ◇ ◇



433 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:03:10 ID:Aathlfeo


434 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:03:24 ID:wzOoSi/p



435 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:03:26 ID:0LeIzopd


436 :無法のウエストE区 ◆LxH6hCs9JU :2008/06/10(火) 01:03:42 ID:dgB3wl5j
『汝の欲するところを行なえ』――それが、ブラックロッジ≠ニいう集団の根幹を成す教義である。
 この地におけるティトゥスという名の侍が、自身と見合う強者を追い求めたように。
 結社に所属する魔術師、下部構成員に至るまで皆、なによりもまず己の欲望に奉仕している。
 金、女、権力、破壊、混沌、絶望、と明確な欲から概念的な欲に渡るまで、実に様々。
 ある者は崇高な将来設計に則り、ある者は下卑た動物的本能によって、欲を満たすために力の行使を続けるだろう。

 だが、ドクター・ウェストは少し違う。
 彼の生き様は、極度に趣味的だった。

 ウェストの興味は、ただ自らの天才的知性を証明することにしかない。
 証明して、なにがしたいというわけではなく――証明することにこそ、意味があるのだ。
 つまり彼が重点を置くのは、結果よりも過程、目的よりも手段、どのようにして証明を果たすか。
 人生を遊戯のように、もしくは難解な数式のように捉え、面白おかしく傍迷惑に生きる。
 そんな彼だからこそ、悪の秘密結社という拠り所は居心地がいいのかもしれない。

「故にッ! 我輩は証明するのみなのであ〜〜〜る! ホワッツ再びクエスチョン。
 我輩はいったいなにを証明するべきであるか? 自分の胸に聞いてみるのである。
 問ぉ〜うまでもなくこの大・天・才! ドクター・ウェスト様の知性及びカリスマ性を!
 体内から迸るリビドーの如き魅力は、今さら証明するまでもなく周知徹底なのである。
 風が吹けば桶屋が儲かる。我輩歩けば『ああん、ウェスト様ステキ☆』とファン急増間違いなし。
 しかしここで重大な問題が発生! な、な、ぬわ〜んと! この街にはだ〜れもいない!
 これでは我輩の存在意義が魅力含め三割方減! まっことまっこと、由々しき事態なのであ〜る!!」

 煉瓦や石造りの建物が多く立ち並ぶ、アーカムシティとは似ても似つかぬ街にて。
 ゴキ○リの如くせかせかと歩き回る白い影こそ、我らがドクター・ウェストである。

437 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:03:50 ID:xkBUvf7l
 

438 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:04:15 ID:wzOoSi/p



439 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:04:34 ID:0LeIzopd


440 :無法のウエストE区 ◆LxH6hCs9JU :2008/06/10(火) 01:04:41 ID:dgB3wl5j
 街に降りてなにをしよう。疑問を抱いた時点で、ウェストは即答を弾き出した。
 それこそが、天才科学者ドクター・ウェストとしての存在証明であった。
 彼が縄張りとするアーカムシティならまだしも、このゲームの会場にはウェストの名を知らぬ者も多い。
 名前どころか、彼が超絶的天才であること、脱いでもすごいことなど、知ってて当然知らなきゃ損な情報の数々も広まってはいないのだろう。

 それがウェストにとっては、容認できない大問題であった!

 立派に成人しているウェストの職業は、悪の秘密結社に属する天才科学者だ。
 主にアジトの地下研究室を住まいとし、改造人間など量産しつつ、滅多なことがない限りは表舞台に出てこない。
 それが普通の悪の科学者というものだろう。だがこのキ○ガイ科学者に、普通などという言葉が適用されるはずがない。

 彼の行動理念には、三種の法則がある。
 ひとつ――面白く!
 ふたつ――派手に!
 みっつ――悪っぽく!
 この条件を満たし、世間に自身の天才っぷりが証明できるというのであれば、ウェストは手段を選ばない。
 例えば、多大なリスクを伴うような方法であったとしても――だ。

 しかし、問題はそれ以前のレベルである。
 ウェストが証明を果たすには、当然、彼を天才だと認知する第三者の存在が必須となる。
 この地で巡り会った数多の人間たち――マッスル☆トーニャなどがそれに該当するだろう。
 彼女らはウェストの天才オーラにあてられ別行動を取っているが、頭の中には忘れえぬ記憶として、ウェストの天才っぷりが刻み付けられているに違いない。

「だが足りん! まだ足りんのである!
 我輩が超ド級大天才であることは、世間の一般常識にも等しく!
 我輩の名を知らぬ子供がいれば、その子は学校でいじめられてしまうこと確定!
 といったほどの常識でありたいと我輩は切に願う!」

441 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:05:18 ID:xkBUvf7l
 

442 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:05:28 ID:wzOoSi/p



443 :無法のウエストE区 ◆LxH6hCs9JU :2008/06/10(火) 01:05:49 ID:dgB3wl5j
 ドクター・ウェストの人間性を合理的に解釈するならば、『目立ちたがり』の一言で片がつく。
 と、そんな客観的姿勢でもってウェストを糾弾しようものなら、倍の熱弁で返り討ちにあうだろうが。

 話を戻すと、いま彼が最も欲しているのは、自身を天才と認める第三者の存在なのである。
 相棒たるエルザとの絆を裂かれ、一人の登場人物として野に放たれたウェストは、まだ実力の半分も発揮できていない。
 求めるのはウェストと波長がマッチングし、彼の性格を引き立てる気概を持った、優秀な『助手』の存在。
 例えばそう、ツッコミ上手で、ウェストのボケを蔑ろにせず、馬鹿みたいにリボンを飾り付けた年頃の女の子なんかが――

「――って、見事に凡骨リボンと条件合致! ええいなにを馬鹿な!
 僅か数時間ちょっぴりしかやり取りしていないあの子に我輩胸キュン。なんて非現実的なのである!
 自重せよ天の声! この悪の科学者たるドクター・ウェストが感傷に浸るなどーッ!
 ましてや凡骨リボンに先立たれてしんみりするあまり、空元気で無理してるなど見当違いも甚だしい!
 ほ、本当なんだから! か、かかか勘違いしないでよねっ! と強めに否定しておくのであ〜る」

 無人の街を舞台に、ウェストの独り言という名のワンマンショーが続く。
 その姿は常時と変わらぬものだったが、極一部の人間、いや機械生命体なら――見抜けたかもしれない。

「……………………むなしいのである」

 探せば探すほど、街には誰も居らず。ウェストは徐々にテンションを落としていった。
 不意に漏らした本音に偽りはなく、彼の項垂れる姿というのは、非常にレアな光景と言えるだろう。

 千羽烏月から藤林杏死去の報を受けたとき、ウェストの心は確かな寂寥感に包まれた。
 もうあの姿を目にすることも、声を耳にすることも、ツッコミをもらうこともないんだな、と。
 寂しい、とストレートに思ったことは認めざるを得ない。どころか、藤林杏の人生について考えようとすらした。
 だからといって、仇を討とうだとか、死自体を否定したりだとか、そういった発想にまでは陥らない。
 死んだと確かに受け止め、悲しみ、涙を流すまではいかず、胸にポッカリ穴が空いた程度に気持ちは留まる。

444 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:05:58 ID:wzOoSi/p



445 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:06:17 ID:Aathlfeo


446 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:06:25 ID:0LeIzopd


447 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:06:46 ID:0LeIzopd


448 :無法のウエストE区 ◆LxH6hCs9JU :2008/06/10(火) 01:06:51 ID:dgB3wl5j
 はたしてウェストが杏に入れ込んでいたのか、そうでなかったのか。判断は人によってまちまちだろう。
 結局ウェストの杏に対する感慨は、死を知ったときに漏れた「……大莫迦者である」という言葉に集約される。

(死んだ者のためにできることなど……なにもないのである)

 愁いの表情で、ドクター・ウェストは回顧する。
 ドクター・ウェストの『ドクター』には、二通りの意があった。
 ひとつは、現在の彼の肩書きである、科学者。
 そしてもうひとつは、彼の過去の肩書きである、医師。
 ウェストは今でこそ科学の徒だが――かつては、医学の徒であったのだ。

 生命の尊さや死の倫理も、知識としてなら頭に入っている。
 それどころか、人体の内部構造や各種生命器官の強度に至るまで。
 ウェストは、数多の凡人などとは比べものにならないほど、医師としても優秀だった。
 そう――『人体蘇生』という、愚かにもほどがある行為を試みるほどに。
 語るにも滑稽な、大馬鹿者の……所詮は、昔の話である。

 現在のウェストは医師ではなく、あくまでも科学者として、あるテーマを抱えている。
 それこそが、自らを神と恃む禁断の領域、即ち『死の克服』と『生命の創出』である。
 医師であった頃の彼は、死者の肉体に対し蘇生薬による賦活などを続け主題の追求を続けたが、ある日を境に限界を知った。
 壁にぶち当たった彼は、科学者としての発想に転じ、直接的な人体の蘇生を断念。
 しかし主題を追求すること自体は諦めず、模索した末に彼が導き出した結論が、『生命の無からの創造』だった。

449 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:07:35 ID:wzOoSi/p



450 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:07:35 ID:0LeIzopd


451 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:07:37 ID:0zL8zQA8
 

452 :無法のウエストE区 ◆LxH6hCs9JU :2008/06/10(火) 01:08:25 ID:dgB3wl5j
 その成果の一つが、ブラックロッジ戦闘員。たびたび大十字九郎に蹴散らされている、人造人間だ。
 彼らは元を正せば、意識を持たぬ鉄屑にすぎない。そんな彼らに生命の息吹『もどき』を与える技術こそ、ウェストの科学者としての才だ。
 それら人造人間の類は、ウェストの追求するテーマからしてみれば、ほんの通過点。不完全品だった。
 大十字九郎に『恋心』を持つエルザとて、生命としての完成品とは言えない。
 ウェストは、未だ栄光へのロードをひた進んでいる最中なのだった。

「そう……生者が死者にしてやれることはなにもない。が、それはあくまでも凡人共の場合なのである!
 追悼や黙祷が供養となるならそのへんで留まっておくのが吉。鎮魂から飛躍させるのはよくない。
 我輩もかつては、千羽烏月のような大馬鹿者であった。今さら同じ過ちを犯すつもりはないのである。
 しっかーしッ! 手段は一つとは限らないからして、大天才の我輩は早くもその可能性に閃いたッ!」

 白昼堂々、殺し合いの往来で、ウェストは天に叫ぶ。

「彼女との思い出はメモリーズオフ! それから、を見据えて先に進もう!
 なれば! 我輩はここに誓い、そして宣言するのである!
 凡骨リボンよ……もしこれより先、貴様の遺体に巡り会うようなことがあれば――」

 愁いを排除した狂気的目つきで、燦々と照らす太陽を睨みつける。
 高々と拳を突き上げ、絶叫に近い声で、ウェストは言う。

453 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:08:38 ID:0zL8zQA8
 

454 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:08:41 ID:Aathlfeo


455 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:09:54 ID:wzOoSi/p



456 :無法のウエストE区 ◆LxH6hCs9JU :2008/06/10(火) 01:10:04 ID:dgB3wl5j
「この大・天・才ッ! ドォクタァァ――――ッ! ウェェェストッッ!! ッッ様が!
 貴様を絶対無敵銀河旋風級改造人間として甦らせてやるからありがたく待っているのである!
 基本武装はロケットパンチに二連装ビームライフル及びハイメガ粒子砲プラススーパー凡骨バズーカ!
 隣接するマスに我輩がいるときのみ、オプションパーツとしてドリルアームを射出してやるのである!
 むむむ! 凡骨リボンのスペックが上手く引き出せれば大十字九郎も敵ではない予感!?
 死してなお我輩の天才的頭脳を満喫できるとはなんたる幸福者!
 首を洗って待っているのであるぞ、凡骨リボ――――――――ンッ!!」

 遥か天空の彼方から、「どないやねーん!」というツッコミが届いたような……気はまったくせず。
 ウェストはあの世滞在中の杏の心境などまったく気にもかけず、汝が信じる王道を突き進む。
 彼の宣言が真意であるか否かはともかくとして、これで杏の死去に対する清算は済んだ。

「一回休み、のターンはこれにて終了なのである。ここからが我輩の本領発揮。
 次からはサイコロを一気に三つ振る気構えでがんばれ我輩。負けるな我輩。
 そろそろ話相手が欲しいぐっすんおよよな我輩。寂しくなんかないよ我輩。
 ぬおぉぉぉぉ――ッ! 誰か我輩に構ってプリィィィィィズッッ!!」

 そうしてウェストは、孤独から遁走するため街の徘徊を続ける。
 ……ひとりぼっちで寂しくなんかないやい! と太陽に吼えながら。


 ◇ ◇ ◇



457 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:10:10 ID:0zL8zQA8
 

458 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:10:47 ID:Aathlfeo


459 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:10:59 ID:0LeIzopd


460 :無法のウエストE区 ◆LxH6hCs9JU :2008/06/10(火) 01:11:48 ID:dgB3wl5j
「のっひゃーっはっはっはっはっはっは! ドォクタァァ――――ッ! ウェェェストッッ!!」

 数時間後。
 未だ静謐な空気を保つ西洋の街外れに、変わらぬ態度で叫ぶドクター・ウェストの姿があった。

「ついに! ついに完成したのであーる! のひゃ、のひゃ、のひゃーっはっはっはっは!」

 下山した当初と比べて違う箇所があるとすれば、体が汗と油の臭いに塗れていることくらいだろうか。
 顔全体を爆笑から来る涙でぐしょぐしょにしているが、これはむしろ普段どおりの姿だ。

「作業時間一時間とプラスアルファ! こんな短時間でこれほどの発明を終えてしまう我輩の才能が怖い!
 才能だけでなく頭脳も怖い! 頭脳のみならず筋肉も怖い! 筋肉だけでなく乳首の桃色加減も超恐怖!
 我輩に惚れたらマグマで溶けるぜ! と言っても言い過ぎではないほどの魅力が溢れ出る!
 なのに! それを拝む者が未だこの周囲に現れないとは! 残念至極、残念至極なのであーる!!」

 彼が立つ場所には、中世西洋風の街の外れという他にもう一つ、特徴があった。
 それは、こじんまりとした楽器屋の店先だという点。
 ショウウインドーから覗くグランドピアノが高級感を引き立たせ、街中でも雰囲気の一味違う一画として聳え立っている。

 つい好奇心で入ってしまいそうな貴賓のある店先は、今は高笑いするキ○ガイが縄張りとして陣取っていた。
 彼の足元には、レンチやバールなどの工具の数々、配線らしきものの切れ端、だらしなく伸びた矩尺、大小様々な歯車等、発明の痕跡が散乱していた。
 もっとも、科学者が行う『発明』という行為は、基本的には無から有を生み出すものとされる。
 そういった細かい点に配慮するならば、ウェストが成したのは発明ではなく、『改造』であった。

461 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:12:04 ID:Aathlfeo


462 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:12:05 ID:0LeIzopd


463 :無法のウエストE区 ◆LxH6hCs9JU :2008/06/10(火) 01:14:29 ID:dgB3wl5j
「さて、まずは試運転といくのである」

 そう言って彼が取り出したのは、クラシカルな印象を漂わせるアコースティックギターだった。
 このギター、彼が元から所持していた壊れたギターではない。
 目の前の楽器店から拝借……もといパクった、まったくの新品である。いや、新品『だった』。

 これこそが、ウェストが一時間とプラスアルファの時をかけて改造した、スペシャルギター。
 先端のヘッド部分から、ナイロン弦の編まれたネック部分、ボディ部分に至るまで、見た目にも重そうな電装品が取り付けられている。
 胴体部分には尻尾のように伸びる電気コードが備えられており、その接続先を辿っていくと、楽器屋前に停車された軽トラックの荷台に繋がった。
 荷台の上にはまた別の、箱状のギターアンプらしきものが置かれており、既に電源が入っているのかゴゴゴと脈動を繰り返している。
 クラシックギターを無理矢理エレクトリックギターにしたような、弦を弾けば、ポロローンではなくギュワワーンと音が鳴りそうな、あまりにも大仰すぎるアコースティックギターだった。

「レェェェッツ! プゥゥレェェェイッ!!」

 ウェストがご自慢のテクニックでギターを弾き鳴らせば、予想通り。
 クラシックにあるまじき尖った音が鳴り響き、静かなる街に騒音を届ける。

「おぉ……これである。これぞ我輩が求めし究極にして至高の音!
 ソォォウルエェェンドスピリィィィッツ! 魂のロォックンロォォォル!!
 殺し合いなんてくだらないぜ、我輩の歌を聴けぇぇぇぇいッ!!」

 ジャーンとギターをかき鳴らし、「とぉ!」と掛け声を上げて軽トラックの荷台に飛び乗るウェスト。
 ギター同様、各部位に改造が施された装飾華美な軽トラは、まさしくウェストの天才的頭脳の発揮だった。

464 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:14:57 ID:Aathlfeo


465 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:16:00 ID:0LeIzopd


466 :無法のウエストE区 ◆LxH6hCs9JU :2008/06/10(火) 01:16:30 ID:dgB3wl5j
 街中で叫んでも人がいないというのであれば、さらなる音量を持ってして観衆の注意を惹くのみ。
 といった結論に辿り着いたウェストは、己が目的を達成するための手段として、まずそれに必要な装置を自作することに決めた。
 性格はともかくとして、科学者としては優秀の域を抜きん出たウェストである。
 少ない物資と僅かな時間で一台の車と一本のギターに改造を施すなど、朝飯前の如く。
 日が沈むにはまだまだ余裕のあるこの時刻に、ウェストは特製の『ステージ』を完成させた。

「これぞ――スーパーウェスト爆走ステージ『魂のファイアーボンバー』であ〜〜〜る!」

 自作品の命名を果たし、ウェストは軽トラの荷台から運転席へと移動。
 改造の痕跡が残るごちゃごちゃとしたシートに着き、ハンドルを握った。
 エンジンは既に動いている。前述にあった試運転とは、ギターを指しての言葉ではない。

「我輩の手にかかれば、例え鍵が抜かれていようがガソリンが入っていなかろうが些事の如き瑣末事!
 いやいや燃料がないのはさすがに困るけれども、こ〜んな宝を街中に放置しておくとは笑止いやむしろ爆笑!
 我輩が有効的に活用してやるから、オーナーは出てきたところで可愛そうな無駄足ちゃんなのであーる!」

 感極まったウェストが、力一杯アクセルペダルを踏む。
 見た目にも派手な楽器仕入れ用の軽トラックが、一瞬ウィリーになるもののすぐに着地。
 した瞬間、轟音を上げて前進し始めた。
 その速度は、どういうわけか軽トラック本来のスペックよりも遅い。

「む、むぅ。如何な天才の我輩とはいえ、あの条件下では車としての機能性までは追求できなかったであるか。
 が、しか〜し! この、スーパーウェスト爆走ステージ『魂のファイアーボンバー』には、
 速度を蔑ろにして余りある超機能が搭載されているのである! いざ、マイク展開!」

467 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:17:25 ID:Aathlfeo


468 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:17:39 ID:0LeIzopd


469 :無法のウエストE区 ◆LxH6hCs9JU :2008/06/10(火) 01:17:52 ID:dgB3wl5j
 大げさな言葉を口にすると同時、ウェストは運転席側に備え付けられた小型マイクを手に取る。
 小型マイクからは配線が伸びており、その配線は天井部に備え付けられた、角ばった装置に繋がっている。
 この装置がなにを意味するのか、軽トラックの外観を外から眺めれば一目瞭然だろう。
 スーパーウェスト爆走ステージ『魂のファイアーボンバー』――そのフロントガラスの上部には、ウェストお手製『拡声器』が取り付けられていた。

『コホン。あー、テステス。マイクのテスト中。夜空の星が輝く影で、ワルの笑いが木霊する。
 星から星に泣く人の涙背負って宇宙の始末。天才科学者ドクター・ウェスト、お呼びとあらば即参上。
 ……うむ! 感度良好素晴らしきウィスパーボイスなのである!』

 ウェストのただでさえ喧しい声が、騒音となって辺りに充満する。
 エレクトリックギター及び拡声器付きの軽トラック……殺し合いをするには足枷にも等しい道具をわざわざ自作し、ウェストは行く。

「くっくっく……車という移動手段を手に入れると同時に、道行く通行人の足も止められる。
 そしてなにより、我輩の天才たる所以を移動と同時に証明することが可能!
 あぁんもう、なんたる合理的発明品! さあさ、我輩の天才的頭脳に感化されたい人この指と〜まれ!
 おっといけない、マイクのスイッチを入れなければ誰にも気づいてもらえないであるな。
 これから先、なにを成すにしても移動手段と人手は必須アイテムなのである。
 その両方を確保することが――スーパーウェスト爆走ステージ『魂のファイアーボンバー』ならできぃるッ!」

 ウェストの感性、指針、方向性、いずれにもブレはない。
 宿敵・大十字九郎、クリス・ヴェルティンやマッスル☆トーニャとの合流。まだ見ぬ仲間集め。
 果ては危険人物からの逃走や禁止エリアからの脱出に至るまで、この改造軽トラックは全てを担う。
 製作者にして操縦者、ドクター・ウェストはまず近くの手ごろな参加者に反応を窺うべく、拡声器のマイクにスイッチを入れた。
 小型マイクを口元にあて、声を出す。

「ドォクタァァ――――ッ! ウェェェェストッッ!!」

 そう、いつものように。



470 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:18:13 ID:0LeIzopd


471 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:18:45 ID:0LeIzopd


472 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:18:51 ID:Aathlfeo


473 :無法のウエストE区 ◆LxH6hCs9JU :2008/06/10(火) 01:19:02 ID:dgB3wl5j
【E-4 中世西洋風の街外れ/1日目 午後】

【ドクター・ウェスト@機神咆哮デモンベイン】
【装備】:スーパーウェスト爆走ステージ『魂のファイアーボンバー』
【所持品】支給品一式 、フカヒレのギター(破損)@つよきす -Mighty Heart-
【状態】左脇腹に銃創
【思考・行動】
基本方針:我輩の科学力は次元一ィィィィーーーーッ!!!!
1:拡声器で参加者を募りつつ、車で移動。
2:知人(大十字九郎)やクリスたちと合流する。
3:ついでに計算とやらも探す。
4:霊力に興味。
5:凡骨リボン(藤林杏)の冥福を祈る。
【備考】
※マスター・テリオンと主催者になんらかの関係があるのではないかと思っています。
※ドライを警戒しています。
※フォルテールをある程度の魔力持ちか魔術師にしか弾けない楽器だと推測しました。
※杏とトーニャと真人と情報交換しました。参加者は異なる世界から連れてこられたと確信しました。
※クリスはなにか精神錯覚、幻覚をみてると判断。今の所危険性はないと見てます。
※烏月と情報を交換しました。


【スーパーウェスト爆走ステージ『魂のファイアーボンバー』】
見た目には装飾華美な軽トラック。
荷台には電気式のアコースティックギターが置かれ、車体には拡声器を装備。
拡声器は運転席から使用可能。また、武装等は備えられおらず、車としてのスペックも並。

474 : ◆LxH6hCs9JU :2008/06/10(火) 01:19:40 ID:dgB3wl5j
はい、トウカ終了しました。
いつも支援感謝です。

475 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:19:40 ID:0LeIzopd


476 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:24:53 ID:Aathlfeo
投下乙です!
ドクターウェストやかましすぎwww
なんで1人しか登場キャラいないのにこんなにテンション高くてうるさいんですかw
「ちょっとセンチ」とかのセリフも小気味よく
筋肉ペアが解消したとしても、まだ清涼剤がいたことを思い知らされました!
でもこれだけ悪目立ちすると寿命減ってるんじゃないかと気が気でないです。
大変面白かったです!

477 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:31:05 ID:0zL8zQA8
>>Uc氏
乙です
真人がリピーター…だと…!?
その発想はなかった!これからの筋肉も目が離せないぜ!!!!
そして真人、お前が現在助けようとしているやつは危険だ!!
今回ばかりは…今回ばかりはトーニャが正しいから・・・

>>LxH氏
投下乙です
おおwなんという現地調達wwいやむしろ現地改造か?
この調子で軽トラを破壊ロボにまで改造してくれ!!
あと真人に続いて(筋肉つながり清涼剤つながりで)
西博士も実はリピーターなんじゃ…と疑ったのは俺だけでいい

478 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:32:47 ID:WceFWK/x
投下乙です
ドクター・ウェストが凄まじいまでに『らしく』書かれてて、物凄く良かったです
一人で行動してる姿がここまで楽しいキャラも、珍しいw
そ、そして拡声器は……w
西博士、貴重な首輪解除フラグ持ちなのに、そんなモノ使っちゃダメだw

479 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 01:52:09 ID:4ia+nlLu
>>426
投下乙です。
ま、誠ーーー!?
な、なんてこったい…食われるなんて…
最後まで綺麗なままではあったが…余計に悲しいなあ…

>>474
投下乙です。
ウwエwスwトwww
何をやっているのだコイツはw
非常にウエストらしく良いです…そのせいで余計にバカに見えるのは流石西博士かw


480 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 06:58:43 ID:n9s5AxzY
>Uc氏
投下乙です
真人がかっこいいです
シリアスもギャグも筋肉もこなすとは…恐ろしいやつ

>週刊ギャルゲロワ
投下されたばかりの筋肉組まで書くとは…スピード投下乙です

>Lx氏
投下乙です
ウェストがやけに生き生きしてて素敵です
とても楽しい話でした

481 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:01:42 ID:4xqXfmzT
鉄乙女、加藤虎太郎、玖我なつき、山辺美希、大十字九郎、尾花、直枝理樹、源千華留、ユメイ、蘭堂りの
トウカします(・3・)
長い作品なので、お暇な方いらっしゃれば支援お願いします

482 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:02:51 ID:4xqXfmzT
天高く昇った太陽の下で、今も尚執り行われている殺人遊戯。
その舞台となっている孤島の一角に、古びた喫茶店が屹立している。
ユメイは意識を取り戻すや否や、再び蘭堂りのの足を治し始めていた。

「あっ、あの〜……良いんですか? ユメイさん、未だ殆ど休んでないじゃないですか。
 ユメイさんが無理して倒れちゃったら、私悲しいです……」
「心配しないで、りのさん。私はもう平気だから」

りのを安心させるように微笑みながら、ユメイはエクスカリバーの鞘による治癒を続けてゆく。
過度の疲労で一度は倒れたユメイだったが、既にその顔色には十分な生気が戻っている。
エクスカリバーの鞘は制限さえ無ければ、明らかな致命傷ですらも治療し切る宝具。
ならばユメイの疲労が短時間で回復するのも、当然の事だった。

「どう、りのさん? 痛みは引いてきた?」
「あっ……はい。だいぶ楽になってきました」

あれだけ酷かった銃創も、既に傷口は塞がっている。
未だ激しく動き回るのは厳しいが、歩く程度なら大きな支障は無いだろう。

「だったら一安心ね。でも血で足が汚れてるし、背中も汗で濡れちゃってるわね……。
 傷が完全に治ったら、タオルで拭き取ってあげるわ」
「は、はうっ!? 拭き取るって、ユメイさんがやるんですか!?」
「ええ、そうよ。女の子なんだから、身だしなみはちゃんとしないとね」

ユメイの言葉に、りのが顔を真っ赤に紅潮させる。
身体をタオルで拭くという行為は、ある意味素肌と素肌の触れ合いにも等しい。
そのような好機を彼女が――聖ル・リム女学校生徒会長、源千華留が見逃す筈もない。

「あら、楽しそうな事をしようとしてるわね。でもりのちゃんの独り占めは駄目よ?
 私も混ぜて下さらないかしら」
「ええ、良いですよ。一緒にりのさんの身体を拭いて上げましょう」
「はわわわっ! ち、千華留さんまでー!」

483 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:05:11 ID:4xqXfmzT
千華留は愉しげな、ユメイは穏やかな笑みを浮かべ、りのも恥ずかしがりつつも何処か楽しそうだった。
それぞれが厳しい体験をした少女達だったが、誰一人として明るさを失ってはいない。
凄惨な殺人遊戯の中であるにも関わらず、独特の雰囲気を漂わせる三人。
そんな雰囲気を打ち破ったのは、三人の背後から聞こえて来た一声だった。

「皆、大変だ!」

叫ぶ声は、九郎との交信を試み続けていた直枝理樹のものだった。
理樹の手には、トランシーバーがしっかりと握り締められている。
事態を把握しかねた千華留が、疑問を解決すべく問い掛ける。

「大変って、一体何があったの?」
「九郎さんから連絡があったんだけど……。虎太郎先生が、例の怪人に襲われているみたいなんだ」
「な――――」

瞬間、千華留は心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われた。
それはユメイもりのも同じだろう。
三人共、怪人――鉄乙女と直接対峙した事は無いが、その恐ろしさは情報交換の際に聞かされていた。

聞いた話によれば、鉄乙女は皆が知り得る中でも最強の敵であるとの事。
千華留は焦る心を懸命に抑えながら、若干上ずった声で尋ねる。

「……それで、九郎さんはどうすると?」
「九郎さんは場所だけ云って直ぐに通信を切っちゃったから、分からないよ。
 でも……きっと、虎太郎先生を助けに行くつもりなんだと思う」

そう推測するのは、九郎の性格を考えれば余りにも容易だった。
あの正義感の強い男が、窮地にある仲間を放っておく筈が無いのだ。

「たたた、大変です! どうしましょう!?」

484 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:07:55 ID:4xqXfmzT
狼狽し切った声を上げるりの。
そんな彼女に逸早く答えたのは、覚悟を決めた一人の少年だった。

「……僕が一人で助けに行ってくるよ」
「そ、そんな! 理樹さん……無茶です!」
「無茶でも何でも、やらなくちゃいけないんだ。九郎さん達を見捨てる訳には行かないよ」

答える理樹の表情に迷いは無い。
強く生きると、正しき怒りを胸に戦うと誓った。
ならば此処で臆して九郎達を見捨てるなど、到底有り得ない話だった。
千華留は少しばかり思案した後、自分なりの考えを口にする。

「仲間だもの……私だって九郎さん達を助けたいわ。
 でも、助けに行くんだったら皆で行けば良いんじゃないかしら?」
「怪我しているりのさんを連れてはいけないよ。
 そして千華留さんやユメイさんまで来たら、りのさんを守れる人がいなくなる。だから、僕一人で行くのが最善なんだ」
「……なら、理樹さんよりも私が行くべきね。
 理樹さんもりのちゃんと同じで、未だ怪我が治り切ってないんでしょ?」
「それは……」

千華留の指摘は正しい。
理樹の腹部に刻まれた銃創は、未だ完治していない。
エクスカリバーの鞘による治療である程度は回復したものの、完調には程遠かった。

「ほら、図星でしょ? そんな身体で無茶しちゃいけないわ。だから此処は私が――」
「いいえ、私が行きます」

千華留は自分が救援に行くべきだとの主張を試みたが、それは途中で遮られた。
声がした方へ振り向くと、そこには凛とした表情のユメイが立っていた。

485 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:08:29 ID:yUTGRp54
 

486 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:09:19 ID:ldEbThrF


487 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:09:40 ID:yUTGRp54
  

488 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:09:55 ID:4xqXfmzT
「九郎さん達の救援に一番適任なのは、私です。皆さんも知っての通り、私は特殊な力を使えますから」

敵は人外の存在である以上、それ相応の力を持つ者が救援に向かうべきなのは間違いない。
そしてユメイは霊力により、様々な技や魔具を用いる事が出来る。
更にエクスカリバーの鞘による治療も可能なのだから、ユメイ以上の適任者などこの場には存在しない。
しかし、千華留はユメイの提案を直ぐには受け入れず、確かめるように問い掛ける。

「きっと今回の戦いは、辛く厳しいものになるわ。もしかしたら、死んでしまうかも知れない。
 ……ユメイさんには、その覚悟があるの?」

千華留の脳裏に去来するのは、ユメイと出会った時の記憶。
怯え切っていたユメイの姿だ。
だからこその質問だったが、ユメイは躊躇わずに首を縦へと振った。

「ええ、大丈夫です。怯えているだけじゃ桂ちゃんは守れないから。
 もう絶対に、恐怖に屈したりしません」

語るユメイの顔には、怯えているだけだった頃の面影は欠片も見られない。
瞳には勇気が、言葉には揺ぎ無い意志が、宿っている。

「それに……桂ちゃんだけじゃない。私は皆を守りたいんです。仲間を死なせたくないんです。
 だから私――戦います」

その言葉は、ユメイの紛れも無い本心だった。
人を殺せば桂が哀しむし、何より自分自身だって人殺しなんてしたくない。
人を傷付けてしまった時の、あの押し潰されるような罪悪感はもう味わいたくない。

だけど、守る為になら戦えるから。
戦わずに後悔するだけなんて、もう絶対に嫌だから。
殺す為にでは無く、守る為に力を振るう。
それがユメイの――羽藤柚明の、新たなる決意だった。


489 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:10:57 ID:ldEbThrF


490 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:11:05 ID:yUTGRp54
 

491 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:11:19 ID:JjHr/kae
 

492 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:11:34 ID:4xqXfmzT
その決意を前にしては、最早誰にもユメイを止める事など叶わない。
ユメイは理樹から九郎の居場所を聞き出して、早々に出発しようとする。

「ユメイさん、待って! 行くのなら――せめて、これを持っていってよ」

そう云って理樹が差し出したのは、バルザイの偃月刀。
魔力や霊力を持つ者でなければ、この武器の真価は引き出せない。
ならばこの場に残しておくよりも、死地に赴くユメイこそが持っていくべきだった。

「助かります。有難く使わせて貰いますね」
「絶対に……死なないでね」
「分かっています。桂ちゃんを生きて帰すまで、私は死ぬ訳にはいきませんから」
「うん……皆の事、頼んだよ」

その言葉に、ユメイは迷い無く頷いて、喫茶店から飛び出して行った。
そんな彼女の背中を見送りながら、理樹は一人小さな声を洩らす。

「僕は――――」

本当なら、自分が行きたかった。
正しき道を示してくれた九郎を、自分自身の手で救い出したかった。
だけど、それは不可能。
腹部を怪我している今の自分が向かった所で、九郎の足手纏いにしかならないだろう。
自分の我儘を押し通して、九郎や他の仲間達を危険に晒す訳には行かない。

だから理樹は私情を抑え込んで、唯只拳を握り締める。
自身の無力を呪いながら、九郎達の無事を祈りながら。
血が滲み出る程に、強く、強く。



    ◇     ◇     ◇     ◇

493 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:11:46 ID:JjHr/kae
  

494 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:12:36 ID:ldEbThrF


495 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:13:08 ID:WQIURgLE


496 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:13:14 ID:4xqXfmzT


ユメイが喫茶店を発った頃から遡る事、数十分。
玖我なつきは拳銃型のエレメントを両手に握り締めながら、リゾートエリアの中を駆け抜けていた。
視線を横に向ければ、少女を右腕で抱き抱えたまま走る眼鏡の男の姿。
なつきはその男と安穏で無い関係だったが、今は互いに争っている場合などでは無い。
押し潰されるようなプレッシャーが、背後から迫りつつある。

そのプレッシャーの正体は、返り血で赤く塗れた制服姿の女子高生。
口元に張り付いた歪な笑み、爛々と輝く不気味な光を湛えた瞳。
呼吸をするかのような気軽さで他者を喰らい尽くす、異形の死神――鉄乙女だった。

「糞っ……なかなか引き離せないな」

なつきとて非日常の世界に生きる、HIMEの一人。
身体能力に関してはある程度自信があったものの、追跡者は正しく桁違いの怪物。
走力の差は火を見るより明らかだった。
故になつきは、自身が誇る拳銃型のエレメントで敵の足を止めようとする。

「このォッ!」

駆ける足は決して止めぬまま、後方の乙女に向けて銃を撃ち放つ。
高次物質化能力によって作り出されているエレメントには、弾切れなど存在しない。
間断無く矢継ぎ早に放たれる銃弾は、標的の前進を十分に止め得る筈だった。
敵が、只の人間ならば。

「……化け物が!」

眼前で繰り広げられた光景に、なつきが苛立たしげに舌打ちする。
乙女は銃弾の雨を刀――斬妖刀文壱で払い落しながら、一直線に突っ込んで来ていた。
なつきがその場を飛び退くよりも早く、乙女は刀の届く間合いに侵入する。
しかし文壱が振るわれる寸前、一条の稲妻が煌めいた。

497 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:13:17 ID:GLT3BdA8



498 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:13:25 ID:yUTGRp54
  

499 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:14:22 ID:GLT3BdA8



500 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:14:44 ID:GLT3BdA8



501 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:14:46 ID:4xqXfmzT
「八咫雷天流、砕鬼(くだき)!」

横より駆け寄って来た眼鏡の男が、その勢いのままに左ストレートを繰り出す。
直撃を受けた乙女は吹き飛ばされ、背中から近くの木に激突した。
しかしこの程度の事で倒せる敵で無いのは、なつきも眼鏡の男も十分に理解している。
なつきと男が逃げ出した数秒後には、再び疾駆する乙女の姿があった。

「おい、大丈夫か?」
「あ、ああ……助かった」

男の声に答えながらも、なつきは驚嘆の念を禁じ得なかった。
男の右腕は、未だ制服姿の少女を抱いたまま。
この男は人間を抱き抱えながらも、先のような鋭い一撃を放ってみせたのだ。
その身体能力の凄まじさは、接近戦に特化したHIMEである美袋命すらも上回っている。
この男ならば、生身でもオーファンやチャイルドとやり合えるのでは無いか。

「お前、名前は? 何者だ?」
「加藤虎太郎――ただのしがない、一教師だよ」

虎太郎と名乗った男が、不敵な笑みを口元に浮かび上がらせる。
なつきは後方へと牽制の銃撃を放ちながら、虎太郎は油断無く左拳を構えながら。
二人は肩を並べたまま、逃亡を続けようとする。
しかしそこで突然、なつき達の首輪が規則正しい電子音を打ち鳴らした。

『貴方は禁止エリアに侵入しました。後30秒後に爆破します』
「「……ッ!?」」

なつき達は逃げている内に、禁止エリアであるF6エリアへと侵入してしまっていたのだ。
思い起こされるのは、殺人遊戯の開幕時に首を吹き飛ばされた少年達の姿。
このまま進み続ければ、自分達も同じ末路を辿ってしまうのは確実。

502 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:16:11 ID:GLT3BdA8



503 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:16:31 ID:GLT3BdA8



504 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:16:40 ID:4xqXfmzT
「虎太郎先生、このままじゃ……!」
「分かってる!」

虎太郎は腕の中の少女――山辺美希に反応を返すと、直ぐに身体を反転させた。
なつきと共に大地を蹴って、元来た道へと引き返そうとする。
しかし後方に舞い戻るという事は即ち、自分達の方から追跡者に近付くという事。
三人が禁止エリアから逃れた時にはもう、目の前に乙女の姿があった。

「くぅ…………」

なつきが次々と銃を連射したが、やはり弾丸は一発の例外も無く斬り落とされる。
ならばと、虎太郎が大きく前に踏み込んだ。
その勢いを拳に乗せて、渾身の左ストレートを打ち放とうとする。

「吹き飛べ――砕鬼!」

しかし美希を右腕で抱いたままの状態で放つソレは、速度も威力も不十分。
加えて一度見せている技が、そう何度も通用したりはしない。
乙女が腰を横方へと捻らせた事で、拳は空を切り裂くに留まった。
続けてお返しだと云わんばかりに、乙女の刀が横凪ぎに一閃される。
虎太郎は石妖の力で左腕を硬化させて、迫る剣戟を何とか受け止めたが、所詮は苦し紛れの行動。
桁外れの衝撃力までは殺し切れずに、後方へと弾き飛ばされた。

「ぐ、がああああ!」
「きゃああっ……!」

虎太郎は背中から近くの民家に叩き付けられて、その拍子に美希も地面へと投げ出された。
それは乙女にとって、獲物を仕留める絶好の機会に他ならない。
乙女は標的を戦力的に一番劣るであろう美希に絞って、絶望的な速度で疾駆する。

505 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:17:10 ID:GLT3BdA8



506 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:18:36 ID:4xqXfmzT

「チィ!」

なつきが二度三度と、乙女の背中に向けて銃撃を敢行したものの、その行動は無意味。
乙女は天高くへと跳躍して銃弾から逃れながら、刀を大きく振りかぶった。

「あ、―――――」

標的にされた美希は、まるで蛇に睨まれた蛙であるかのように動けない。
ただ呆然としたまま、これで自分は死ぬのだ、とだけ理解した。
しかし、そんな結末を認めない少女が一人。

「させ、るか――――――!」

なつきは全速力で大地を疾駆して、美希へと飛び付いていた。
美希の身体を抱き抱えて、勢いのままに地面を転がる。
標的を失った乙女の剣戟は、大地を深く抉るに留まった。
しかし続け様に放たれた中段蹴りが、なつきの側頭部を直撃する。

「あぐっ…………!」

鈍器で殴られたような衝撃を受け、なつきは勢い良く地面に倒れ込む。
更に乙女は刀で追い討ちを仕掛けようとしたが、突然攻撃を中断してその場を飛び退いた。
次の瞬間には、それまで乙女が立っていた場所を、虎太郎の拳が蹂躙していた。
虎太郎の視線が、地面に倒れ伏すなつきへと向けられる。

「おい、立てるか?」
「ぐあ……うっ……」

なつきはなかなか立ち上がれない。
側頭部に衝撃を受けた所為で、脳震盪の状態に陥ってしまっていた。
なつきは云う事の効かない身体を動かそうとしながら、苦々しげに奥歯を噛み締める。

507 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:19:09 ID:GLT3BdA8



508 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:20:10 ID:yUTGRp54
 

509 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:20:21 ID:4xqXfmzT
(私は……何をやっているんだ…………?)

先程身を呈してまで少女を助けようとしたのは、深い考えあっての行動では無かった。
目の前の少女を死なせたくないと思い、その感情に身を任せただけだ。
結果として手痛い一撃を被り、大きな被害を受けてしまった。
本当に、自分は一体何をやっているのだろうか。

(私は……私は――――)

殺し合いに乗っている訳でも無いのに、伊達スバルの命を奪い。
戦場跡で見付けた狐の治療に、貴重な時間を割いて。
挙句の果てには、見ず知らずの人間を救う為に、無用なダメージまで負ってしまった。
静留を見付ける事だけ考えて動くつもりだったのに、余分な行動が多過ぎる。
一体何がしたいのか、自分で自分が分からない。
自分は――

「何を悩んでいるのか知らないがな、今は考えていられる状況じゃないだろ?」
「…………っ!?」

何時の間にか考え込んでいたなつきは、虎太郎に手を引かれ、強引に立ち上がらされた。
虎太郎は乙女に向けて拳を構えながら、なつきへと語り掛ける。

「お前はその子――山辺を連れて逃げろ。あの怪物は、俺が何とかする」
「――え?」

それはなつきにとっては寝耳に水の話。
自分とこの男は少し前まで敵対関係で、今はより大きな脅威から逃れるべく休戦しているに過ぎない。
だと云うのに何故この男が、自分を逃がそうとしているのか、分からなかった。
それにこの男一人で怪物に対抗出来るとは、到底思えない。

510 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:20:32 ID:ldEbThrF


511 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:20:47 ID:GLT3BdA8


512 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:20:51 ID:fRYJekfd



513 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:21:13 ID:JjHr/kae
 

514 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:21:28 ID:WQIURgLE


515 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:21:43 ID:4xqXfmzT
「無茶だ! あんな怪物、一人で何とか出来る訳が無い!」
「いいや、一人じゃないみたいだぞ?」

虎太郎はそう答えて、自身の足元を指差した。
そこには白い体毛を総逆立てて、乙女の方に身構えている子狐――尾花の姿。

「そんな狐が一匹居たところで、どうにかなる敵じゃないだろう……。
 第一、何故私を逃がそうとしてくれるんだ? お前は私を信用していないんじゃないのか?」
「それは少し前までの話だ。お前は捨て身で山辺を助けた。
 その事実だけで、俺がお前を信頼するには十分だ」

虎太郎は一呼吸置いてから、続ける。

「それに生徒を――子供達を守るのが、俺の役目なんでね。
 あの怪物とは因縁もある。だから此処は俺に任せて、お前達は逃げろ」
「……分かった、その言葉に甘えよう。ほら、行くぞ!」
「……は、はい!」

そうしてなつきは、美希の手を引いて走り始めた。
脳震盪がまだ収まり切っていない所為で、駆ける速度は遅いが、それでも確実に怪人との距離が開いてゆく。
そこで、走り去るなつきの背中に声が投げ掛けられた。

「山辺を救おうとした時の気持ち、忘れるなよ。
 そうすれば、お前はきっと間違えないさ」

その言葉に、なつきは何を思ったのか。
なつきの瞳の揺らぎが、より一層激しくなった。
それでもなつきは足を決して止めずに、戦場から離れてゆく。
一方で、なつきに手を引かれている美希は、冷静に思案を巡らせていた。

516 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:22:15 ID:GLT3BdA8


517 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:22:22 ID:fRYJekfd



518 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:22:47 ID:JjHr/kae
  

519 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:23:11 ID:4xqXfmzT
(不味い事になったなぁ……)

恐らくは眼前の女もお人好しに分類される人間であり、自分の事を保護はしてくれるだろう。
しかし虎太郎程の強さや冷静さを持っているとは、到底思えない。
暫くはこの急造の『盾』で我慢するしかないが、ずっとこのままなのは不味い。
いずれもっと良い『盾』を見付けて、乗り換えなければ――


『お前のそんな考えの所為で、霧は死んだんだぞ』


瞬間、そんな声が心の何処かから聞こえて来た。

「…………ッ」

美希は拳を握り締めて、ともすれば溢れ出しそうな感情を噛み殺した。
そんなものは知らない、と必死に否定する。
何をしても生き残りたいと思った。
誰を犠牲にしてでも生き残ると決めたのだ。
親友まで死んでしまった今、躊躇う理由など何処にも無い筈だった。


心に大きな迷いを抱えたまま。
二人の少女達はただ走り続ける。



    ◇     ◇     ◇     ◇


520 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:23:30 ID:yUTGRp54
  

521 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:23:43 ID:fRYJekfd



522 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:23:59 ID:GLT3BdA8


523 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:24:05 ID:4xqXfmzT
なつき達が戦場から離れた後。
虎太郎は乙女を引き付けるべく、尾花を抱えて、なつき達とは反対の方向へと逃亡した。
そのまま駆け続ける事数十分。
完全になつき達の安全を確保出来たと判断し、草木の生い茂る草原で足を止めた。
身体の向きを百八十度転換させて、尾花を降ろし、背後より追跡して来た怪物――鉄乙女と対峙する。

「さて、と……」

正直、状況はかなり不利であると云えるだろう。
石妖の血を引く虎太郎は、肘から先を岩石の如き硬度に変化させられる。
その硬度を活かした拳撃こそが、虎太郎の最も得意とする攻撃方法である。
だが頼みの綱である硬化能力が、今は制限の所為で弱体化してしまっていた。
その一方で、敵が持つ刀――斬妖刀文壱の切れ味は落ちていないに違いない。

こちらの攻撃が当たっても、敵に大きなダメージを与えるのは難しい。
逆に敵の剣戟を食らってしまえば、それこそ一撃で致命傷になりかねない。
この戦いは、武器を持つ者と持たない者の戦い。
言い換えれば、狩る者と狩られる者の戦いなのだ。

「けどな。男には……教師には、退けない場面ってのがあるんだよ」

虎太郎は迷いの無い声でそう云うと、石と化した拳を構えた。
自身の不利を理解していても、絶対に退く訳には行かない。
自分が保護していた少女、佐倉霧は眼前の怪物に殺されてしまった。
エレンだって、この怪物に殺害された可能性が極めて高い。

目の前の怪物は、自分にとって忌むべき怨敵なのだ。
それにこの怪物を放置すれば、未だ見ぬ子供達までもが犠牲になってしまうだろう。
故に此処で、刺し違えてでも倒さなければならない。

虎太郎は捨て身の覚悟を以って、怪物との対決に移ろうとする。
しかしそこで、虎太郎の聴覚は誰かが駆け寄って来る音を聞き付けた。

524 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:24:10 ID:JjHr/kae
   

525 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:24:17 ID:v+LUDujT
 

526 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:24:35 ID:GLT3BdA8


527 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:24:55 ID:fRYJekfd



528 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:25:05 ID:4xqXfmzT

「――おっちゃん!」

草々を踏み締めながら現れた男。
それは放送の少し前に別れた仲間、大十字九郎だった。
理樹の予想通り、九郎は虎太郎を助けるべく戦場に飛び込んだのだ。

「よお、九郎。無事で何よりだ」
「ああ、アンタもな。けど――問題はこれからだろ?」

そう云って、九郎は乙女の方へと視線を寄せた。
鬼と化した少女は、底冷えのする濁った瞳でこちらを睨み付けている。

「……あの女はもう、完全な鬼と化している。油断するなよ、九郎」

一緒に戦うつもりか、とは聞かなかった。
そんな事、聞くまでも無い。
短い付き合いだが、九郎が正義感の強い男である事くらいは理解している。
そんな九郎が自らこの場に現れた意図など、虎太郎の救援以外に有り得ないのだ。

「俺だって魔術師の端くれだ、そんな事くらい分かってるさ。
 大体こんな馬鹿デカイ殺気を叩き付けられたら、油断したくたって出来る訳が無いだろ?」

九郎は鞄から異様な長さの刀を取り出して、虎太郎も石と化した拳を握り締めた。
数多くの死地を潜り抜けて来た二人が肩を並べて、眼前の鬼を睨み付ける。
交錯する三つの視線。
歴戦の猛者達の殺気を一身に受け、乙女は凄惨に嗤った。

「ふふ……美味しそうな、獲物達だ」

乙女は愉しげな声でそう云うと、生物とは思えぬ速度で九郎達に向けて駆け出した。
それとほぼ同時に、九郎達も前方へと疾駆する。

529 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:25:44 ID:v+LUDujT


530 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:26:16 ID:fRYJekfd



531 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:26:17 ID:JjHr/kae
 

532 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:26:17 ID:v+LUDujT


533 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:26:42 ID:4xqXfmzT
先手を取ったのは九郎。
九郎が持つ刀――物干し竿は、通常の刀に倍する長さを誇る代物である。
乙女の斬妖刀文壱よりも更に長い。
先に敵を射程内へと捉えた九郎は、刀を振り下ろしたが、それは乙女の刀によって受け止められる。
金属の衝突音を響かせながら、お互いを刃先で押し合うが、腕力で劣る九郎が押し負ける事は明白。
だから、その事態を予見していた虎太郎は、間髪置かずに横から乙女へと殴り掛かった。

「ガッ…………!」

一発。
石の拳を脇腹に打ち込まれ、乙女が九郎から引き離される。
その隙を狙って、虎太郎はここぞと云わんばかりに足を踏み出した。

「喰らえ悪鬼――八咫雷天流、散華(はららばな)!」

散弾のような打撃が、鬼と化した少女の全身へと襲い掛かった。
その速度は最早連撃というレベルに留まらず、拳による面制圧と表現するのが相応しい。
しかしそんな猛攻に晒されて尚、乙女は悠然と刀を振り上げた。
その場から一歩も退かないままに、反撃の剣戟を繰り出してゆく。
衝突する剣と石の拳、連続して鳴り響く衝撃音。

「ぐ、うぅ、ぁ―――――」

虎太郎が苦痛に顔を歪め、じりじりと後ろへ後退する。
一撃一撃を打ち合う度に、石と化した筈の拳に痺れが奔っていた。
虎太郎の劣勢は明らか。
慌てて九郎も加勢しようとしたが、乙女は背後から振るわれる一閃を跳躍で回避した。
一瞬で頭上へと回り込んだ乙女に、九郎と虎太郎は反応し切れない。

「しまっ…………」
「く!?」

534 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:26:43 ID:GLT3BdA8


535 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:26:43 ID:X+l8N2U7


536 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:27:01 ID:fRYJekfd



537 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:27:13 ID:yUTGRp54
 

538 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:27:47 ID:4xqXfmzT
完全な無防備を晒している二人に向けて、乙女は全力で刀を振り下ろそうとする。
恐るべき膂力で振るわれる斬妖刀は、一撃で二人の命を破壊し尽くすだろう。
だが、そこで乙女の顔面へと吹き付ける純白の疾風。

「―――――ガッ!?」

小躯の子狐――尾花の突撃を受けて、乙女の剣戟は失敗に終わった。
乙女は着地と同時に尾花を両断しようとしたが、斬撃は命中しない。

尾花は流星のような身のこなしで刃を掻い潜って、爪による一撃を乙女の左脇腹へと叩き込んだ。
上空へと飛び上がり、更に乙女の右腕に一撃、右肩にもう一撃。
続けて乙女の頭部を蹴り飛ばして、九郎達を庇うような位置取りへと着地した。
尾花は白い体毛を総逆立たせて、全く怯む事無く鬼の少女と対峙する。

「助かった、けどよ……。コイツ、何モンだ?」

九郎が思わずそう呟いてしまうのも、仕方の無い事だろう。
奇襲じみた攻撃だったとは云え、こんな子狐があの屈強な鬼に一杯食わせたのは、俄かには信じ難い事態。
しかもあろう事かこの子狐は、足に包帯を巻いている状態で、それだけの事をやってのけたのだ。

――九郎達には知る由も無いが、尾花は嘗て鬼神とまで呼ばれていた、恐るべき存在だった。
今は大半の力が封印されてしまっているが、それでも只の人間よりは余程強い。

「考える必要なんて無いさ。この狐は味方で、あの怪物と戦えるだけの力を持っている。
 それだけ分かってれば十分だろ?」
「ああ……そうだな。今はあのバケモンを倒す事に集中しなきゃな……!」

虎太郎の言葉に頷きながら、九郎は再び刀を正中線に構えた。
尾花の正体について、今は知る必要など無い。
心強い味方が増えたという事実だけが、大切だった。

539 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:28:16 ID:GLT3BdA8


540 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:28:20 ID:yUTGRp54
  

541 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:28:21 ID:X+l8N2U7


542 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:28:45 ID:JjHr/kae
 

543 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:29:08 ID:4xqXfmzT
しかし異能の力を内に秘めているのは、尾花だけでは無い。
鬼とは、力のある者を食べれば食べる程、それだけ自身の能力を高めてゆく怪物。
嘗て乙女が英霊――アサシンを喰らったという事実を、決して忘れてはいけないのだ。

「あれは……?」

九郎の眼前で、乙女が斬妖刀文壱を鞄へと仕舞い込んで、代わりに一振りの西洋剣を取り出していた。
黄金色に輝く刀身は、こんな状況で無ければ見惚れてしまいかねない程に美しい。
それは、殺人遊戯の開始当初に対馬レオへと支給されて、今は乙女の所有物となっている黄金の剣。
嘗ての乙女ならば扱い切れぬ代物だったが、英霊を喰らった今なら別。
乙女の身体から赤い瘴気が立ち昇って、手元の剣へと吸い込まれてゆく。

「い、一体どうなってやがるんだ……!?」

得体の知れぬ恐怖に、九郎が小さく震える声を洩らした。
黄金の剣を眩い光が包んでゆき、悪寒が際限無く膨れ上がる。
発生した強い風に押され、九郎の身体がじりじりと後退してゆく。
そのまま経過する事数秒、九郎は唐突に叫んだ。

「不味い! 皆、避けるんだああぁぁぁっ!」

魔術師の端くれである九郎は、迫る危険を何とか察知する事が出来た。
仲間に退避を促してから、自身の全脚力を駆使して横へと飛び退く。
それとほぼ同時のタイミングで、鬼と化した少女が聖剣の真名を紡ぎ上げた。

544 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:29:14 ID:fRYJekfd



545 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:29:30 ID:v+LUDujT


546 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:30:01 ID:fRYJekfd



547 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:30:17 ID:GLT3BdA8


548 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:30:19 ID:v+LUDujT


549 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:30:27 ID:yUTGRp54
 

550 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:30:33 ID:4xqXfmzT


「勝利すべき黄金の剣(カリバーン)――――――――!」


それは正しく、滅びの光そのものだった。
吹き荒れる烈風、煌めく閃光。
カリバーンから放たれた黄金の奔流は、進路にあるモノ全てを飲み尽してゆく。

辺りに生い茂る草や木が、秒にも満たぬ時間で焼き尽くされる。
そして、訪れる静寂。
光が止んだ後、カリバーンが向けられた先に残っているのは、無残な破壊の跡だけだった。


「おっちゃん!」
「心配するな、直撃は受けていない。だが……左腕をやられたな」

叫ぶ九郎の眼前には、左腕から煙を立ち昇らせている虎太郎の姿。
尾花や九郎はそれぞれ別方向に退避して、無事に閃光から逃れる事が出来た。
一方で反応の遅れた虎太郎は避け切れずに、左腕を焼かれてしまったのだ。
それでも虎太郎は、自身の幸運に感謝しなければならないだろう。

カリバーン本来の持ち主に比べて、乙女の力は未だ不十分。
更に、殺人遊戯の参加者全てに課せられた制限。
それらの要素が、カリバーンの威力を本来の十分の一程度にまで抑えていた。
もしカリバーンが完全な形で放たれていれば、虎太郎は跡形も無く消し飛ばされている筈だった。

551 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:30:34 ID:JjHr/kae
 

552 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:30:45 ID:fRYJekfd



553 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:31:01 ID:X+l8N2U7


554 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:31:31 ID:fRYJekfd



555 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:31:39 ID:yUTGRp54
  

556 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:31:56 ID:GLT3BdA8


557 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:32:06 ID:4xqXfmzT
「掠っただけでこの有様か。やれやれ……疲れる奴だ」

虎太郎は溜め息を一つ吐きながら、焼け爛れた左腕をポケットに突っ込んだ。
敵が遠距離からの『砲撃』を可能としている以上、静観していてもいずれ殺されるだけ。
未だ無事な右拳を握り締めて、活路を見出すべく自ら鬼に殴り掛かる。

「八咫雷天流、散華!」

気合一閃、虎太郎は負傷した身にも関わらず拳を繰り出してゆく。
正に鉄の精神力があってこそ為せる技だが、片腕で放たれるソレは以前よりも速度が落ちている。
乙女は武器を使うまでも無いと云わんばかりに、空いている左手で虎太郎の拳を受け止めた。

「ぐぅ………ク……!」

虎太郎が拳を引き抜こうとしたが、セメントか何かで固定されたかのように動かない。
乙女は力任せに虎太郎を持ち上げて、反対側から突っ込んで来る尾花の方へと投げ飛ばした。
尾花は宙へと跳躍して虎太郎を受け止めようとしたが、小柄な狐の身体では衝撃を抑え切れない。
虎太郎と尾花は受け身を取る事もままならず、強く地面へと叩き付けられた。

「畜生……なんてバケモンだ!」

尾花に続けて飛び込もうとしていた九郎は、その機会を失って唯只歯軋りする。
鬼と化した、そして英霊を食らった鉄乙女の実力は、想像を絶するものだった。

虎太郎も、九郎も、尾花も、それぞれが懸命に戦っているが、足りない。
屈強な鬼を打倒し得るだけの、破邪の武器が足りない。
死の閃光から身を守るだけの、護りの力が足りない。

そして尚も、絶望を司る鬼の猛攻は止まらない。
乙女は標的を九郎一人に定めて、荒れ果てた草原の中を疾走する。

558 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:32:27 ID:GLT3BdA8


559 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:32:56 ID:fRYJekfd



560 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:33:15 ID:4xqXfmzT
「この、糞ったれが!」

九郎は両腕に全力を籠めて、刀を横凪ぎに思い切り払う。
それは常人よりも幾分か鋭い剣戟だったが、その程度では人外の存在に通じない。
乙女は迫る一撃を易々と飛び越えて、九郎の懐にまで侵入する。
九郎も何とか第二撃を振り下ろして、それと同時に乙女がカリバーンを上方へと一閃した。
衝突する凶器と凶器。
圧倒的な腕力差により打ち負けた九郎の刀が、空中へと弾き飛ばされる。

「や、やられる…………!?」

武器を失った九郎の眼前で、乙女がカリバーンを天高く振り上げる。
濁りに濁った赤い瞳が、ぎろりと九郎に向けられた。
九郎程度の身体能力で、この距離から逃れるのはまず不可能。
虎太郎と尾花も未だ先のダメージから立ち直っておらず、救援に駆け付けられる状態では無い。
正しく絶体絶命の状況。
そんな状況を覆したのは、何処からともなく飛来した謎の物体だった。

「…………っ」

乙女が小さく舌打ちした後、九郎への攻撃を中断して飛び退いた。
次の瞬間、それまで乙女が立っていた場所に一振りの刀が突き刺さっていた。


561 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:33:29 ID:JjHr/kae
 

562 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:33:42 ID:fRYJekfd



563 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:33:51 ID:ldEbThrF


564 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:33:58 ID:GLT3BdA8


565 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:34:25 ID:4xqXfmzT

「これは、バルザイの偃月刀……!?」
「――九郎さん、それを使って!」

聞き覚えのある声が、九郎の鼓膜を振るわせた。
目の前には、使い慣れたバルザイの偃月刀。
それは魔力を持たぬ者なら扱い切れぬ代物だが、九郎は魔術師で、そして魔力入りの宝石を持っている。
考えている暇など無い。
即座に懐から宝石を取り出して、秘められた魔力をバルザイの偃月刀へと送り込んだ。
偃月刀は魔力を炎へと変えて、その刀身に豪火を纏わせる。

「うおおおぉぉぉっ!」

九郎は偃月刀を手に疾駆して、乙女の下へと走り込んだ。
躊躇は無い。
灼熱の刃と化した偃月刀を、眼前の敵に向けて一閃する――!


「グ……ガァァァッ!?」

乙女も咄嗟にカリバーンで防ごうとしたが、偃月刀の纏う豪火までは止められない。
偃月刀から伸びる炎が乙女の腕に纏わりついて、一気に焼き尽くそうとする。
しかし乙女とて、そのまま両腕を奪われるような失態は犯さない。
一瞬の判断で後方に跳躍して、何とか炎を振り払っていた。


「ユメイさん!」

九郎は無理に乙女を追撃しようとはせずに、救援者の所に駆け寄った。
救援者の正体は、和服を全身に纏った少女、ユメイだった。

566 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:34:28 ID:fRYJekfd



567 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:34:57 ID:JjHr/kae
 

568 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:35:10 ID:GLT3BdA8


569 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:35:24 ID:fRYJekfd



570 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:35:44 ID:4xqXfmzT
「サンキュな、助かったよ。でも――どうして此処に?」

それは九郎からすれば当然の疑問。
ユメイが特殊な力を持っている事は、九郎も情報交換の際に聞いている。
しかし九郎は錯乱したユメイに襲われた時の経験から、彼女の事を少し臆病な少女だと判断していた。
だからこそ、ユメイが救援に来てくれた事を不思議に思っていたのだが。

「それは、貴方達を守る為です。
 私はもう逃げないって決めたから――貴方と一緒に、戦わせて下さい」

その解答は、九郎にとって十分過ぎるものだった。
仲間が勇気を胸に駆け付けてくれたというのなら、拒む理由など無い。
九郎は力強く首を縦へと振って、ユメイの頼みを快く受け入れた。

「一つだけ聞いとく。理樹や他の皆は無事なのか? ああ、生きてるってのは理樹から聞いたよ。
 そういう意味じゃなくて、ヤバい状態になってないかって事だ」
「ええ。怪我をしている人も居ますけど、誰も命に関わるような重傷は負っていません。
 皆、希望を持って前に進もうとしています」
「……そっか。なら、後は簡単だな」

九郎は視線を前へと移し、こちらに向けて身構えている乙女を睨み付けた。
乙女の両腕は表面の所々が黒く変色しており、ぶすぶすと煙を立たせていた。
それは先の一撃が、有効打であった証拠に他ならない。

「ああ、簡単だ。後は――あの悪鬼を倒すだけだ」

右拳を固めた虎太郎が、白毛を逆立たせた尾花が、九郎の横に並び掛ける。
此処に、鬼討伐の役者は揃った。
嘗て鬼神と呼ばれし妖狐、尾花。
オハシラサマの継ぎ手、羽藤柚明。
八咫雷天流を操る人妖、加藤虎太郎。
そして正しき心を胸に秘めた魔術師――大十字九郎。

571 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:36:09 ID:fRYJekfd



572 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:36:37 ID:GLT3BdA8


573 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:36:53 ID:fRYJekfd



574 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:37:16 ID:4xqXfmzT



「カリバーン―――――!」

先手を取ったのは、強力無比な遠距離攻撃を有す乙女だった。
乙女は聖剣に赤い瘴気を集約させて、再び滅びの閃光を撃ち放つ。
先と同じく凄まじい破壊が巻き起こされるかのように思えたが、今はユメイがいる。

「やらせない…………っ!」

ユメイは青白い蝶々を壁のように展開して、カリバーンの砲撃に対抗する。
オハシラサマであるユメイが生成する蝶々には、一羽一羽に強力な霊力が籠められている。
勿論、その程度ではカリバーンの一撃を完全には防ぎ切れない。
完全には防ぎ切れないが――その威力、速度を大きく減衰させる事には成功した。
九郎達はバラバラに飛び退いて、勢いが緩まったカリバーンの閃光を回避する。

「バルザイの……偃月刀!」

九郎は偃月刀に魔力を送り込んで、そのまま勢い良く投擲した。
偃月刀はブーメランのように回転しつつ、乙女に向けて宙を突き進む。
乙女は先の経験から剣で受け止めようとはせずに、空中へと跳躍して逃れた。
しかし一度避けられてからが、投擲武器として用いられた際の偃月刀の真骨頂。

「まだまだ、此処からだ! 切り裂けェ!」

偃月刀は空中で進行方向を百八十度回転させて、乙女の背中へと襲い掛かる。
乙女は地面に屈み込む事で何とか逃れたが、その隙を狙って尾花が大地を疾走した。
尾花は乙女の背後から跳躍して、無防備な右肩へと噛み付いた。
更にそれより少し遅れたタイミングで、偃月刀を回収した九郎が斬り掛かる。
乙女は避けねばダメージを被ると分かっていても、カリバーンで受け止めるしか無かった。

575 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:37:19 ID:yUTGRp54
 

576 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:37:38 ID:GLT3BdA8


577 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:37:45 ID:fRYJekfd



578 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:38:03 ID:yUTGRp54
  

579 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:38:23 ID:4xqXfmzT
「ハァァァァアア…………ッ」

激しい鍔迫り合い。
九郎は両腕に力を籠めて、そのまま一気に押し切ろうとする。
最初の投擲攻撃からこの瞬間まで、まだ五秒程しか経っていない。
正しく息をも吐かせぬ連続攻撃。
だが――その猛攻を前にしても、鬼と化した少女は尚最強だった。

「な、にっ……くあああ……!」

九郎の表情が驚愕に歪む。
乙女は両腕を焼かれながらも、人間離れした力で九郎を強引に押し飛ばした。
間髪置かずに自身の右肩へと手を伸ばし、噛み付いていた尾花を無理やり引き剥がす。
そのまま尾花の身体を地面へと投げ付けて、一撃で意識を刈り取った。

「狐……! クソ、これだけやっても未だ足りねえってのかよ!?」

乙女が誇る余りにも圧倒的な実力に、九郎が苦々しげに表情を歪める。
だが、そんな九郎の声を否定する男が一人。

「――いいや、十分だ」
「……え?」

告げる男の名は、虎太郎。
九郎が視線を向けた時にはもう、虎太郎は乙女の真横で拳を振りかぶっていた。

580 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:38:41 ID:JjHr/kae
 

581 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:39:26 ID:4xqXfmzT
「行くぞ! 八咫雷天流――」

仲間達が作ってくれた好機、絶対に無駄にはしない。
虎太郎は右腕を石妖の力で硬化させて、弓のように後方へと引き絞る。
それと同時に踏み込んで、電光石火の勢いで間合いを詰める。


「――白狼(はくろう)!」


瞬間、虎太郎の拳は稲妻と化した。
八咫雷天流の中でも最速の一撃が、一直線に打ち放たれる――!



紫電の如き一撃を横から撃ち込まれては、如何な乙女でも避け切れない。
振り下ろされた稲妻は、乙女の腹部へと直撃していた。
たたらを踏んで乙女が後退するが、尚も虎太郎は追撃の手を緩めない。

「白狼、白狼、白狼――――!」

殴る、殴る、殴る……!
一撃では倒れぬ乙女の身体に、次々と白狼が叩き込まれる。
裂帛の気合いで繰り出される石の拳は、確実に乙女の身体を破壊してゆく。
皮膚を裂き、骨を粉砕して、真っ赤な鮮血を撒き散らす。

582 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:40:04 ID:GLT3BdA8


583 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:40:04 ID:fRYJekfd



584 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:40:11 ID:yUTGRp54
 

585 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:40:51 ID:4xqXfmzT

「グ、ガ、ハッ…………」

このままでは、鬼の耐久力を以ってしても耐え切れない。
乙女は残された力を振り絞って、苦し紛れに横に飛び退こうとした。
だがそんな乙女の逃亡を、この男は――加藤虎太郎は、決して許さない。


「逃がすか悪鬼! これで、終わりだ――――!!!」


逃げようとする乙女の心臓に向けて、一際強い力の籠った白狼が打ち込まれる。
とうとう乙女は耐え切れなくなって、思い切り後方へと弾き飛ばされた。
地面の上を激しく回転しながら転がって行き、進路にある木へと激突した。

普通ならば、これで完全に決着は付いた。
虎太郎が打ち込んだ攻撃は、並の相手なら十度殺して余りある。

だと云うのに――乙女は、よろよろと身体を起こそうとしていた。
最早冗談としか思えぬその生命力に、九郎は苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。

「ハ、ハハハ……。不死身かよ、アイツは……」
「ああ、全く嫌になってくるな。しかし、どうやら勝負は見えたようだぞ」

586 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:40:54 ID:fRYJekfd



587 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:41:39 ID:fRYJekfd



588 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:41:56 ID:GLT3BdA8


589 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:42:03 ID:4xqXfmzT
虎太郎の言葉は、仲間を勇気付ける為の虚言などでは無い。
起き上がろうとする乙女の動作は、これまでに比べて余りにも緩慢。
それも当然だろう。
白狼を撃たれた箇所の骨には大きく罅が刻み込まれ、心臓に至っては停止寸前の状態に陥ってしまっている。
そんな状態では、虎太郎達の猛攻を凌ぐ事など到底不可能に違い無い。
故に虎太郎達は、このまま勝負を制す事が出来る筈だった。
その、筈だったのだ。


――乙女の足元に、あるモノさえ転がっていなければ。


「……待って! 皆さん、あそこを見て下さい!」

最初に気付いたのは、ユメイだった。
ユメイが指差す先、乙女の足元付近の地面に白い何かが倒れ伏せている。
それは先程、乙女の一撃によって意識を奪われた尾花だった。
乙女は尾花の身体を掴むと同時、赤い瞳を今までよりも更に強く輝かせた。
鬼と化した少女の口元に、近付けられて行く白狐の身体。

「ま、まさか――」

沸き上がった嫌な予感に、九郎が震える声を洩らす。
そんな彼の予感を、最悪の形で肯定するかのように。
乙女は口を大きく開けて、新たなる捕食を開始しようとしていた。

590 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:42:26 ID:fRYJekfd



591 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:42:37 ID:yUTGRp54
  

592 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:43:11 ID:X+l8N2U7


593 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:43:18 ID:yUTGRp54
 

594 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:43:33 ID:fRYJekfd



595 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:43:36 ID:GLT3BdA8


596 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:43:44 ID:4xqXfmzT
「やめろおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

九郎はバルザイの偃月刀を投擲すべく、魔力を宝石から引き出した。
しかしその行動は、最早完全に手遅れ。
鬼と化した乙女の顎の力は、人間だった頃の比は無い。
乙女は只の一噛みで尾花の腹部を噛み砕いて、その中身の一気に飲み込んだ。
そのまま二度、三度。
ほんの数回乙女が噛み付いただけで、小狐の身体は大半が喰い尽くされてしまった。

「あ、ああああぁぁ…………」

ユメイはこの中で唯一、尾花の事を知っている。
故に、絶望の声を零す。
その声に籠められた感情は二つ。
一つは、自分達と共に戦ってくれ、桂も良く知っている子狐が死んでしまった事への哀しみ。
そしてもう一つの感情は、絶望だった。



「――やっと、満たされた」



草原に濃厚な瘴気が立ち込めて、草木がざわざわと耳障りな音を奏でている。
紡がれた声と共に、空気がビリビリと震動した。
声の主は、鮮血に塗れた口元を凄惨に吊り上げる鉄乙女だった。
尾花を丸ごと食らった事で、怪我もあらかた回復してしまったのか。
乙女の姿には、先程までのダメージは一切見受けられない。
寧ろ戦いを始めたばかりの頃よりも、明らかに威圧感を増していた。

597 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:44:13 ID:GLT3BdA8


598 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:44:20 ID:yUTGRp54
 

599 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:45:07 ID:fRYJekfd



600 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:45:30 ID:4xqXfmzT
「……畜生!」

出会ったばかりとは云え、共闘者の死に九郎が悔しげに奥歯を噛み締める。
九郎が睨み付ける先には、尾花を殺した張本人である乙女の姿。
乙女の周囲には、赤色の濃厚な霧が纏わり付いている。
魔術師である九郎には、霧の正体を容易に理解する事が出来た。
アレは、『力』だ。
人の身には収め切れない圧倒的な赤い『力』が、乙女の身体から溢れ出しているのだ。

「こ、こんな…………」

覚悟を決めた筈のユメイが、本人の意思とは無関係に一歩後ろへと後ずさる。
本能が、オハシラサマとしての直感が、今すぐ此処から逃げ出せと訴えている。
それ程に、今の乙女から感じ取れる重圧は強大だった。
ユメイ達が圧倒される中、鬼の声は何処までも愉しげに紡がれる。

「フフフ、アハハハハハ…………! 満たされた、満たされたぞ…………!」

常に身を苛んでいた空腹感から解放された乙女は、狂ったかのように嗤う。
否、実際彼女は完全に狂ってしまっているだろう。
嘗て正義を志した筈の少女は致命的に歪み、人間としての誇りも尊厳も最早全く持ち合わせていない。
代わりに手に入れたのは、全てを押し潰せる程の強大な力。

邪悪に染まり切った今の乙女では、尾花本来の能力である『言霊』の力は使えない。
しかし『言霊』が使えずとも、濃厚な血は乙女の力を文字通り鬼神の域にまで高めていた。
すっと、乙女の左腕が九郎達の方へと向けられる。
赤い霧が一際輝きを増したかと思った次の瞬間、眩い火雷が九郎へと襲い掛かった。

601 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:45:52 ID:fRYJekfd



602 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:46:17 ID:GLT3BdA8


603 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:46:20 ID:yUTGRp54
  

604 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:46:38 ID:fRYJekfd



605 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:47:06 ID:4xqXfmzT

「くぅ――――」

九郎は地面へと転がり込む事で、何とか赤雷の矢から逃れていた。
雷は背後にあった木の幹に直撃し、深々とした穴を刻み込む。
生身の人間が直撃を受ければ良くて重傷、当たり所が悪ければ即死だろう。
乙女が第二の雷で九郎を追い打とうとするが、それよりも早く疾走を開始する一つの影。

「これ以上好きにやらせるか――白狼!」

虎太郎は傷付いた身体を奮い立たせ、未だ無事な右腕一本を頼りに乙女へと殴り掛かる。
放たれた白狼は稲妻の如き速度で、乙女の左肩へと確かに直撃した。
だが鬼神と化した今の乙女に、威力が制限された拳撃など通じない。
乙女は平然としたまま虎太郎の腕を掴み取って、片手でカリバーンを振り上げた。

「させないっ!」

青い風が吹き荒れる。
窮地にある虎太郎を守るべく、ユメイが青白い蝶々を可能な限りの数だけ生成した。
大量の霊力を消費して生み出された蝶々は、数にして三十以上。
宙を舞う蝶々達は乙女の身体に纏わり付いて、その動きを拘束しようとする。
瞬間、乙女の身体から濃厚な赤い霧が噴出した。

「フッ……数が多いだけで力は弱い」

乙女がそう呟くと同時、赤い霧が濃度を増して、蝶々の一羽一羽を包み込んだ。
弾けるような電光と共に、蝶々が一羽残らず焼き尽くされていく。
ユメイの蝶々を打ち破った乙女は、虎太郎の拳を押さえたまま視線を横に向ける。
そこでは九郎が大きく腕を振りかぶって、バルザイの偃月刀を投擲しようとしていた。

606 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:47:22 ID:fRYJekfd



607 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:47:24 ID:8lDkh5Ld
 

608 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:47:36 ID:GLT3BdA8


609 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:48:08 ID:fRYJekfd



610 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:48:29 ID:4xqXfmzT

「当ったれ――――!」
「ハア……ッ!」

十分な魔力の籠った偃月刀が、九郎の手元から投げ放たれる。
それと同時に虎太郎も足を振り上げて、乙女の脇腹を膝で打ち抜かんとする。

そんな二方向からの同時攻撃にも、乙女は全く動揺したりしない。
虎太郎の膝は躱す必要など無いと云わんばかりに、甘んじて受け入れた。
そして不規則な軌道で飛来する偃月刀は、正確にカリバーンで弾き飛ばす。
結果として、九郎と虎太郎の連続攻撃は何の戦果すらも挙げられなかった。
敵の攻撃をあらかた打ち破った乙女は、懐に居る虎太郎を赤い瞳で一瞥する。


「――死ね」


その言葉と共に、カリバーンが絶望的な速度で突き出される。
拳を掴まれている虎太郎が避けるには、余りにも鋭過ぎる攻撃だった。
ズブリ、という音。
虎太郎は、異物が身体内部まで侵入する音を正確に耳にした。

「が、ぐぁああああ…………!」

カリバーンの刃は、無慈悲にも虎太郎の脇腹を深々と貫いていた。
乙女は刀身を引き抜くと同時、強烈極まりない回し蹴りで虎太郎を弾き飛ばす。
虎太郎は優に十メートル以上も吹き飛ばされて、そのまま地面に転倒した。
大きく一度虎太郎が咳き込むと、その口元から真っ赤な血が噴き出した。

611 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:48:36 ID:X+l8N2U7


612 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:48:52 ID:fRYJekfd



613 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:49:15 ID:GLT3BdA8


614 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:49:38 ID:fRYJekfd



615 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:50:08 ID:4xqXfmzT
凄惨に食い荒らされた狐の亡骸。
打ち倒されてしまった仲間の姿。
それは、九郎の怒りを引き出すのに十分過ぎるもの。

「……テメエ、よくもおっちゃんを!」

回収したバルザイの偃月刀を手に、九郎が乙女へと斬り掛かる。
一つ目の宝石の魔力は使い尽くしてしまった。
故に新たなる宝石を取り出して、そこから魔力を偃月刀へと送り込んだ。
燃え盛る灼熱の刃は、鬼神と化した乙女相手であろうとも有効だろう。

横凪ぎに一閃、斜めに一振り。
篭手、刺突、袈裟切り、唐竹割り――。
歴戦の経験の、そして煮えたぎる憤怒のお陰か。
今の九郎の連撃は、鬼切り役もかくやという程の鋭さに達していた。
しかしそれすらも、乙女は身のこなし一つで正確に躱してゆく。

「ク、クソッ…………!」

歯軋りしながら偃月刀を振り回すも、無駄、無意味。
度重なる空振りによって、九郎は徐々に態勢を崩してゆく。
そこで乙女が初めてカリバーンを振りかぶって、反撃の剣戟を繰り出した。
九郎は咄嗟に偃月刀で防御したが、やはり衝撃を抑え切れずに身体ごと弾き飛ばされた。

「が……ごほっ――――」

九郎は地面へと降り立つ瞬間、重心を前に傾けて両足を踏ん張らせる事で、転倒だけは免れた。
しかし防御越しとは云え、交通事故のような衝撃を食らった所為で、思わず咳き込んでしまう。
それでも何とか視線を上げると、前方には掠り傷一つ負っていない乙女の姿があった。

616 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:50:09 ID:yUTGRp54
 

617 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:50:22 ID:fRYJekfd



618 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:50:35 ID:yUTGRp54
 

619 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:51:06 ID:dkW7dvfh



620 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:51:08 ID:fRYJekfd



621 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:51:09 ID:X+l8N2U7


622 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:51:15 ID:4xqXfmzT

「ふふ、ふふふふ……。見てくれレオ、私はとうとう最強の力を手に入れたぞ……。
 私こそが弱者を喰らい、糧とする強者なんだ」

想像を絶する空腹から解放された事で、僅かながら記憶と思考能力が戻ったのか。
乙女は以前よりも、幾分か饒舌になっていた。
自身の腹部を愛おしげに撫でながら、恍惚とした声を上げる。
赤い瘴気を纏ったその姿、血塗れの笑みを浮かべたその顔は、明らかに異常。
間違い無く狂っている。
狂っているが、この場に於いて彼女が最強である事も、紛れも無い事実だった。

九郎とユメイは少なからず消耗し、虎太郎に至っては常人なら即死しかねない程の傷を負っている。
対する乙女は、未だ呼吸一つ乱してはいないのだ。
彼我の戦力差は、考えるまでも無く明らかだろう。

「虎太郎さん、しっかりして下さい!」
「ぐ、ぅ……ああ……悪いな……」

虎太郎が腹部から大量の血を流しながら、ユメイの肩を借りて立ち上がろうとする。
何とかその目論見は成功したものの、身体を支える足は震えている。
ユメイから手を離した瞬間、虎太郎は再び地面へと崩れ落ちた。

「こ、虎太郎さん……っ」
「が、ぐっ……。まだ、だ……っ」

それでも虎太郎は諦めずに、再びその身を起き上がらせようとする。
負けて堪るものか、と身体に無理やり喝を入れる。
負けられない。
他の誰かに負けるのは良いが、この怪物にだけは負けられない。
この鬼は、子供達の命を無残にも奪い尽くしたのだ。
ならばどれだけ身体が傷付いていようとも、此処で膝を屈する訳には行かない。

623 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:51:37 ID:GLT3BdA8


624 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:51:53 ID:fRYJekfd



625 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:52:23 ID:GLT3BdA8


626 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:52:37 ID:fRYJekfd



627 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:52:52 ID:4xqXfmzT

「俺は……負けられ、ない……。こんな所で倒れている訳には……行かないんだよ……!」

虎太郎は腹部を血で真っ赤に染めつつも、膝に力を籠めた。
しかし現実は無情で、踏み止まれずに再び地面へと倒れ込んでしまう。
乙女はそんな虎太郎の姿を眺めながら、見下した声で一言呟いた。

「フフ……無様だな」

鬼神と化した乙女から見れば、今の虎太郎は弱者そのもの。
自分のような強者の糧にしか成れない、哀れな獲物に過ぎない。
獲物風情が足掻こうとしている姿は、滑稽で下らないものにしか見えなかった。
故に乙女は、虎太郎を無様だと断定する。
しかしその乙女の言動に対して、真っ向から反対意見を突き付ける男が一人。


「……無様で、良いじゃねえか」

呟く声は、九郎の喉奥から漏れ出たものだった。
何度も地面に倒れ込む虎太郎の姿は、確かに無様かも知れない。
見苦しいかも知れない。
だが、それがどうした。

「力に呑まれて鬼に成り下がったお前に、何が分かるってんだ?
 必死に頑張ろうとする事の尊さが、分かるってのか!?」

無様だって、見苦しくたって、一向に構わない。
鉄の意志を以って、自分に為せる最善を尽くそうと努力する。
その姿こそが真に美しいモノ、真に誇るべきモノ。
そう信じているからこそ、大十字九郎は声を大にして思い切り叫ぶ。

628 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:53:25 ID:fRYJekfd



629 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:53:49 ID:WQIURgLE


630 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:54:03 ID:GLT3BdA8


631 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:54:08 ID:4xqXfmzT

「――どんなに無様だって! 自分の意思を貫き通せたら、それは誇るべき事なんだよ!
 無様も晒せない負け犬が、一丁前に吠えてんじゃねえ!」

虎太郎はあれ程の重傷を負っても尚、自分自身の意思を貫こうとしているのだ。
そんな虎太郎の姿勢を貶す事は、決して容認する訳には行かない。
お前こそが負け犬なのだと断言して、九郎は鬼神の眼前に立つ。

その言葉が、狂ってしまった乙女に何処まで伝わったかは分からない。
しかし九郎の言葉は、確かに乙女の心へと波紋を齎していた。


「…………」

乙女は二度、三度と大きく跳躍して、九郎達から優に三十メートル以上は間合いを取った。
続けてカリバーンを握り締めて、赤い瘴気を集約させ始める。
自分の事を負け犬と断定した九郎が、余程気に入らないのか。
乙女の表情には、今までのような狂った笑みは浮かんでいない。
寧ろ怒りの色が、濃く表れていた。

震動する大地、吹き荒れる暴風。
それらはまるで、鬼神の怒りを代弁しているかのようだった。
刀身を覆う瘴気は、先程カリバーンを放った時の数倍以上となっている。
ならば、巻き起こされる破壊も数倍の規模になるだろう。



632 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:54:09 ID:fRYJekfd



633 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:54:36 ID:GLT3BdA8


634 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:54:40 ID:yUTGRp54
 

635 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:54:55 ID:fRYJekfd



636 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:55:28 ID:4xqXfmzT

「けっ……遂に本気って訳かよ…………!」

そう吐き捨てて偃月刀を構えた九郎だったが、その内心は焦りを隠し切れぬものだった。
後ろでは今も虎太郎が倒れ伏せている以上、回避は不可能。
乙女が放つカリバーンは、確実に広範囲を吹き飛ばすだろう。
虎太郎を抱き抱えた状態では到底避け切れないし、見捨てるという選択肢も有り得ない。

故に、自分達がこの窮地を逃れる為には。
正面から、カリバーンの一閃を打ち破るしか無い。
だが、一体どうすれば良いと云うのだ。
あんな天災じみた一撃に、どうやって対抗すれば――


「大丈夫、九郎さん。私が反撃の機会を作ります」
「え……?」


九郎が振り向いた先には、覚悟を決めた表情のユメイ。
否応無しに破壊を予感させる、地響きの中。
ユメイは決して揺らぐ事無く、静かな声で話を続けてゆく。

「あの剣から放たれる攻撃は、私がきっと防いでみせます。
 ですから九郎さんは、あの鬼を討つ事だけを考えて下さい」
「防ぐ、だって?」

ユメイの言葉を、九郎は直ぐに信用する事が出来なかった。
今から乙女が撃ち放とうとしているのは、滅びを齎す破壊の光だ。
例え自分がマギウス化していても、防げるかどうか分からない一撃。
そんなモノを相手に、ユメイが有効打を打てるとは思えない。

637 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:55:30 ID:WQIURgLE


638 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:55:41 ID:fRYJekfd



639 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:56:26 ID:fRYJekfd



640 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:56:28 ID:GLT3BdA8


641 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:56:37 ID:4xqXfmzT
「そうは云ってもよ……、一体何をするつもりなんだ?」
「残念ですけど、詳しく話している時間はありません。
 お願いです、九郎さん。私を信じて下さい」

九郎の視線とユメイの視線が、真っ直ぐに交錯する。
ユメイの瞳には、確かな自信の色が浮かび上がっている。
それで、九郎も迷いを振り払った。

そうだ――こんな時だからこそ、仲間を信頼しなくてどうする。
考えている暇は無い。
今はただユメイの言葉を信じて、自分は自らに課せられた役目を果たすのみ。

「分かった。俺はユメイさんを信じるよ」

そうして九郎はバルザイの偃月刀を構えた。
乙女との距離は、現在三十メートル以上も離れてしまっている。
此処から狙えるのは偃月刀による投擲攻撃くらいだが、そんなモノ当たりはしないだろう。
故に勝機を見出すのなら、懐へと飛び込むしか無い。

既に乙女の周りには、夥しい量の瘴気が収束しつつある。
それでも九郎は決して臆さずに、自ら赤い太陽に向けて疾駆した。
そんな九郎に向けて、乙女の左腕から迎撃の火雷が放たれる。

「はっ…………!」

九郎は全力で横に飛び退いて、薄皮一枚で雷光を躱していた。
直ぐに地面へと着地して、再び前進を開始する。
二発目、三発目に放たれた雷も、同じようにして空転させた。

642 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:56:56 ID:dkW7dvfh



643 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:56:57 ID:GLT3BdA8


644 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:57:30 ID:fRYJekfd



645 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:57:34 ID:yUTGRp54
 

646 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:57:40 ID:4xqXfmzT
「っ―――――」

乙女との距離は、残り二十メートル。
前へ、前へ、駆ける。
牽制に放たれる火雷も、直撃を受ければ十分に致命傷と成り得る代物。
だけど後退だけは、絶対にしない。
ユメイが何を考えているかは分からないが、彼女は反撃の機会を作ると云ったのだ。
ならば自分がやるべき事は、その瞬間に備えて間合いを詰める事のみ。


「もう少しだ……!」

乙女との距離は、残り十メートル。
後ほんの数歩詰め寄れば、バルザイの偃月刀を直接叩き込める。
ほんの数秒走るだけで、僅かな希望が生まれる筈。

しかしそこで、ダンと一歩、乙女の足が前方へと踏み出された。
真紅の瘴気を纏った聖剣が、鬼神の咆哮と共に振り下ろされる。

「カリバーン―――――!!」
「…………ッ」

近距離から放たれるのは、紛う事無き破壊の奔流。
進路にあるモノ全てを消滅させる、絶望の光。
この距離では、何をやっても避けられる筈が無い。
大十字九郎は為す術も無く消滅する。
そう――九郎の下に駆け寄った、ユメイの存在さえ無ければ。

647 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:58:00 ID:X+l8N2U7


648 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:58:25 ID:fRYJekfd



649 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:58:30 ID:yUTGRp54
  

650 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:58:39 ID:GLT3BdA8


651 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 21:59:01 ID:4xqXfmzT
「お願い……私に、皆を守れるだけの力を……!」

乙女がカリバーンを解放したのと、ほぼ同じタイミングで。
九郎の横へと並び掛けたユメイの手には、エクスカリバーの鞘。
実際に霊力を流し込んで使用したユメイだからこそ、この鞘の使い方を理解出来た。

この鞘に秘められた真の力は、絶対無敵の守り。
外界の汚れを寄せ付けない妖精郷の壁。
故に、その鞘の名は。


「アヴァロン(全て遠き理想郷)―――――!」


叫びと共に、鞘を中心とした防壁が展開された。
ユメイと九郎の前に広がったバリアは、カリバーンの光を悉く弾き返す。
どんな攻撃、どんな怪物でも貫けない。
ユメイの決意は護りの壁となって、あらゆる攻撃を遮断する……!


徐々に勢いを緩め、濃度を薄めてゆく破壊の光。
閃光が完全に途絶えた瞬間、ここぞとばかりにユメイが叫んだ。

「九郎さん、今です!」
「ああ、分かってる!」

カリバーンの光から逃れた九郎は、直ぐに疾走を再開した。
向かう先には、大技を放った直後で隙だらけとなっている鬼神。
既に偃月刀への魔力注入は完了している。

652 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:59:10 ID:fRYJekfd



653 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:59:31 ID:GLT3BdA8


654 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 21:59:58 ID:fRYJekfd



655 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 22:00:06 ID:4xqXfmzT
「はっ…………!」

九郎は乙女が剣を構えるよりも早く、全力で灼熱の刃を振るった。
だが、それでも受け止められた。
状況の不利など関係無いと云わんばかりに。
敵は九郎の倍に値する速度で動き、初動の遅れを無効化していた。

「は、あ――――――!」

もう一度振るったものの、やはり防がれる剣戟。
灼熱の刃と化している偃月刀を、敵は腕を焼かれながらも防いだ。
鍔迫り合いの形で、九郎は乙女と顔を突き合わせる。

「く…………おぉぉぉっ…………」

強い、と思う。
この鬼神はあれだけの大技を放った直後にも関わらず、こちらの攻撃を凌いでいる。
それは異能の力だけに頼り切っている者なら、到底不可能な芸当。
人間だった頃は恐らく、優れた剣の使い手か何かだったのでは無いだろうか。

鍔迫り合いの態勢のまま、経過する事数秒。
二人の均衡は長く続かずに、九郎は後ろに押し飛ばされた。

「ぐ…………あ…………」

届かない。
マギウススタイルに成れない大十字九郎では、隙を付いてもあの鬼神には及ばない。
九郎は絶望が胸に沸き上がるのを感じながら、大地を後ずさってゆく。
しかしそこで、背中から何者かに受け止められた。

656 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:00:44 ID:fRYJekfd



657 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:00:45 ID:X+l8N2U7


658 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:01:15 ID:GLT3BdA8


659 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:01:16 ID:yUTGRp54
  

660 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 22:01:17 ID:4xqXfmzT
「……おっちゃん!?」

振り向いた先に居たのは、倒れていた筈の虎太郎だった。
虎太郎の顔面からは血色が抜け落ちて、土気色となりつつある。
その顔色だけでも、これ以上動き回れば命を落としかねないと分かる。
だと云うのに――虎太郎は何の躊躇も無く云った。

「制限された俺の拳では、あの鬼を殺し切れん。だからお前の力が必要だ」

その言葉と共に、虎太郎の右手が偃月刀へと伸ばされる。
それは、自分も未だ戦うという意志表示に他ならない。

「馬鹿、無茶しやがって……」
「それはお互い様だろ? あんな悪鬼と戦う時点で十分無茶だ」
「……ははっ、そうだな。違いねえ……!」

短く言葉を交わした後、九郎は再び前へと駆け出した。
九郎は左手で、虎太郎は右手で刀を握り締めながら、肩を並べて疾走する。

虎太郎が白狼を何度打ち込んでも、乙女は倒せなかった。
九郎がバルザイの偃月刀を何度振るっても、乙女の身体を捉えられなかった。
制限された白狼では威力が足りず、九郎が振るう偃月刀では速度が足りない。

だが、それがどうした。
狂気に飲まれた鬼と違って、九郎達には仲間が居る。
絆がある。
足りない部分があるのならば、互いに補い合えば良いだけの事……!

661 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:01:28 ID:cOeRpLK8
 

662 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:01:29 ID:fRYJekfd



663 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:01:50 ID:GLT3BdA8


664 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 22:02:23 ID:4xqXfmzT

「ついて来れるか、九郎!」
「応よ! 行っくぞぉぉぉ!」

偃月刀を握り締める二人の手に、より一層強い力が加えられる。
二人は全く同じタイミングで、乙女を射程内へと捉えた。


「――刃よ! 今こそ魔を断つ剣と成れ!」

九郎が宝石に籠められた魔力を、可能な限りバルザイの偃月刀へと注ぎ込む。
バルザイの偃月刀は炎を纏い、邪悪を討つ正義の刃と化した。


「八咫、雷天流――」

虎太郎が右腕を弓のように後方へと引き絞る。
踏み込みを迅速に、拳の振りを疾風のように、拳の握りは鋼鉄のように。


白狼の神速を乗せて、偃月刀による斬撃を撃ち放つ。
二人分の力と意思が籠められた、正に全身全霊の一撃。
それは――

665 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:02:31 ID:fRYJekfd



666 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:02:48 ID:GLT3BdA8


667 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:02:52 ID:yUTGRp54
 

668 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 22:03:02 ID:4xqXfmzT



「「白狼のッッ!!! 偃月刀ォォォォォォォォォォォォ―――――!!!!!」」



響き渡る二人の咆哮と共に、偃月刀の刃が振るわれる。
勝利を確信したのは鬼神か、それとも九郎達だったのか。

成程、繰り出された一撃は、九郎単独で行う剣戟に比べればずっと速い。
しかし二人掛かりという無茶な方法で放たれた以上、白狼本来の速度よりは劣る。
鬼神の実力を以ってすれば、決して防ぎ切れぬ一撃では無い。
乙女は怪物じみた反応速度で、何とか偃月刀の刃を受け止めた。

「ぐぅぅうあぁ…………!」
「が……このっ…………」
「ガ、グ―――――」

魔術師、石妖、そして鬼。
三人が一進一退の鍔迫り合いを続ける。
現在の所競り合いは互角だったが、虎太郎の身体はとうに限界を超えている。
このまま押し合いが続けば、九郎達が破れてしまうのは当然の事。

669 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:03:22 ID:fRYJekfd



670 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:03:28 ID:yUTGRp54
  

671 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:03:43 ID:cOeRpLK8
 

672 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:03:48 ID:GLT3BdA8


673 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:03:54 ID:WQIURgLE


674 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:04:01 ID:yUTGRp54
 

675 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 22:04:05 ID:4xqXfmzT
だが、忘れてはならない。
九郎達にはもう一人、心強い仲間がいるという事を。
二人で足りぬのなら、三人で力を合わせれば良いだけの話……!

「皆さん、私も手伝います!」
「―――――!?」

今までより一層強まった圧力に、乙女の目が大きく見開かれる。
ユメイが九郎達に駆け寄って、バルザイの偃月刀を握り締めていた。

送り込まれる霊力、ますます輝きを増す赤刃。
三人掛かりで押し込まれては、いかな乙女と云えども防ぎ切る事は出来ない。
均衡は破れ、乙女のカリバーンは大地へと叩き落とされる。
その隙に、九郎達は天高く偃月刀を振り上げた。


「「「「切り裂けえええェェぇぇぇぇぇぇ!!!」 」」


縦一文字に振るわれる偃月刀。
灼熱の刃は敗北を告げるかのように、鬼神へと叩き付けられる――――!

676 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:04:14 ID:fRYJekfd



677 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:04:21 ID:dkW7dvfh



678 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:04:36 ID:GLT3BdA8


679 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:04:38 ID:cOeRpLK8
 

680 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 22:04:53 ID:4xqXfmzT


「……ガアァァァァァアッ!」


今度こそ三人の振るった刄は乙女に届き、その右肩から胸に掛けてを深々と切り裂いた。
赤い血と赤い瘴気が傷口から噴出する。

それは普通ならば、否、人間ならば即死するであろう傷。
最早、乙女の死は定められた運命。

されど――その運命を覆してこそ最強の鬼……!

「く……オオオォォォ!」
「何!?」

九郎が驚愕に目を見開く。
乙女は胸から夥しい血を零しながらも、残された力を振り絞って回し蹴りを放った。
その一撃で九郎達が後方へと弾かれた隙に、乙女は足下のカリバーンを拾い上げる。

「――――カリバーン!」

力も殆ど集めずに、狙いすら付けないまま、カリバーンを近距離から撃ち放った。
このようなデタラメな撃ち方では、殺傷力は生まれない。
精々、目眩まし程度の閃光が発生するだけだ。
だが、それで十分。
乙女にとっては、撤退出来るだけの時間を稼げれば十分過ぎる。

681 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:04:54 ID:yUTGRp54
 

682 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:05:04 ID:fRYJekfd



683 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:05:21 ID:GLT3BdA8


684 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 22:05:50 ID:4xqXfmzT

「……逃げたか」

虎太郎が小さな声で呟く。
光が収まった時、乙女の姿はもう戦場から消え失せていた。


決意を固めた戦士達と、鬼神と化した少女の戦い。
凄まじい破壊を撒き散らした激闘は、双方痛み分けの形で幕を閉じた。


    ◇     ◇     ◇     ◇



「全く……なんてバケモンだよ」

戦いを終えた九郎は、悔しげに拳を握り締めていた。
何とか追い返したとは云え、倒し切る事は出来なかったし、尾花も犠牲になってしまった。
とても、喜べるような結果では無かった。
しかし幾ら悔やんでいても、状況は一向に改善しない。
まずは虎太郎の怪我に応急処置を施して、それから理樹達と合流すべきだろう。
そう判断した九郎は、視線を虎太郎の方へと向ける。

「佐倉、吾妻、すまんな……。仇は取れなかったようだ」

虎太郎はそう云いながら、懐からタバコを取り出している所だった。
くるりと九郎達に背中を向けて、タバコを口へと運ぶ。

685 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:05:52 ID:fRYJekfd



686 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:06:10 ID:X+l8N2U7


687 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:06:12 ID:cOeRpLK8
 

688 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:06:33 ID:GLT3BdA8


689 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:06:36 ID:bI1yWIXG
 

690 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:06:37 ID:fRYJekfd



691 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 22:07:03 ID:4xqXfmzT

「おいおい、おっちゃん。流石にタバコ吸ってる場合じゃねえって。
 今は怪我の治療の方が先決だろ?」
「九郎さんの云う通りです。幸い治療用の道具もありますし、今は大人しくしておいて下さい」

九郎が当然の指摘を行って、ユメイもそれに賛同した。
しかし虎太郎は九郎達に背中を向けたまま、振り返ろうとしない。
虎太郎は火が付いていないタバコを口にしたまま、はっきりとした声で告げる。

「九郎、後はお前に任せた。あの鬼は――お前が倒せ」
「え……?」

唐突な言葉。
疑問の表情を浮かべる九郎に構わぬまま、虎太郎は話を続けてゆく。

「それから、出来れば俺の生徒達の事も守ってやってくれると助かる。
 まだまだ未熟な奴らだからな」

そこまで云い終えると、虎太郎は静かに天を仰いだ。
まるで日常生活の一場面のように、何気ない声で、最後に一言零す。


「ふう……流石に少し、疲れたな」


妙に乾いた風が一度、九郎達と虎太郎の間を吹き抜ける。


ポトリと、虎太郎の口元からタバコが落ちた。

692 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:07:27 ID:fRYJekfd



693 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:07:51 ID:GLT3BdA8


694 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:07:55 ID:dkW7dvfh



695 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:08:04 ID:bI1yWIXG
  

696 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:08:09 ID:yUTGRp54
  

697 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:08:13 ID:fRYJekfd



698 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 22:08:17 ID:4xqXfmzT



「おっちゃん……?」
「虎太郎……さん?」

九郎が声を掛けても、虎太郎は返事を返さない。
背中を向けたまま、ただ静かに佇んでいる。

「おい、おっちゃん。どうしたんだよ!? おっちゃ、ん…………!?」

九郎が虎太郎の肩を引くと、百八十センチはある長躯があっさりと崩れ落ちた。
地面に倒れた虎太郎の腹部は、絶望的なまでに赤く染まり切っている。
目は既に閉ざされており、唇は紫色となっていた。

「おっちゃん! しっかりしろ、おっちゃん!」
「虎太郎さん! 目を開けて下さい!」

九郎とユメイが虎太郎の身体を抱き上げて、何度も叫んだが無意味。
満身創痍の身体を酷使した代償は、確実に虎太郎の生命を蝕んでいた。
二人が何度肩を揺さぶっても、治療を試みても。


――虎太郎は、もう動かなかった。




699 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:08:19 ID:X+l8N2U7


700 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:08:44 ID:cOeRpLK8
 

701 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:08:48 ID:GLT3BdA8


702 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:08:59 ID:fRYJekfd



703 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 22:09:21 ID:4xqXfmzT
    ◇     ◇     ◇     ◇



深い深い森の中。
太陽の光すらも届かない場所で、鬼の少女は生い茂る雑草の上に座っていた。
あれ程深かった右肩の傷は、既に塞がりつつある。
それは鬼の力を回復へと費やしたお陰だったが、代償は大きかった。

「…………」

左腕に『力』を籠めて、大きく振りかざす。
だが先の戦いの時のように、腕から赤い雷光が撃ち放たれる事は無かった。
怪我を治す為に、本当に多くの力を消費してしまった。
この状態では、カリバーンの攻撃力にも大した期待は持てまい。
以前と同等の力を取り戻そうと思うのなら、新たな肉を摂取しなければならないだろう。

しかし、そんな事実も今の乙女にとっては些事に過ぎない。
鬼と化した少女の頭を占めているのは、九郎と呼ばれていた男が放った台詞。

『――どんなに無様だって! 自分の意思を貫き通せたら、それは誇るべき事なんだよ!
 無様も晒せない負け犬が、一丁前に吠えてんじゃねえ!』

どうしてあの言葉が、こんなにも頭に引っ掛かっているのだろうか。
自分はお腹の中の彼と、一緒に居られさえすれば幸せな筈なのに。
自分は強くなって、誇りを取り戻した筈なのに。
何故これ程までに、心が揺れているのだろうか。

分からない。
分からない、分からない、分からない――――。

鬼の少女は迷いを抱えたまま、静かに身を休ませる。

704 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:09:24 ID:yUTGRp54
 

705 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:09:53 ID:fRYJekfd



706 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:10:22 ID:GLT3BdA8


707 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:10:28 ID:bI1yWIXG
   

708 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:10:44 ID:fRYJekfd



709 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 22:10:51 ID:4xqXfmzT
    ◇     ◇     ◇     ◇



「……すみません。やっぱり駄目みたいです」

虎太郎が絶命してから三十分後。
戦場となっていた場所からそう遠くない草原で、ユメイと九郎が座り込んでいる。
ユメイはエクスカリバーの鞘で、九郎の怪我を治療しようとしたが、嘗てのような効果は現れない。
精々、痛みが多少和らぐ程度だった。

「元からそういうモノだったのか、それとも『制限』ってヤツの所為なのか……。
 ともかく、さっきのバリアを使ったら、その鞘は力を失うみたいだな」
「みたいですね。また使えるようになれば、助かるんですけど……」
「……トランシーバーも、何時の間にか故障してるしよ。前途は多難、か」

戦いの傷痕は、物資的な面でも九郎達を蝕んでいた。
エクスカリバーの鞘の効力は極端に落ち、トランシーバーは故障。
魔力が籠められた宝石も、先の戦いで三個程消費してしまった。
勿論、九郎やユメイ自身の消耗も激しい。
いち早く理樹達の下に戻り、態勢を立て直さなければならないだろう。

「……理樹達が待ってる。そろそろ戻ろうか」

九郎は荷物を手早く鞄へと仕舞い、この場を離れるべく立ち上がった。
だがユメイはそんな九郎の発言を受けても、一向に腰を上げようとはしない。

710 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:10:56 ID:dkW7dvfh



711 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:11:25 ID:dkW7dvfh



712 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:11:29 ID:fRYJekfd



713 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:11:45 ID:cOeRpLK8
 

714 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:11:53 ID:GLT3BdA8


715 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 22:11:57 ID:4xqXfmzT


「……お別れは、云わなくても良いんですか?」

そう云ってユメイが視線を向けた先では、地面が少し盛り上がっていた。
その中に眠っているのは、己が信念を貫いた一人の教師と、一匹の白狐。
九郎達は疲弊している身であるにも拘らず、虎太郎達を埋葬したのだ。

とは云え、今は苛烈な殺人遊戯の真っ最中。
一度この場を離れてしまえば、もう墓参りに来るような余裕は無いかも知れない。
だからこそのユメイの発言だったが、九郎は静かに首を横へと振った。

「良いさ。『まだ』、別れを告げる訳にはいかないんだ」
「え?」
「あのバケモンを倒して、この胸糞悪い殺し合いを企んだ奴らも、ぶっ潰して。
 勿論おっちゃんの教え子達も皆、保護してさ。全てが終わったら、改めて報告とお別れを云いに来るよ」

それは、誓い。
必ずこの殺人遊戯を打ち破って、また戻ってくるという誓いだ。

「俺達は未だ止まれない。行こう――お互いの目的を果たしに」

九郎はそう云って、ユメイの方へと手を差し出した。
ユメイは九郎の手を取って、ゆっくりと腰を起こす。

「……そうですね。私だって、まだ目的を果たしていません。
 全てが終わってから、桂ちゃんと一緒に此処を訪れる事にします」


二人は肩を並べて、再び前へと進み始めた。
九郎のポケットには、嘗て虎太郎が愛用していた眼鏡が仕舞われていた。

716 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:12:13 ID:fRYJekfd



717 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:12:32 ID:GLT3BdA8


718 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:12:33 ID:cOeRpLK8
 

719 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:12:44 ID:yUTGRp54
  

720 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:13:02 ID:fRYJekfd



721 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 22:13:03 ID:4xqXfmzT
【尾花@アカイイト 死亡】
【加藤虎太郎@あやかしびと −幻妖異聞録− 死亡】




【E-7 喫茶店/1日目/日中】
【直枝理樹@リトルバスターズ!】
【装備】:カンフュール@あやかしびと −幻妖異聞録−
 トランシーバー、聖ミアトル女学院制服@Strawberry Panic!
【所持品】:支給品一式×2、ハサンの髑髏面、女物の下着数枚、木彫りのヒトデ6/64@CLANNAD
【状態】:疲労(大)、腹部に銃創(治療済み)
【思考・行動】
 基本:ミッションに基づき対主催間情報ネットワークを構築、仲間と脱出する。殺し合いを止める。
 1:九郎とユメイと虎太郎達の無事を祈る
 2:リトルバスターズの仲間を探す。恭介の行動が気になる。
 3:仲間達と協力する。
 4:真アサシンと敵対関係にある人には特に注意して接する。
 5:首輪を取得したいが、死体損壊が自分にできるか不安。
 6:なつきが敵なのか確かめたい。
【備考】
 ※参戦時期は、現実世界帰還直前です。
 ※真アサシンの死、鈴の死を乗り越えました。
 ※トランシーバーは半径2キロ以内であれば相互間で無線通信が出来ます。
 ※千華留、深優と情報交換しました。
  深優からの情報は、電車を破壊した犯人(衛宮士郎)、神崎の性癖?についてのみです。
 ※名簿の名前を全て記憶しました。
 ※博物館に展示されていた情報を獲得しました。
 ※血で汚れた理樹の制服が喫茶店内にあります。
【理樹のミッション】
 ※前話から特に変更無し。
  詳しい内容は前話(明日への翼 (後編))の状態表を参照

722 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:14:04 ID:GLT3BdA8


723 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:14:05 ID:bI1yWIXG
 

724 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:14:05 ID:X+l8N2U7


725 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 22:14:14 ID:4xqXfmzT
【源千華留@Strawberry Panic!】
【装備】:能美クドリャフカの帽子とマント@リトルバスターズ!、スプリングフィールドXD(9mm 14/16)
【所持品】:支給品一式、木彫りのヒトデ3/64@CLANNAD、怪盗のアイマスク@THE IDOLM@STER、
 RPG-7V1(1/1)@現実、OG-7V-対歩兵用弾頭x5
【状態】:健康、強い決意
【思考・行動】
 基本:殺し合いはしない。りのちゃんを守る。殺し合いからの生還。具体的な行動方針を模索する。
 0:りのを守る。
 1:九郎とユメイと虎太郎達の無事を祈る
 2:りのちゃんと一緒に行動。何としてでも守る。
 3:奏会長、プッチャン、桂ちゃん、クリス、リトルバスターズメンバーを探す。
 4:恭介とトルタに若干の違和感。
 5:神宮司奏に妙な共感。
 6:深優を許さない。なつきについては保留。
【備考】
 ※理樹たち、深優と情報を交換しました。
  深優からの情報は、電車を破壊した犯人(衛宮士郎)、神崎の性癖?についてのみです。
 ※恭介からの誤情報で、千羽烏月を信用に足る人物だと誤解しています。
 ※G-4の民家に千華留とりのがF-2の駅に向かう、というメモが残されています。

【蘭堂りの@極上生徒会】
【装備】:メルヘンメイド(やよいカラー)@THE IDOLM@STER、ドリルアーム@THE IDOLM@STER
【所持品】:支給品一式、ギルガメッシュ叙事詩、地方妖怪マグロのシーツ@つよきす -Mighty Heart-
 騎英の手綱@Fate/stay night[Realta Nua]、ドッジボール@つよきす -Mighty Heart-、縄
【状態】:貧血気味、右足に銃創(治療済み。歩く分には大きな支障は無いが、激しく動き回るのは困難)、
【思考・行動】
 基本:殺し合いはしない。ダメ、絶対。
 0:九郎とユメイと虎太郎達の無事を祈る
 1:千華留さん、理樹さんと一緒に行動。
 2:奏会長、プッチャン、桂ちゃん、クリス、リトルバスターズメンバーを探す。

726 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:14:32 ID:fRYJekfd



727 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:14:36 ID:GLT3BdA8


728 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 22:15:04 ID:4xqXfmzT
【備考】
 ※理樹たち、深優と情報を交換しました。
  深優からの情報は、電車を破壊した犯人(衛宮士郎)、神崎の性癖?についてのみです。
 ※恭介からの誤情報で、千羽烏月を信用に足る人物だと誤解しています。




【G-7 /1日目 日中】
【山辺美希@CROSS†CHANNEL 〜to all people〜】
【装備】:投げナイフ1本
【所持品】:支給品一式×2、木彫りのヒトデ7/64@CLANNAD、投げナイフ4本、ノートパソコン、MTB
【状態】:健康、若干の迷い
【思考・行動】
 基本方針:とにかく生きて帰る。集団に隠れながら、優勝を目指す。
 0:霧の死に傷心。
 1:暫くはなつきを『盾』にしながら行動する
 2:機会があれば、もっと良い『盾』を見付けたい
 3:詳細名簿を見れなくする為に、違和感が無いようにノートパソコンを壊す?
 4: 最悪の場合を考え、守ってくれそうなお人よしをピックアップしておきたい。
 5:太一、曜子を危険視。
【備考】
 ※千華留たちと情報交換しました。
 ※ループ世界から固有状態で参戦。
 ※理樹の作戦に乗る気はないが、取りあえず参加している事を装う事にしました。
 ※把握している限りの名前に印をつけました。(但しメンバーが直接遭遇した相手のみ安全と判断)

【玖我なつき@舞-HiME 運命の系統樹】
【装備】:ELER(二丁拳銃。なつきのエレメント、弾数無制限)

729 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:15:25 ID:yUTGRp54
 

730 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:15:27 ID:dkW7dvfh



731 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:15:30 ID:fRYJekfd



732 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 22:15:39 ID:4xqXfmzT
【所持品】:支給品一式×2、765プロ所属アイドル候補生用・ステージ衣装セット@THE IDOLM@STER、
 『全参加者情報』とかかれたディスク、カードキー(【H-6】クルーザー起動用)、双眼鏡、首輪(サクヤ)、
 ベレッタM92(9ミリパラベラム弾 15/15+1)、ベレッタM92の予備マガジン(15発入り)×3
 七香のMTB@CROSS†CHANNEL 〜to all people〜、クルーザーにあった食料、不明支給品(0〜1)、
【状態】:中度の肉体的疲労、迷い
【思考・行動】
 基本:静留と合流する
 0:私は、一体……
 1:まずは美希を連れて、安全な場所まで逃げ延びる。それ以降の方針は未定
【備考】
 ※チャイルドが呼び出せないことにおそらく気づいています。
 ※人探しと平行して、ゲームの盲点を探し本当のゲームの参加者になる。
 ※盗聴の可能性に気付きました。
 ※『本当の参加者』、もしくは『主催が探す特定の誰か』が存在すると考えています。
 ※佐倉霧の言いふらす情報に疑問視。
 ※劇場にてパソコンを発見しました。何か情報が隠されているようです。見るにはIDとパスワードが必要です。




【E-6上部 森/1日目 午後】
【鉄乙女@つよきす -Mighty Heart-】
【装備】:カリバーン@Fate/stay night[Realta Nua]
【所持品】:真っ赤なレオのデイパック、斬妖刀文壱@あやかしびと −幻妖異聞録− 、ドラゴン花火×1@リトルバスターズ!
【状態】:狂気、鬼。鬼の力(消耗極大)、肉体疲労(大)、右肩から胸にかけて切り傷(傷口は塞がりつつある)
【思考・行動】
 0:私が……負け犬……?
 1:今後どう動くかは未定。
 2:自分が強者である事を証明する。
 3:君の声が、また聞きたい……。

733 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:15:48 ID:GLT3BdA8


734 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:16:14 ID:fRYJekfd



735 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 22:16:19 ID:4xqXfmzT
【備考】
 ※アカイイトにおける鬼となりました。
  身体能力アップ、五感の強化の他に勘が鋭くなっています。
  食事のためか人間性が失われているからかの影響で、能力が上がっているようです。
 ※鬼の力を消費して、宝具を使用する事が出来ます。但し現在は疲弊し切っている為、カリバーンでも大した効果は期待出来ません。
  人を食えば食う程、鬼の力は回復していきます。
 ※尾花を食った影響で、過度の空腹からは解放されました




【E-6右下 草原/1日目 午後】
【ユメイ@アカイイト】
【装備】:エクスカリバーの鞘@Fate/stay night[Realta Nua]、
【所持品】:支給品一式×3、メガバズーカランチャー@リトルバスターズ!、光坂学園の制服@CLANNAD
 木彫りのヒトデ4/64@CLANNAD、包丁@School Days L×H、ガイドブック(140ページのB4サイズ)、
【状態】:霊力消耗(大)、肉体的疲労(中)
【思考・行動】
 基本方針:桂を最優先で保護する。他の仲間達も守る。
 0:まずは九郎と共に、理樹達の所に戻る。
 1:桂、烏月を捜索する
 2:怖くても、守る為に戦う。
【備考】
 ※理樹たち、深優と情報を交換しました。
  深優からの情報は、電車を破壊した犯人(衛宮士郎)、神崎の性癖?についてのみです。
 ※仮面の男(平蔵)は危険人物には違いないと思っています。
 ※エクスカリバーの鞘の治癒力は極端に落ちています。今後、元に戻るかどうかは不明。

736 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 22:16:43 ID:4xqXfmzT
【大十字九郎@機神咆吼デモンベイン】
【装備】:キャスターのローブ@Fate/stay night[Realta Nua] 手ぬぐい(腰巻き状態)、バルザイの偃月刀@機神咆哮デモンベイン
【所持品】:支給品一式、アリエッタの手紙@シンフォニック=レイン、凛の宝石7個@Fate/stay night[Realta Nua]
 木彫りのヒトデ7/64@CLANNAD、 物干し竿@Fate/stay night[Realta Nua]、タバコ、木彫りのヒトデ3/64@CLANNAD
 加藤虎太郎の眼鏡、トランシーバー(故障)
【状態】:肉体的疲労(極大)、背中に重度の打撲、全身に複数の打撲、右手の手のひらに火傷
【思考・行動】
 0:まずはユメイと共に、理樹達の所に戻る。
 1:アルと桂、奏を捜索。
 2:人としての威厳を取り戻すため、まともな服の確保。
 3:アル=アジフと合流する。
 4:鉄乙女を打倒する
 5:虎太郎の生徒達を保護する。
 6:ドクターウエストに会ったら、問答無用で殴る。ぶん殴る。
【備考】
 ※千華留、深優と情報を交換しました。
  深優からの情報は、電車を破壊した犯人(衛宮士郎)、神崎の性癖?についてのみです。
 ※仮面の男(平蔵)をあまり警戒していません。
 ※理樹の作戦に参加しています。 把握している限りの名前に印をつけました。

737 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:17:29 ID:fRYJekfd



738 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:17:33 ID:GLT3BdA8


739 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:19:26 ID:T3jLaofp
  

740 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:20:05 ID:fRYJekfd



741 : ◆guAWf4RW62 :2008/06/10(火) 22:20:54 ID:4xqXfmzT
トウカ完了致しました
数多くの支援、本当にありがとうございました
物凄く助かりました

タイトルは『赤より紅い鬼神/無様を晒せ』
長さ的に三分割になるので、
中編は>>574から、
後編は>>684の>「全く……なんてバケモンだよ」
からでお願いします

誤字・矛盾等指摘ありましたら宜しくお願いします

742 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:21:21 ID:bI1yWIXG
投下GJ!
虎太郎センセーーーーーーー!!
まさかこんな結果になるとは。
4対1で押し返した上喰らうとか乙女は完璧にラスボスだな
・・・とか思いきやまさかまさかの改心フラグ!?
美希といいなつきといい、実に今後が楽しみだw
GJでした!

743 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:22:57 ID:GLT3BdA8
投下お疲れ様っす。
しかし…先生ぃ〜つД`)・゚・。・゚゚・*:.。
乙女さん強すぎです、はい。

744 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:24:23 ID:fRYJekfd
熱い戦い、非常によい仕事でした!
これだけの人数を裁きつつ心理に影響を与える多々のイベントの密度も凄い。
何より虎太郎先生の熱い生き様が心に残ります。
そして乙女さん、ワールドと人外がどんどん強化されていく……w


745 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:25:03 ID:cOeRpLK8
投下GJ!
こ、虎太郎先生……尾花……
乙女さんの最強っぷりはワールド以上なのか!? 是非とも戦わせて見たいものだ!
九郎とユメイも死線を潜り抜け、誤解から解放され……あれ、もしかして恋愛フラグ?

746 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:32:56 ID:dkW7dvfh
投下乙です

>Uc氏 
リピーターの存在は予期してましたが、まさか筋肉とは
ついに暗雲立ち込める筋肉組。先が気になります
あと、ファル様がなんか怖いのに可愛い

>bD氏 
誠、綺麗に散ったな。氏ね氏ね言われたけど、
結局はプラスフラグのばら撒きの方が多かったし、お疲れ様です
そして、ワールドの人間らしさが一瞬見えたと思ったら…インフレか!

>Lx氏 
ウェストォッ! あんたは太一とやってること大差ないぞw
杏のことを気に掛けていてくれてちょっと嬉しい
その方向はナナメウエだけどなw

>gu氏 
虎太郎先生、なんかヤバイなあと思ってたらやっぱり…
乙女さんも力使い果たしたとはいえ、凄いことになってますねえ
GR2の集団バトルは熱いものばっかりで困るぞw
絶対無理と思っていたミキミキと鬼乙女の改心フラグも気になるところ

747 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 22:55:55 ID:Aathlfeo
投下乙です!
あれ・・・もうラスボス戦・・・だと・・・!?
尾花ちゃんの活躍がハンパないと思っていたら鬼神降臨伝鉄乙女になるなんてっ!
いままでオプション要素でクリーチャー>鬼乙女の印象があったのですが
今回のフルパワー時に限っては鬼神乙女>クリーチャーって感じでした
マジ怖すぎ!
よくもまあこの絶望的な状況から・・・生還して・・・
とはいえ対主催の柱になれそうな頼れる大人が1人逝ってしまいましたか
ついにあやかしびとからも犠牲者が!
でも最後の白狼の円月刀はマジでラスボス戦かくやの熱い闘いでしたごちそうさま
そして熱いといえば九郎!
乙女との因縁フラグも立ちまくりでめちゃめちゃ主人公してました!
今後の活躍も期待できる熱い熱い素晴らしい闘いでした
何気に便利アイテムの鞘を弱体化させたことも今後の盛り上がりに繋がると思います
いや、マジで凄かったです

748 :Anti-Mission ◆I9IoWegESk :2008/06/10(火) 23:04:31 ID:dkW7dvfh
 以前支倉曜子だった者は、かつて蒼井渚紗だったモノの側に立つ。
怪人の首には、コンサートホールで調達した、紐付きのオペラグラスが掛けられている。
渚紗の亡骸を発見できたのもこのレンズのお陰だ。

「それ」の狙いは首輪の再補充。たとえ、首輪解除を目指さないとしても、
爆弾と榴弾して利用価値があると考えたからだ。
トラップとの複合も考え、中世西洋風の街で必要な工具も調達してある。

 曜子を壊したのは獣がつけた同型のリング。怪人はこの事実に、いかなる感情を抱いているのだろうか。
包帯が怪人の乏しい表情を完全に覆い隠している。
 黒須太一が存在する限り、怪人の指標は揺るがない。「それ」は自動的に、そして機械的に斧を振り下ろす。
オペラグラスが振り子のように揺れ、首輪が弧を描いた。

 † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † 

749 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 23:04:59 ID:X+l8N2U7


750 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 23:05:17 ID:dkW7dvfh
 暖かな陽光が薄雲に遮られた刹那、定刻の放送が始まった。
それは前回と異なり、至極事務的なものだった。

――太一は生きている。生きている。生きている……。

 曜子は暫し瞬きすら忘却し、音の方向に身体を向けていた。
 
 太一と共に脱出できないなら、彼ひとりだけで生き延びて欲しい。
それは不純な願望、有体にいえば独占欲。そのために彼女はすべて殺し、そして自害する。
 だが、それは何の見返りのないルーチンワーク。
曜子自身は太一から感謝の声も、労いの言葉も聞くことは出来ない。
彼女は彼のためにモノになったはずなのに……それは寂しかった。悲しかった。苦しかった。

 己の焼け爛れた身体を呪い、白い包帯から漏れる嗚咽。
だが、それも一瞬のこと。曜子の機械的な部分は、戦場で気を緩めることを許さない。
再び地に日が差し込む時、彼女の姿は消えていた。


 † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † 

751 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 23:06:05 ID:4xqXfmzT


752 :Anti-Mission ◆I9IoWegESk :2008/06/10(火) 23:06:16 ID:dkW7dvfh
 暫し姿を晦ました怪人は、変電所の前に姿を現す。
デイパックの中の首輪は1つから2つに増えていた。
無論、「それ」は地図にない施設を予め知っていた訳ではない。
あくまで当初の目的は駅であり、この変電所は予想外の収穫といえる。

理性の怪物は放送の後、
自分が「島に着いてから」出会った参加者の性格を生死問わずカテゴライズしていた。

 正義の味方              3人(如月双七、如月双七の師、棗恭介)
 正義の味方に近い凡人         2人(清浦刹那、トルティニタ・フィーネ)
 エゴイストに近い凡人         0人
 エゴイスト若しくは歪んだ理想主義者  1人(衛宮士郎)
 危険人物               1人(侍の魔人)

衛宮士郎は今となっては危険人物だろうが、あくまで初対面を基準に考える。線路沿いで談笑していた少女二人はデータ不足なので割愛した。

 こうして見ると、この「ゲーム」には正義の味方が多過ぎる。
しかも、彼らは連係プレーを得意としており、この手の人物にありがちな思考の硬直性も見られなかった。
世界とは本来、醜いもの。主催者がランダムに参加者を人選すれば、
このような比率にはならないはず。主催者の作為を想定に入れねばなるまい。

 そして、異世界跳躍の技術を持ち、死者復活の力を騙りながら、首輪に監視カメラらしきものを仕込むアンバランスさ。
主催者は「ゲーム」のために、自らに制約を課しているとも考えられる。

 ならば、第一回放送の優勝と脱出を等価とみなす発言は何を意味するのか。
ひょっとすると、この「ゲーム」は参加者の優勝だけでなく、島からの脱出も想定しているのかもしれない。
本当の地獄は「ゲーム」の先にあるのだろう。主催者あるいは黒幕の目的は……

753 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 23:06:27 ID:Aathlfeo


754 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 23:06:40 ID:X+l8N2U7


755 :Anti-Mission ◆I9IoWegESk :2008/06/10(火) 23:07:24 ID:dkW7dvfh
 怪物はここで考察をやめた。現時点では参加者の標本は少ないなど、仮説に穴が多過ぎる。
それ以前に、今の自分は太一の優勝を切り拓くモノ。脱出の先を考えたところで無意味だ。

 怪人は身体をふらつかせながら変電所内部に潜入し、電力の供給ラインを確認する。
日頃の過酷な鍛錬のお陰で、過度の疲労でも簡単に意識を失うことはない。

 正義の味方はこの島の交通網、通信網を利用して、他の仲間と連携を取っているのは想像に難くない。
ならば、彼らのライフラインを断ち切れば良い。初めに駅を目指したのもそのためである。
また、各地の電気供給を遮断すれば、弱者を抱える負担は増大する。

 これらの効果は、遠隔操作やタイマーを用いて、狙った状況で実行できれば増大するだろう。
 ただし、正常な左手だけで作業するのは時間が掛かる。
質より量で、手当たり次第にインフラを切断するのもひとつの手だ。
 ただし、この喧騒で太一を不安定にするリスクは最小限に抑えたい。

……そして、巧妙に隠された地下通路。
これを使えば安全に移動できるが、既に誰かがこの通路を発見していた場合、
狭い場所で戦いを強いられる危険がある。

 理性の怪物は、前頭葉を馬車馬のように働かせ、最適解を模索する。
もっと上手くやらねばなるまい。もう失敗は許されない。

756 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 23:07:44 ID:Aathlfeo


757 :Anti-Mission ◆I9IoWegESk :2008/06/10(火) 23:07:54 ID:dkW7dvfh
【G-4 変電所(駅)/1日目 日中】

【支倉曜子@CROSS†CHANNEL 〜to all people〜】 
【装備】:斧、投石器、全身に包帯、トレンチコート(男物)、バカップル反対腕章@CROSS†CHANNEL 、オペラグラス
【所持品】:石材3個、シンナー入りガラス瓶3個、首輪2つ(蒼井、向坂)、工具一式
【状態】:肉体疲労(大)、右半身大火傷(処置済み)、胸部に激痛(処置済み)、右目が充血(視力低下)、髪を切りました
【思考・行動】 
 基本方針:太一の為に、太一以外を皆殺し。 
 1:ゲームの参加者を見つけたら殺す。 
 2:人間でなくとも生きているなら殺す。 
 3:動いたら殺す。動かなくとも殺す。 
 4:話しかけてきても殺す。無言でも殺すし、叫んでも殺す。 
 5:泣いても殺す。怒っても殺す。笑っても殺す。 
 6:投石器で殺す。なくなったら斧で殺す。殺したら相手の武器を奪ってそれでまた他の人間を殺す。 
 7:交通・通信網を分断し、電力を遮断して殺す。
 8:殺す。 
 9:(…………………………………………太一) 

【備考】 
 ※登場時期は、いつかの週末。固定状態ではありません。 
 ※佐倉霧、山辺美希のいずれかが自分の噂を広めていると確信。 
 ※支倉曜子であることをやめました。 
 ※「ゲーム」の主催者は脱出も想定していると考えました。

758 :Anti-Mission ◆I9IoWegESk :2008/06/10(火) 23:08:56 ID:dkW7dvfh
これで投下終了です
誤字脱字、矛盾点などあれば指摘をよろしくお願いします

759 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 23:19:33 ID:4xqXfmzT
>>758
投下乙です
機械的に行動を続ける反面、揺れる陽子の内心が凄く良かったです
そして曜子ちゃん、島のラインを握ったか……
曜子なら上手いタイミングで行動を起こしそうだし、良い波乱の予感

760 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/10(火) 23:50:01 ID:Aathlfeo
投下乙です!
包帯ぐるぐるで斧もって生首切断とかマジで怪物ですってホラーですって
曜子ちゃんの手元に時限装置になりそうなものが(今のところ)なさそうなのが救いですが、はたして電力の運命は?
電気系統イカレるとウェストのアレですら貴重な足になってしまうのか!?
愛情も見返りを求めないッ!

761 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/11(水) 00:46:01 ID:QDqRX9fn
>>gu氏
投下乙!
まさかの 空 気 勢 大 活 躍
燃え上がる前のロウソクのごとく魅せてくれる魅せてくれるw
クロスオーバー必殺技『白狼の偃月刀』はマジでかっこよかったです!!
あと前回に引き続き九郎が熱いセリフを吐いてくれるw
魔術師は魔術師でもこのまま口先の魔術師にでもなるつもりか!?
いや、むしろなってくれ!!


>>I9氏
投下乙!
忘れていた!俺はすっかり忘れていた!!
マーダー不足?が懸念される昨今のギャルゲロワ事情において
期待のマーダー、理性の怪物こと支倉曜子の存在を!!
首輪はまた手に入れるし対主催をうまい具合に攪乱してくれそうだし大活躍ですね

762 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/11(水) 14:59:32 ID:M1MECgAH
ちょっと来てない間にこんなに投下が!
皆さん投下乙です!

>Uc氏
あれ、おかしいな、筋肉がシリアスだ…ってリピーターだと!
平和だった筋肉組に暗雲か、いいぞ、もっとやれw

>bD氏
誠、南無。意外と綺麗なまま逝ったなw
世界は武器庫ポジまで手に入れたか

>Lx氏
ウエストが活き活きしてるなぁ、すごく楽しそうだw
杏に対する反応も自然だし、一人話なのにこんなに面白いのはさすが

>gu氏
ああ、虎太郎先生…やっぱり…。でも予約入るたびに死ぬと思ってた俺的には長生きしたほうかもw
それにしても乙女さん強いなw

>I9氏
曜子ちゃんがまた首を飛ばしたよーw
彼女がライフラインを握るって、なんかすごく恐ろしい…

763 :キャル・ディヴェンス ◆LxH6hCs9JU :2008/06/12(木) 03:48:52 ID:KiOFBlDf
 キャル・ディヴェンスという少女には、二年の空白がある。

「離れたくないの。ずっと、玲二の傍にいたい」

 切欠は彼女が修理したビデオデッキ。同居人が不在中のときだった。

「帰って来る。玲二はきっと帰って来る。だって、約束したんだから」

 吾妻玲二の、そして彼女自身の留守中、二人の家が焼失した。

「……嘘つき。帰って来るって、言ったじゃ、ない、かぁ」

 焼け焦げた廃墟で、彼女は玲二を待ち続けた。しかし、玲二は帰って来なかった。

「玲二は、あたしに帰って来るって……あたしは、捨てられてなんかないっ」

 待ち惚けをくらう彼女の下に、玲二失踪の真相を知る者が現れた。

「……違う。あたしは……捨てられたんだ」

 捨てられたと聞かされ、当初は否定していたものの、時が経つにつれ彼女はそれを受け入れた。

「なんであたしは生きているんだろう」

 玲二は彼女を捨て、彼女とは違う女と一緒に逃げたらしい。

「なんであたしはこんなことをしているんだろう」

 捨てられた彼女は、生きる気力も失ったまま、玲二の後釜となるべく訓練を受けた。

764 :キャル・ディヴェンス ◆LxH6hCs9JU :2008/06/12(木) 03:50:25 ID:KiOFBlDf
「わからない。もう全部、どうでもいい」

 言われるがままに、幾日かを生きた。生きながらに死んでいたのかも、しれない。

「玲二……あんなヤツのこと、今さら……」

 生きる意味について考えてみると、たびたび玲二の顔が浮かんだ。あの忌々しい顔が。

「……そうか。あたしは、誰かに認められたかったんだ」

 不思議なことに、銃を握ることで理解が追いついた。存在証明の方法を、発見できた。

「銃で、撃てば。あたしは、撃ったヤツに認めてもらえる」

 一発の銃弾で、恐怖と憎悪が買える。買えば、彼女は購入者として認めてもらえる。

「無理矢理、認めさせればいいんだ……あたしを」

 死を売り、生を買う。彼女はそんな生き方でいいや、と妥協した。

「玲二に。玲二と一緒に逃げた女に。――アインとツヴァイに」

 最もたる対象として、逃げた二人を据えた。ドライ≠ニしてのリスタートを切るために。


 そしてキャル・ディヴェンスは、ドライとなる。
 一と二を追う三として、吾妻玲二を恨む逆襲者として、亡霊の名を継ぐ。
 三人目のファントムは、捨てられたキャル・ディヴェンスは、ただの殺す者として――

765 :キャル・ディヴェンス ◆LxH6hCs9JU :2008/06/12(木) 03:50:55 ID:KiOFBlDf


 ◇ ◇ ◇


「ハッ、死にやがった」

 第二回放送を聞いた。一番目のファントム――アインが死んだらしい。
 吾妻エレン。日本で暮らす際の偽名として、玲二と同じ吾妻姓を名乗っていた女。
 ドライ、いや――キャル・ディヴェンスを捨て、玲二が走った女だった。

「これで41人……三割消化ってとこか。早いじゃん。意欲的に殺しまわってんのはどこの馬鹿かね」

 名簿に記載された文字の羅列を指で辿り、呼ばれた名にそれぞれ斜線を引いていく。
 閉鎖的な発電所内でも、ゲーム進行役たる神崎黎人の声は遮断なく聞こえた。
 内容について言えば、別段アインの死亡報告以外に語るところはない。
 アインの死亡とて、ドライにとっては些細なことだった。
 強いて問題があるとすれば、この手で殺せなかったことが残念で仕方がない、といったくらいか。

(仮にもインフェルノの先輩様ともあろうお方が、張り合いのねぇ)

 情報の吸収を終え、ドライは早々に退散の準備を済ませた。
 荷物はデイパックに纏め、銃は腰のホルダー、煤で汚れた金髪やライダースーツはそのままに、発電所を跡にする。
 向かった先は地下。放送前に発見した通路を辿り、東へと足を伸ばしてみる算段だった。

766 :キャル・ディヴェンス ◆LxH6hCs9JU :2008/06/12(木) 03:51:34 ID:KiOFBlDf
(そういや、あのガキ二人……マコト、だったか? あいつらもまだ生きてんのか)

 鉄板の敷かれた通路を歩きながら、ドライは燃え盛る館での一件を回顧する。
 暗殺者たるファントムを前にして、甘っちょろい平和論を垂れ流したガキ二人――実年齢で考えればほぼ同年代だが、精神面で見れば十分ガキと呼べる――伊藤誠と菊地真。
 あの二人の名も、まだ呼ばれてはいない。

(伊藤真に、菊地真……玲二と同じ、日本人ね。さすが、ヤツの生まれた国の住人なだけあるよ)

 全てを偽善で塗り固めた、甘ったるい妥協だけの国。
 それが、ドライが実際に日本に滞在して培ったイメージだった。
 豊富な食料や資源は、人間間での醜い奪い合いを必要としない。飢餓などとは無縁の者ばかり。
 ホームレスは世捨て人の耄碌爺ばかり。ロスではありふれているストリート・チルドレンなど、一人もいない。
 命懸けで生きてる人間なんて、誰一人として存在しない。飼われ養われが心情の、まるで牧草地の牛だった。

(一を守るために全を切り捨てるなんてことも……あの国の連中にはないんだろうな)

 甘すぎる。日本列島という範囲全てに蜂蜜を塗りたくったような、反吐が出るほど居心地の悪い国だった。
 平和な国でのうのうと暮らすヤツらが、自分たちの世界に浸るヤツらが、その中に入り込んで生を満喫する玲二が、たまらなく許せなかった。

(いや、そりゃここも大して変わらないか……あるいは、そういうヤツら全員ぶっ殺すってのもおもしろいかもね)

 名簿を見る限り、このゲームには日本人が多く参加している。主催者二人も日本人だった。
 平和の裏でこんな陰湿な企画を考えるのが日常というならそれは称賛に値するが、そんな連中は極一部だろう。
 本質はやはり、マコトが見せた甘さに違いない。甘っちょろい日本人が多く参加するゲームで、アインは死んだ。

(ああ、おもしろい。ってかペースが遅い。ここはあたしが緩んだヤツらに、現実ってもんを教えてやっかね……)

767 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/12(木) 03:51:55 ID:nmb9UA0w


768 :キャル・ディヴェンス ◆LxH6hCs9JU :2008/06/12(木) 03:52:25 ID:KiOFBlDf
 それもいいかもね、とドライは自嘲気味に笑う。へらへらとした、彼女らしくない笑い方だった。
 まったく、こんな蜂蜜漬けの島でファントムが三人もなにをやっているのか。笑い話としても上等だ。
 ドライは未だ殺害数ゼロ。アインは既に死亡。ツヴァイは……戦場に立たされてもまだ、浸っているのだろうか。
 インフェルノの魔の手から逃れ、暗殺者を引退した、過去すら清算した気でいる、吾妻玲二として。

 考え出したら、はらわたが煮えくり返ってきた。
 体の奥底からむかむかとした熱気が込み上げてきて、ドライは唇を噛む。
 抑えきれず、通路の壁面を殴りつけた。

(……違う。そうじゃ、ねぇだろ……ッ!)

 自らの脳中に制裁を下すように、ドライは二度三度、強固な壁面を力の限り殴打した。
 ここにいるヤツらには皆、覚悟が足りない。玲二にしても、黒髪と銀髪の男女にしても、二人のマコトにしても。
 アインとて、あのような下卑た国に住まうから牙をもがれるのだ。
 噂に聞くかつてのファントム・アインなら、そう簡単に死にはしない。

 アインが、死んだ。

 反芻されるのは、その事実ばかりだった。
 玲二の逃亡先を突き止め、日本に入国し、実際にコンタクトを取るまでは知りもしなかった霞のような人物。
 言葉を交わしてみれば感想はいけ好かないの一言に尽きたが、彼女は辛うじて――玲二に比べれば――まだファントムでいたと思っていたのに。

(違う。違う。違う……そうじゃねぇ! アインのことなんて、どうでもいいんだ……ッ!)

 アインがこの手で殺せなくて悔しい――違う――アインを『玲二の目の前で』殺せなくて悔しい。
 アインの死を受けてドライが抱いた悔恨の念は、玲二という人物を中心に捻じ曲がった。

769 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/12(木) 03:52:39 ID:A3Pdwjd7
 

770 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/12(木) 03:52:44 ID:nmb9UA0w


771 :キャル・ディヴェンス ◆LxH6hCs9JU :2008/06/12(木) 03:52:52 ID:KiOFBlDf
(そうだよ。そういうことなんだ。アインが死んだ? 知るか。あたしは、玲二さえ殺せればそれでいい)

 歪な憤りを実感するドライは、改めて認識する。
 この憎悪の矛先が向いているのは、『アインとツヴァイ』ではなく――あくまでも『玲二』なのだと。
 キャルを捨てて逃げた玲二。アインが玲二を奪ったのだとしても、キャルを捨てたのは玲二に他ならない。
 木漏れ日のような優しさを振り撒いてくれたあの男は、キャルを見捨てて、アインとの平穏に逃げた。
 湧いてくる感情は、ただ一つ。

(許せない)

 それだけだった。

(許せない。あたしを捨てたあいつを許せない。アインと逃げたあいつを許せない。
 ファントムをやめたあいつが許せない。あたしを見捨てて腑抜けたあいつが許せない。
 あたしを死んだと思い込んで学生ゴッコしてたあいつが許せない。絶対に許せない。
 ブチ壊してやる。なにもかも。玲二の心を慰めたもの。くだらない幻想を見させたもの。
 夢心地で浸ってる玲二を、玲二の見る全てのものを、玲二を、全部、壊してやる……)

 ほどなくして、ドライは地下通路の終点に辿り着く。


 ◇ ◇ ◇



772 :キャル・ディヴェンス ◆LxH6hCs9JU :2008/06/12(木) 03:53:25 ID:KiOFBlDf
 茹だるような太陽の眼光に晒され、ドライの碧眼は、睨み返すように天を仰ぐ。
 眩しいくらいの日差しは、安逸を貪る豚共の目にはどう映っているのだろうか。

 例えば、玲二……ファントムを辞めた彼は、このゲームをどう捉えているのだろうか。
 日本の学生・吾妻玲二として反逆の道を目指すか、かつてのファントム・ツヴァイとして暗殺に徹するか。
 前者だとして、また後者だとしても、道は大きく変わる。アインの死を知れば。
 アインの死を知った彼が、このゲームをどう再認識するか――考えたところで、あほらしい、と切り捨てる。

 もう、ごちゃごちゃと細かいことを考えるのは終いだ。
 これからはシンプルに生きていこう、それがあたしの生き方だ、とドライは言葉なく決意する。

 玲二を染める平和には、死を。
 ドライを認めないヤツには、一発の弾丸を。
 殺意を欲する敵には、ファントムとしての殺しを。
 玲二には、キャル・ディヴェンスとしてのありったけの私怨を。

 殺して、認めてもらって、また殺す。二年前に生誕したドライは、それしか生きる方法を知らない。
 玲二を殺し、玲二への憎悪が晴れたとき――ドライは、死ぬのだろうか。

 それすら、考えるべきことではない、と切り捨てた。

 ――時刻は正午過ぎ。『怪人』がこの地を訪れる少し前。
 野に放たれたファントムは、亡霊とは似ても似つかぬ殺意の存在感を纏い、街を徘徊する。

 玲二という、終着点を探し求めて。


773 :キャル・ディヴェンス ◆LxH6hCs9JU :2008/06/12(木) 03:54:12 ID:KiOFBlDf
【1日目 日中/G-5 駅周辺】

【ドライ@Phantom -PHANTOM OF INFERNO-】
【装備】 クトゥグア(10/10)@機神咆哮デモンベイン
【所持品】 支給品一式×2、マガジン(クトゥグア)×1、懐中時計(オルゴール機能付き)@Phantom
        噴射型離着陸単機クドリャフカ(耐熱服付き)@あやかしびと、包帯、業務日誌
【状態】 左足首捻挫(治療済み、患部に包帯を巻いている)
【思考・行動】
 基本:玲二(ツヴァイ)を殺す。玲二を取り巻く全てのものを壊す。
 1:もう深くは考えない。殺す。
 2:人間を見つけたら玲二を知っているか尋ね、返答に関わらず殺害する。
【備考】
 ※クドリャフカの操縦を覚えました。(なんとか操縦できる程度です)
 ※クドリャフカの移動速度は1エリアを約5分で通り抜ける程度。
 ※業務日誌の最初のページには「麻婆豆腐の作り方」、最後のページには「怪しげな画」が書かれています。
 ※ただ最後のページは酷い殴り書きなので、辛うじて「ヨグ・ソトース」「聖杯」「媛星」ぐらいが読める程度です。
 ※発電所から伸びる地下通路の存在に気付きました。


 ◇ ◇ ◇



774 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/12(木) 03:54:13 ID:nmb9UA0w


775 :キャル・ディヴェンス ◆LxH6hCs9JU :2008/06/12(木) 03:54:52 ID:KiOFBlDf
 
 ドライ≠ヘ、玲二を殺す。


 ただ、それだけのために生きる。


 だが、キャル・ディヴェンスは、


 あの焼け焦げたロフトの一室で、


 今もまだ、玲二の帰りを待っている。


776 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/12(木) 03:56:38 ID:A3Pdwjd7
 

777 : ◆LxH6hCs9JU :2008/06/12(木) 03:57:36 ID:KiOFBlDf
投下終了です。夜分に支援感謝。

778 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/12(木) 07:20:24 ID:Mpq6ohSP
投下乙です
原作未プレイ同然の自分には、何故ドライがツヴァイとアインを狙っているのか今まで分からなかったので、今回明らかになって良かったです
かたや憎みまくり、かたや保護する気満々
ドライとツヴァイのすれ違いが今後どう影響していくか楽しみだなあ

779 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/12(木) 08:05:30 ID:avah0zwj
投下乙です
やはり、憎悪で塗り固めていくかドライ…
二人はルート違いとしては極上ネタ(パヤパヤじゃないよ)、
果たして両者は相見えるのか

あと、忘れてましたが週刊ギャルゲ乙
2ndは1stとは別の意味で修羅場だw

780 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/13(金) 18:34:34 ID:uzxryQGs
ようやくスレ復旧したか
というわけで、投下乙です

スタンスは完全にやる気満々だけど
鬼乙女やワールドに比べたら、まだこの人は戻ってこれるような気がする…
どうなってしまうのか非常に楽しみです

781 :観測者の願望 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 00:59:03 ID:Kn2wxJkh
 




「――――――正義の味方にならないか?」

差し伸べられた腕が歪んで見えた。
少年、衛宮士郎の心がぐにゃり、と不可思議に……そして獰猛に歪むことすら理解できた。
正義の味方、と男は言った。
かつての衛宮士郎が目指した到着地点、理想の英雄の名称だ。
今のエミヤシロウが名乗ってはならない名前だった。

「正義の……味方」
「うむ。何でか分からんが、お前向けの良い仕事だと思うのだよ、君ぃ」

勧誘者、黒須太一は顔に笑みを貼り付けて、そんな言葉を口にする。
仲間を集めたい、と理性が訴えたからだ。
個ではなく、群として……人間として生きていきたい、と16%が願ったからだ。
だから、太一は手を差し伸べる。
力を合わせて戦おう、という理想。化け物ではない、黒須太一として。人間の証明をこの手で掴むために。

「悪を挫き、弱きを助ける。凄いことだろう?」
「………………」

士郎のブリキの心が動いた。
ようやく、目の前の現実を認識するぐらいまでの冷静さが取り戻せたようだ。
告げられた桜の死による絶望。
それをあっさりと覆され、そして正義の味方になれ、と言われて気が動転していたらしい。


782 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 00:59:20 ID:iNpky6VS



783 :観測者の願望 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 00:59:47 ID:Kn2wxJkh
「そうそう。名前をまだ聞いてなかった。名前は?」
「……衛宮、士郎」

ともすれば、崩壊しそうな心をゆっくりと繋ぎ合わせて思考する。
桜の死の真偽、目の前の黒須太一について考えなければならない。
その結果、己の存在意義が揺らぐことになろうとも。

(桜……)

第一回放送で死んだ、と言われ……そして、生きていると言われた大切な少女。
殺された可能性を否定する要素はなかった。
これまで我武者羅に戦ってきた士郎には、桜に関する情報が絶対的に足りていないからだ。

どうして、誰か一人にでも尋ねなかったのか。
第一回放送の死者、その数と内容……気絶している間、全ての参加者に突きつけられるはずだった悪魔の放送を。
怖かったのか、桜の死を告げられることが。
恐ろしかったのか、殺してきた人たちの名前が呼ばれることが。

「んーと、士郎。返事は決まったか?」
「……待ってくれ。いくつか聞きたいことが、ある」
「何かな?」

そうだ、情報を集めなければならない。
目の前の男は……協力者だった支倉曜子が護りたいと願った、黒須太一だ。
性格はお世辞にも良いとは言えない。
むしろ、危険人物と認定したくなるような雰囲気。にょろり、と気づいたら仲間の背中を刺すような危うさがある。


784 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:00:23 ID:iNpky6VS



785 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:00:28 ID:KMQHYMN0


786 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:00:32 ID:ZpS1gEyK


787 :観測者の願望 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:00:56 ID:Kn2wxJkh
「……まず、支倉曜子って知ってるか? ほんの数時間前まで、俺と行動を共にしていた」
「曜子ちゃん……? 知ってる。スーパーくのいちなんだ」

内容の意味は良く分からなかったが、どうやら友人らしい。
友人、つまりは友達だ。もしくは恋人といったところだろうが、士郎には彼らの関係について判断がつかない。
彼女が殺し合いに乗っている、と言ったらどうなるのだろうか。
そんな士郎の思惑を読み取るように、太一は多少なりとも呆れた顔で尋ねてきた。

「それで。曜子ちゃんはお前と一緒に人を殺し続けてたりしてたわけか?」
「……っ!」

その通りだ。
彼女と組んだ時期に人を殺してはいないが、その通りだった。
結局、はぐれてしまったが……今頃は着実に誰かを殺そうとしているのかも知れない。
続いて目の前の男に対しての疑念が湧き上がった。

何故、まだ出逢っていないはずの少女が殺し合いに乗っていると知っているのか。
何故、友人が人殺しをしているということに、何の感慨も持たないのだろうか。
何故、黒須太一は尊い決意と覚悟の元に人殺しをしている彼女に対し、そんな呆れた表情しか浮かべないのか。

普通なら嘆くはずだ、もしくは怒るはずだ。
よほどの外道なら笑うかも知れないが、少なくとも彼のような反応は異常だ。

「あー、なるほどな。曜子ちゃんから俺のことを聞いてたってことか」
「……ああ」
「……良かった、ヤングアダルト候補生の危機は脱した。うむ、いいことだ」


788 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:01:13 ID:iNpky6VS



789 :観測者の願望 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:01:52 ID:Kn2wxJkh
心を読むエイリアンの可能性はここに潰えた。
世界の平和を救う前に、己の煩悩の平和が守られた。よしよし、と一人納得して頷き続ける。
もちろん、士郎には何のことかも分からない。
とりあえず、話を強引に戻すために咳払いをしつつ、次の質問に入ることにした。

「エイリアンだなんて、本気で言っているのか?」
「……いい質問だ。女の子なら頭ぐらい撫でるところだが、男に何かしても気持ち悪いので俺は却下することにした」

モノローグのように語る太一は何処までもふざけた印象だ。
一見すれば人形のような端正な顔立ち。何処かの一学生にしか見えない。魔術師でもない。
それなのに、この言いようのない不安はどういうことだろう。
このふざけた態度の全てに恣意的なものを感じる。士郎の感覚が、セイバーとの鍛錬で身に着けた直感が告げている。

あまり、話さないほうがいい。関わらないほうがいい。
そんな予感を胸に秘めながら、士郎は彼の答えを待つ。
同時に彼の言葉に信頼は置かない。
桜の生死を気分で裏返すような人間の言葉に信は置けない。
これはあくまで情報収集。前の二つは前哨にすぎず、本命は桜の生死に関する問いかけだ。

士郎はそのことの真偽が知りたくて仕方がなかった。それに固執していたといっていい。
当然だ、彼の存在意義。為してきたことへの意味はそこに集約されるのだから。
たとえ信用もできない男の口からでも、桜が生きてくれているということを聞きたかった。
故に新たな参入者の存在は計算に入れておらず、少し低めの無遠慮な声色が二人の耳に届いた。


790 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:01:59 ID:iNpky6VS



791 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:02:16 ID:ZpS1gEyK


792 :観測者の願望 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:02:39 ID:Kn2wxJkh

「すいません」

改めて口を開こうとする太一を遮った少女。
その名は椰子なごみ、復讐に身を燃やし続ける人殺しが歩いてくる。
太一は彼女を見て、口元を更に歪めるのだった。


     ◇     ◇     ◇     ◇


「ちょっといいですか。少し聞きたいんですけど」
「おっと、その前に名前を告げるのが礼儀だと思うのだよ、君」
「……椰子なごみ。質問、いいですか?」
「なごみ……うむ、なごみん、いいね。ちなみに黒須太一、純愛貴族なのだ。よろしく」

現れた少女、椰子なごみは美人だった。
黒髪に鋭い目つきは気の強さを思わせる。太一の視線は彼女の豊満な胸に奪われ、グッと親指。
巡り合いの神様に対する感謝だったのだが、なごみはそれを自分に当てたものと思って話を続ける。

「対馬レオって名前について、何か知りませんか?」
「…………え?」

士郎の反応。それに意味深なものをなごみは感じる。
彼はなごみの顔を見たまま、何かを思い出そうとしているらしい。難しい顔をしていた。
なごみもまた、士郎を見て首を傾げていた。
赤毛の少年に心当たりがあるような、ないような。思い出さなければならない気がしたが、置くことにする。


793 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:03:25 ID:iNpky6VS



794 :観測者の願望 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:03:32 ID:Kn2wxJkh
今は目の前の白髪の青年との対峙。
彼は薄っすらと笑みを浮かべながら、新たな被験者を迎え入れようとしていた。

「対馬レオ……うむ、知っている」
「っ! センパイに逢ったんですか!?」
「あー、なんだ。似たような奴らがいるなー、と思いつつも答えてやる。対馬レオは第一回放送で呼ばれたぞ」

似たような、という言葉で僅かに士郎の肩が震えた。
関係ないと思いたい。それでも、その言葉に隠された真意を探らなければと思った。

なごみは莫迦にするかのような太一の態度に苛立つ。今すぐにでも殺してしまいたい衝動に駆られた。
どうしてこんな奴が生き残り続けて、センパイが殺されてしまうんだろう。
煮えくり返りそうな気持ちを強引に抑え続けた。聞きたいことは、まだ終わっていない。

「違う。放送なら聴いた、センパイが死んでるのは……知ってる」
「うな? じゃあ、何を聞きたいんだ? 死に際、断末魔、それとも死体でも持って帰るのですかお嬢様」
「っ……何でも。センパイを殺した相手の情報なら、何でも知りたい」

知らないなら、それでもいい。
銃はすぐに取り出せる。半日以上の戦いは全身の切り傷と、そして銃の熟練度をあげた。
二秒もいらない。彼らが何かをしようとする前に、胸に鉛玉を撃ち込むことができるだろう、となごみは思う。
センパイのために。対馬レオのために。

いや、本来ならそれは死者のためにもならない。
なごみ完全な免罪符、正当な復讐心に身を委ねているだけに過ぎない。
彼女は他人の幸せを喜べるほど大人ではなかった。
こうして周りに不幸をばら撒いて、憂さを晴らすことしかできなかったのだ。彼女は子供だった。

歪んだ人間性、それはとても美しい芸術品だと太一は思っている。
多少なりとも、目の前の少女は依存が過ぎることも理解した。
それが残念でならない。もっと孤高に、一人で生きていけるような強さがあれば……それは、愛でて壊すことができるのに。


795 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:04:15 ID:iNpky6VS



796 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:04:48 ID:ZpS1gEyK


797 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:04:49 ID:KMQHYMN0


798 :観測者の願望 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:05:21 ID:Kn2wxJkh
「ふふふ……ぶっちゃけ、何も知らないな。その対馬って奴に逢ったことはない」
「…………」

落胆と納得。やっぱりか、となごみは溜息をつく。
そんな彼女に太一は問いかける。士郎との交渉など忘れて、少女を愛でるために。
今の彼の思考は単純。結論はこうだ。
男よりも女の子のほうが好き。欲望に逆らわないのが、ヤングアダルト候補生の黒須太一だった。

「聞くけど、その対馬って奴の仇を見つけたとして、殺すのか?」
「殺す」

返事は即答だった。
殺す、と告げたその瞳は憎悪で濁っている。
たった三文字の言葉を吐き出しただけでは飽き足らず、何度も何度もその言葉が零れ続ける。

「殺す、殺す、殺す。無残に殺す、無様に殺す。センパイの苦しみを十倍にして返してやるんだ」
「ほうほう」
「私はセンパイのために生きる。センパイのために復讐する」
「うむ、正しい怒りだと思うのだよ」

飄々とした態度で、太一はなごみの憎しみを肯定して見せた。
なるほど、復讐。とても人間らしい感情だ。太一自身ですら、その気持ちは形ばかりでも理解できる。
いいなー、と心中で思った。誰かのために怒れることが羨ましい、ような気がした。

(んー、復讐、ね……)

視線を後ろに向けた。
そこには人殺しがいる。護りたい人が死んでいることにも気づかずに、殺し続けた男がいる。
面白いことになりそうな気がした。
死者の名前を告げ、殺したのは誰だと問いかけたときの士郎の狼狽……直感が『当たり』だと告げている。


799 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:06:08 ID:iNpky6VS



800 :観測者の願望 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:06:20 ID:Kn2wxJkh
むくむく、と。欲望が己の中で燃え上がっていくのが自覚できた。
教えてやりたい。目の前の怒り狂う少女に伝えたい。
心当たりならある、と。目の前の青年、衛宮士郎が仇であるという可能性を伝えたかった。

(…………ふむ)

どうなるだろう。
可能性だけでも、それを信じて彼を殺すだろうか。
護りたいという行為の結果、最悪の結末で幕を閉じる青年の亡骸……見てみたい、と思う。
孤高な戦いを続けてきた青年が、無残に散らされていく姿は見てみたい。

男だろうが、女だろうが関係ない。フライドチキンの性別を気にするほど、繊細ではないのだ。
美しい花を見たら散らさずにはいられない。
その材料が目の前にある。冷静さを保てない女、彼女に耳元にそっと告げるのだ。『実は心当たりがある』と。
衛宮士郎は殺人犯であり、対馬レオを殺した可能性がある、と。

ああ、教えてやりたい。
とてもとても、教えてやりたいという心を。

「…………っ、まあ、言いたいことは分かったよ、うん」

強引に。
強引に欲望と一緒にを抑え込む。
ぎりぎり、と内側から侵食してくるような暗い思惑を自制心で押さえつけた。

だめだ、それは普通じゃない。
だめだ、それは最初の目的と相反する。
だめだ、それはきっと、毒入りの甘い甘い蜜壷。手を出したらきっとのめり込むのだ。


801 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:07:01 ID:ZpS1gEyK


802 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:07:04 ID:iNpky6VS



803 :観測者の願望 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:07:13 ID:Kn2wxJkh
地球の平和を守る。
職業は正義の味方。悪を挫き、弱きを助ける。
男なら一度は憧れたことがある願い。そうだ、普通の願いの具現がそこにある。
ならば『その行動』は正義にあらず。
告げ口、陰口、悪口はクラスの皆から嫌われちゃうぞ、と普段どおりの飄々さを取り戻すために頭を抑えた。


「ですか。それじゃあ、さようなら」


えっ、と口元が言葉を吐き出す暇すらなかった。
小さな破裂音。空気が破裂した音には聞き覚えがあるような気がした。
続いて衝撃が太一を襲った。
激痛、眩暈が少年の思考を埋めていった。彼は身体の一部が崩していく感覚に身を任せた。


     ◇     ◇     ◇     ◇


(……おお、なんだこりゃ)


804 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:08:14 ID:iNpky6VS



805 :観測者の願望 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:08:34 ID:Kn2wxJkh
熱した棒を突き刺されたような激痛。
目の前の女が撃った銃と、撃たれた右肩を呆然と眺めていた。
心中で若干の静寂。現実世界では一秒の刹那にすぎない世界で、太一はゆっくりと現実を認識していく。

(う、撃たれたのか。なんてことだ! ええい、立ち上がれヤングアダルト候補生!)

もう立ち上がっていた。最初から太一は地面に倒れてなどいない。
撃たれたと同時に後方へ跳躍。
民家の中へ避難するのは危険だと判断した。その前にもう一撃が今度こそ太一の心臓を貫くだろう。
幸いにもここは森林地帯。周囲は木々に囲まれている。十分に弾丸を凌ぐ遮蔽物はあるのだ。

彼の直感が働いたのが幸いだった。
理由はない。ただも怪物的な直感が伝えたのだ。なごみが腕を動かすと同時に身を逸らす。
踊るようにバックステップ。さすがに弾丸を避けるような非常識な真似はできなかったが、本来なら心臓を射抜かれている。

ちなみに衛宮士郎は別角度から銃が見えていたらしい。
なごみが動くと同時に退避、そのまま別の大木へと身を隠している。

(ち、ちくしょー! 気づいたなら早めに教えるべきだ、と俺は訴えてみる……痛っ……)

肩を撃たれた。弾丸は貫通して別の木に突き刺さっているのだろう。
当然ながら血が流れた。赤い、赤い、アカイ血液が流れる。


806 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:09:08 ID:iNpky6VS



807 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:09:11 ID:ZpS1gEyK


808 :観測者の願望 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:09:59 ID:Kn2wxJkh

(自分の血は平気)

ぺろり、と肩を抑えたときに右手に付着した己の血を舐める。
うむ、鉄分摂取はいいことだ、などと思ってから首を振る。
いやいや、自分の血を舐めても鉄分が取れるのか。それ以前に鉄分含む血液がどんどん流れてるような気が。
思考をトリップさせる太一の耳に、苛立った少女の舌打ちが聞こえてきた。

「ちっ、惜しい……うざいですね。とっとと死んでくれればいいのに」
「ちょっと待った。どうして俺が撃たれなきゃならんのだ。理由を要求する」
「復讐のためです。さっきから情報が集まらないので、面倒だから全員殺すことにしてます」
「……わーお」

なんてことだ、と太一は歯噛みする。
現代の若者はキレやすい、というがその通りだった。日本の未来は暗い。
情報が集まらない、仇が分からない、それなら全員殺せば仇を討てることになる……なんて、短絡的。
誰だ、こんな子を育てたのは。親の顔が見てみたい、などとツッコミを入れたかった。

おお、これもゆとり教育の壁害だというのか。
※壁害→太一語。弊害の誤字。その害により、互いの心の壁を認識してしまうこと。もしくは壁にぶち当たること。

さて、今後のことを考えなければならない。
襲撃してきた少女。銃を持っている。ちなみに自分も銃を持っている。おそろいだと少し嬉しい。
そして衛宮士郎。彼もまた、身を隠して様子を見ている。武装は刀らしい。
何故か弓らしきものも取り出しているようだが、そこは太一の知ったことではない。

(よし、考えるんだ。相手は銃を持っている。ラブ&ピースは通じない。うむ、悲しいことだ)

友情、努力、勝利は鉄則。
ピンチの後にはチャンスあり。ヒーローは遅れてやってくるものなのだ。
無理に殺し合うこともない。逆境は絆を深くするものだ。むしろ危機を好機に変えてしまえばいい。


809 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:10:26 ID:iNpky6VS



810 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:10:34 ID:KMQHYMN0


811 :観測者の願望 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:11:11 ID:Kn2wxJkh
「よし、士郎。正義の味方、初の仕事だ」
「……は?」
「彼女を足止めするんだ。仲間を集って戻ってくるから」

硬直する士郎を尻目に、太一はその場を離脱。背中を見せて逃亡開始。
正義の味方を許容も引き受けもしていないのだが、そんなことはお構いなしだった。
背後からの銃弾を警戒し、木々に隠れながら逃亡。
大丈夫、敵前逃亡ではない。仲間を連れて戻ってくるフラグなのだ、と大真面目に語りながら黒須太一は姿を消した。

「……ちっ」

士郎は憎々しげに舌打ちする。
仲間を連れて戻ってくる、という言葉を信用するつもりはない。そもそも期待していない。
ただ、あの少女の乱入のおかげで桜の情報を聞き出せなかったのが恨めしい。

「……無様ですね、仲間に見捨てられましたか……くっ、くくく……」
「勘違いするな。あいつは仲間なんかじゃない」
「ああ、そうですか。それはそれは……ん? ああ、思い出しました。最初に逢ったときも森の中でしたね」

銃を構えたまま、なごみは口元を歪めた。
そうだ、思い出した。あの赤毛の男と自分は出逢っていた。この殺し合いに放り込まれたときだ。
リセを襲ったとき、辞書を投げつけて邪魔をした男。
名前も知らないが、まさかここで再び逢えるとは思わなかった。くつくつ、となごみは嫌らしい笑みを零す。


812 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:11:27 ID:iNpky6VS



813 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:11:53 ID:ZpS1gEyK


814 :観測者の願望 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:12:39 ID:Kn2wxJkh

「そうそう、リセはどんな死に様でした? せっかく助けたのに、死にましたよね。すごく滑稽です」
「…………」
「知らないんですか? 助けてそのまま放置していたとか? 外道ですね。こんな殺し合いなら、一緒にいないと」

外道、その言葉だけは大いに頷ける。
その通りだ。衛宮士郎という名の『魔術師』は外道であり、鬼畜だ。そこに言い訳はない。
己の目的のために、手を自分と他者の血で染め上げるのが魔術師だ。
今、ここにいるのは正義の味方である魔術使いではない。目的のために手段を選ばない魔術師だ。

「じゃあ、教えてやろうか。彼女の最期を、誰が殺したのかを」
「……ええ、興味はありますね。あの甘ったれた女が、どんな無様な姿で地面に這い蹲ったのか、すごく知りたいです」
「そうか、なら教えてやる」

故に護るべき者が揺らごうとも、確定していない以上、その道は変わらない。
桜を優勝させるために、全員を殺し尽くす。
殺し合いに乗っていようと、乗っていなかろうと関係ない。標的が桜以外の何者かである以上、抹殺対象だ。
気絶している間に体力は回復、魔力も安定。これなら、十分に戦える。


「リセを殺した奴の名前は衛宮士郎……俺のことだ」
「は……?」



815 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:12:57 ID:iNpky6VS



816 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:13:21 ID:ZpS1gEyK


817 :観測者の願望 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:13:53 ID:Kn2wxJkh
言葉は相手の思考を一瞬だけ、奪う。
その意味を解するまでに数秒。それだけあれば、衛宮士郎には十分すぎる。
矢を番える。量産された刀は無限の矢。魔導書は鈍く輝き、士郎の武装を用意する。
第一射、放たれた魔弾はなごみを貫くために疾走した。

衛宮士郎は弓道の天才だ。
生涯において外したことは一度だけ。外そうと思って外したことが一度のみ。
当てると決めたなら当てる。標的が動かない的ならば百発百中。逃すことはただの一度とて有り得ない。

「えっ……ぐうううっ!?」

なごみの運動神経は良い。
身体能力の高い生徒が多数いる竜鳴館の中でも、上位に入るほどの身体能力がある。
鉄乙女や霧夜エリカのような規格外は別にして、一般人というランクから見れば良い動きができる。
それが功を奏したのか、かろうじて魔弾を避けることに成功した。

地に這い蹲った緊急避難、もう一秒でも躊躇すれば刀は心臓を貫いていたかも知れない。
どすり、となごみの背後の大木に刀が突き刺さった。
刀は大木を貫通したまま停止。硬い木の皮ですら太刀打ちできないのであれば、人の皮膚での是非など語るまでもない。

「はっ、ぐ……!」

なごみには一瞬、現実が認識できなかった。
リセを殺したのが目の前の男ということもそうだし、その非常識な一撃もまた同様の理由と成り得る。
まるで鉄乙女や橘平蔵のような出鱈目な一撃。
それでも愛しいセンパイの仇を討つためには、全員を殺し尽くさなければならない。目の前の男も同様なのだ。


818 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:14:11 ID:iNpky6VS



819 :観測者の願望 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:14:47 ID:Kn2wxJkh
銃を構える。士郎の心臓を撃ち抜くために。
倒れたままの体勢で士郎へと狙いを定めようとするが、突如としてその行動は中断させられた。

「―――――壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」

轟音がなごみの背後から。
破裂した刀は内包された奇跡の数を爆発力に変えて少女を蹂躙する。
侵食するアーチャーの腕が、士郎に戦いの情報を刻み込む。
所詮、量産型の刀程度の幻想では投影魔術のような威力は望めないが、それでも十分な破壊力だ。

なごみは別人の襲撃の可能性を考えて、背後を振り向いてしまう。
そこには真ん中から吹っ飛ばされた大木だったものが存在するだけだった。
たった一度の爆発は易々と大自然の住人を爆死させ、ぱちぱちと焔が歓喜の舞踊を演じていた。

「ひとつ、教えてくれるか?」
「――――――!?」

目の前の光景を処理するために五秒。
それだけの隙を士郎が見逃すはずはなかった。
なごみの背中に刀が突きつけられている。指の筋一本でも動かせば斬ると青年は無言で告げていた。

「聞きたいことがある」

これにて王手(チェックメイト)。
逆転の一手など有り得ない。完膚なきまでに椰子なごみは敗北していた。


     ◇     ◇     ◇     ◇



820 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:15:50 ID:iNpky6VS



821 :観測者の願望 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:16:17 ID:Kn2wxJkh
「聞きたい、こと……?」

なごみは端正な顔を憎悪に歪ませながら、極力冷静になろうと勤めた。
現状は最悪だ。どうにかしなければ、自分はこのまま殺されてしまうことは理解できていた。
それはダメだ、絶対に許させない。
センパイの仇を討つ、という崇高にして正しき憎悪を成就しなければ死んでも死に切れない。

だから考える、現状では全く見つからない逆転の一手を。
時間を稼ぎ、情報を手に入れ、外部からの介入や士郎自身の動揺などを探らなければならない。
失敗は死、無念の最期。それだけは許さない。絶対に許さない。

「ああ。第一回放送は聞いてるな? 対馬ってやつの名前だけしか覚えてない、なんて言うなよ?」
「……センパイ以外にあまり興味ありませんでしたが、一応覚えてます」

実は名前はそれほど覚えていないが、それでも虚勢を張って知っている振りをしなければならない。
レオ以外で覚えているのは、リセルシア・チェザリーニ。その他にも一応数人だ。
士郎は一度だけ息を呑んだ。聞くのが怖かった。それでも、聞かなければならないことも知っていた。
早鐘のように鳴る心臓を抑えて、ゆっくりと彼は語りかけた。

「その中に、間桐桜って名前はあったか?」


822 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:16:43 ID:iNpky6VS



823 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:17:26 ID:iNpky6VS



824 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:17:30 ID:ZpS1gEyK


825 :観測者の願望 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:17:46 ID:Kn2wxJkh
希望と不安の織り交ざった問いかけ。
なごみは首をかしげたあと、ようやく納得した。
こんなことを殺す前に問いかけてくる以上、つまり彼は第一回放送を聞き逃したことになるのだろう。
そして、いずれ突きつけられるだろう残酷な回答はすぐそこに。


「ああ、ありましたね。覚えてますよ、間桐桜。一回目の放送で呼ばれてたような気がします」


――――――ピシリ。

その一言は、簡単に告げられた大切な人の死は。
どうしようもなく、衛宮士郎の心を崩壊させた。彼の理想や願いや希望を奪うには十分すぎる一言だった。
桜が死んだ。間桐桜が殺された。
自分が必死に戦っている間に、とっくの昔に護りたかった少女は何処かで屍を晒していたのだ。

「……あ……」

ぐらり、と士郎の目の前の光景が歪んだ。
眩暈がして、吐き気がして、頭痛がして、思考がグチャグチャに掻き混ぜられて何もできない。
なごみが恐る恐ると背後を見て、崩壊した青年の姿を瞳に納めて驚愕した。
その一言だけで、まるで十年も年を取ってしまったかのような寂れた雰囲気。動くなごみにも反応はない。

ああ、知っている。この絶望を自分は知っている。
例えば藤林杏のように大切な人の死を告げられたときのように。例えば自分のように対馬レオの死を告げられたときのように。
彼にとっての間桐桜が大事な人であったことが理解できた。


826 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:18:13 ID:ZpS1gEyK


827 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:18:41 ID:iNpky6VS



828 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:18:53 ID:KMQHYMN0


829 :観測者の願望 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:19:10 ID:Kn2wxJkh
「……あ、ぎ……あっ……」

苦しむように奇声をあげながら、士郎は一歩だけ後ろに下がる。
生死の境にいたなごみの思考はクリーンだった。今までの情報が自然に纏め上げられていく。
衛宮士郎はリセを殺したらしい。そして大切な人がいたらしい。
そこから考えられる可能性に行き着くのは難しくなかった。何故なら、なごみは知っている。同じ回答に辿り着いたのだから。

大切な人のために全員を皆殺しにしようと考えた。
そして目の前の男は第一回放送後、護りたい人の死を知らないままに人を殺し続けたのだ。

「ふっ……あ、あはは、は。つまり、なんですか。大事な人が死んだことも知らないで、殺し続けてたんですか?」
「うっ、ぐ……」
「もう死んでるのに、うわ言のように桜、桜、とか言いながら? もう死んでるのに、必ず助けてやるからな、って……?}

笑いが抑えられなかった。
なんて滑稽すぎる。そんな奴にリセは無残に殺されたのだ。
最高だ、最高の結末だ。あの生意気な口で自分の決意を否定した女は、何の意味もなく死んでいったのだ。
この男の妄念のために、この男の無意味な執念のために。

「くっ、くくく。莫迦ですね、本当に莫迦なやつ! ええ、ちゃんと教えてやります。間桐桜は死にました!」

莫迦な男を嘲笑い続ける。
彼は力なく弓を下ろしたまま、俯いている。
もう、どうでもいいという意思表示。試しに銃を構えてみるが、警戒すらしていなかった。
呆然と魂が抜けたかのような人形がそこにいた。


830 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:19:28 ID:iNpky6VS



831 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:20:18 ID:iNpky6VS



832 :観測者の願望 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:20:39 ID:Kn2wxJkh

「無駄です、無意味でした、残念でした。うわ、キモいですね。くっ、くくく……」

一通りの侮辱、一通りの罵倒をこなす。
快楽に近いものがあった。人の大切なものを踏みにじるという快楽がそこにあった。
かつて邪魔をした赤毛の男への復讐。それがこんな形で実るとは思わなかったが、最高の幕引きだった。

一人目の復讐、リセの死を踏みにじることは完了した。
二人目の復讐、邪魔をした赤毛の男の心を心行くまで嬲り尽くしてやった。
三人目の復讐、対馬レオを殺した犯人をこれ以上ないほど無残に殺すという目的はまだ達成していない。

「でも、実はまだ可能性があるんですよ?」

その復讐を達成するには、全員を殺さなければならない。
だが椰子なごみでは力不足は否めない。この島には鉄乙女や橘平蔵、もしくは目の前の青年のような強者がいる。
ならばどうすればいいか。この殺し合いの舞台で、多くの人が命を落としてくれるにはどうすればいいか。
扇動すればいい。こうして救われないまま、人形のように呆然となるものに救いを与えればいい。

皮肉にもその思考は、己が莫迦にした桂言葉たちの考えだった。
その違いは目的。救いではなく、己の利権と都合のために。かつて藤林杏を唆したように。


833 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:20:51 ID:ZpS1gEyK


834 :観測者の願望 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:21:25 ID:Kn2wxJkh
「又聞きですけどね、主催者たちは死者蘇生の力を持っているそうです。本人曰く、蘇った人もいるんだとか」

衛宮士郎は強い、それは認める。
だから効率よく、周囲の人間を殺しまわってくれればそれでいい。
士郎からの反応はない。一度だけ、びくりと震えただけだ。まあ、それで十分だろうと思う。

「最後の一人になったら、桜って人を生き返らせることができるかも知れませんね」

そんな言葉を投げかけて、なごみは去る。
鵜呑みにしてくれれば有難いが、最初の標的に自分がされるのはごめんだった。
扇動は己の身の安全の確保を最優先に。レオの仇を討つために。

「それじゃ、さよなら。せいぜい桜さんのために頑張ってくださいよ」

残されたのは一人の青年。
彼は己の心の中に閉じこもりながら、与えられた情報を静かに咀嚼していった。



835 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:21:27 ID:ZpS1gEyK


836 :観測者の愉悦 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:22:09 ID:Kn2wxJkh



『こちら黒須太一、生きている人、返事してください』

太一は走る。森を駆け抜け、周囲を散策する。
掴むのは放送室で改めて手に入れた拡声器。放送の気分で彼は語りかける。
そこに己の身の安全に対する考えはない。
ただ、今の自分の行動は人を救うこと。早く仲間を連れて戻ってくること。そんな人間らしい至福に包まれている。

気分がよい。
歌いたい気分だった。
仲間の歌でも歌いたいものだ。
もちろん歌も作詞も作曲も自分だ。ついでに俺、僕、我、小生などと言い方を変えたいところである。

閑話休題。
それにしても人が見つからない。
拡声器さえあれば交流も簡単だし、仲間もすぐに集えるだろうと高をくくっていたが間違いだったか。
太一は少し唸ると、自力で周囲を見渡すことにした。いまだ現場は森の中、視界はあまりよくない。
日光は繁る森に遮られて薄暗いが、太一の目は暗闇でも昼のように見ることができる。

「ふっふっふ、そこだな!」

彼の常軌を逸した直感と瞳が何かを告げた。
風が吹いた。木陰に長くて黒い髪を発見した。恐らく本人すらも気づいていないだろう。
だが、黒須太一は観測した。人の姿を見つけ出した。
まるで獲物を見つけた肉食動物のような速度で接近し、木陰へと躍り出る。

そこには確かに人がいた。
まるで人形のような孤高の美しさを保った女性が、人形のような無表情でそこにいた。


837 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:22:54 ID:ZpS1gEyK


838 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:23:14 ID:iNpky6VS



839 :観測者の愉悦 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:23:21 ID:Kn2wxJkh

「…………君は誰かな?」
「黒須太一、純愛貴族にしてヤングアダルト候補生なのだ」
「ふむ……よろしく、太一少年。来々谷だ」

少女は酷く憔悴していた。
クリスの死、目の前で死んだという事実が彼女を苛んでいた。
心なんてなかった、ないと思いたかった。そうすればこの悲しみもきっと勘違いですむはずだったのだから。
それでも、ちくりと胸が痛かった。脇腹の傷などとは比べ物にならなかった。これが失う痛みだと知った。

太一は一瞬だけ、その少女に見惚れていた。
酷く不安定なのに、自分の足で立っている。太一の言葉で言うなら『キレイなもの』だった。
分析的に他人に接する太一だが、来々谷唯湖に芸術品としての歪んだ愛情を抱いた。

「……名前は?」
「黙秘だ、少年。私のことは来々谷さんと呼ぶがいい」
「むむむ」

太一は改めて彼女を分析する。
面白い人のような気がする。だが、今の彼女は傷心中らしい。何処か元気がない。
それでも何とか自己を保って、普段どおりにしようとしている印象が強い。
桐原冬子と通じるものがある。表面的な部分で、孤独や孤高を保とうとしているのだ。
それが彼女の本質かどうかはともかくとして。たった今出逢ったばかりの少女のことなど、来々谷という名の女としか知らない。

うむ、元気付けなければならないと思う。
何故だか無性に彼女にリセットをかけたくなった太一は地面を蹴って来々谷に襲い掛かる。
突如として飛び掛ってきた見ず知らずの少年を前にして、来々谷は驚きに瞳を見開いた。


840 :観測者の愉悦 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:24:29 ID:Kn2wxJkh
「てやー……パラシュート・デス・センテンス!」
「むっ!?」

説明しよう。
パラシュート・デス・センテンスとは太一のセクハラ奥義のひとつである。
スカートめくりの極み、と謡われた最強の魔技であり、同年代の少女限定の必殺技である。

スカートへアクセスする指先が布をつまむその一瞬、全身の間接24箇所を同時に駆動。
女子の魅惑的閉鎖空間内に極小の乱気流を発生させる。
この作用により、めくりあげたスカートはパラシュート状に維持され、通常の数倍の滞空時間で下着を衆目に晒すのだ。
同じく同年代の少女によって、もう人には到達できない奥義とも呼ばれた恐ろしい技である。

「ふっ……遅いな、少年」
「な、なんだと!?」

だが、大前提として彼の指が衣服に触れなければ意味がない。
残像が太一の指をすり抜けたと思った瞬間、バランスを崩した太一は無様に地面を転がっていた。
背後には薄ら笑いを浮かべた来々谷の姿。
倒れ伏す少年を見下ろすことに満足しながら、得意顔で解説してみせる。

「タイミングは悪くなかった。だが、少しばかり動きが緩慢だったな」
「くっ……そうか、これがあの上級エイリアンの言っていた制限か! おのれ、この純愛貴族の奥義を封じるとは!」
「はっはっは。そう落ち込むな、少年よ。久しぶりに欲望丸出しの男を見て、気分は紛れたぞ」

極技が不発に終わったのは悔しいが、フラグは立った模様。
前向きに考えることにした太一は、改めて本来の目的を思い出した。


841 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:24:30 ID:ZpS1gEyK


842 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:24:34 ID:iNpky6VS



843 :観測者の愉悦 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:25:21 ID:Kn2wxJkh
「そうだ、どうして呼びかけに答えてくれなかったんだ。これで思いっきり叫んでたのに」
「すまないな、呆けていた。……拡声器か。面白い発想だが、危険が多い。今まで注意されなかったのか?」
「思いっきりされて、思いっきり無視したのだ。えへん」
「…………まあ、そういうなら無理には止めんが」

いやいや、違う。こんなことが話したいのではないのだ。
本来の目的、ちゃんとした目的があったはずだ。奥義が破られたショックのおかげで忘れたが。
むむむ、と唸りながら記憶を巻き戻す。自分の行動、自分がしなければならないことを。
少しの間、頭を捻って考える。そしてようやく記憶を巻き戻し終えて、ぽんと手を打った。

「そうだ、思い出した。正義の味方を集めてるんだ。どうだ、一緒に悪いエイリアン退治をしないか?」

勧誘しておきながら、太一は思う。
あれ、その前にもうひとつ約束事があったような気がする、と。
もちろん、無視することにした。何となく目の前の彼女と行動を共にすることのほうが大事なように思えたのだ。


     ◇     ◇     ◇     ◇



844 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:25:38 ID:iNpky6VS



845 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:26:00 ID:KMQHYMN0


846 :観測者の愉悦 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:26:08 ID:Kn2wxJkh
(エイリアン、か)

面白い言い方だと来々谷は思った。
身振り手振りで説明しながら、たまに奇襲(セクハラ)を仕掛けてくる太一を避ける。
そうしている間にも、彼女の思考は深みへと嵌っていく。
なるほど、エイリアン。殺し合いに乗っている者や主催者たちの総称として用いたものだろうが、中々に斬新だ。

この少年も面白かった。
黒須太一。純情なクリスとはまた違った面白さがある。
要するに殺し合いを止めるために同道してくれ、と彼は言っているのだろう。

(……私は)

彼の行いは正しいものだと思っている。
一緒に付いていくことにデメリットなどないし、問題もない。
面白そうなものがあるのなら、それに乗るのが自分の行動方針のはずだ。

だが、それでも駄目だった。
太一の面白さも、彼の斬新なアイディアも、彼の陽気なセクハラも。
表面的に元気にはなれるが、どうしても心までは癒せなかった。ないはずの心がぽっかりと開いてしまっている。
空洞だった。やはり、心はないように思ってしまう。

心を持っていると言ってくれたクリスの最期の言葉。
それを否定したくてしょうがなかった自分の心理に唇を噛む。


847 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:26:22 ID:iNpky6VS



848 :観測者の愉悦 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:26:56 ID:Kn2wxJkh
「……そう、だな。それも面白そうだ」
「ふっふっふ、そうだろう。正義の味方チームの結成だ。そうだ、思い出した。メンバーは更にもう一人いる」

もっとも、しばらく時間が経過してしまっている。
もう決着がついてしまっているかも知れないが、それでも駆けつけてやるべきか。
そんなことを考えていると、来々谷は申し訳なさそうに言う。

「すまないが太一少年、少し考えさせてくれ。今の私は傷心中でな、心の整理が必要だ」
「……誰か、死んだのか?」
「ああ。……大切な友人たちと、さっきまで同道していた少年がな……」

それはご愁傷様でした、という言葉を太一は飲み込んだ。
ここで下手なことを言って機嫌を損ねられては困るのだ。自分が一般人よりもズレていることは自覚している。
それでも普通を擬態し続けているのだ、余計な言葉でボロが出るだろう。
だから無言で頷くと、来々谷は初めて儚い笑みを浮かべて感謝の言葉を伝える。

「ありがとう。次の放送ぐらいのときに温泉旅館で逢うとしよう。君もずぶ濡れだからな」
「風邪気味だったりするんだけど」
「それでも身体は温めるべきだ。このまま悪化などしては命取りだぞ」

必ずだぞ、と言い聞かせて来々谷は踵を返した。
温泉旅館。思えばあそこが自分たちの拠点になっていたのかも知れない。
クリスたちと楽しんだ場所、あそこを指定したのは何故だろうか。
分からない。もしかしたらクリスの面影を求めたのかも知れない。心がないと信じている彼女には分からない。

太一に見送られながら、深い森の中を歩き続けた。
背後から彼の気配がなくなった後も、ゆっくりと彼女は森を彷徨い続けた。


849 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:27:13 ID:ZpS1gEyK


850 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:27:21 ID:iNpky6VS



851 :観測者の愉悦 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:28:10 ID:Kn2wxJkh
「なあ、クリスくん。君の雨は、止んだのかな……?」

そんな感傷が、心の欠片が不安そうな口元から零れ落ちた。


     ◇     ◇     ◇     ◇


「勧誘成功、ぶい」

明後日の方向にピースしながら、太一も森の中を歩き続けた。
順調に仲間は集まっているのだ。いずれ友情、努力、勝利の下に敵を蹴散らすのも遠い未来ではない。
支倉曜子のことを少しだけ思い出す。
かつての孤高の君、お姫様。独立した他者の最高峰、かつて憧れた人は手に入った瞬間に無価値になった。

彼女が孤高から依存を選択したとき。
太一のために何もかもを許容するようになってから、太一の中で支倉曜子の価値はなくなった。
今もなお、人を殺しているのかも知れない。自分のためと称しながら。

「……まあ、心を入れ替えるなら仲間に抜擢だ。ミキミキも同様、霧ちんの仇を討つのだ」

それでも仲間は大切にしなければならないのだ。
夢と希望に溢れた学生時代、その仲間たちを集めて主催者たちを打倒しよう。
世界の平和、地球の平穏を護る正義の味方になろう。
それはとても夢がある。人間の可能性がある。太一にも理解できるヒーローへの憧れがそこにある。

まあ、もっとも。
その憧れも表面的に擬態したにすぎないのだが。


852 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:28:12 ID:iNpky6VS



853 :観測者の愉悦 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:29:08 ID:Kn2wxJkh
「……さて、と。士郎は無事かな」

思いっきり間に合わなかったが、死んでいたらごめんと一応謝ってみる。
もしも放送で呼ばれたら、次の食料に名前をつけて自分の血肉にするから許してほしい。
とはいえ、ちゃんと生きていてほしいところではある。
まだ彼にはお楽しみが残っているのだ。それを楽しみたいと本能が告げているが、無視する。

さて、森の中とは憶えているのだが見つからない。
銃声や怒号でも飛び交ってくれれば場所も分かるのだが、目印のない森林地帯には静寂があるのみだ。
来々谷を捜し出したときのような直感を信じて、猫の目のような正確さで太一は見定める。

「むっ、誰か発見」

即座に走り出した。
拡声器を構えて呼びかけてみる。
もちろん忠告を無視して交流開始。人間って素晴らしい。

『そこの人ー、ストップストップ!』

目的の人物が立ち止まる気配を太一は察する。
向こうからの反応はあったらしい。やはり拡声器は素晴らしいと言わざるを得ない。
次の放送は自分がやりたいなー、などと思いながら走りよって。

そして、すぐに木陰へと避難することにした。


854 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:29:24 ID:ZpS1gEyK


855 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:29:28 ID:iNpky6VS



856 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:30:22 ID:iNpky6VS



857 :観測者の愉悦 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:30:29 ID:Kn2wxJkh
応酬、返ってきた反応は銃弾と銃声、生々しい人殺しの道具が飛来する。
彼女の姿を見た瞬間、慌てて太一は隠れる。
なるほど、拡声器の恐ろしさ。敵も味方も容赦なく呼び寄せるという意味では恐ろしいことこの上ないのだった。

「……ちっ、ちょこまかとウザいですね」

黒髪の眼光鋭い少女。
復讐者として島に生きることを選んだ椰子なごみがそこにいた。
周囲に士郎の姿はない。殺されたのかもしれない。
おお、士郎よ、死んでしまうとは情けないと呟きながらも、黒須太一は敵と相対した。

「なあ、なごみん。一応聞くけど、士郎はどうしたんだ?」
「……ああ、何やら教えてほしいことがあったらしいので教えてやったら、勝手に崩壊しました。滑稽でした」
「…………ああ」

なんて、勿体無いと太一は思った。
結局、衛宮士郎は真実を知って崩壊したのだ。ならば、その絶望は見てみたかった。
傷ついても決して折れようとしなかった花が、グシャグシャに潰される様子にはきっと落胆と同時に興奮を手に入れられた。
それを他人に奪われたという事実、よほどの至福だったかはなごみの表情を見れば分かる。

「くっ、くく……本当に滑稽な奴でしたね。思い出したら笑いが止まりません」

くつくつ、と少女は笑う。理不尽な世界に翻弄された少年を笑い続ける。
太一は落胆した。楽しみに取っておいたショートケーキの苺を他人に食われたような喪失感。
残念だ、実に残念だった。どうせバレるなら、自分の口で聞かせてやりたかった。


858 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:30:46 ID:ZpS1gEyK


859 :観測者の愉悦 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:31:43 ID:Kn2wxJkh
「……じゃあ、あいつが対馬レオを殺した犯人かも知れない、ってのは?」
「………………っ」

ぴたり、と哄笑が止まる。
その様子は知らないのかも知れない。彼が殺し合いに乗っていたかどうかも。

「あいつが殺し合いに乗っていたのは知ってるかな? 俺に出逢うまで人を殺し続けた」
「……それ、は」

その可能性にどうして行き着かなかったのか、なごみには不思議だった。
リセを殺した。桜とかいう女を護るためにだ。
ならば、士郎がレオを殺したという可能性をどうして考えなかったのか。
快楽と興奮に冷静な思考を奪われたのか。いかにセンパイであろうとも、士郎ほどのものが相手なら殺されるかも知れないのに。

「しっかりと復讐は果たせたか? 無残に殺せたか?」
「ぐっ……」
「ちゃんと残酷に、無様に、凄惨に、無残に殺せたかと聞いているんだ。それをしなかったとしたら、復讐の意味がない」

そうだ、復讐とは人間らしい感情のひとつである憎悪の暴走だ。
復讐鬼を謡うのであれば、殺し合いに乗った者ほど残酷に殺さなければならない。
それが出来なかったのは何故か。
快楽に溺れたからだ、僅かでも復讐心が満たされたからだ。心の空洞が負の感情で埋まったからだ。


860 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:31:48 ID:iNpky6VS



861 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:32:21 ID:KMQHYMN0


862 :観測者の愉悦 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:33:39 ID:Kn2wxJkh
「対馬レオって奴への想い? 違う、ただお前は自分のために殺しまわってるだけだ」
「こ、の……!」
「ただ理不尽に奪われたってだけで、周りに当り散らしているだけ。センパイとやらのためですらない」

彼女の価値など、もはやない。
復讐ではなく、ただの恨み辛みに過ぎない。子供が癇癪を起こしているに過ぎない。
それをセンパイのため、と言い訳しているに過ぎないのだ。

「なあ、ひとつ聞きたいんだけど。センパイのために生きるって言うんなら―――――」

それはまるで毒酒のように。
にょろり、と心の奥底に侵入してきて、直接心臓を刺すような弾劾。


「―――護れなかったお前は、どうして今すぐにでも死なないんだ?」


ぶちり、と血管が切れるような音。
己のすべてを全否定された少女は憤怒の表情で太一を睨み付ける。

「殺してやる」

殺す、殺してやる。
対馬レオへの想いの全てを否定しつくした男を、望みどおり残酷に無残に凄惨に殺してやる、と。
銃を構える。腹を撃ち、両手足を撃ち抜き、脳天を吹っ飛ばしてやる。


863 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:33:47 ID:iNpky6VS



864 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:34:37 ID:iNpky6VS



865 :観測者の愉悦 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:34:44 ID:Kn2wxJkh
「怖いな。昨今の若者のモラルの欠落は社会問題だ、うん」

構えるサバイバルナイフ。手によく馴染むのが嬉しい。
だけど殺し合いは嫌だなー、と素直に思う。
血は見たくない。世界と自身の境界線があやふやになってしまう。それは避けたいところだった。
でも、他に武装らしい武装はない。ナイフの他に持っているものといえば拡声器ぐらいしか。

「死ね、死ねぇえええええっ!!」

放たれる弾丸が太一の隠れる木々を穿つ。
支給されたはずの銃はいつの間にか無くなり、遠距離の状態で戦えはしない。
太一とていわゆる一般人に過ぎない。
投げた電柱の上に飛び乗ったり、ドッチボールでレーザービームを撃ったり、怒れる狂戦士を一撃で葬ったりはできないのだ。

どうしたもんかなー、と考える。
人から敵意を向けられることには割りと慣れている。
もちろんその中には殺意すらも含まれている。だからこそ彼は平常心のままに殺し合いへと興じた。
木々の間を疾走する。左肩の痛みが鮮烈で、集中力が研ぎ澄まされていた。

「ちっ……ちょこまか、ちょこまかと!」

弾丸をばら撒くが、太一には当たらない。
森林の遮蔽物をうまく利用して地面を縫うように走る。
左手で握るサバイバルナイフは頼りない。だが、右手で掴むそれには不思議な楽しみがあった。
どんな意味があるだろうか、どんなことになるだろうかという興味があった。


866 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:35:35 ID:iNpky6VS



867 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:36:29 ID:iNpky6VS



868 :観測者の愉悦 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:36:31 ID:Kn2wxJkh
「しょるだあ、かったあー」
「っ―――――!?」

逃げ回っていた太一が突如として踵を返して接近する。
驚きはあったが、それを好機と見てなごみは銃を構える。標的の姿が大きくなる以上、外しはしない。
だが、彼女の銃に大きな衝撃。手放しこそしなかったが、銃は太一から外れたところで発砲してしまう。
サバイバルナイフが投擲された。
目の悪いなごみには反応することができなかったが、肩まで高く掲げた銃が偶然防御したのだ。

(ちっ……!)

だが、次は外さない。
太一は唯一の武装を投擲したことで無手のはず。少なくともなごみはそう判断した。
敵はもう目の前まで来たが、何か武器を持っている様子も無い。そのまま殴りに来たのだと判断した。
莫迦な奴、と笑ってやった。いくらなんでも引き金を引くほうが圧倒的に早い。

「死ねっ……!!」

殺った!
距離は五メートル、逃がさない。
太一の振り上げた右腕は届かない。
たとえ相手が手を振り下ろすほうが早くとも。
確実に放たれる弾丸は黒須太一の腹を突き破り、地面に無様に横たわるのだ。


――――――黒須太一が、本当に無手であったのならば。



869 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:37:19 ID:iNpky6VS



870 :観測者の愉悦 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:37:21 ID:Kn2wxJkh
「はっ……? うぶっ!?」

なごみの視界を覆う緑色。
べちゃり、と気持ち悪い液体が顔面に直撃した。
反射的にその液体を取るために左手を伸ばし、そして粘着性の高さに驚愕する。
ねちゃねちゃした物体は僅かに蠢いており、なごみを混乱の極地へと誘う。

「うっ、おえええっ……ぶっ、え、あっ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」

何とか取ろうともがくと、更なる症状が襲い掛かってきた。
即ち頭痛、吐き気、眩暈などの体調不良。
それもまるで40度以上の高熱にさらされたような苦痛に、とても立っていられなくなる。
がくり、と逆に地面に倒れ伏すなごみ。彼女の言うとおり、無様に地面を這うような形になってしまう。

「うむ、想像以上だ。ちょっぴり感じるエロスがとてもいい」
「おぉ、ごっ……お、まえぇぇぇぇ……っ!」


871 :観測者の愉悦 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:37:47 ID:Kn2wxJkh
NYP兵器、ウィルス。
相手の動きを止め、吐き気や頭痛を催させる支給品だ。
本来ならこれほどまでの威力はない。
たとえ科学部隊とはいえ、ここまで危険な武装を作ってはいない。そのはずだった。

これらの兵器はNYP(なんだか、よくわからない、パワー)をもって威力とする。
つまり、高ければ高いほどに威力があがっていく。
リトルバスターズにおいて唯一、この兵器を行使できる西園美魚が扱ったとしてもこれほどの地獄は生み出さない。
なごみは倒れたまま、動けない。口も利けない。そんな余裕がないほどに苦しんでいる。

これはあくまでも仮の話だが、NYPと適応係数に関係があるとしたらどうなるだろう。
オリジナルである西園美魚よりも上。科学部隊の想定以上のNYPの下に兵器を行使すれば、その威力は跳ね上がるだろう。
黒須太一、適応係数84。
言うまでもなく、彼の適応係数は西園美魚のそれを大きく上回っていると考えられる。

あくまでそれは予測に過ぎない。
ここにある事実はひとつ。
黒須太一は恐らく、誰よりもNYP兵器を強力に扱える存在であるということだ。

「あっ、ぁぁぁぁぁぁ、ぎっ、ぃぃぃぃいいいい……!!」

死にたくなるほどの苦痛、されど非殺傷であるが故に死ねず。
生き地獄が椰子なごみを蹂躙する。
少女がのた打ち回るその姿に太一は興奮する。彼の化け物の部分が歓喜を声を上げる。
観測者の愉悦、太一はなごみの苦しむ姿を眺めて楽しんでみる。


872 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:38:08 ID:iNpky6VS



873 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:38:28 ID:ZpS1gEyK


874 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:39:12 ID:iNpky6VS



875 :観測者の愉悦 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:39:14 ID:Kn2wxJkh
「罰ゲーム」

ただ一言しか告げない。多くは語らない。
別になごみが殺してきた者たちの分、などと言うつもりは無い。
あくまでこれは趣味の領域。芸術品のひとつが壊れていく様子を楽しむだけなのだ。
罪悪感など沸くはずもないし、義憤や悲嘆すらない。

「うん、罰ゲームみたいなものだ」

太一は口元を薄く歪める。
その一瞬、観測するひと時の太一が人間であったか、化け物であったか。
それは恐らく、本人にしか分からない。

時刻は午後。
薄っすらと繁る薄明の森の中、少女の苦痛だけが木霊した。


     ◇     ◇     ◇     ◇



876 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:39:50 ID:ZpS1gEyK


877 :観測者の愉悦 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:40:06 ID:Kn2wxJkh
「楽しかった。これでなごみんも改心してくれれば言うことはないのだが」

温泉旅館に向かいながら太一は一人、呟いた。
たまにはああいうのも良いと思う。ただ、普通というものにきちんと擬態しているかどうかは微妙なところだ。
うん、自重しないと、などと一人呟き、デイパックの中のウィルスに視線を向ける。
苦手な血も出ないし、敵も打ち倒せるしで一石二鳥。

ついでに戦利品としてなごみの持っていた銃を回収した。
デイパックごと回収してもいいのだが、そこは武士の情けということにした。太一は自称紳士なのだ。

「はっくしょい!」

ぶるる、と身体を震わせる。少しばかり長居しすぎたようだ。
来々谷の忠告どおり、早く温泉に入って身体を温めるべきだろう。
そこで正義の味方候補を集いつつ、この殺し合いを止めてみせる。人間もエイリアンも関係ないのだ。
人とエイリアンが交流。力をあわせて邪悪を打ち破るのだ。

「らーららーららーらー、らーらららーらー」

さあ、交流を続けよう。
黒須太一は大いにこの島の喜劇を楽しむ。
彼は参加者にして観測者。
怪物の表情を僅かに覗かせながらも、普通を演じる青年は行動を再開させた。



【D-6 平地(マップ中央)/1日目 午後】


878 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:40:10 ID:iNpky6VS



879 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:40:35 ID:ZpS1gEyK


880 :観測者の愉悦 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:40:50 ID:Kn2wxJkh

【黒須太一@CROSS†CHANNEL】
【装備】:サバイバルナイフ、拡声器
【所持品】:支給品一式、S&W M37 エアーウェイト(5/5)、ウィルス@リトルバスターズ!
       S&W M37 エアーウェイトの予備弾12、第1次放送時の死亡者とスパイに関するメモ
【状態】:疲労(中)、やや風邪気味(軽い発熱・めまい・寒気) 、左肩銃創痕
【思考・行動】
基本方針:『人間』を集めて『エイリアン』を打倒し、地球の平和を守る。
0:温泉旅館に向かい、温泉に入る。
1:拡声器を使って、人と交流する。
2:『人間』や『エイリアン』と交流を深め、強大な『エイリアン』たちを打倒する。
3:『支倉曜子』『山辺美希』や『殺し合いに乗っていない者』に出会えれば、仲間になるよう説得する。
4:「この島にいる者は全てエイリアン」という言葉には懐疑的。
5:温泉旅館に行き、来々谷を待つ。


【備考】
※第一回放送を聞き逃しましたが、死亡者のみ名前と外見を把握しました。
※太一の言う『エイリアン』とは、超常的な力を持った者を指します。
※登場時期は、いつかの週末。固有状態ではありません。
※直枝理樹(女と勘違い)、真アサシン、藤乃静留、玖我なつき(詳細は知らない)、深優・グリーアをエイリアンと考えています。
※スパイに関するルールはでたらめです。
※士郎は死んだと思ってます。
※NYP兵器、ウィルス。相手に肉体的疲労を与えます。威力は個人差あり。
※来々谷と第三回放送頃に温泉旅館で落ち合う約束をしました。


881 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:40:56 ID:iNpky6VS



882 :観測者の愉悦 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:41:33 ID:Kn2wxJkh


     ◇     ◇     ◇     ◇


「殺して……やる……」

ぜー、はー、と息を吐きながらなごみは怨嗟の言葉を吐く。
体調は最悪。重い生理のような倦怠感に加え、高熱に見舞われたような苦しみだった。
生き地獄というものを見せられた気がする。

「黒須、太一……衛宮士郎……どいつもこいつも、殺してやる……」

遠くで轟音が響いた気がした。
疲弊していて動けないなごみは、ゆっくりと這いながら避難する。
時間をかけて、地面に這い蹲りながら、屈辱と憤怒に身を燃やしながら子供じみた癇癪を起こす。
一人一人、己の心の内に秘めた閻魔帳に名前を連ねていく。

黒須太一。次に出会ったら必ず殺す。お望みどおり無残に殺してやる。
衛宮士郎。センパイを殺した可能性が少しでもあるのなら、考えうる残酷な手段で殺す。
伊藤誠。桂言葉は死んでしまったから、あの女を侮辱した上で殺してやる。
クリスと一緒にいた黒髪の女や京都弁を話す女。あいつらも遠慮なく、殺してやる。


883 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:41:48 ID:iNpky6VS



884 :観測者の愉悦 ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:42:06 ID:Kn2wxJkh
「センパイ……センパイ、センパイ」

自分の大切な居場所の名前。
それを原動力にして這う。這って、地面を舐めてでも今は生き抜いてやる。
復讐のために、たとえ否定されようともその生き様は変わらない。
それを支えにずっと戦い続けて来たのだから。たとえ敗北しようとも、次は必ず殺してやる。

何度、苦汁を舐めようとも。
いずれ立ち上がってもう一度復讐する。
虎視眈々と、椰子なごみは瞳に意思を、心に復讐を誓って這い続けた。



【D-7 民家の前(マップ右方)/1日目 午後】

【椰子なごみ@つよきす -Mighty Heart-】
【装備】:スタンガン
【所持品】:支給品一式、コルト・パイソン(0/6)、357マグナム弾19
【状態】:肉体的疲労(極大)、右腕に深い切り傷(応急処置済み)、全身に細かい傷
【思考・行動】
 基本方針:他の参加者を皆殺しにして、レオの仇を討つ
 0:今はとにかく安全な場所に行き、体力を回復する
 1:殺せる相手は生徒会メンバーであろうと排除する
 2:状況さえ許せば死者蘇生の話を利用して、他の参加者達を扇動する
 4:黒須太一と衛宮士郎を残酷に殺す
 5:伊藤誠、ブレザー姿の女(唯湖)、京都弁の女(静留)、日本刀を持った女(烏月)も殺す
 6:出来るだけ早く強力な武器を奪い取る
 7:死者の復活は信じないようにするが、若干の期待

【備考】
 ※なごみルートからの参戦です。


885 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:43:04 ID:iNpky6VS



886 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:43:37 ID:Kn2wxJkh



身体は剣で出来ていた。
決して折れることのないように誓った。
正義の味方という理想も、倫理も、概念も、何もかもを捨てたのだ。
決して折れてはならないと言い聞かせて、必死に。戦い続けてきた。唯一の希望を持って。

その希望はあっさりと打ち砕かれて。
絶望やら、諦観やらといった感情を起こす気もなかった。
衛宮士郎に残されたのは虚無。ただひたすらに虚しくて、今まで迷わず進んできた道が分からなくなった。

桜が死んだ。
知らずに戦い続けてきた。
もっと早くに知っていれば、少なくとも浅間サクヤという女性だけは助かっていたはずだった。
例えようもなく愚かで、例えようもなく無様だった。


887 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:43:50 ID:iNpky6VS



888 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:44:24 ID:Kn2wxJkh

「……未熟者。自分の意思で人を殺してきた俺が、なにを」

もしも、の話など考えてはいけない。
それは殺してきた者への暴言だ。衛宮士郎は殺意を持って彼女を殺した。
否定することは許されない。愚直であるが故に、受け止めることに苦しんでいた。

いっそ殺してくれれば、どれほど楽だろうか。
黒須太一は言った。『お前、なんで生きてるの?』――――その答えすら、士郎には出せない。
今すぐ首に刀を押し当て、桜の下に行ければどんなにいいだろう。
それでも死ねないのは何故か。護るべき存在を失ったサクラノミカタはどうして、希望を捨てられない?

―――――主催者は人を蘇生させることができる。

その言葉が泥のように、心の中に侵食していく。
桜を蘇らせれば良い。どうせ不可能であったとしても、サクラノミカタは一縷の望みを賭けなければならない。
そうしなければ、もう道なんて見えない。だから、それを迷うことすらおかしな話なのだ。

(――――――だけど、それが正しいとは、思えない……)

ざり、と足音が彼の耳に届く。
太一か、それともなごみという少女か。士郎には分からなかったが、ほとんど興味も無かった。
足音の主は、跪いて俯く士郎に近寄ってくる。


889 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:44:39 ID:iNpky6VS



890 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:45:29 ID:iNpky6VS



891 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:45:34 ID:KMQHYMN0


892 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:45:46 ID:Kn2wxJkh
「……ひとつ、聞いてもいいかいな?」

流暢で優雅な京都弁の少女の声だった。
僅かに顔を上げると、大和撫子のような美人が士郎を見下ろしていた。
少女、藤乃静留は問いかける。
この地獄に送り込まれてから、何度でも尋ね続けた最愛の人の行方について。

「玖我なつき、って子、知りまへんか?」
「……悪いけど、知らない……」
「そう、どすか……」

静留は僅かに溜息。
何人にも聞き続けているのだが、未だ情報が集まろうとはしない。
もっとも、情報を手に入れてもなつきには逢えない。
血に汚れた手でなつきを抱きしめるなど、できない。それでも無事を確認したかった。

彼女は意気消沈している赤毛の少年へと視線を向ける。
生気のない土気色の表情。左腕に巻いた赤い色の布には禍々しさを感じた。
何故だろう、彼のその姿が自分に重なった。
まるで、なつきを失ったときの自分を見ているようで、彼女は思わず問いかけていた。

「……大切な人が、亡くなったんやか?」
「………………」


893 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:46:32 ID:iNpky6VS



894 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:46:56 ID:Kn2wxJkh
僅かに士郎の首が首肯する。
その様子はあまりにも儚げで、あまりにも脆弱で、とても殺し合いに参加しているとは思えなかった。
それが静留から警戒心を奪ったと言っていい。
士郎は僅かに口を動かして、語る。

「大切な後輩だった。俺の前でしか笑わなくて、知らないところで泣いていたんだ。
 俺はそれに気づけなくて、気づいたときには手遅れの状態で。
 未来のない身体で泣き続けて、静かに自分を軽蔑するような奴で……俺は、そいつだけの味方になると誓った」

その無念を静留が理解することは不可能だ。
奪われたこともない者が、理不尽に奪われた者を慰めることなど許されない。
それが新たな誓いの表明だと、静留は気づかない。
士郎が語りかけているのは静留ではない。彼はただ、己に向けて語りかけていることに彼女は気づけない。

「どんなに我武者羅でもいいから、桜を日常に返したかった。
 たとえ自分は死んでも、他の誰が死んでも……桜には笑っていて欲しかった。
 それが自己満足を押し付けることになったとしても、桜には幸せになって欲しかった。
 俺以外の前でも笑って欲しかった。今まで酷い目にあっていた分の幸せを手に入れなきゃ、それは嘘だって思った」

だから、と士郎は立ち上がる。
語られる言葉に不穏なものを感じ取ったのだろう。ようやく静留は距離を取って赤毛の少年を警戒した。
それでいい、と僅かな良心が頷いた。
これからの自分は更なる外道へと堕ちていく。残った良心は切り捨てる儀式には十分だ。


895 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:47:10 ID:KMQHYMN0


896 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:47:12 ID:iNpky6VS



897 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:48:16 ID:ZpS1gEyK


898 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:49:09 ID:iNpky6VS



899 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:49:11 ID:Kn2wxJkh

少年は選択した。
歩み続ける道は修羅の道、選んだ選択肢は羅刹への道程。

「俺は、桜を蘇らせる。それが……桜の味方を誓った、俺の唯一の道だ」

全員を殺して優勝し、主催者と直接交渉する。
それが愚かな男が選んだ道化の道。
椰子なごみの思惑に乗り、言峰綺礼の思惑に乗る。
それがどんなに愚かで、どんなに莫迦な行動かというのも全て承知した上で、衛宮士郎はこの道を選んだ。

「……無意味や。毎度毎度、皆しておんなじようなことばっかりしゃべるなぁ」

ようやく、静留は口を開いた。
続ける言葉は罵倒、そんな結論しか出せない愚か者を弾劾するように厳しい口調で。
かつての藤林杏を思い出しながら、無駄と知りつつも語りかける。

「失った気持ちは分かるけど、桜はんはそれを望むか? アンタに人殺しさせてかて、生きとったいと思うんか?」
「…………」

望まないに決まってる。
これは自分の自己満足の押し付けに過ぎない。
それでも、もはや衛宮士郎にはこの道しか残っていないのだ。


900 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:49:53 ID:iNpky6VS



901 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:50:00 ID:Kn2wxJkh
選択肢はいくらでもあった。
桜の後を追って自殺すれば、きっとこれ以上の苦痛も悲哀もなく逝けただろう。
黒須太一の言うとおり、正義の味方に返り咲くという選択肢も確かに提示された。
その結果として無残な死を遂げたとしても、それは因果応報だっただろう。きっと、どんな死に際でも満足だった。

「それはできない。桜が生きて帰れる可能性があるなら、桜の味方はそこに賭けなきゃいけない」
「何を莫迦なことを……主催者が人を生き返らせる力があるって、なんで分かるん? 誰が保障してくれるんどすか?」

そうだ、その大前提が狂えば士郎の決意に意味はない。
死者蘇生、人類の医療や科学の全てを結集しても不可能な桃源の夢。
いかにこのような殺し合いを催した主催者たちといえど、世界の摂理を曲げることなど出来うるはずがない。
静留の静かな糾弾に、士郎は応じるように答えた。

「聖杯だ」

静留の瞳が大きく見開かれた。
彼の一言の意味は彼女には分からない。だが、そこに込められた自信は伝わった。
士郎は語る。その意味と、自分の思惑を。

「聖杯戦争って争いがあった。七人のマスターと七人のサーヴァントが殺し合う戦争が。
 俺はそのマスターの一人で、そして言峰綺礼はその戦いの監督役だった。
 最後の一人になるまで殺し合い、そして残った一人には聖杯が与えられる。持ち主の望みの全てを叶える聖杯を」

遠い日々、一週間程度の戦いを思い出す。
輝く理想のような美しく、強い従者と共に戦い……そして、何もかもを失ったあの頃を。
あの頃は理想を胸に秘めていた。日常を演出してくれる桜が、知らないところで泣いていたことも気づかずに。

正義の味方ではなく、桜の味方になると誓った雨の夜の公園。
あのときに感じた想いだけは、間違いじゃないと信じている。


902 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:51:05 ID:iNpky6VS



903 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:51:09 ID:ZpS1gEyK


904 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:51:20 ID:Kn2wxJkh
「俺は、この殺し合いが聖杯戦争を延長戦じゃないか、って思ってる。
 参加者の中にはサーヴァントの名前もあった。そして、そのサーヴァントですら撃破できるぐらい強い奴もいる。
 なら、可能性は十分にある。優勝者に聖杯を通じて、望みを叶えることは不可能じゃない」

もちろん、可能性も決して高いわけではない。
それでも僅かでも可能性があるのなら賭けるしかない。

「……聖杯ってのがどれほどか知りまへんけど、死者を生き返らせるやなんて」
「できる。死者蘇生は可能性じゃなく、純然たる事実なんだから」

サーヴァントとは仮初の命を与えられて現世に召喚した歴史上の英雄だ。
それそのものでも死者蘇生。聖杯にはそれだけの力がある。
出来ないはずがない。
それで一度は失った人が戻ってくるのなら、彼女の笑顔を取り戻せるなら、それはどんなに良いことだろう。

「――――――――いい加減に、しぃや?」

冷たい言葉が返ってきた。
苛立つ少女は怒りを抑えながら、衛宮士郎を見据えている。
どいつもこいつも、同じような結論に達して自己陶酔に浸る。それが許せないと言わんばかりに。

「うちが聞いてんのはな、それが正しいことって思ってるかてことや。
 いつまで甘い夢、見てんの? もう、桜って子は死んでしもたんよ……? なんでそれを受け入れられへんの。
 言ったる。アンタの大切な人は帰ってこん。アンタのしてることは、無意味で無価値なんよ」

藤林杏にも投げかけた言葉だ。
大切な人を生き返らせたい、その気持ちは十分に理解できる。
もしかしたら、何処かの平行世界でもあるのなら……同じ道を歩いた藤乃静留が存在していたかも知れない。
だからこそ、その道を選ばなかった藤乃静留は譲らない。


905 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:51:51 ID:iNpky6VS



906 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:52:46 ID:iNpky6VS



907 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:53:07 ID:Kn2wxJkh
さあ、どういう反応を見せるだろうか。
杏のように怒り狂って否定してくるか。それとも絶望に再び倒れ伏すか。
答えは一秒後、静留にとっては想定外の返事が返ってくる。


「――――分かってる」


えっ、と静留は思わず聞き返した。
衛宮士郎の瞳は揺らいでいる。二律背反に苛まれる苦しみに心を痛めている。
ボロボロになって、それでもなお倒れない。
千切れた心をツギハギに繋げていって、それが正しいと信じられなくて……それでも、前に進むしかなかった。

「死者は蘇らない、起きたことは戻せない。正義の味方は、そんなおかしな望みなんて持てない……」

苦しんでいるのだ、と静留は思った。
生きる上でのただひとつの方針を失って、藁にも縋るような気持ちで決意していた。
楽になればいいのに絶対にやめようとしない。
愚直なまでの一途さ、貫いてきた生き様を二転三転できるほど器用な青年ではなかった。


908 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:53:46 ID:Kn2wxJkh
「そんなら……」
「だけど、俺はもう正義の味方じゃない」

迷っているなら、まだ説得のしようがあっただろう。
だが、どうしようもなく彼は覚悟を決めていた。瞳が揺らいだのは一瞬のことだった。
血と肉と泥と骨と脂肪と内臓に彩られた非日常の地獄を、自身の身体も同じ色に染めて歩くと誓っていた。


「俺は、桜の味方だ。誰に認めてもらわなくてもいい。理解される必要もない」


ただ、幾たびの戦場を乗り越えて己の望みを叶えるのみ。
全て無敗で、全ての殺し合いに勝利する。
その道に他人の理解が介入する余地などない。そんなものは必要ない。

自分の都合で他人の大切な人を殺してきた自分が、満足な死を遂げるなど許されない。
この身は正義の味方ではなく、魔術師。
己の欲するものを手に入れるために、自分と他人を殺し続ける存在だ。

今更、正義の味方に戻れるはずがない。
廃屋でリセを殺した瞬間から、正義の味方は死んだ。完膚なきまでに自分の手で破壊したのだ。
もう、正義の味方は死んだ。
ならば衛宮士郎は正義の味方であってはならない。今までどおり、桜のために戦い続ける修羅になる。

「―――――身体は剣で出来ている」

静留は静かに息を吐いた。もう、彼は止まらないことを理解した。
このまま崩壊するまで自滅の道を走り続けると、愚直な瞳が告げていた。


909 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:54:19 ID:iNpky6VS



910 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:54:51 ID:KMQHYMN0


911 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:55:57 ID:Kn2wxJkh

「……無駄な時間、使わせたなぁ」

その言葉は殺し合いの合図だった。
士郎はゆっくりと弓を構える。番うのは刀だが、矢として使われたのならそれは矢なのだろう。
静留もエレメントを使用、突然現れた鞭に士郎は僅かに驚いた。
それに構うことなく、藤乃静留は宣告する。これより先の未来に救いはない、と告げるように。


「なら、うちはアンタを殺すわ。大切ななつきを護るために」


その宣言を受け入れたのか。
直後に轟音。静留の背後に大木が悲鳴を上げて崩れ落ちた。
士郎は弓を構えている。
威嚇なしの射撃、一撃で葬らんとした。話すことなど、もうひとつもないと瞳が告げていた。


     ◇     ◇     ◇     ◇


響く轟音を、来々谷唯湖は確かに感じ取った。
太一と別れてしばらくは、青い空を眺めていた。雨の様子もない、よく晴れた天気だった。
この景色を、最期にクリスは見ることはできただろうか。
無防備だった彼女はそれを合図に、ようやく現実に帰ることができた。


912 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:56:16 ID:iNpky6VS



913 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:57:05 ID:Kn2wxJkh
(……近いな。誰か、襲われているのか?)

軋む身体に鞭打って立ち上がり、そのまま音のほうへと駆け出した。
少しだけ落ち着いたことで冷静な判断は下せた。
逃げなければ、と思う心はなかった。ただ、誰かが襲われているのなら助けに入るべきだ。
クリスがいるなら、恐らくは助けるために行動しただろうから。

(まったく……随分と私もセンチメンタルになっているものだな)

武装の確認、大型拳銃デザートイーグル。
誰が襲われているのかは分からない。それでも、ただひとつだけ決めたことがある。
殺し合いに乗った人間は許さない。
自分がクリスを失ったときの悲しみ、クリスを莫迦にされたときの怒りは……他の誰かに押し付けてはいけないと思った。

再び轟音、そして木の倒れる音。
ふとした不安に囚われる。この手に持った銃で果たして勝てる相手なのだろうか。
撃てば人が死ぬ、それほどの凶器をこの手に収めて……それでも安心を得られない。

「…………なんだ? どんな戦いをすれば、こんな……」

断続的に響く木々の悲鳴。
バキバキバキ、と音を立てて倒れる大木の音。
例えば銃撃戦であったとしても、これほどの戦闘音になるはずがない。
ならば自分が向かっている戦場は、これ以上ないほどの死地ではないだろうか、と。


914 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:57:43 ID:iNpky6VS



915 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:57:49 ID:Kn2wxJkh
答えはすぐそこにある。
ドガン、と壮絶な音。彼女は反応できなかった。
殺人者、衛宮士郎の手から飛来する刀は来々谷の横をすり抜けて、一本の木を葬り去った。

「なっ……!?」

外れたのは偶然か否か、来々谷には判断がつかない。
それが流れ弾に過ぎないと気づくまでにも時間がかかった。数秒後、ようやく彼女は現実を認識する。
幸か不幸か、怪物という存在と戦ったことはなかった。
銃に頼り、剣に頼り、もしくは徒手空拳に頼り……一応、一般人の域を出ない敵ばかりが相手だったのだ。

前方に広がる光景は圧倒的だった。
殺し合いの渦を生み出すのは二人。一人は知らない赤毛の少年、一人はつい先ほど別れた藤乃静留だ。

「ぐっ……はあ、はあっ……」

戦いもまた、一方的だった。
静留の武装は鞭と銃、これまでと変わりはない。
その戦闘力は来々谷自身も認めるところだが、その静留を赤毛の少年は圧倒している。

飛来する漆黒の刀をかろうじて避けるが、その直後に爆発。
吹っ飛ばされ、小枝のように宙を舞う少女。
だが、受身を取ったらしく、地面に叩きつけられてもすぐに体勢を立て直す。
いや、立て直さなければ次の矢が静留の身体を貫くのだ。


916 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:59:02 ID:Kn2wxJkh
「くっ……静留君、大丈夫か!?」
「…………っ、唯湖はんか。何やら縁があるねえ、アンタにも」

静留の全身は痛々しい擦り傷が刻まれており、泥にまみれてしまっていた。
太股の傷も泥で埋まっていて痛々しい。このままでは傷口が化膿しかねない。
来々谷は眼前の敵を睨む。
そこには弓を構えた赤毛の少年。左腕を赤い布に包んだ彼は、新たな参入者を迎えても怯まない。

彼が何者なのかは知らない。
もしかしたら静留に襲われ、そして返り討ちにしただけなのかも知れない。
そうだったら良かったが、来々谷は気づいてしまった。彼が自分諸共に静留を殺そうとしていることに。

「逃げるぞ、静留くんっ……! とにかく今は治療が先だ!」
「…………あかんよ、逃げられんわ。足、痛めてしもたもん……」
「いいから、逃げるんだ……!」

唇を噛み締める静留の手を取って、来々谷は走る。
静留とて大切な人のために修羅の道を選んだ者だが、それでも見捨てるわけには行かなかった。
彼女が激痛に顔をしかめるが、そんなことに構ってはやれない。
南に行けば橋がある。そこを渡っていけば助けを求めることができると信じて。


917 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:59:30 ID:kMk0YtGO


918 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 01:59:49 ID:Kn2wxJkh

「………………っ」

一瞬だけ、士郎の表情が曇った。
良心の呵責があった。それでも迷ってはならないと言い聞かせた。
助ける少女と助けられる少女、その二人を葬らなければならない。それが桜の味方なのだから。
狙いは正確に。一撃で彼女たちを蹂躙しなければならない。

弓を引き絞った。
これまでと同じ漆黒の刀を矢に変えて。
指を離す。絶望的なまでの速度で二人の少女に矢が追いすがる。

「くっ……!」

来々谷が振り向いた。
視界は真っ白な光に包まれる。
耳を劈く轟音と、我が身を蹂躙する衝撃波。
来々谷は静留を抱えると、そのまま地面に臥せた。
衝撃波は容易く彼女たちを宙に舞い上げると、そのまま吹き飛ばされていった。


     ◇     ◇     ◇     ◇


死んでいる人間に心はあるのでしょうか?
喜びを感じられれば、怒りを覚えられれば、悲しみに涙すれば、楽しさに笑えるのなら。
それが心の底から手に入れた感情だとすれば、心はあるのでしょうか?


919 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 01:59:59 ID:iNpky6VS



920 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 02:00:34 ID:Kn2wxJkh
一歩ずつ、歩く。
身体中が痛い。頭がふらふらする。
それでも私は彼女を肩で担いだまま、一歩一歩と歩いていく。
一歩進むために激痛に苛まれた。苦痛はもはや日常茶飯事で、意識もほとんど残っていない。

まるで電池切れになりかけのブリキの玩具。
とある童話のブリキの兵隊は心を欲した。同じようにとある死人の私もまた心を欲した。
心が欲しいと思っている時点で、心などないと知っていた。
そんな私の胸を打つように、一人の少年は死ぬ間際に訴えた。心はある、と。私は心を持っている、と。

ぐらり、ぐらりと揺れる視界。
肩の少女が重い。足取りが重い。少年から投げかけられた言葉が重い。
手の感触が覚えていた。この手で掴めなかった仲間の命、助けられなかった命の感触が残っている。
もう嫌だ、あんな想いはしたくない。失うことはこんなにも怖い。

とくん、とブリキの心が再生する。
無くしたと思っていたものはひょっこりと、意外にも近くから見つかった。
ずっとずっと捜していた心は、大切な者と引き換えにようやく見つかったような気がした。

一緒に笑いあった。喜びと楽しみはそこにあった。
彼の理不尽な最期に怒り狂い、そして嘆いた。この時点で私の喜怒哀楽はとっくに取り戻せていた。
心を取り戻したら、次の欲求が私を苛んだ。自分を動かす原動力になった。
もう、あんな想いはしたくない。これ以上失いたくない。


921 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 02:00:44 ID:iNpky6VS



922 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 02:01:57 ID:Kn2wxJkh
森を抜けた。追っ手の姿はない。
橋を渡った。向こう側に助けを求められる相手もいなかった。
平地を真っ直ぐに進んだ。そろそろ、自分の体力の限界が近づいてくるのが分かった。
山小屋を見つけた。どうにか片手でドアを開けて中に入る。眠りたいという欲求が全力で私を潰しにかかる。
彼女を部屋に寝かせてから入り口へ。そこでついに私は倒れた。もう、疲労は限界だった。

なあ、クリス君。
君には本当に色々なものを貰った。
有意義だった。本当に楽しかった。死んでしまったときは悲しみと怒りを覚えた。
私はいま、彼女を助けた。決して安全とはいえない人をだ。

君ならきっとこうしただろう?
私の知っているクリス君は純朴で優しい少年だからな。
すまない、少し疲れてしまった。少しだけ休ませてもらうことにするよ。
大丈夫、まだ君のところに逝くつもりはない。ほんの少し、沈むように眠るだけ。

それではおやすみ。
少し疲れた。本当に、本当に疲れたんだ。


     ◇     ◇     ◇     ◇



923 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 02:02:06 ID:iNpky6VS



924 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 02:03:07 ID:iNpky6VS



925 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 02:03:43 ID:Kn2wxJkh
「あっ……くっ、う……」

静留が意識を取り戻したのは、それから数分後のことだった。
まず感じたのは身体中が痛いということだった。擦り傷に加えて打ち身している。
女の柔肌を何だと思っているのか、と文句を言ってみたいところだが、命があるだけマシだろう。

次に周囲を見渡した。
森の中、ではない。どうやら建物の中らしい。
小屋らしかったが、詳細は分からない。途中で頭を打って気絶していたのだ。
つまり、自分の意思でここまで辿り着いたわけではない。異なる第三者がここまで運んでくれたに違いなかった。

そして、異なる第三者といえばただ一人しかいない。
気を失った彼女を支え、ここまで避難してくれた人物への心当たりはただ一人しかない。

「唯湖はん……?」

呼びかけるが返事がない。
まだ眩暈のする頭を振って周囲を見渡してみる。
来々谷唯湖は倒れていた。
彼女は山小屋の入り口付近、ドアのところに背中を預けて意識を失っていた。


926 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 02:03:55 ID:iNpky6VS



927 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 02:04:10 ID:Kn2wxJkh
「唯湖はんっ……!?」

慌てて駆け寄る。立ちくらみがしたが、関係ない。
脈はあった。身体の至るところに浅い出血があったが、どうやら生きているらしい。
思わず脱力してしまう。このまま死なれては謝ることも出来なかった。
先に意識を失った自分を抱えて、あの狙撃主からここまで逃げ延びてくれたのだろう。

無茶のしすぎだ。
そのおかげで助かった、なつきを悲しませないで済んだ。

「借りが、できてしもた……な」

軽く身体を揺するが、起きる様子はない。
仕方がない、と静留は思う。いつ殺されるか分からない恐怖に晒されながら、彼女は歩き続けた。
決して自分を見捨てることなく、彼女はここまで歩いて見せた。

これを借りと言わずして何というだろう。
なつきのために殺し合いに乗ると決めた。彼女とて例外ではないはずだ。
それでも借りは返さないと気持ち悪い。
とにかく意識を取り戻すまでは一緒にいて、そして改めて敵として別れよう。次に逢ったときは敵同士として。

「……つめたっ」

静留はまず自分の太股の応急処置をしながら、しばし休息を取ることにする。
飲料水を傷口にかけて泥を落とす。
鈍い痛みに涙目になるが、それで生きていると実感できた。今はそれで十分だった。



【E-5 山小屋/一日目 午後】

928 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 02:05:02 ID:Kn2wxJkh
【藤乃静留@舞-HiME 運命の系統樹】
【装備:殉逢(じゅんあい)、。コルト・ローマン(1/6)】
【所持品:支給品一式、虎竹刀@Fate/stay night[Realta Nua]、木彫りのヒトデ1/64@CLANNAD】
 玖我なつきの下着コレクション@舞-HiME 運命の系統樹、
【状態】疲労(大)、左の太股から出血(布で押さえていますが、血は出続けているが少量に)、
 左手首に銃創(応急処置済み)、 全身に打ち身
【思考・行動】
 基本:なつきを探す なつきの為に殺し合いに乗る。
 0:来々谷を護りつつ、しばし休息
 1:なつきの為に殺し合いに乗る。
 2:殺し合いに乗る事に迷い
 3:太股の傷を治療する為の道具を探す。
 4:なつきに関する情報を集める。
 5:来々谷の意識が戻ったら、改めて敵同士として別れる。
 6:衛宮士郎を警戒。

【備考】
 ※下着コレクションは使用可能です。
 ※理樹を女だと勘違いしてます。
 ※詳しい登場時系列は後続の書き手さんにお任せします。
 ※死者蘇生に関して否定。
 ※士郎より聖杯についての情報を得ました。


929 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 02:05:28 ID:Kn2wxJkh


【来ヶ谷唯湖@リトルバスターズ!】
【装備】:デザートイーグル50AE(6/7)@Phantom -PHANTOM OF INFERNO-
【所持品】:支給品一式、デザートイーグル50AEの予備マガジン×4
【状態】:気絶中、脇腹に浅い傷(処置済み) 、全身に打ち身
【思考・行動】
 基本:殺し合いに乗る気は皆無。
 0:気絶中

【備考】
 ※クリスはなにか精神錯覚、幻覚をみてると判断。今の所危険性はないと見てます
 ※千羽烏月、岡崎朋也、椰子なごみの外見的特長のみを認識しています
 ※静留と情報交換済み
 ※来ヶ谷は精神世界からの参戦です
 ※美希に僅かに違和感(決定的な疑念はありません)
 ※太一と第三回放送頃に温泉旅館で落ち合う約束をしています



930 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 02:06:01 ID:Kn2wxJkh

     ◇     ◇     ◇     ◇


「……………………」

衛宮士郎は納得のいかない憮然とした表情で歩いていた。
森の中の攻防を思い出す。
京都弁を喋る女性を魔導書と弓を応用した戦いで圧倒、優位に立っていた。
彼女を救うためにもう一人現れたが、関係ない。確実に撃ち貫けるはずだったのだ。

その直後、酷使した魔導書のリバウンド(代償)さえさければ。
忘れてはならなかった。乱用していた魔導書はついさっきまで、自分が使うのを危ぶんでいたほどの代物なのだ。
脳の血管が焼ききれるような痛み。数秒間の激痛に気を取られて、二人の姿を見失った。

だから追撃は出来ず、標的の生死を確認することは出来なかった。
死体はなかったことから、恐らく逃がしたものと思う。
自分の未熟さに歯噛みした。誓ったなら有限実行、見敵必殺しなければならないというのに。


931 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 02:06:35 ID:iNpky6VS



932 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 02:06:41 ID:Kn2wxJkh
「…………ふっ!」

弓を射る。
矢は刀ではなく、強化された木製の矢だ。
一本、二本、三本と並んだ木々に目掛けて高速で射抜いていく。
標的を外したことは一度しかない。外そうと思って外した一度のみ、それ以外は例外なく真ん中を貫いた。

模擬戦を想定した狙撃。
人間の頭を、喉を、心臓を射抜くために弦を絞る。
そうしてしばらく弓と己の腕を確かめ、顔を曇らせながら結論を出す。

「―――――これが言峰の奴が言ってた、制限って奴か」

弓による狙撃が完璧ではない。
浅間サクヤを討ち取ったような正確さを連続して射ることが出来ない。
恐らくは制限だろう、と士郎は判断することにした。
それでも投影よりは手軽に戦えることは先刻承知済み。少なくとも京都弁の女を圧倒できるほどに。

そうだ、魔導書の毒が脳に当てられる前に一度、好機があった。
逃げる二人の背後で弓を引き絞っていた。
だが、投影による魔弾のときとは打って変わって照準は乱れ、結果として彼女たちを吹き飛ばすだけの結果に終わった。
直後に頭痛とは間の悪いことだが、いくつか学んだことがある。

魔導書の使いすぎも身体の毒。
優勝するのなら己の身を省みらなければならない。木製の矢を使う機会も増えるだろう。
衛宮士郎はこれから先の戦闘をシミュレーションしながら歩き続ける。
森を抜けると、線路が見えた。ちょうど黄金色の電車が走っているのが見えて、少しげんなりとする。


933 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 02:07:16 ID:Kn2wxJkh
(電車、か……駅に行けば、次の敵に逢えるか……?)

今度は決して逃さない。
会話も成立させずに情け容赦なく、桜のために殺し尽くす覚悟で士郎は進む。
しかし、ここで問題がひとつ。
自分が見てるのは線路。もちろん右にも左にも駅があるだろう。

「……どっちに行こうか」

何処であろうと関係ないし、敵が誰であろうともはや関係ない。
良心の呵責が僅かにあったが、それはとっくに噛み殺した。既に良心を殺す儀式も済ませた。
ばちん、と両手で頬を叩く。
さあ、ここから先は今以上の地獄だ。血肉と内臓に彩られた戦場を渡り歩くことになる。

そして、その全ての戦いを制して見せる。
幾たびの戦場を越えて不敗、かつての己を象徴する八節の言霊のひとつを抱えて進む。
地獄のが口を開くような光景を幻視する。
士郎は一秒の躊躇いもなく、真っ直ぐに修羅への道を突き進んでいった。


【D-7 線路沿い(マップ中央)/一日目 午後】


934 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 02:07:29 ID:iNpky6VS



935 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 02:08:02 ID:Kn2wxJkh
【衛宮士郎@Fate/stay night[Realta Nua]】
【装備】:ティトゥスの刀@機神咆哮デモンベイン、木製の弓(魔術による強化済み)、赤い聖骸布
【所持品】:支給品一式×2、維斗@アカイイト、火炎瓶×6、木製の矢(魔術による強化済み)×17、
屍食教典儀@機神咆哮デモンベイン
【状態】:強い決意(サクラノミカタ)、肉体&精神疲労(中)。魔力消費小。身体の剣化が内部進行。脇腹に痛み。ずぶ濡れ。
【思考・行動】
 基本方針:サクラノミカタとして優勝し、桜を生き返らせる
0:さて、右か左か……
1:参加者を撃破する
2:優勝して言峰と交渉、最終的には桜を生き返らせる


【備考】
※登場時期は、桜ルートの途中。アーチャーの腕を移植した時から、桜が影とイコールであると告げられる前までの間。
※左腕にアーチャーの腕移植。赤い聖骸布は外れています。
※士郎は投影を使用したため、命のカウントダウンが始まっています。
※士郎はアーチャーの持つ戦闘技術や経験を手に入れたため、実力が大幅にアップしています。
※維斗の刀身には罅が入っています
※現在までで、投影を計二度使用しています
※今回の殺し合いが聖杯戦争の延長のようなものだと考えています
※どちらの駅へ行くかは後続の書き手さんにお任せします




936 : ◆WAWBD2hzCI :2008/06/15(日) 02:09:16 ID:Kn2wxJkh
投下完了です。
タイトルは【観測者の願望】【観測者の愉悦】
それから士郎パートは【I have created over athousand blades】です。
ご指摘、ご感想をお待ちしております。

937 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 02:14:40 ID:LlNWWSHY
投下乙です
ヤバいくらい面白かった
次々と移り変わっていく展開、細やかな心理描写、それぞれ独特の良い味を出してる登場人物達……
正にパーフェクト
良いシーンが多過ぎるけど、個人的には士郎となつきのシーンが特にお気に入りです
ようやく真実を知って、それでも修羅の道を選んだ士郎……最終的にどうなるか、凄く楽しみだ

938 :937:2008/06/15(日) 02:18:59 ID:LlNWWSHY
なつきじゃなかった、静留です……orz

939 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 12:51:15 ID:QCUM4BAA
GJ
凄く面白かった。
各キャラたちの気持ちが伝わってきて凄い。
士郎の覚悟、太一の異常性、なごみの憎悪…説得力のある描写に脱帽です。

940 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 12:59:33 ID:NpHwUwFt
投下乙です!!

なんという太一フィーバーwなごみと士郎(笑)が道化に見えて仕方無い
暴走したりかき乱したりと本当にキャラが豊富だw
そしてNYP兵器、使いこなせるだろうとは予想できてたけど、まさかここまでとは!
後半も士郎がバトルで大活躍で面白かったです
屍食教典儀と士郎(笑)…この世にこれほど相性のいいものがあるだろうかッ!?

ところで>>808
>ちなみに自分も銃を持っている。
と、ありましたがグロックはすでに深優に奪われたのでは?
いや、奪われたことに気付いてないのかな?ちょっと気になりました。

941 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 13:36:34 ID:k4RmBODQ
俺のマグナムはとかいう太一語…なわけねーwww
太一のトリックスターぶりは最高だな。

942 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 14:17:59 ID:NmfE5xQ1
やっぱ太一は精神面じゃあ最狂の攻撃力を持ってるな〜
このままマーダー作りをがんばって貰いたいとこだ

943 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 15:34:52 ID:qx1bgRCy
投下乙です

日記読んでない太一は輪にかけて危険だなあ
言葉様の思いは巡り巡って士郎に届いたか…士郎、ご愁傷様
そして、返り討ちなごみんはもはや定番かw

944 :世界の中心、直枝さん ◆wYjszMXgAo :2008/06/15(日) 20:31:02 ID:iNpky6VS
と、頼りなげに首を動かし、しばし待つ。
やることもないのでとりあえず空を眺め見て、鳥の声を聞くことに。

……山の中って、意識すると色々なものの声が聞こえるなあ、と思う。
鳥の声だけじゃなくて木の葉の擦れる音とか、水の流れる音とか、木を引っこ抜く音とか。
そう思ったその瞬間。

「ふむ、では行くぞ杉浦よ! しっかり捕まっておれ」

がし、と、何者かに腰を抱えられ、持ち上げられた。
……見れば。

「え、あ……?」


どう見ても怪しさ100%、全開絶賛大放出売り切れ御免な仮面を被った変態がそこに居た。
今まさに片手に碧を、片手に土がついたままの木丸ごと一本を抱え、遊園地の方角に向かって放り投げんとする変態に、碧は突っ込みを入れようとして。

「ちょっ、何それ、いくらなんでも常識っても、」


「うぅまう――――――――!!」


次の瞬間には、お姫様抱っこでぶん投げられた木の上に無理矢理連れて来られていた。
乙女の憧れだという事実に思い至る余裕すらなくハイスピードでぶっ飛ぶ阿呆な光景に碧は口をパクパクさせることしか出来はしない。
斉藤の仮面によって高められたあらゆる能力は、寸分の誤差なく遊園地へ木を届けることを可能とするだろう。

自転車に乗っているわけでも、月が出ているわけでもないが。
その腕に抱えられた自称17歳と仮面の変態の光景は、見る人にどことなく宇宙人と少年の心温まる名作映画を思い出させるだろう。



945 :世界の中心、直枝さん ◆wYjszMXgAo :2008/06/15(日) 20:32:08 ID:iNpky6VS
「いーやぁぁぁああぁああああぁぁぁーッ!」


いーやぁぁぁああぁああああぁぁぁーッ

いーやぁぁぁああぁあああー

いーやぁぁぁー

やぁぁー

やぁー

ぁー

飛ぶよ飛ぶ飛ぶ、姫を抱えて。
仮面を載せた柱は飛ぶよ。
山々に愉快なこだまを響かせながら。


そして漢と教師は向かい行く。
希望の星の輝く遊園地へと。


遊園地へ、遊園地へ、遊園地へ――――!


◇ ◇ ◇

漢と教師は希望を寄せる。
まだ見ぬ未来とそこに立つ少年の姿を幻視して。


946 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 20:32:15 ID:KMQHYMN0


947 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 20:32:43 ID:Kn2wxJkh
 

948 :世界の中心、直枝さん ◆wYjszMXgAo :2008/06/15(日) 20:33:08 ID:iNpky6VS
◇ ◇ ◇


「……九郎さん達、大丈夫だよね」
「大丈夫、きっと皆で帰ってきてくれます! きっとです……!」

――――天を一緒に向きながら、直枝理樹と蘭堂りのは観覧車を仰ぎ見る。
大きな大きな観覧車。
空に浮かぶそれは、星のように四方に己を主張する。
さすがにこれから情報と支給品の交換会をするにあたっては格好がつかなかったため、血塗れで穴だらけとはいえ制服に着替えるのも忘れない。

この場に居るのは今は3人。
だけど、九郎達や葛木、美希。まだ見ぬ仲間となり得る者たち。
彼らの無事に心を馳せて、集う光景を垣間見る。

……しかしそれはあくまで夢想だ。
現実が何処まで厳しいものか、未だ彼らはその一端に曝されただけに過ぎない。

源千華留は、容赦なくその点を突く。突こうとする。
本当に優しいからこそ心配し、確認する為に。

「ええ、そうである事を私も願うわ。だけど……」

……それが分かるからこそ、直枝理樹は頷いてみせる。
力強く、力強く。
確かに自分は受け継いだものがあると、それを証明するかのように。

「……うん。覚悟は……出来てるよ。それがハサンさんが教えてくれたことなんだから」


949 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 20:34:06 ID:Kn2wxJkh
 

950 :世界の中心、直枝さん ◆wYjszMXgAo :2008/06/15(日) 20:34:08 ID:iNpky6VS
三時まではあと少し。
それまでに自分のできる事は何か、それは簡単だ。
考えること。
強靭な肉体も特殊な力も持っていない自分が皆のリーダーとして動くのなら、それしかない。

ありとあらゆる可能性を想定し、先を見据え、望む未来に持っていく。
不慮の事態が起こることさえ計算して、それを乗り越える為の覚悟を決めよう。

さあ考えよ直枝理樹。
これから君はどう動く?

さしあたってはこの会議で絶対に告げておくべきことを決めておかねばならない。
例えば、現在把握している人間関係の整理。
例えば、このゲームに関する自分たちの考え。
例えば、次は何処で会議を開くかという場所の決定。

特に最後は重要だ。
情報と支給品の交換の場という以外にも、顔を合わせて議論する。
その場を設ける事は考察を進めるに当たって実に有用に違いない。
この中から脱出に関するアイデアや、このゲームの仕掛けについて一人では思いつかない何某かを見出せる可能性は十二分にある。
3人寄れば文殊の知恵。
ならば、文殊すらも含めて何人も何人もで話し合えばいったいどれほどの英知を授かるだろうか。
一人では辛いから二人で手を、二人では寂しいから輪になって手を繋ぐ。

鈴の好きだったリトルバスターズはそうやって始まった。
棗恭介という、今も背中を見せ続ける彼の差し伸べたその手から。

だから理樹は自分を救ってくれたその場を作る。何度でも、何度でも。
これからこの遊園地で始まる第一回目の会議だけでなく、継続的に皆が手を取り合える場所を。

それが自分の覚悟だ。
今まで自分を守ってきてくれた、全てに報いるための決意。

951 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 20:35:01 ID:Kn2wxJkh
 

952 :世界の中心、直枝さん ◆wYjszMXgAo :2008/06/15(日) 20:35:08 ID:iNpky6VS
どれだけ傷つき、壊されそうになっても輝き続ける希望の星。
直枝理樹がそういう少年だったからこそ、ハサンは、鈴は、恭介は彼を守り続けたのだ。

「……恭介。君もいつか、きっと……」


――――今はこの場に居ない、最強の敵にして最強の味方に思いを馳せる。
トルティニタ。今は九郎の持っているはずの手紙に書かれていた名前の少女と彼は共にいるという。
彼が何をしているかは分からない。
だが、自分たち、……いや、自分の為にその手を血に染めているなら止めねばならない。
それでもいつかはその手を取って共に戦いたいと強く思う。
だからこそ、この人の繋がりは大事にしなければいけないのだ。
それが彼が見せてくれたいつかの光景から学んだことなのだから。


……とにかく、実際何処を次の会議の場所にすればいいのかというのは少し考えるべきだろう。
前回このアイデアを思いついたときは禁止エリアの存在を忘れていた為、遊園地一択しか場所は考えなかった。
明らかな失敗だ。
今度はいくつかの予備候補地を考えておくべきだろう。

とりあえずは分かりやすい施設に。
自分たちの目的は人の輪を築くことであるからして、次の集合前に一旦メンバーを複数グループに分けて島中探索をしたいところではある。
故に、それを兼ねて別ルートを経由して北西部に向かうのがいいだろうか。
今まで自分の会った人間は皆電車という便利なものを使っていたからこそ交流が容易だった。
ならば、電車の通っていない北西部にいる人間たちは、そういった人の網から取り残されている可能性が高い。

だから、自分たちがその手を取りに行く。
集合の為の第一の目的地は病院がいいだろう。
何を置いても治療の為の道具が手に入るなら向かう価値はある。
学校や球場などもそれなりに広く、待ち合わせには好都合だ。


953 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 20:35:08 ID:qx1bgRCy



954 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 20:35:53 ID:Kn2wxJkh
 

955 :世界の中心、直枝さん ◆wYjszMXgAo :2008/06/15(日) 20:36:08 ID:iNpky6VS
大まかに分けて東回りと西回り。
その途中で施設を探索しながら病院あるいはその近辺の施設を目指し、12時間後――――、夜の3時頃に再度合流する。
仲間を増やせれば御の字だ。

……だが、これだけでいいのか?
まだまだ出来ることがあるのでは?

直枝理樹は故に深く深く思考の海に沈み込む。
自分のできることが何か、まだ他のアイデアはないか。
打てる手を全て使い倒すその時まで直枝理樹は全力を尽くす。

この先に何が待っていようとも、それを乗り越え皆の手を掴み続ける為に。

「ハサンさん。……リトルバスターズは、終わらない。終わらせないよ、きっと、きっと……!」

……その手にあるのは白い髑髏面。
空を見ていた目線を下に、顔と顔をつき合わせながら理樹は誰にともなく告げる。

……と、

「はい。……私も、皆さんも、みんながみんなリトルバスターズです……っ!」
「そうね。終わらないという事は、みんながそれを受け継いでいくから。
 ……私もその輪に入れてもらっているのかしら?」

握り拳のりのと、穏やかな笑みを湛えた千華留。
それを見る理樹の返答など一つしかありえない。
何故なら、リトルバスターズは理樹の力の根源だからだ。


「……はいっ!!」


956 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 20:37:25 ID:Kn2wxJkh
 

957 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 20:37:55 ID:qx1bgRCy



958 :世界の中心、直枝さん ◆wYjszMXgAo :2008/06/15(日) 20:38:07 ID:iNpky6VS
りの、千華留、九郎、ユメイ、虎太郎、美希。そして唯湖に真人、恭介。

……きっと、彼らがリトルバスターズを受け継いでくれる。
自分が道半ばに倒れても、繋いだ手の輪はどんどん広がっていくのだ。

だから向かい合おう、全ての可能性と。
自分が死んだその先も含めて、何もかもと。

皆のリーダーである自分が死んだなら、きっと混乱が生じるだろう。
そのときに備えて次のリーダーなども考えておかなくてはいけない。
一番任せたい恭介は、今は居ない。
だけど心配はない。九郎たちだって立派にその実力はあるのだから。

そして直枝理樹は策を練る。
この殺し合いに立ち向かう為、彼の憧れたリーダーすら越えようとして。
思い描く自分自身の理想すら届かない高みへと、手を届かせようと。


――――シャン。
鈴の音が聞こえる。

さすがは理樹だ。あのバカ兄貴もかたなしだな。
がんばれ、あたしはずっとお前を応援してるぞ。
今のお前は間違いなくリーダーだ!

……幻聴だ。
周囲に何も変わりはなく、死者が蘇ることもない。
蘇ることなど許されないし、許さない。
それは、大切だった人たちの命を侮辱することなのだから。
しかしそれでも、理樹は少しだけ、ほんの少しだけ堪えきれなくなる。

959 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 20:38:45 ID:Kn2wxJkh
 

960 :世界の中心、直枝さん ◆wYjszMXgAo :2008/06/15(日) 20:39:09 ID:iNpky6VS
頬には涙を、一滴の涙を。

それで終わりだ。
これより先は、ただただ今を精一杯生きる皆の為に。

普通の少年は皆を導く為に足掻き続ける。
誰よりも強く、誰よりも尊く。


全ての渦中にて少年は聖母と福音を傍らに、考えながら信じ続ける。
希望の星の輝く遊園地で。


ただ――――、待ち続ける。



961 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 20:40:03 ID:qx1bgRCy



962 :世界の中心、直枝さん ◆wYjszMXgAo :2008/06/15(日) 20:40:09 ID:iNpky6VS
◇ ◇ ◇


【G-6北東/遊園地南西/一日目/午後】

【支倉曜子@CROSS†CHANNEL 〜to all people〜】
【装備】:斧、投石器、全身に包帯、トレンチコート(男物)、バカップル反対腕章@CROSS†CHANNEL 、オペラグラス
【所持品】:石材3個、シンナー入りガラス瓶1個、首輪2つ(蒼井、向坂)、工具一式
【状態】:肉体疲労(大)、右半身大火傷(処置済み)、胸部に激痛(処置済み)、右目が充血(視力低下)、髪を切りました
【思考・行動】
 基本方針:太一の為に、太一以外を皆殺し。
 0:遊園地に向かい、殺す。
 1:ゲームの参加者を見つけたら殺す。
 2:人間でなくとも生きているなら殺す。
 3:動いたら殺す。動かなくとも殺す。
 4:話しかけてきても殺す。無言でも殺すし、叫んでも殺す。
 5:泣いても殺す。怒っても殺す。笑っても殺す。
 6:投石器で殺す。なくなったら斧で殺す。殺したら相手の武器を奪ってそれでまた他の人間を殺す。
 7:遠隔爆破装置を作成し、任意のタイミングで交通・通信網を分断、電力を遮断して殺す。
 8:金髪の暗殺者を餌兼目晦ましとして利用し尽くした後、殺す。
 8:殺す。
 9:(…………………………………………太一)
【備考】
 ※登場時期は、いつかの週末。固定状態ではありません。
 ※佐倉霧、山辺美希のいずれかが自分の噂を広めていると確信。
 ※支倉曜子であることをやめました。
 ※「ゲーム」の主催者は脱出も想定していると考えました。
 ※G-4変電所の周囲に無数のブービートラップを仕掛けました。
 ※ドライを駒として信頼、援護する意思があります。



963 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 20:40:35 ID:Kn2wxJkh
 

964 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 20:41:07 ID:qx1bgRCy





965 :世界の中心、直枝さん ◆wYjszMXgAo :2008/06/15(日) 20:41:13 ID:iNpky6VS
ドライ@Phantom -PHANTOM OF INFERNO-】
【装備】 クトゥグア(10/10)@機神咆哮デモンベイン
【所持品】 支給品一式×2、マガジン(クトゥグア)×1、懐中時計(オルゴール機能付き)@Phantom
        噴射型離着陸単機クドリャフカ(耐熱服付き)@あやかしびと、包帯、業務日誌
【状態】 左足首捻挫(治療済み、患部に包帯を巻いている)
【思考・行動】
 基本:玲二(ツヴァイ)を殺す。玲二を取り巻く全てのものを壊す。
 0:遊園地を探索、人と出会ったら情報を搾り取り、殺す。
 1:もう深くは考えない。殺す。
 2:人間を見つけたら玲二を知っているか尋ね、返答に関わらず殺害する。
 3:謎の追跡者(曜子)を徹底的に利用する。付け入る隙を探し、いつでも殺せる体勢を整える。
【備考】
 ※クドリャフカの操縦を覚えました。(なんとか操縦できる程度です)
 ※クドリャフカの移動速度は1エリアを約5分で通り抜ける程度。
 ※業務日誌の最初のページには「麻婆豆腐の作り方」、最後のページには「怪しげな画」が書かれています。
 ※ただ最後のページは酷い殴り書きなので、辛うじて「ヨグ・ソトース」「聖杯」「媛星」ぐらいが読める程度です。
 ※発電所から伸びる地下通路の存在に気付きました。
 ※支倉曜子を手札として信頼、その意図を汲むつもりです。


【F-7南/遊園地東/一日目/午後】


966 :名無しくん、、、好きです。。。:2008/06/15(日) 20:41:48 ID:qx1bgRCy



967 :世界の中心、直枝さん ◆wYjszMXgAo :2008/06/15(日) 20:42:04 ID:iNpky6VS
【九鬼耀鋼@あやかしびと −幻妖異聞録−】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、不明支給品1、日本酒数本、木彫りのヒトデ1/64@CLANNAD
【状態】:健康、肉体的疲労(小)、主催への強い憤り
【思考・行動】
 基本:このゲームを二度と開催させない。
 0:アル・アジフ達や双七の情報を得るため、直枝理樹の所へ向かう。場合によっては協力体制を構築。
 1:首輪を無効化する方法と、それが可能な人間を探す。
 2:制限の解除の方法を探しつつ、戦力を集める。
 3:自分同様の死人、もしくはリピーターを探し、空論の裏づけをしたい。
 4:如月双七に自身の事を聞く。
 5:主催者の意図に乗る者を、場合によっては殺す。
 6:アルたちと合流。探しても見つからなかった為、しばらくは刀子と同行。
 7:山辺美希を僅かに警戒。
【備考】
※すずルート終了後から参戦です。
 双七も同様だと思っていますが、仮説にもとづき、数十年後または、自分同様死後からという可能性も考えています。
※自身の仮説にかなり自信を持ちました。
※今のところ、悪鬼は消滅しています。
※主催者の中に、死者を受肉させる人妖能力者がいると思っています。
 その能力を使って、何度もゲームを開催して殺し合わせているのではないかと考察しています。
※黒須太一、支倉曜子の話を聞きました。が、それほど気にしてはいません。
※アルとの情報交換により、『贄の血』、『魔術師』、『魔術』、『魔導書』の存在を知りました。
 情報交換の時間は僅かだった為、詳細までは聞いていません。
※首輪には『工学専門』と『魔術専門』の両方の知識が必要ではないか、と考えています。
※主催者が『悪鬼化を促進させる何か』を会場に仕掛けたと考えました。
※黒幕が存在し、主催者が『会場を混乱させる役割の駒』でしかない可能性を考えました。
※美希と情報交換しました。ただし、恣意的な改竄や重要事項の黙秘がされている可能性があります。
※理樹のミッションに興味。

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